タイトル通りに、御前試合決着回となります。
また……感想で多くの方から寄せられていた、ある重要な疑問についての答えも出させていただきます。
宇髄天元 二十三歳 鬼殺隊『音柱』。
彼は、この日の柱合会議で起きた出来事を、多くの隊士へと文字通り『派手』に語ったのだった。
―――もし、鬼殺隊で最強は誰かって聞かれたら……ぶっちぎりで悲鳴嶼さん、その次に煉獄だな。
―――他の連中に聞いても、これは鉄板……いや、伊黒だけは甘露寺の事を推すかもしれねぇか?
―――まあつまり、この二人と渡り合えるだけの実力があるなら、そいつは紛れもない本物って事だ。
―――ああ、そうだ……烈さんは、煉獄と五分に渡り合ったんだよ。
―――技量と反応速度はほぼ互角、一撃の破壊力が煉獄なら、手数は烈さんって感じだ。
―――そりゃもう、派手派手なぶつかり合いよ……論より証拠とはよく言ったもんだ。
―――普段は無関心が多い時透も、最初は懐疑的だった伊黒と不死川の二人ですらも、黙って見入るぐらいだぜ?
―――ん? 俺は最初から、烈さんの事は認めてたぞ。
―――『ああ、こいつはマジにヤれるッ……!』ってな……元忍びの観察眼を舐めんじゃねぇよ。
―――……その割に、炭治郎の妹の件では疑い半分じゃなかったって?
―――そりゃお前、相手が中国人と鬼とじゃあ仕方ないだろ……ってかそもそも、烈さんが箱ぶっ壊すまで俺は禰豆子の姿を見てなかったんだぞ?
―――観察も何も、本人見てなけりゃ流石に判断出来ねぇし……炭治郎もあの時は冷静さ欠いてたから、烈さんの時と違って肯定出来る材料も無かったんだ。
―――って、地味に話が脱線しちまってるじゃねぇか……兎に角。
―――試合途中でこそあるものの……その場にいた全員が、もう殆ど烈さんの事は認めていたって事よ。
◇◇◇◇◇
「ふむ……伊黒、不死川。
この闘い、お前達はどう見る?」
目の前で繰り広げられる、激しいぶつかり合い。
伝わってくるのは、両者の凄まじい気迫と熱気。
これが試合だという事すら忘れてしまいそうになる程の、恐るべき濃度。
それについて思う事は無いかと、悲鳴嶼は横に立つ小芭内と実弥に問いかけた。
「ちっ……その質問は、ちょっと意地が悪すぎだぜ?
悲鳴嶼さんよぉ……」
「……下弦の陸討伐について疑った事自体は、謝るつもりは一切ない。
初対面で、且つ身元も分からぬ相手だ……警戒が間違いだったとは言わせない。
だが……これで尚あの男の実力を否定しては、煉獄に対しての侮辱になる」
二人は―――視線は烈海王と杏寿郎に向けたまま―――揃って、バツが悪そうに答えた。
そうなるのも無理はない……烈海王を認める訳にはいかぬと言ったのは、外ならぬ自分達だ。
言ってしまえばこの御前試合自体―――用意が良すぎるのは、何処か引っかかるが―――が、自分達を納得させる為に開かれた様なものなのだ。
そして、ご覧の有様である。
手合わせといえど、杏寿郎は間違いなく本気―――彼は、この様な場で手加減をする人間では決して無い―――だ。
それを相手に、烈海王は互角に渡り合っている。
これでもかというレベルで、分かりやすく実力を示してくれているのだ。
小芭内と実弥もまた、鬼殺隊最高位の柱だ。
多くの鬼と対峙し、多くの隊士を率いてきた。
彼我の戦力差を見極める力が無ければ、今日までの死闘を決して切り抜けてこれなかっただろう。
故に……納得せざるを得なかった。
烈海王は―――人格面に関しては、まだ気に入らない点はあるものの―――強いと。
二人は烈海王を疑ってかかったからこそ、彼の動きをこの場にいる誰よりも注視していた。
その結果として、力量を正しく把握してしまったのだから……皮肉としか言いようがない。
(……お館様は、こうなる事までも見越していたのだろう。
全く……あの方の采配には、頭が下がるばかりだ……)
◇◇◇◇◇
「疾ッッ!!」
強い震脚が生み出す爆発的な突進力により、烈海王が杏寿郎の懐へと瞬時に潜り込んだ。
仕掛けるは、右肩口を前方に押し出しての加撃―――靠撃。
中国拳法における、ショルダータックルだ。
「何のッッ!!」
この間合いでは、避ける事能わず。
ならばと、杏寿郎は打点となる胸部に意識を巡らせた。
熟練者の全集中の呼吸は、肉体の特定部位―――例えば損傷した血管に意識させる事で、血流を操作し止血を行うといった芸当も可能である。
身体の寸法、筋肉の一つ一つの形、それら全てを認識してこその全集中と謳う剣士もいる程だ。
そして今ッ……!!
杏寿郎は烈海王の靠を受け止めるべく、呼吸により胸筋を強く引き絞ったッッ!!
規格外の心肺機能により、筋肉へと血液を流入させてのパンプアップッッッ!!
かつて烈海王も拳を交えた、超人レスラーマウント斗羽が得意としていた技法ッッッ!!
――――――バシィィィッッ!!
「ぬぅっ……!?」
肩口から伝わる衝撃の硬さに、烈海王は驚きを隠せなかった。
全集中の呼吸は、実に奥が深い。
まさか斗羽を彷彿とさせるパンプアップまでも可能とは、流石に予想できなかった。
杏寿郎の体勢を崩すべく放った一撃だったが、彼は強く両脚で踏ん張り堪えきっているッッ!!
(パンプアップさせた筋肉を、更に部分的に隆起・硬化させる事での打撃への対処ッッ……!!
鎬紅葉やビスケット・オリバと同じ原理かッッッ!!)
防御を一点に集中させることで、打撃の威力を殺し衝撃を分散させる。
烈海王の打撃は、釜鵺の硬い表皮をも貫き内臓へとダメージを与えられたが……杏寿郎はそれを、見事に耐え抜いた。
鍛え磨き続けた、その技術によってッ……!!
(だが、間合いに入ったッ!!
刀剣を振るえるだけの余裕はない、極至近距離ッッ!!)
しかし、それでもまだ優位は烈海王にある。
この密着状態では、杏寿郎は十分な威力の斬撃を繰り出せない。
対して己には、この間合いだからこそ使える寸勁がある。
左拳を握りしめ、杏寿郎の鳩尾目がけて一閃ッッ……!!
「ッッ!?」
出来ないッ……!!
その寸前に、烈海王の肉体が地面へとうつ伏せに崩れようとしていたッッ……!!
杏寿郎が左手で烈海王の上着を掴み、そのまま地面へ押し倒しにかかったが為にッッッ!!
「刀の届かぬ間合いまで、踏み込む……狙い自体は悪くはないッ!!
だが、その手は何度も経験済みだッッ!!」
そう、烈海王の戦法は既に経験済みなのだ。
刀を振るう事の出来ぬ超至近距離での打撃は、徒手空拳や爪を主とする鬼が何度も使ってきた手段。
その様な鬼の多くを葬り去ってきたからこその、炎柱ッ……!!
烈海王の言葉を借りるならば、既にその道は鬼殺の剣士が通過した場所なのだッッ!!
動きの予測がつくならば、対処は造作もないッッ!!!
「チィィッ!!」
無防備な背面目がけ、杏寿郎の振り下ろしが迫る。
しかし、烈海王も咄嗟に反応して右に握る木刀を背に回し、これを防ぐ。
そしてすかさず地を左手で突き、その反動で跳び上がり間合いを離した。
「ふぅ……確かに、これは迂闊だった。
剣士にとっての共通の弱点を、放置する訳も無いのは道理ッ……!!」
「そういう烈さんこそ、素晴らしい反応だった!!
今のはもらったと思ったのに、こうも見事に仕切り直されてはな!!」
お互い、相手の力量を称え合う。
勝負は五分と五分……双方ともに決定打を狙おうにも、その隙が中々無いという状況だ。
拮抗状態を崩せず、攻め手に悩まされている。
もっとも……厳密に言うと、二人とも攻め手が無い訳ではない。
相手を押し切れるだけの手段は、あるのだが……今この場では、使うべきではない。
使ってしまえば、その時点で『試合』ではなくなるからだ。
正直なところ、それ等も含めた全力を賭して闘いたいという気持ちもあるにはあるが……そこは流石に、二人ともギリギリ踏みとどまっている。
(しかし、今の動きといい……分かっている。
やはり烈さんは、剣士との戦いを経験しているな……!)
ここで杏寿郎は、ある一つの事実を確信した。
烈海王は、剣士との戦いを確実に経験しているという事だ。
こちらの斬撃に対する防御といい、懐に入り込む判断力といい、理解があるからこそ出来る動きだ。
それは、中国武術にも刀術がある―――烈海王が実際に使っている―――以上、そこまで不思議でも無い様に思えるのだが……
(全集中の呼吸はこの日本で生まれた物……必然的に、日本の剣術に形が近くなる。
だが、烈さんの剣は完全な中国式だ……流派が違いすぎるッ!!)
しかし、そこには大きな差がある。
中国の刀術と日本の剣術とでは、その動きや立ち回りがガラリと変わるのだ。
当然、対応策も全くの別物になる。
そして……烈海王の動きは、完全に日本の剣術―――それも道場の剣術では無く、実戦の―――を想定したものである。
だとすると、非常に興味深い事実が持ち上がってくる。
廃刀令により、剣術が廃れた今の世において……彼は一体、どの様な剣士と立ち会ったのだろうか。
そこら辺のヤクザ者といった、生半可な実力の相手では決してないだろう。
(鬼殺隊員とその関係者でない事だけは確かだが……すると、全集中の呼吸を用いない相手になるのか。
烈さんも、十分に凄いが……そんな戦士が世にはまだまだいるッ!!
実に面白い……俺も、是非立ち会ってみたいものだなッ!!)
そんな相手に出会えれば、自分も更に技を磨けるだろう。
また、鬼狩りとして共に戦う同士になりえるかもしれない。
そう思うと、心が弾まずにはいられなかった。
しかし……杏寿郎は、思ってもみなかっただろう。
その、烈海王の立ち会った相手が……彼もよく知る、世界最強の称号を持つ大剣豪だったなどと。
◇◇◇◇◇
(これだ……これこそが、今の私が最も欲していた闘いッッ!!)
杏寿郎との激闘。
それは烈海王に、この上ない歓喜を齎していた。
(全集中の呼吸の奥深さ、鬼殺の技術の素晴らしさッ!
そして、何より……強き剣士と闘えている実感ッッ!!)
この大正時代に降り立った時より抱いていた、対剣士への渇望。
宮本武蔵から学べた多くを、遺憾なく発揮出来る闘いへの切望。
それが今、こうして叶っているのだ。
拳を振るう度、技を放つ度に、満ち満ちていく充実感。
更なる高みへと、足を踏み入れられているのが分かる。
――――――大きな収穫だ……次に活かせる。
まさしく、最期に遺したその言葉通りッ……!!
(ならば……今こそ試す時ッ!!
あの時、出来なかった事を……今一度ッッ!!)
◇◇◇◇◇
―――その次の瞬間にな……烈さんは、いきなり動きを止めたんだ。
―――それまで派手に攻めてたのとは真逆に、地味にピタッとだ。
―――最初は、一体何事かと思ったぜ……ここに来て、試合を自ら止めるつもりかってよ。
―――だが、な……そんな考えは、すぐに吹っ飛んじまったぜ。
―――動きを止めたと言っても、烈さんは変わらず構えを取ったままで……何よりだ。
―――表情……目つきが、戦意を喪失した奴のそれじゃなかったんだ。
―――寧ろ、その真逆……例えるなら、そうだな。
―――獲物を狙い、じっと待つ……野生の獣の目だ。
◇◇◇◇◇
「……烈さん。
勝負を決めに来たとみても、よろしいか?」
これまでの、烈火の如き攻めから一転。
間合いを保ち、構えを取ったまま微動だにせぬ烈海王に、杏寿郎は息を呑んだ。
彼の意図が何なのかを、即座に理解できたからだ。
誘われている。
打って来い、かかって来いと、こちらを待ち構えているのだ。
(初撃と同じく、後の先を狙う戦法だろう。
しかし……感じる気迫と覚悟は、あの時以上だッ……!!)
杏寿郎の脳裏に過るは、試合開始直後に繰り出してきた不知火へのカウンターだった。
ならば、恐らく……いや、間違いなく。
烈海王は、あの時以上の何かを狙っている。
この試合を決められるだけの……取って置きの何かを。
「……その通りだ、煉獄さん。
貴方の上を行くには、これが最適とみた……宣言しよう。
これより、貴方がどの様な技を繰り出そうとも……私は決して、それを避けない。
真正面より、受けて立とうッッ!!」
そして、烈海王もそれを認めた。
勝負を決めるべく、引き出しを開けると。
杏寿郎の全力を、真っ向から切って落とすとッッ……!!
「承知ッ!!
そこまで言い切られたならば、受けて立つのが礼儀というものッッ!!」
これが鬼との戦いならば、分かり切っている挑発に乗る義理など一切無い。
しかし、共に競い合い高め合える同士との一戦ならば、乗らぬ理由など何一つ無いッッ!!
杏寿郎は大きく息を吸い、呼吸を整えた。
放つは、脚力に最大限意識を集中させての壱の型。
開幕のそれとは、比べ物にならぬ速度と破壊力を込めた一撃だ。
烈海王がこちらの後の先を狙うのならば、反応の間に合わぬ速さで打ち込むまでの事。
故に重視するは、威力よりもスピード。
出し得る最大の速度で、勝負に出るッッ……!!
「参るッッ!!」
―――――炎の呼吸 壱ノ型 『不知火』 最 大 脚 力ッッッ!!
脚部へと、出し得る限りの全てを注ぎ込んだ不知火。
まして繰り出すは、誰よりも炎の呼吸に長けた炎柱。
その速度は、全呼吸中最速と謳われる雷の呼吸『壱の型』にも匹敵……否、並大抵の使い手が相手ならば十分に上回っているだろう。
観戦していた柱達ですら、驚嘆した程の疾さであった。
如何に烈海王といえど、この一撃を前にしてカウンターのタイミングはまず掴めない。
そう確信しうる領域にあった。
烈海王の肉体へと、灼熱の刃が迫る。
その身を焼き尽くさんと、唸りを上げて。
対する烈海王は、動かない―――反応仕切れぬのか、或いはギリギリの瞬間を尚も狙っているのか。
(どちらにせよ、このまま斬り込むのみだッッ!!)
烈海王が何を狙っていようとも、その狙いごと両断するのみ。
爆発的な加速の勢いを乗せ、炎刀は彼の肩口へと防がれる事なく入りこみッッ……!!
(何ッッ……!?)
斬った。
確実に、斬れた筈だというのに。
杏寿郎には……何の手応えも感じられなかった。
まるで、そこに何も無かったかの如く……手から伝わる感覚が、異様に軽かったのだ。
◇◇◇◇◇
―――本当に……あれを見た瞬間、鳥肌が立ったぜ。
―――あんな技は、鬼殺隊は勿論忍びの術にも存在しねぇ。
―――俺達は、烈さんが煉獄の後の先を取るとばかり思ってたが……そうじゃなかったんだ。
―――烈さんは……攻撃を見切るんじゃなく、受け入れたんだよ。
◇◇◇◇◇
(紙ッ……!?
木の葉ッ……!?
いや、羽毛かッッ……!?)
杏寿郎の脳裏に浮かんだのは、重さが無いに等しいモノのイメージ。
中でも特に近く感じられたのは、羽毛であった。
空中をヒラヒラと舞う羽毛を斬ろうと思わば、それは至難の業だ。
刃が当たろうとも、断たれる事なくふわりと浮き上がり流されるだろう。
言うなれば、受け流しの理想形だ。
そう……今の烈海王は、まさに羽毛だった。
生身の人間相手とは思えない、あまりにも軽い……無いに等しい斬り応え。
渾身の一撃が、全て受け流されたのだ。
これぞ、中国武術が誇る『理』の極意が一つ。
極限の脱力より生まれる、最高峰の受け流し―――『消力』ッッ!!!
◇◇◇◇◇
―――分かりやすく言えば、そうだな……大岩と柳が目の前にあるって想像してみろ。
―――それを、悲鳴嶼さんの鉄球で砕こうとすると……どうなる?
―――岩の方は、まあ派手に粉砕されるだろ。
―――だが……柳の方は、砕かれずスルっと流される筈だ。
―――なまじ硬くて重い物より、柔らかくて軽い物の方がずっと壊しにくいって寸法よ。
―――鬼の中には、そういう方向性で首を強化する奴もいたぐらいだからな。
―――ただ……だからって、それを普通の人間が自分の身体でやろうだなんて……誰が考えるよ、そんなやべぇ事。
―――全身の力を、限りなく零にする究極の脱力……そりゃ、理屈は分かるぜ?
―――体重まで忘れちまうぐらいに、身体の力を抜き切っちまえば、風船みたいに攻撃を受け流す事は確かに出来る。
―――でもよ……それがどれだけ無茶苦茶で難しい事かは、言うまでもないだろ?
―――まして、自分を倒そうとしてくる敵が目の前にいる、そんな状態で……だ。
―――……烈さんは、一体どんな派手な化け物を想定して、あの技を身に着けたんだろうな……
◇◇◇◇◇
(出来たッッ!!!
消力……成功ッッッ!!)
杏寿郎の一撃を完全に受け流し、烈海王は歓喜に打ち震えた。
宮本武蔵との一戦では、彼の斬撃―――胴回し蹴りを炸裂させた時の消力は、押し当てられた状態からの引き切りの為、斬撃とは呼べず―――を、自身の消力で防ぐ事は叶わなかった。
しかし、あの一刀を受けたからこそ掴めたタイミングがあった。
消力を完璧なものにする為の要素を、見出す事が出来た。
そして今、杏寿郎が放ってくれた全力の一刀を以て……全てが結実したッッ!!!
「ウオオオオオオオォォォォォッ!!!!」
消力が決まった今こそ、勝負を決める時。
杏寿郎は全霊の攻撃を出し切った直後、負担による僅かな―――しかし、決定的な隙がある。
両手で木刀を構え、震脚。
強く前へと踏み込み、全身の力を刀へと伝える。
そして、杏寿郎目がけて……全力を込め、振り上げるッッ!!!
―――――――バキャアァァァァァァッッッッ!!!!!!!!
直後、響き割ったのは……あまりにも強烈な、破砕音であった。
◇◇◇◇◇
「……ここまでだね。
お疲れ様、杏寿郎、烈さん」
誰もが驚き言葉を失っていた静寂の中。
耀哉はゆっくりと口を開き、穏やかに烈海王と杏寿郎の労をねぎらった。
そして同時に、勝負の終わりも告げた……これ以上は、もう闘わなくてよいと。
否、正確にはもう双方ともに闘えないといった方が良いだろう。
何せ……その手の木刀が、完全に砕け散ってしまっているのだから。
「よもや、得物の方が我等に耐え切れなくなろうとは!!
こんな幕引きになるとは思いもよりませんでしたな、烈さん!!」
「ええ……ですが、実に良い闘いが出来ました。
貴方が相手だったからこそです……感謝します、煉獄さん」
消力の直後に繰り出された、全力の振り上げ。
それを杏寿郎は、命中するギリギリの所で木刀を挟みこませ、防御していたのだった。
しかし、力の踏ん張りも効かぬ体勢での、本当に寸での動きであった為……防御は殆ど意味を成さず、そのまま押し切られ吹っ飛ばされていてもおかしくはなかった。
そうならなかったのは、両者の木刀がぶつかり合った瞬間に衝撃で砕け散ったからだ。
猛攻に次ぐ猛攻を繰り出す二人の打ち合いによって、刀身には著しく疲労が溜まっており……遂に、限界を迎えたのだ。
おかげで、杏寿郎に命中する筈だった決定打は威力を完全に削がれ……こうして今に至った訳である。
「さて……烈さんを認めてもらうかどうかだけど、皆の意見を聞かせてもらおうかな?」
そう微笑みつつ、耀哉は柱の面々へと視線を向けた。
全面的な笑顔を見せる者、複雑な表情をしている者、いつもと変わらぬ表情の者。
反応こそ各々違っていたものの、反対の意を示すものは誰一人としていない。
烈海王は、柱と同格の存在であると……誰しもが、完全に認めていたのだった。
「ありがとう、皆。
そして、烈さん……改めて言わせていただきたい。
ようこそ、鬼殺隊へ」
◇◇◇◇◇
その後の柱合会議は、烈海王を正式な一員として加え、夜遅くまで執り行われた。
鬼達の動向についての報告、情報の共有。
烈海王を含めた事による、各自の役割分担・持ち回しの再編成。
今後の隊の運営について、様々な意見が取り交わされていった。
決めるべき事は多くあったが、烈海王の呑み込みが早く柔軟な事も手伝って、会議は円滑に進んでいった。
そうして、会議が終わり各々が帰路―――ひとまず烈海王は、継続して蝶屋敷滞在となった―――に着こうとする最中だった。
「では烈さん、刀鍛冶の里には鴉で事前連絡をしてあります。
明日の朝に迎えが行くと思いますので、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます、耀哉さん……ただ、その。
実は一つ、お伝えせねばならぬ事がありますが……」
烈海王は、他の面々がいなくなり耀哉と二人になったタイミングを見計うと、彼に相談を持ち掛けた。
今に至るまで、トントン拍子で話が進んだのは良いが……実のところ、一つだけ困った事があるのだ。
会議の最中、烈海王はある問題に気が付いてしまったのだ。
それは、彼の出自―――海王である事についてだ。
耀哉が、海王という自身の身分について知っていたおかげで、鬼殺隊の面々からも信を得る事ができた。
それ自体は、実に幸運であったが……冷静に考えてみると、これは中々に危険な事だった。
何せ……この大正時代には、烈海王という名の海王は存在していないのだから。
耀哉は華僑の面々から、海王の事を伝え聞いたという。
では、その華僑へと烈海王の話が伝わればどうなるか?
出自不明、海王を名乗る不届き者として疑いの目を向けられるだろう……事実、その通りだ。
そうなってしまえば、鬼殺隊はこれ以上なく危険な状況下に置かれる。
最悪の場合、中国大陸そのものを敵に回しかねないだろう。
故に、絶対に避けなければならない展開だが……ならば、どうすればいいか。
(やむを得ん……耀哉さんには、本当の事をお伝えせねば)
考えた結果、烈海王は耀哉にのみ自身の真実―――百年近く後の世から来た事―――を、打ち明ける決心をしたのだ。
もとより、この問題をどうにか出来るのは、華僑と繋がりを持つ耀哉しかいないのだから。
「烈さん……先程の試合は、実に見ごたえあるモノだった」
しかし、話を切り出そうとした瞬間。
耀哉の方から、烈海王へと語り掛け始めたのだ。
何とも間の悪いタイミングだ。
顔には一切出さず、しかし内心ではため息をつかざるを得ない。
そんな、烈海王へと……耀哉の口から、予想だにしない一言が放たれたのだった。
「まるで……宮本武蔵の話を、彷彿とさせる戦いだったよ」
「ッッッ!?!?」
烈海王の表情が、激変した。
宮本武蔵。
何故、その名を今出してくる。
確かに、最強の大剣豪として鬼殺隊にも当然名前は知れ渡っているだろう。
剣士に対する例え話のネタとしては、これ以上なく分かりやすいモデルかもしれない。
だからこれは、単なる偶然の一致なのか……?
「耀哉さん……貴方は、まさかッッ!!??」
否。
烈海王には、到底そうは思えなかった。
今の耀哉の口ぶりには、何か明らかな含みがあった……言外に何かを伝えようとする、確かな気配があった。
ならば……即ち。
彼は、自身の事を最初からッッ……!?
「……大丈夫だ、烈さん。
貴方が心配する事態は、何一つ起こさせない……私を信じてほしい」
「耀哉さん……分かりました。
ならば私も、今は敢えて何も聞きません……ありがとうございますッッ!!」
深々と、耀哉に頭を下げた。
今の自身は、鬼殺隊に身を寄せる食客の身分だ。
色々と聞きたい気持ちはあるが……そうしてもらえた恩もある以上、理由は問うまい。
何より、耀哉は決して悪人ではない。
その彼が、今は敢えて話さないというならば……そこにも訳があるのだろう。
ならば、必要な時が来れば明かしてくれる筈。
これで、迷いは晴れた……心置きなく、鬼との戦いに赴ける。
実に明るい表情で、烈海王は産屋敷家を後にしていったのだった。
◇◇◇◇◇
「……行ったかい?」
そんな烈海王の背を見送る耀哉の後ろより、一人の女性が声をかけた。
耀哉の妻―――産屋敷あまねだ。
しかし、もしこの場に誰か一人でも鬼殺隊員がいたならば、確実に違和感を覚えただろう。
その口調が、普段の彼女とは全く違っている事に。
「ええ……貴方のおかげです。
本当に、ありがとうございました」
そして。
耀哉自身も、普段とはまるで違う態度であまねに声をかけた。
まるで……そこにいるのが、産屋敷あまねでは無いかの様に。
「何、私は坊やとの義理を果たしたまでさ。
そもそも、烈海王がこうなった原因は……『私』にもあるのだしね」
「……それでも、我々からすれば貴方は恩人です。
かつて、始まりの剣士が現れた時と同じく……きっと、我々の運命を大きく変えるであろう出会いになるでしょう」
「ふっ……後は、あんた等次第だよ。
前にも言った通り、この時代が絶対に私達の時代に繋がっているとも限らないのだからね」
あまねの姿をした『誰か』は、耀哉へと笑いながら告げた。
自分は成すべき事を成した……後は、耀哉達次第だと。
「ええ、勿論です……必ず私の代で、鬼舞辻との因縁を終わらせてみせましょう。
頼もしい子ども達と……そして、烈さんと共に」
「ふっ……じゃあ、私はいくよ。
もし、烈海王に全てを話す時が来たなら……その時には、もう一回来れるといいんだけどね」
「はい……どうか、お元気で。
『霊媒師』さん」
烈さんvs煉獄さん、判定は武器破損によるドローとさせていただきました。
一応、烈さんは勿論煉獄さんも、素手でもそのままやり合いそうとは思いましたが、御前試合という形式上そこまでする必要もないとして、引き分けで終了してます。
Q:全集中の呼吸で筋肉パンプアップとか、紅葉やオリバみたいなマッスルコントロールって可能なの?
A:黒死牟戦の実弥は、胴体ぶった切られたにもかかわらず呼吸で筋肉引き絞り傷口塞いだ可能性が言及されていたり、悲鳴嶼さんが血流操作で黒死牟の透き通る世界を謀ったり。
煉獄さん自身も猗窩座に腹ぶち抜かれた時に腕を抜けなくする等色々してるため、煉獄さん程鍛えた実力者なら多分可能と判断しました。
Q:煉獄さんが消力に対して、玖ノ型を使わず壱の型は選んだのは何故?
作中でも述べた様に、煉獄さんは威力よりも速度を重視して壱の型を使いました。
また『使えば試合じゃなくなる技術』があるとも述べさせていただきましたが、煉獄が正しくそれです。
威力が強すぎる為、試合で使っていい技ではないと判断して敢えて使いませんでした。
しかし、もし仮に煉獄を使っていたならば、その威力と攻撃範囲から消力でも無力化しきれず烈さんが敗北していた可能性が十分あります。
Q:烈さんが普通の消力を使って、胴回しカウンター消力を使わなかったのは何故?
A:まずは対日本刀の消力を無事に成功させられるかどうか、確かめたかったのが大きいです。
武蔵戦での成果を試すため、通常の消力からという具合で挑みました。
そして、前書きでも述べましたが。
感想で多く寄せられたご意見について、回答させていただきます。
Q:烈さん、この時代で海王名乗ったら色々とヤバくない?
バレたら絶対、まずい事になるでしょ。
A:お館様が既に対処済みです。
お館様は、最初から烈さんが何者であるか等を全て分かっていました。
そして柱合会議開始時からの強引な烈さん推しも、ここに繋がっています。
では、何故烈さんの正体をしっていて、彼が転生者だと分かったのかと言いますと…お館様の最後の一言に、ほぼ集約されてます。
そうです、刃牙世界最強のババアと言われるあの人が烈さんの転生には関わっています。
色々ととんでもない刃牙世界でも、特にぶっ飛んだ能力を持っていて、実際に他者の転生に近い事をやったあのババアです。
詳しい内容に関しては、後の話にて語らせていただくのでご了承ください。