鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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克己戦で使った見えない目潰し。
鬼殺隊からしたら「そんなのアリかよ」レベルの攻撃だと思います。


02 鬼との出会い

 

 

(ふむ……複数人の足跡が、確かにある。

 出来て比較的新しい……遭難した親子以外にも、確実にいる)

 

 

日が落ち、陽光も完全に消えた夜の最中。

木々生い茂る山道の中に、烈海王はいた。

彼は身を屈め、地面に刻まれている複数の足跡を観察していた。

 

 

何故、大きな街を目指していた筈の彼が、こんな山の中にいるのか。

 

話は、一時間程前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「聞いたか、俊平さんの家の話……?」

 

「ええ、二日前に江東山へ山菜を取りに行ってから、戻ってきてないって……

 心配になって探しに行った息子さんも、昨日から……」

 

 

そろそろ日が落ちるかという頃。

烈海王が大きな街へと目的地を定め、近隣の情報を集めていた最中だった。

彼は、少々気になる話を耳にしていた。

 

歩いて十五分程の距離にある、小さな山。

そこへ入った親子が、行方知れずになっているといのだ。

 

最初は、よくある遭難話かと思ったのだが……聞けばこの親子は、頻繁にこの山へと登っているらしい。

道には十分慣れており、また、危険なところに足を踏み入れる様な性格でもないとの事だ。

そもそも、二人揃って行方不明という時点で普通ではない。

野生の獣にでも遭遇してしまったか……兎に角、何か予想外の事態があったと考えるのが妥当だろう。

 

 

(獣、か……よし!)

 

 

噂をすれば影が差すとはこの事か。

つい先程、野獣と闘う事を思っていたばかりの彼からすれば、何とも都合の良い話だった。

その親子を探しに山に入り、猛獣退治といこうか。

ある程度の路銀もこれで稼げるだろう。

 

 

そう、考えていたのだが……

 

 

その少し後、この考えが覆される事態が起きる。

 

 

 

 

「なあ、さっきそこを歩いていた人……あの、全身黒い服してた人」

 

「ん、ああ……いたな。

 どうかしたのか?」

 

 

烈海王が、山へ向かおうと足を運んでいた時。

その横を二人の男性がすれ違ったのだが、偶然にも彼等の会話が耳に入ってしまった。

 

そして、その会話は……烈海王にとって、無視できるものではなかった。

 

 

 

「気のせいならいいんだけど……刀っぽいの、差してなかったか?

 山の方へ向かっていった様に見えたけど……」

 

「え……見間違えじゃないか?」

 

「そうかな……そうだと良いんだけど……」

 

 

(ッッ!?)

 

 

刀を差した人間が、つい先程までいたというのだ。

中国人の彼でも、この時代においてそれが普通でない事は分かる。

廃刀令が出たのは明治時代だ。

帯刀は明らかな違反行為……それが分かっていながら、刀を差す様な人物がいる。

しかも、行方不明となった親子がいる山に向かったというのだ。

 

 

(もしや、賊の類……山を根城にしているのか?

 だとすれば、話が繋がる……!)

 

 

烈海王は、その男が山賊ではないかと考えた。

大正の世で帯刀する輩がいるとすれば、やくざ者の類が濃厚だ。

ならば、行方不明の親子はその男―――もしかすると複数人かもしれない―――に襲われたのではないか?

そう思わずには、いられなかった。

 

もっとも、本当にただの見間違えかもしれないし、最初に考えた通り野獣の類かもしれないが……

 

 

(……賊か、獣か。

 どちらにせよ、山に入れば分かる事……!)

 

 

どうせやる事に変わりはない。

賊ならばひっ捕らえて身ぐるみを剥がし、然るべき対応をするまで。

猛獣ならば予定通り、狩猟採集を行うまで。

山に入れば、それで全てはっきりするのだ。

 

 

 

(何が出てこようとも、私は一向に構わんッ!!)

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

(獣ではない……明らかに、人の手による遭難と見て間違いない)

 

 

そうして山中へと入った烈海王は、遭難が人間の仕業であると確信した。

足跡のサイズからして、明らかに親子とは違う者が混ざっている。

加えて、獣が近くを通ったような形跡もない。

恐らく下手人は、刀を持っていた男とみて間違いないだろう。

 

 

(刀を持った敵が相手……か)

 

 

刀を武器とする男……否応無しに、宮本武蔵の事が脳裏に浮かんでしまう。

数多の猛者と闘い合ってきたが、その中でも最上位に入る強敵だった。

敗北こそしてしまったが、彼から学べた事は非常に多くそして大きい。

 

それを、早速活かす場面が来たのではないか。

これで存分に、日本刀相手の闘い方が出来るのではないか。

そう考えるだけで、ついつい口角が吊り上がってしまう。

相手は卑劣な山賊かもしれぬというのに、出会いを楽しみにしている己がいる。

 

 

(いかんな……犠牲者がいる以上、決して喜ぶべき事態ではないというのに。

 まだまだ未熟というべきか……)

 

 

頭を左右に振り、気持ちを打ち消す。

人として誉められぬ事ではあるが、これも武術家の性か。

兎に角、今は相手を探す事を最優先にしよう。

闘いの事は、出会ってから改めて考えればいい。

 

 

 

 

そうして、再び足跡を辿ろうとした……その、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

―――――――ズドォンッ!!!

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

突如として、山一帯に激音が響き渡ったのだ。

 

 

 

(今のは……何か、強い勢いで物と物とがぶつかり合った衝撃音!

 それも、発生源はかなり近い……!!)

 

 

烈海王は咄嗟に足を止め、周囲を見渡した。

自然に発生する様な音量ではない。

明らかに、何者かの手によって起きたものだ。

発生源は何処か、神経を集中させて全方位に気を配り……

 

 

(……そこかッ!!)

 

 

人の気配を察知した。

すかさず、その方向へと全力で疾走する。

この音がした場所に、きっと刀の男がいるに違いない。

そんな確信を持って、脚を進め……そして。

 

 

 

「な……何ッ!?」

 

 

 

もはや今日だけで何度目になったかも分からない、驚愕の声を上げた。

しかし、それも無理はないだろう。

目の前の光景は、余りにも彼の予想から外れていたのだから。

 

 

結論から言うと、刀を持った男は確かにその場にいた。

黒い服を着ており、町民の話とも完全に特徴が一致していた。

 

しかし……しかしだ。

 

 

 

(倒されている……この男が、賊では無かったのか!?)

 

 

 

場に倒れているのは、刀の男に襲われた犠牲者ではなく……刀の男本人だったのだ……!

 

大木に背を預け、息も絶え絶えな状況で崩れ落ちている……!!

 

その全身に幾つもの青痣を刻ませ、血痕を滲ませて……!!

 

 

 

「どうした!!

 しっかりしろ、一体何があった!?」

 

 

すぐさま烈海王は、男へと近寄りその肩を揺すった。

男の正体が何者かは分からないが、ただ事でないのは明らかだ。

意識がある内に、何があったのかを確かめねばならない。

 

 

 

「ッ……!?

 一般人……そんな、まずい……早く逃げるんだ!!

 山から下りろ、奴がすぐそこに……!!」

 

 

そして、烈海王の存在に気付いた男は……驚愕で目を見開きながら。

決死の形相で、彼にここから逃げる様に叫んだ。

その声色と瞳は、賊のそれではない。

心の底から、烈海王の身を案じている……そう、はっきりと伝わってくる物だった。

 

 

 

「落ち着き給え……奴だと?

 他に、誰が……」

 

 

「何だよ、おい?

 一人かと思ってたのに……仲間がいたのかよ?」

 

 

直後。

前方から、足音と共に何者の声が聞こえてきた。

烈海王は咄嗟に振り向き、声の主の姿を見る。

 

 

(何だ……この男……!?)

 

 

現れた者の姿に、彼は息を呑んだ。

その男の風体は、普通ではなかった。

 

白地をベースに黄色い波模様のアクセントが入った和服を身に纏う、小柄な男性。

しかし、その皮膚の色は妙に白く……顔面には、入れ墨らしき奇妙な文様が刻まれている。

手の爪は相当に伸びており、且つナイフかの様に鋭く尖っていた。

そして、その瞳に浮かび上がっている『下陸』の文字。

爪はまだ分かるにしても、瞳はどう考えても異常だ。

現代ならばいざ知らず、大正時代にネイルやカラーコンタクトなどという御洒落道具がある訳ない。

ならば、この身体的特徴は……外付けではなく、肉体から発生した物という可能性が高い。

 

 

(しかし、そんなことがあり得るか……?

 確かに、ピクルの様に人の範疇を超えた骨格の持ち主や……範馬勇次郎の様な規格外もいるにはいるが。

 この男は、彼等とは全く違うベクトルで……なッ!?)

 

 

 

だが……次の瞬間。

烈海王はそれをあり得る事だと、認識せざるを得なくなった。

 

 

 

(傷口が……瞬時の再生を……!?)

 

 

 

烈海王の視線が釘付けにされたのは、男の額だった。

そこには、一筋の傷口―――恐らくは倒れている刀の男がつけたであろう―――が付けられていたのだが。

 

 

何とその傷が今……烈海王の見ている目の前で、綺麗に閉じたのだッ!

 

流れていた血は完全に止まりッ!

 

裂けた皮膚が、癒着して元通りになっているッッ!!

 

傷口が……受けたダメージが、瞬時に再生を果たしたのだッッ!!

 

 

 

(……あのビスケット・オリバは、散弾銃で受けた傷もその日の晩には、薄っすら被膜を張るレベルにまで回復したと聞いた。

 だが……これは、それどころではないぞ!!

 不気味すぎる身体的特徴に、異様すぎる回復速度……この男……人間ではないのかッッ!?)

 

 

目の前の男は、人間ではないナニカである。

もはや、そう結論付けるしかなかった……それ以外に、答えなどなかった。

そうでもしなければ、どう説明をつければいいのか分からない―――自身も、両断された胴に失った右脚が回復している身であるのを、衝撃のあまり忘れている様だが―――事ばかりだ。

 

 

「ッ……!!

 くそ……身体が、動かない……!

 このままじゃ、貴方まで……!!」

 

 

刀の男はどうにか立ち上がろうとするも、叶わなかった。

身体に、全く力が入らなかった……それだけ、受けたダメージが深刻なのだ。

幾ら気持ちがあろうとも、これではどうしようもない。

 

 

「俺の事はいい、すぐに逃げてくれ!!

 一般人を犠牲にさせる訳にはッ……!!」

 

「へっ……悪いけどなぁ。

 目の前に餌がいて、逃がす訳がないだろ!!」

 

 

 

刀の男は、烈海王に逃げる様促すも。

 

そうさせる間は与えぬと、下陸の男は地を蹴り疾駆した。

 

 

これまた、常人の範疇を遥かに超えた凄まじい勢いでの突進。

 

僅か二秒足らずの内に、男と烈海王との距離は目と鼻の先まで縮まっていた。

 

 

 

「手足を使えなくしてから、じわじわ食ってやるぜッ!!」

 

 

 

突進の勢いに乗せ、男は五爪を振り下ろす。

 

 

その鋭い一撃は、烈海王の肩口を抉り取るべく迫り……!

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

片平紳助 十九歳 鬼殺隊隊士、階級『辛』。

 

 

 

後に彼は、この時起きた衝撃の出来事を、多くの隊士へと語らされる事になった。

 

 

 

 

―――ええ……最初は本当に、驚くしかなかったですよ。

 

 

―――この山に、鬼が潜んでいる可能性があると聞き、向かったはいいんですが……まさか、十二鬼月と遭遇するなんて。

 

 

―――どうやらごく最近、あの鬼は根城をあそこへと移していたらしくて……挑んだはいいが、完敗でしたよ。

 

 

―――下弦の陸……一番下の階級とはいえ、それでも十二鬼月に数えられるだけの力が奴にはありました。

 

 

―――そんな強力な鬼が、無関係の一般人を標的にしたんですから……あの時は、泣きたくなりました。

 

 

―――自分は、なんて無力なんだって……けどね。

 

 

 

 

―――その直後に、まあ信じられない事が起こって……涙がすぐ引っ込んじゃいましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「グハァッ!?」

 

 

烈海王の肩口を、下陸の男の五爪が捉えようとしたその刹那。

いきなり強烈な炸裂音が鳴り響くと同時に、両者の距離が瞬時に離された。

 

 

凄まじい勢いで、下陸の男が反対の方向―――即ち真後ろへと、吹っ飛んでいったのだ。

 

 

 

「え……え……?」

 

 

刀の男―――片平は、呆然とするしかなかった。

絶体絶命かと思われていたのに、何故か鬼は後ろへと吹っ飛んでいった。

一体、何が起きたのか。

吹っ飛ばされた鬼と、そして襲われそうになっていた者の方へ視線を向け……そこで、彼は気が付いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――あの人……烈海王さんがね、拳を真っすぐに突き出していたんですよ。

 

―――腰を深く落として、右の拳をそりゃもう綺麗に真っすぐ。

 

―――はい、そうなんです……烈さんは、後の先を取ってたんですよ。

 

 

 

―――鬼の突進に合わせて、自分が攻撃を受けるよりも先に……相手の顔面に、拳を叩き込んでいたんです。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

(な……何が起こった!?

 殴られた……あの男にッ!?

 鬼の俺を、あいつがッッッ!?)

 

 

下陸の男は、予想外の事態に困惑していた。

幸運にも更なる餌が現れたと思ったら、その餌はあろう事か自分を殴り飛ばしたのだ。

それも、自分の突進に合わせて……後の先を取る形でだ。

完全な見切りが無ければ、出来る芸当ではない。

 

加えて、拳の威力も相当な代物だった。

まるで木槌か何かでぶん殴られたかの様な、素手とは思えぬ衝撃と重みがあったのだ。

 

 

(どうなってやがる!?

 隊士の反応からして、あいつは鬼殺隊の人間じゃない!!

 通りがかりの一般人だろッ!?)

 

「……お前が、人間ではない何か……妖の類であるという事には、大いに驚いた。

 正直に言うと、今も少し戸惑ってはいる……だが」

 

 

そんな下陸の男とは対照的に。

落ち着いた様子で、極めて冷静に烈海王は口を開いた。

 

鋭い眼光で、男を強く睨みつけながら。

 

 

 

「襲い掛かって来るというのであれば……何者が相手であろうと、容赦はしないッッ!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――見事な啖呵でした……あれが本当に、鬼を初めて見る人間なのかと思いましたね。

 

 

―――その後、すかさず烈さんは鬼へと仕掛けたんですが……それもまあ、とんでもない手段でした。

 

 

―――こう、思いっきり息を吸い込んで……上半身を膨らませたんです。

 

 

―――……何を言ってるか分からないって?

 

 

―――だって……その通りだし、そうとしか言えないんですもの。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

(何だ、あれは……呼吸法?

 だが、あんな息の吸い方は見た事が……!)

 

 

深く息を吸いこみ、上半身を膨らませた烈海王。

その様は、下陸の男は勿論、片平隊士にとっても異様な物であった。

 

特殊な呼吸によって、身体能力を爆発的に高める闘法―――全集中の呼吸。

それをよく知る二人からしても、烈海王が今行っている様な呼吸は見た事が無い。

 

 

(何か……嫌な予感がするッ……!!)

 

 

先程の拳の一撃が、余程効いていたのだろう

下陸の男は、己が背中に冷たい物が走るのを感じた。

想像を絶する何かが、この後に来る……この男は、確実にやると。

 

 

 

そして、その予想は正しかった。

 

 

 

烈海王は右手を口元へと運ぶと、指で輪を作ったのだ。

 

それはまさしく、吹き矢の構えだ。

 

筒も矢もなく、己が手のみで作り上げた吹き矢……それを。

 

 

「墳ッッ!!!」

 

 

全力で、吹き放った……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――空気弾って言えば良いんですかね……圧縮した空気の塊を口から吹いて、鬼へと飛ばしたんですよ。

 

 

―――そりゃ俺達隊士は、呼吸法を使って鬼と闘いますけどね……呼吸そのものを武器にとか、普通考えないですって。

 

 

―――鬼もこれには面食らってた様で……反応が間に合わず、両目に空気弾が直撃しました。

 

 

―――流石に、鬼に有効打になる程の威力は無かったようでしたが……それでも、目潰しには十分すぎる効果があった様で。

 

 

―――烈さんは、鬼の目を封じた隙に一気に間合いを詰めたんです。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

(ち、近ッ……!?)

 

 

回復した視界に入ったのは、先程以上に接近している烈の姿だった。

その脚は大きく振り上げられ、自身の脳天へと迫っている。

 

防御も、回避も……全てが、どうしようもなく間に合わない位置……!!

 

 

 

―――――――ドゴゥッ!!

 

 

 

「ガファッ!?」

 

 

見事な上段回し蹴りが、男の側頭に叩き込まれた。

最初の拳と同様、強烈な威力の一撃。

鈍い痛みが全身に走り、地面へと倒れそうになる。

 

 

(ッ……まだッ!!)

 

 

しかし、下陸の男は強く踏ん張り留まった。

最初の一撃と違い、今回は『何かが来る』と前もって想定出来ていたが為に、まだ耐えられたのだ。

恐るべき打撃ではあるが、来ると分かっていればこの通りだ。

好き放題やられてしまったが、それもここでお終い。

このまま反撃へと転じ、惨たらしく殺してやる。

 

そう強く憎悪を燃やし、烈海王へ拳を繰り出そうとして……

 

 

 

――――――ドガァッ!!

 

 

「ギャァッ!?」

 

 

再び、脳天に衝撃が走った。

想定外の二撃目……上段後ろ回し蹴りが、男の頭部に叩き込まれたのである。

 

烈海王は、上段回し蹴りを叩き込んで尚回転の勢いを一切殺さず。

そのまま後ろ回し蹴りへのコンビネーションに繋いでいたのだ。

下陸の男からすれば、たまったものじゃない。

耐え抜いたと安心した所に、不意打ちの一発が飛んできたのだから。

 

 

 

――――――バキャァッ!!

 

 

「ウグゥッ!?」

 

 

否、不意打ちは一発に非ず。

更にもう一発、上段回し蹴りが入った。

烈海王が繰り出したのは、前後ろ前の三段蹴りだったのだ。

さながら独楽の様な、猛烈な横回転からの連続回し蹴り。

 

その威力の前に、耐え抜く事叶わず。

下陸の男は、地面に音を立てて崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――さっきも言いましたが、末席とはいえ相手は十二鬼月……並の鬼とは比べ物にならない強敵です。

 

 

―――実は近距離での連撃なら、俺も打ち込んだんですよ……それも、烈さんより多く四連撃で。

 

 

―――ですが、奴はそれを全て簡単に防ぎきってしまいました。

 

 

―――……そうなんです、そんな強い鬼が、烈さんの攻撃には全く反応できてなかったんです。

 

 

―――不意打ちだからとか、そんな事じゃなく……純粋に、速かったんです。

 

 

―――烈さんの攻撃速度が……奴の反応よりも速くて、捉えられなかったんです。

 

 

 

 

 

 

―――実は以前、風柱様の任務に同行した事が一度だけあったんですが……

 

 

―――烈さんの実力は、恐らく柱にも匹敵する域だと感じましたよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

(……顎へのカウンターに加えて、頭部への三連蹴り。

 これだけ集中して叩き込めば、普通は脳がかなり揺れている筈だが……)

 

 

烈海王は、自ら繰り出した攻撃に確かな手応えを感じていた。

急所へと、狂いなく打ち込む事が出来ていた。

並の相手ならば、脳が揺れてまともに立てない筈だ。

 

そう……並の相手ならば、だ。

 

 

「この……野郎ッ!

 許さねぇ、ただじゃ済まさねぇッッ!!」

 

「……やはり、か」

 

 

下陸の男はすぐに起き上がり、闘志・殺意を剥き出しに吼えた。

しっかりと地に足を付けて立てており、ふらつきは全くない。

打撃によるダメージ自体は、その瞬間瞬間には間違いなくあった様だが……

 

 

(傷口が瞬時に再生するような怪物だ。

 脳が揺れなくとも、不思議はないが……しかし、どうすればいい?

 この男を倒すには……)

 

 

そこまで考えて、烈は後方の男に目をやった。

自らを一般人と呼び、更には逃げる様気遣ってくれた剣士。

彼の目的がこの怪物を倒す事なのは、もはや疑いようがない。

 

ならば、きっと……倒しきる方法も知っている筈だ。

 

 

「済まぬ……まだ喋れるなら、教えてほしい。

 あの怪物を倒すには、どこを狙えばいい?」

 

「あ……ああ!

 奴等は、『鬼』は普通の攻撃じゃ倒せない!!

 太陽の光を浴びせるか……」

 

 

 

日輪刀を使って首を斬るしかない。

 

 

 

そう口にし、己の刀を見せようとした……次の瞬間だった。

 

 

 

 

「オオオオオァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

下陸の男―――鬼が、野獣が如き咆哮を上げ。

 

 

 

その全身の筋肉が、隆起した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――血鬼術……だったんでしょうかね?

 

 

―――兎に角、あいつは追い詰められて切り札を出したんですよ。

 

 

―――体中の筋肉が盛り上がったかと思うと、それがどんどん形を成していったんです。

 

 

―――頭は猿の様に、手足は虎の様になって……挙句、尻尾が生えたかと思うとそこは蛇になって。

 

 

 

 

―――そうそう……あの後、別の任務で鬼狩りをした時に、下っ端の鬼が零してたのを聞いたんですけどね。

 

 

 

 

 

 

―――あの下弦の陸の名前って……『釜鵺』っていうらしいんですよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ゴアアアアアァァァァァァッ!!!」

 

「ッッ……!?

 これは、何たる……!!」

 

 

唸りを上げる眼前の『獣』に、烈海王は息を呑んだ。

傷口の再生も、確かに驚いたが……それどころか、肉体そのものが異形に変貌しようとは。

その体躯は優に2メートルを超え、重量に至っては先程までの数倍はある。

 

しかし何より、その姿だ。

 

 

 

野猿の貌。

 

虎の胴と手足。

 

大蛇の尻尾。

 

 

 

それは正しく、日本古来の伝説で語り継がれている空想上の怪物……!!

 

 

「鵺とは……!!」

 

 

 

 

鵺―――それこそが、下弦の陸『釜鵺』の真の姿であった。

 

 

 




烈海王vs下弦の陸 釜鵺。
原作ではパワハラ会議最初の被害者となった為、能力等一切が不明の存在でしたが、当作品では名前通りに鵺の姿を取る鬼とさせていただきました。

刃牙と言えば目撃者の回想。
という事で、烈さんの戦闘描写にはこの様に、隊士の回想を交えさせていただきました。
刃牙らしさを少しでも出せていたら幸いです。

最低ランクとはいえ、十二鬼月相手に優勢の烈さん。
彼が全集中の呼吸を扱っているのか否かについてですが、これについては後々にしっかりと書く予定です。

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