鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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原作でいうところの柱合裁判編ではありますが、前話でもあった様に『裁判』という流れではなくなってしまっているので、敢えて柱合裁判という単語は使っていません。




18 竈門禰豆子

 

 

 

 

 

 

「……もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします」

 

 

 

柱合会議が始まってすぐの事だった。

 

耀哉の横に立つ子―――産屋敷輝利哉が、手紙―――炭治郎の育てにして先代水柱である鱗滝左近次の書き記した―――を読み上げた。

 

 

 

禰豆子は強靭な精神力によって理性を保ち続け、飢餓状態であっても人を喰うことなく二年以上の歳月を平穏に過ごしたと。

これは鬼殺隊の現状を変え得る切っ掛けになりうる事態であり……そして。

 

それでももし、禰豆子が人を喰う事があれば……水柱の一門が、命を以てその責を償うと。

 

 

 

(冨岡さん……鱗滝さん……!)

 

 

この言葉に炭治郎は、涙を流した。

自分達の為に、皆がこうして力を尽くしてくれている。

その命を賭けてまで……こんなに嬉しい事が、他にあるだろうか。

 

 

 

 

「何だ、冨岡!

 それならそうだと言ってくれれば良かったのに、人が悪いぞ!!」

 

「全くだぜ……てかよ。

 さっきの不死川と烈さんとのやり取りにこそ割って入らなきゃダメな立場じゃねぇのか、お前!?」

 

 

 

しかし、その一方。

だったらその態度は流石にどうなんだと、一部の面々から義勇に白い目が向けられていた。

まあ、彼の人柄に関しては今に始まった事では無いのだが……

 

 

閑話休題。

完全に場の流れは、炭治郎を肯定する形で動いていた。

はじまりの剣士との一致という要素はやはり大きく、また鬼舞辻無惨に繋がる手がかりも彼の御蔭で掴めたのだ。

そして、先程の烈海王の激励にこの手紙と来た。

 

 

ここまで来れば、至極当然の展開とも言え……残す問題は、ただ一つ。

 

 

 

 

「……ですが、お館様。

 例え今は人を喰わらぬとしても……この先もそうであるという保証は、何処にもありませんッ!!

 到底承知できないッッ!!」

 

 

 

不死川の主張―――本当にこの先も、禰豆子が人を喰らわないでいられるのかという事だ。

確かに彼女は、鬼舞辻無惨の支配から完全に外れている。

もし支配下にあるならば、無惨の命令により炭治郎がとっくに襲われているか……その命令に抗った禰豆子が、無惨に殺されているだろうからだ。

 

だが、無惨に与せぬ鬼であるとしても……人を喰らわぬ保証までには繋がらない。

ならば、安心する事は決して出来ない。

取り返しがつかない事態になってからでは遅いのだ。

 

 

 

「確かにそうだね。

 人を襲わないという保証が出来ない、証明が出来ない……だが。

 人を襲うという事もまた、証明が出来ない」

 

「ッ!?」

 

 

 

しかし。

これを耀哉は、その逆もまた然りとして制した。

禰豆子が二年以上人間を襲わなかった事は、鱗滝や炭治郎の鎹鴉からも報告を受けていた通り、紛れもない事実だ。

そして、三人もの命がそこに賭けられているとあっては……容易に否定してはならない。

同等か、それ以上のものを差し出さぬ限りは。

 

 

「ッ……!!」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔で、実弥は炭治郎を睨みつけた。

耀哉の言う事は確かに正しい。

 

 

 

正しいのだが……納得が、どうしてもいかないのだ。

 

憎き鬼を認める事が……自身から家族を奪った鬼達を認める事が。

 

 

 

 

「……承服しかねる様ですね、不死川さん」

 

 

 

 

すると、そんな彼の心情を察してか……またしても。

 

 

烈海王は、動き出した。

 

 

 

 

 

「……烈さん、何か考えがあるのかな?」

 

「ええ……耀哉さん、炭治郎さん。

 そして、禰豆子さん……失礼いたしますッ!!」

 

 

 

彼は静かに立ち上がると、傍らに置かれていた禰豆子の木箱を抱え……跳躍。

 

日陰になる屋敷の中へ、瞬時に身を移したのだ。

 

 

 

「烈さんッ!?」

 

 

いきなりの奇行。

誰しもが唖然とした様子で、彼に視線を向けるが……

 

 

 

本当に驚くべきは、この直後であった。

 

 

 

 

「……破ァッ!!!」

 

 

 

 

――――――バキャァッ!!!

 

 

 

木箱の取っ手を掴むや否や……全力で引き上げ、戸を破壊ッッ!!!

 

 

 

「え、ええぇぇッッ!!??」

 

「……出て来てください、禰豆子さん。

 そして、感じ取ってください。

 その目で、その鼻で、その肌で……この血をッッ!!」

 

 

 

 

そして、間髪入れずに上着に仕込んでいた飛鏢を取り出し……己が腕を斬りつけたのだッッ!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「烈さんッ!?

 まさか、貴方は……!!」

 

 

禰豆子が入っていた箱の前で、自傷行為に及んだ烈海王。

その意味を、すぐさま皆が察した。

 

鬼の前での出血とは、即ち……空腹の獣の前に、餌を差し出すも等しい行為だ。

彼は、自ら証明しようとしているのだ。

禰豆子が人を喰らわぬ事実を……その血を以てッッ!!

 

 

 

「ッ……グゥッ……!!」

 

 

その血の香に釣られたのだろうか。

禰豆子は、木箱よりその姿を現した。

目の前には、腕より血を滴らせている烈海王。

鬼である彼女―――しかも、那谷蜘蛛山での消耗が回復しきっていないであろう―――にとっては、中々に強い誘惑だろう。

事実、大きく目を見開き流血する烈海王を凝視している。

 

 

「禰豆子ッ!!」

 

 

 

たまらず、炭治郎が彼女を心配して声を荒げるも。

 

 

 

「止めるな、炭治郎さんッ!!

 ここで貴方が止めるならば、それは全てを無に帰す愚行ッ!!

 妹を信じぬ愚か者の所業だッッ!!」

 

「ッッ~~!?」

 

 

烈海王が一喝し、それを全力で阻止する。

そうしている内にも彼の血は流れ続け、より禰豆子への誘惑は強まっていく。

呼吸も徐々に、荒さが見え始めていた。

 

 

 

 

「……禰豆子さん。

 これまでのやり取りは全て、貴方の耳にも届いていた筈です」

 

 

そんな彼女へと……烈海王は、強く語りかけた。

 

 

「貴方を救う為、多くの人が命を賭けている。

 貴方は人間を守る為に闘えると、信じてくれている……炭治郎さんは、貴方の為に鬼殺隊の中で誰よりも険しい道を選んだッッ!!

 ならば、貴方もまたそれに応えなければならないのではないかッッ!!」

 

 

 

炭治郎にしたのと同じく……その胸中は如何なるかを、確かめる為に。

 

 

 

「ただ、守られるだけでいいのかッ!?

 否、そんな事はあるまい……貴方とて、守りたいという意志があったからこそ今に至った筈だッッ!!

 ならば、兄妹揃い闘い抜けッ!!

 これから先、鬼殺隊員として闘うのであれば、こうして血を流す事は日常茶飯事ッ!!

 共に闘う仲間が重傷を負い、そして貴方自身も深く傷つくだろうッッ!!

 ならばこそ、この程度の血の誘惑に負けてはならぬッ!!

 安易な道に逃げ出すなど、言語道断だッッ!!」

 

 

 

烈海王は、証明をしようとしていた。

禰豆子の前で、敢えて血を流すことで……彼女が人を襲わぬ存在であると。

 

 

己を信じてくれた者達に応えられるだけの強さがあるとッ!!

 

 

 

「貴方に向けられる悪意と憎悪は、やもすれば炭治郎さん以上に凄まじくなるだろう!

 それでも、人に戻りたいと願うのであれば耐え抜けッ!

 自分は強いのだと、信じてくれた者達へ堂々と胸を張れるようにだッッ!!

 あの鬼舞辻無惨の支配から抜け出した貴方ならば、出来るッッ!!

 耐え抜き、そして打ち勝てッ!!

 私にその強さを、ここで見せてみろッ……!!

 竈門禰豆子ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「頑張れ……頑張れ、禰豆子ッ!!

 俺は、お前が強いのを誰よりも知っているッ!!

 人間を絶対に食べたりなんかしないって……信じている!!」

 

 

鮮血を前に、息を荒げながらも耐える禰豆子。

その懸命な姿に、炭治郎が励ましの声を送る。

彼女ならばきっと、こんな誘惑に負けない……必ずや、打ち勝つに違いないと。

 

 

 

「……その通りだ。

 だから、俺は……俺達は、お前達に賭けた」

 

 

炭治郎に続き、ここまで沈黙を保っていた義勇が口を開いた。

彼もまた、禰豆子が人を襲わぬと心より信じている。

多くは語らず……しかし、強い眼差しで禰豆子を見守っていた。

 

 

 

「やれやれ……ま、ここまで烈さんが身体を張ったんだ。

 これで負けちまったら洒落になんねぇし、何より面白くねぇ。

 派手に打ち勝ってもらいたいもんだぜ」

 

「ええ、その通りよ!!」

 

 

やがてその熱意は、他の面々にも伝播していった。

彼女は絶対に負けない。

あの烈海王が、勝てると信じているのだ。

ならば必ず、この試練を乗り越えられるであろうと……期待を抱き始めていたのだ。

 

 

 

「ふふっ……」

 

 

その光景を前に、耀哉は微笑んだ。

光なき瞳なれども、皆の気持ちが確かに感じ取れる。

烈海王の真っ直ぐな熱意が、それに応えた炭治郎の覚悟が、皆を動かしたのだ。

 

 

もしもこの場に烈海王がいなければ、義勇を除く柱の面々は誰一人として彼等に興味や関心を示さなかったであろう。

ここまで、彼等を想う事は無かっただろう。

こんなにも一体化する事はあり得なかっただろう。

 

 

 

そう……あの霊媒師の介入がなければ辿るはずであった、本来の歴史では。

 

 

 

 

 

 

「……チィッ……!!

 お館様……失礼、仕るッッ!!」

 

 

 

そして、遂に……実弥が動いた。

 

 

耀哉へと非礼を働く事を詫びつつ、烈海王と同様に跳躍。

 

屋敷の中―――彼の隣へと、降り立ったのだ。

 

 

 

 

「実弥さん……」

 

「……どけよ、烈。

 テメェは鬼舞辻の毒を喰らったんだろうがッ……!

 そんな奴の血じゃァ、何が混ざってるか分かったもんじゃねェッッ……!!」

 

 

烈海王を手で制すと共に、抜刀。

その刃を己が腕に突き立て、彼と同様に血を流したのだ。

何せ、彼は鬼舞辻無惨の血を体内に直接送り込まれている……如何に解毒が済んだとはいえど、そんな血では信用ならない。

だから、自分が血を流して確かめようというのだ。

 

 

 

「ほらよ……どうした、鬼?

 お前の大好きな血の匂いだぜェ……!!」

 

 

 

見せつけるかの様に腕を突き出し、強い血の香を漂わせる。

 

 

実弥の血は、稀血―――それも超一級品の―――である。

鬼にとって最上級の栄養となりうるご馳走であり、その匂いだけでも鬼を酩酊させる程の代物だ。

目の前に差し出される効果の程は、烈海王の血よりも更に上を行く。

 

 

 

「ッ……どうしたァッ!!

 喰うのか喰わねぇのか、はっきりしやがれッッ!!!

 烈が言う様な、安易な道に逃げ出すどうしようもねェクズなのかッ!?

 俺達鬼殺隊に狩られて当然の、醜い化け物か、アァッ!!??

 だったら、その首をとっとと俺達に差し出しやがれッ!!

 兄妹揃って、無様に屍を晒せェッ!!

 そうじゃねェって言うんならよォ……その証明が、出来るもんならやってみろやァッッ!!!」

 

 

その血を前に尚も惑う禰豆子へと、実弥が咆哮する。

醜い鬼ならば、さっさと喰ったらどうだと。

周りの連中はお前を信じ始めているが、そんな証明など出来るわけがないと。

本性を見せてみろと。

 

 

 

 

自分の家族を食い殺した、大切な仲間を葬り去った憎き鬼と、同じなのか……そうじゃないのか。

 

 

お前がどんな存在なのか……今ここで、ハッキリ見せてみろと。

 

 

 

 

「ッッ……!!!」

 

 

 

 

……そして。

 

 

 

禰豆子は……その首を、強く横に振った。

 

 

 

 

 

 

差し出された目の前の血を、明確に……拒絶ッッ!!

 

 

その強さを……証明するッッ!!

 

 

 

 

 

「……どうやら、結果は出たみたいだね。

 禰豆子は、実弥の血に打ち勝った……ならばこれで、人を襲わぬ証明ができたわけだ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……実弥さん。

 ありがとうございます」

 

 

烈海王は、右の拳を左の掌で包み込む拱手の形―――中国における、相手に対する敬意や謝意を表すポーズである―――を取り、実弥に礼を告げた。

彼が自分と同じく血を流してくれたからこそ、この結果は得られたのだ。

 

 

「……テメェの為じゃねェ。

 あの鬼が、醜い本性を晒し出せる様にしてやった……それが、こうなっちまっただけだ」

 

 

実弥は、あくまでも禰豆子を斬り捨てるべき鬼と断定すべく行ったと、そう言い放った。

故に、烈海王の思想に賛成したわけでは断じてない。

鬼殺隊として、為すべき事を為そうとしただけだ……それだけなのだ。

 

 

 

(アァ……そうだ、そうに決まってる……)

 

 

 

その結果が、たまたま烈海王を肯定する形になってしまった。

 

それだけの事だ。

 

 

 

 

 

「炭治郎。

 烈さんに先を越されてしまったから、二番煎じにはなるが……改めて私からも言おう。

 これでもまだ、禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。

 だから、証明しなくてはならない。

 炭治郎と禰豆子が、鬼殺隊として戦えること……その信念を貫けるだけの強さがあることを」

 

「……はいッ!!」

 

 

烈海王に言われてしまいこそしたものの、耀哉も考えは同じであった。

柱が皆から尊敬され認められているのは、血を吐くような鍛錬で己を鍛え上げ、死線をくぐり抜けてきたからだ。

炭治郎が彼等の様にその意志を貫いていくには、それに見合うだけの強さが必要である。

 

 

 

 

だからこれより先、今以上に全力を賭して挑んでほしい。

 

 

強さとは、己が我が儘を貫き通すことなのだから。

 

 

 

 

 

「さて……禰豆子に関する話は、これで終わりだ。

 そろそろ、会議に移るとしよう。

 ただ、炭治郎にはもう少しだけ残ってもらう予定だったけれど……その傷だらけの身体だと、長くは難しいだろうね。

 まずはゆっくり休むといい……それから、改めて話をさせてもらうよ」

 

 




柱合裁判編終了となります。

もうお分かりの通りですが、烈さんは炭治郎同様に禰豆子の事も気に入っています。
今まで散々「鬼は絶対に許せない、武への侮辱だ」と怒っていた烈さんですが、禰豆子はとある事情でその枠から外れた例外だからです。
同じ理由で、実は珠世さんの事も割と敬意の対象として見ています。

しかし同時に、「自分の為に頑張ってくれている人達がいる中、ただ守られているだけなんて怠惰な真似は許さない」「どんな形でもいいから、恩義を受けたならばその働きには応じろ」というスタンスを絶対に取るだろうとも思い、この様に流血の試練を課す流れとさせていただきました。
お館様からすれば、炭治郎と禰豆子に言いたかった事を先に烈海王に言われてしまったので、苦笑するしかなかったでしょうが……


Q:禰豆子は原作と違って刺されてないのに、風柱の血なら兎も角、烈さんの血が効いてるのは何故?
A:那谷蜘蛛山での消耗が残っている&寝不足で体力が回復しきってないから、烈さんの血でも効果を発揮しました。

Q:実弥は最後、どんな気持ちで稀血を出したの?
  烈さん達を認めていたの?
A:かなり複雑な心境で、烈さんや禰豆子を認めていたか、それとも言うとおりに最後まで醜い鬼と見ていたかは……今の時点では、ご想像におまかせします。



Q:烈さん、禰豆子の箱を思い切りぶっ壊したけど、その後どうしたの?
A:炭治郎と禰豆子に謝った後、アオイと一緒に頑張って直してます。

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