最後に慌てて整形した箇所が消えててひえ……ってなった。あと、ルビも付け直しました……
『More than you think』
ーー直訳すると『あなたが思うよりも多く』だが、より日本語らしい言い回しに直すと『あなたが思うよりも』となる。
*
久しぶりに便秘こと、ベルセルク・オンライン・パッションにインしたのは、純粋に体を動かしたかったのが5割、ギャルゲーに詰まったのが4割。残り1割は最近、便秘にまたインし始めたというカッツォにあわよくば会えないかと目論んだ為だ。最近インしていると聞いていたから、会える可能性が高いと睨み、特に約束もせずにゲームを開始した。
ーーら、である。いたのは確かにいた。元気に目の前で対戦を行なっている。それはいい。いいのだが、対戦相手の見覚えのあるガチムチの髭面は、秋津茜では?
「お、サンラクじゃん!ちーすっ」
「久しぶりだな!引退するつってたのに、お前時々来てるよなー?」
「一度クソバグゲーに囚われた者はもう普通のゲームでは満足できない体になっちまうんだよ」
「まてまてまて、一気に話すな!てか視界の圧が強いんだよ!」
右から縦にデカいガチムチ、横に広いガチムチ、髭面のガチムチである。画面の圧が半端じゃねえ。
過疎ゲーだけに今でもインしているような酔狂なやつはみんな顔見知りだし、それこそ旧友にでもあった気安さで声をかけてくる。
「対戦まち?」
「そ。カッツォの奴と対戦しようかと思ったんだけど、どうもおモテになっているようだから、順番待ち」
絡んできたガチムチトリオにそう言いながら、視線をカッツォたちに移した。
「ああ、ドラゴンフライと、か。最近よく対戦してんだよな。今何ラウンド目?」
「確か、通算でまだ一ラウンドも取れてないんだよなあ」
「後輩に容赦ねーよ。モドルカッツォのやつ」
そんな感じで、秋津茜とカッツォの対戦を他の観戦者と一緒に見て……あ?カッツォ、見た目ガチムチとはいえ、女の子(中身)相手に思いっきり顔面いったな!?!は……?HPゲージ減ってない?へー、なるほど。特殊コマンド踏むと当たり判定が顔面だけ無くなるのか……。ゲージ削れないからって顔面から突っ込むドラゴンフライまじでつえー。アバターも女の子なら、イアイフィスト案件だったな。
観戦者と賑やかしをしているうちに対戦が終わってしまったらしい。ううん、カッツォの奴、後になればなるほど厄介だからなあ。秋津茜はリアルラックが有効な内に、ラウンド取れていればワンチャンあったんじゃないか?
「あれ、サンラクさん!」
「おーす、見てたぞ残念だったな」
「いえ!また精進するので大丈夫です!」
「カッツォが女の子の顔面を躊躇なく殴れる奴じゃなかったら、勝ててたのにな」
「言い方に語弊!!!!!」
カッツォが心外だとでも言うように頭を抱えた。ゲームキャラを殴っているのであって、年下の女の子の顔面を躊躇いなく殴った訳ではない、と必死に弁解しているカッツォだが、秋津茜の「勝つためなら女の子(のキャラ)だって、躊躇なく殴れる所凄いと思います!」という一言で撃沈していた。悪意がないって怖い。
***
「所で、ペンシルゴンから連絡取れないって聞いてるけど、いつまで篭る気?」
折角だからと、秋津茜ともカッツォとも対戦をこなした後(秋津茜には勝ったが、カッツォには接った末に負けた、つぎはリベンジキメるので、首を洗って待っておけ)、カッツォから問われたのがこれである。ちなみに、秋津茜は、ガチムチのおっさんと特訓だといって対戦中だ。
実のところ、シャンフロには(ラビッツに篭り気味だが)そこそこにインしている。ただ、クランメンバーとして動くには、まだ障害を取り除けていない……いや、より正確に言えば。ーー『障害』を取り除くかどうかを悩んでいる、というのが正しい。
「今やってる、オフゲーにクリアの目処がたったら戻るつもりだったんだけど」
そうだ、当初の予定ではそうだったのだ。ギャルゲーで正しい恋愛観をインストールして、玲さんから恋愛感情を持たれているかもしれないという妄想も、俺が玲さんにそういう感情を抱いているのではないかという戸惑いも、全て勘違いだったのだと、笑い飛ばしてしまいたかった。笑い飛ばして、いつも通りにゲームに熱中できる自分を取り戻すんだとそう思っていたはずなのに。
「歯切れ悪いね」
「まあ、ちょいと詰んだ」
「へえ〜、サンラクが珍しい。何やってんの?」
「『More than you think』って言うギャルゲー」
「シナリオは名作のやつじゃん」
チームのやつがやって、システムにキレてたなあ、とカッツォがぼやく。確かにセーブロードが出来ないどころか、既読スキップがないとは思わなんだよ。……かなり細かく会話差分があるから、既読スキップ機能があっても活用できたかはわからないけれど。
「恋愛ルートに入れないんだよなあ」
「へえ、誰のルート?」
「
「ああ、優等生で名家のお嬢様な正統派ヒロインちゃんね」
カッツォが、彼女が一番シナリオ分岐多いらしいねと、相槌を打った。
そう、このメインヒロインが曲者だったのだ。旧家のお嬢様らしい彼女は、クラスで高嶺の花として見られており、能力も高く、しかしいつも穏やかで誰に対しても口調が丁寧だ。始めた時からなんとなく既視感があった。それがストーリーが進むごとにハッキリと形を持ってしまったのも詰んだ原因の一つかもしれない。
(……玲さんにちょっと似てんだよなあ)
別段キャラの造形が似ている訳ではない。ゲーム廃人というわけでもなく、そういう意味では全然違うのだが、ふとした瞬間、似てるな、と感じる。まあ、確かに玲さん自身、どこの二次元から飛び出してきたというレベルのスペック持ちだから、おかしくはない。ないのだけれど。
「正直、結構時間かかってるからさ。一旦攻略を保留にして、シャンフロに戻るか悩んでる」
そもそも時間がかかることが前提のゲームなのだ。シャンフロにインしながら、ダラダラと攻略してもいい気がする。言い訳は十分たつはずなのに、カッツォは訝しんだ顔を隠さずに、ズバリと核心をついた。
「なに、もしかしてサンラクさあ。それ、クリアしたくないの?」
「……!」
図星だった。それをクリアする事で何か気が付きたくない事に、気づいてしまう。そんな予感がしたから。色々と理由をつけて、諦める道を探していたのかもしれなかった。カッツォは、数拍黙ったあと、いいけどね。と少しだけ笑う。そして、タイミングよく対戦から戻ってきた秋津茜を手招きした。ーーああ、くそ。バレてやがる。俺がクリアを躊躇ってしまっている事。その一方で、誰かに背中を押して欲しいと思っている事。ただ、怖気ついているのか、と煽ってくれるだけでも良かったのに。『それ』を言うのに最も適した人物がここにいるのだ。
「あれ?どうしたんですか」
「俺じゃなくてサンラク」
「サンラクさん……?」
「ドラゴンフライ……秋津茜に、相談がある」
「はい!なんですか? ちゃんと答えられるか分からないですが、一緒に考えますよ!」
唐突な俺の言葉に、躊躇う事なく、笑顔でそう返した秋津茜に、思わず苦笑が漏れた。
「実はクリアするか……いや。……『始めるかどうか』悩んでるゲームがある。それ、セーブもロードもできない上に、ハッピーエンドが用意されてるかも分からないゲームなんだけど、どう思う?」
「えっと、どう思うっていうのは?」
「やった方が良いと思うかって事」
「ああ!なら絶対、やった方がいいと思います! だって、それをサンラクさんはやってみたいって思ったんですよね?」
秋津茜は、俺の言葉を聞くなり何の迷いも見せずにそう言って笑った。単純明快。チャレンジしてみたいなら、やってみればいい。
カッツォがそれを聴いて、ハッピーエンドは用意されてるだろ、ギャルゲーなんだから。とおかしな妄言を聞いたような顔をして言ったのには、笑ってしまった。
「やってみたいから、やってみる。単純だな」
「そもそも、鉄砲玉が飛び出して、戻ってこれるわけないんだよなあ」
「あ?ジャムったかもだろ」
「自傷ダメージで死ぬようなタマかよ」
「あ、今鉄砲玉と掛けました?」
「……」
「やーい!やーい!解説されてやんのー!」
「煽るねえ……まあ、らしくない事で悩んでるよりは、いいんじゃない?」
ゲームを投げ出すより、よっぽど『らしい』よ、とニヤニヤと含み笑いをしているカッツォ……の背中に、我慢できずに回し蹴りを入れる。いや、癇に障る顔をしていた、カッツォが悪いでしょ。対戦中でない戦闘行為はノーダメージだから、平気な顔をして立っているのだが。
「じゃ、やる気がある内に再チャレンジしてくるわ」
「はいはい。ーーあ、要らないかもだけど、メインヒロインの恋愛エンド、『タイトル回収』が鍵らしいよ」
「至れり尽くせりかよ、まあ、上手くいったら、弄られてやるよ」
「頑張ってくださいね!」
「おー、サンキュー。ドラゴンフライも頑張れ」
「はい!」
ーーMore than you think、和訳すると、あなたが思うよりも。『あなた』はおそらく主人公の事だ。主人公はゲーム冒頭では白が幼馴染である事を知らない。ルートに入るとその辺りはプレイヤーは、すぐ察せられるようになっているが、主人公は最後の最後まで白が昔から自分を想ってくれているに気づかない。多分これが純粋な意味。そして、もう一つ。カッツォは、タイトル回収が鍵になっていると言っていた。主人公とは、即ちプレイヤーの事である。つまり、プレイヤーが
カッツォくんと秋津茜ちゃんは終始ゲームのことだと思ってるよ。
もうちょっとだけ続きます〜!説明回だから長かった…………