鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

20 / 40
烈さんと煉獄パパによる炭治郎訪問回。
そして、タイトル通り日の呼吸に勿論触れていく事になります。


20 ヒノカミ神楽

「失礼する。

 竈門炭治郎君の病室は、こちらで構わないかな?」

 

 

 

日がすっかり落ち、そろそろ夕食時を迎え始めるかという頃。

蝶屋敷に、炭治郎を尋ねる二人の来客があった。

 

 

一人は、先代炎柱にして現育手である煉獄槇寿郎。

 

もう一人は、かの烈海王だ。

 

 

柱合会議を終えた後、二人は会議内でも発言したように早速炭治郎の元へとやって来たのである。

治療中の隊士達は、大いに驚き一斉に視線を向けた。

かの煉獄家当主に烈海王といえば、隊でもトップクラスの地位を持つ存在だ。

それが一人の隊士を尋ねてきたとあれば、驚かないわけがない。

 

 

 

「煉獄さん、それに烈さんも…」

 

「ああ、私の事は槇寿郎で構わないよ。

 煉獄では、息子達と間違えてしまう者も多いのでね」

 

 

もっとも、肝心の炭治郎は特に緊張している様子もなく―――勿論、目上に対する礼儀は持った上で―――二人と接している。

実にしっかりとしている、芯が通っているというべきか。

 

 

 

(こ、この人が烈海王……?

 滅茶苦茶強ぇ音がする……太くて重厚感があって……例えるなら、銅鑼みたいな……?)

 

(……この色黒お下げが、紋逸の言ってた海王……分かるぜ。

 肌にピリピリ伝わってくるこの感じはよ……!!)

 

 

 

一方その横で、善逸は大いに戦慄し、伊之助もまた武者震いをしていた。

音色と皮膚感覚……そのどちらからもはっきりと伝わってくる、烈海王という存在の大きさに。

 

 

 

そして、こんな人物と遜色ない柱が後九人もいるッ……!!

 

これが鬼殺隊を支える剣士達……目指すべき頂点ッッ!!

 

 

 

 

「さて……炭治郎君。

 先の場でも少し話したが、改めて君に説明させてもらいたい。

 我々鬼殺隊に呼吸法を伝授してくれた、はじまりの剣士と……君の事についてだ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……日の呼吸に、花札の耳飾り……ですか」

 

 

槇寿郎からの説明は、炭治郎にとって驚嘆の一言であった。

 

 

遠き先祖より、約束として自身の家に代々伝わってきた耳飾り。

それは、全ての呼吸の源流となった日の呼吸の使い手―――即ち、はじまりの剣士の物であると。

更に聞けば、はじまりの剣士は自身と同じく額に炎の様な痣を持つという。

ただ、残念ながらこの痣は、かつて弟を庇った際についた火傷の痕であり、そこへ最終選別時に傷がつきこの形状に至った別物なのだが。

 

 

しかし……だからといって、痣は別物であり耳飾りも偶然の一致だと片づける事は、到底できない。

 

何故ならば、最も重要なファクター……呼吸において、気になる点がある。

 

 

 

「……日の呼吸かどうかは分かりません。

 ただ、俺の家には……この耳飾りと一緒に伝わってきた舞があります。

 ヒノカミ神楽というんですが……那田蜘蛛山で十二鬼月と戦った時に、この神楽の呼吸がそのまま剣技に応用出来たんです」

 

 

ヒノカミ神楽。

竈門家に代々伝わってきた、火の神に捧げる為の舞。

那田蜘蛛山で窮地に陥った炭治郎は、咄嗟にこの神楽で用いる呼吸法を使ってみた結果……これまでの比ではない、強力な技を繰り出せた。

おかげで、どうにか九死に一生を得る事が出来た訳だが……何故、この舞が攻撃に応用できたのか。

その意味が、炭治郎にはどうにも分からなかったのだ。

 

 

 

 

しかし……もし、今の槇寿郎の話通りなら。

 

ヒノカミ神楽は、日の呼吸に限りなく近い存在ではないだろうか……?

 

 

 

「ヒノカミ神楽……舞か。

 烈さん、これはやはり……」

 

「ええ……炭治郎さん。

 現在、日の呼吸の使い手は鬼殺隊に一人も存在していません。

 その理由が分かりますか?」

 

 

炭治郎の話に、槇寿郎と烈海王は何か得心がいったという様子であった。

そこで、より確かな答えを得るべく敢えて炭治郎に問いかけてみたのだ。

何故今現在、日の呼吸は誰も扱えないのかと。

 

 

「えっと……適性のある人が中々いない、希少な呼吸だからですか?

 だから、派生の呼吸が次々に生み出されたんですよね」

 

「勿論それもある。

 しかし、一番大きな原因は……日の呼吸に適性があり得る存在を、鬼舞辻無惨が殺し続けてきたからなのだよ」

 

「ッッ!!??」

 

 

 

絶句する他なかった。

日の呼吸が途絶えてしまった最大の理由に、まさか鬼舞辻無惨が絡んでいたとは。

しかし、言われてみればそれも分かる。

自身を後一歩まで追い詰めた、最強の呼吸。

無惨からすれば何が何でも根絶やしにしたい御業……使い手を絶滅させようと思い至ったのも当然だ。

 

 

「これはあくまで推測だが、ヒノカミ神楽は鬼からその存在を隠すべく、日の呼吸が形を変えたモノなのかもしれない。

 何故、はじまりの剣士が炭焼きの家系に耳飾りごと託したかは分からないが……きっと、親しい間柄だったのだろう」

 

「表演や剣舞等からも見られる様に、武と舞の歴史は古くよりあります。

 日の呼吸が神楽として違和感なく伝えられてきた可能性もまた、十分にあり得るでしょう」

 

 

武と舞の関係性は根強い。

竈門家が、神楽を隠れ蓑にして呼吸法を伝授してきたとしても、何ら不思議は無い。

 

 

実際、歴史を紐解けば正しくその通りな格闘技が存在している。

 

 

起源はこの大正時代よりも更に昔―――16世紀の南米とされている。

過酷な状況下に置かれた黒人奴隷達は、怒りを胸に反抗を決意する。

しかし、常に雇い主や看守達の目が光る厳しい監視下では、その為の手段を磨く事が出来ない。

 

そこで彼等が考えたのは、一見して反抗手段とは分からない別物への偽装だ。

自分達の誇りと文化に合致し、監視下で行っていても何ら不思議は無いモノ―――即ち、伝統舞踊である。

舞踊の練習と見せかけ、フットワークを活かしたアクロバティックな体術を磨く。

 

 

 

結果、彼等はガードの上からでも相手を容易く沈められるだけの破壊力を秘めた、強烈無比な蹴術の習得に成功ッ……!

 

御存知、カポエイラであるッ……!!

 

 

 

「炭治郎さん……貴方も、そして貴方の御先祖達も、よく神楽を受け継いでくれた。

 絶やすこと無く、伝統と系譜を積み重ねられる……それだけでも、貴方達は信を置くに値する人だ」

 

 

カポエイラを現代まで伝え、今や世界的な武術へと昇華させた南米の格闘士達の様に。

ヒノカミ神楽を延々と受け継いでくれた竈門家の男達に、烈海王は敬意を払わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

……しかし、この時の烈海王は知らなかったのだが。

 

 

 

 

――――――武と云うよりは舞……舞踊だな。

 

 

 

――――――なんだァ?てめェ……

 

 

 

 

 

彼と親しい間柄の武術家に一人……自身の披露した武を舞と形容され、それに激怒した漢―――愚地独歩がいる。

 

 

勿論、今しがた烈海王達が語った内容とはニュアンスが大いに違うので、もしこの場に独歩がいたとしても怒るような事は無いだろう。

 

 

あれはあくまでも、独歩を警戒した宮本武蔵がそのペースを乱すべく敢えて行った挑発なのだから。

 

 

武術を舞踊に偽装する必要性があった事情とは、まるで話が違う。

 

 

 

 

まあ……場の空気は、かなり気まずい物になりえたかもしれないが。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「教えていただきありがとうございます。

 俺達の受け継いできた神楽には、そんな意味があったんですね」

 

 

ヒノカミ神楽と日の呼吸の関係性は、大方分かった。

経緯に不明な点はまだある物の、恐らく烈海王達の推測はほぼ正解とみていいだろう。

それならば、納得できる点も色々と出てくる。

 

 

「ただ……期待に応えられなくて申し訳ないんですが、俺の神楽はまだ不完全なんです。

 父は、幾ら踊っても疲れない呼吸としてヒノカミ神楽を俺に教えてくれました。

 そして、雪が舞う中でも一日通して踊り続ける事が実際に出来ていました。

 だけど……俺はあの時、一度技を繰り出しただけで凄まじい疲労に見舞われたんです」

 

 

だが、炭治郎は自身の神楽がまだまだ未熟であり皆が期待するようなものでは無いと語ったのだ。

技の威力こそ従来の呼吸法を凌駕するものの、消耗の具合が半端じゃない。

たったの一度使っただけで、体力を一気に奪われたのだ。

あの鬼舞辻無惨を追い詰めた日の呼吸とは、到底思えない……何より、父の言葉がある。

 

 

幾ら舞っても疲れない呼吸こそがヒノカミ神楽ならば、己は父に比べてあまりにも未熟……本来の力を全く出せていない事になる。

 

 

「……炭治郎さん、君の御父上は、もう?」

 

「ええ、病で……今、ヒノカミ神楽を知っているのは俺と禰豆子だけです」

 

 

しかし、神楽をより完全な形に近づけようにも、師たる父はもういない。

幾ら己が舞の鍛錬をしようとも、肝心の手本が無くば正しい神楽のイメージも分からないのだ。

無論、基礎的な身体能力を磨く事で、消耗に耐えうる見込みはあるだろうが……本質的な解決にはならない。

 

 

せめて、後少し……ヒノカミ神楽の、日の呼吸の手がかりがあればいいのだが。

 

そんな物が、都合よくある訳が……

 

 

 

「……心配するな、炭治郎君!

 どうか、私に任せてほしいッッ!!」

 

 

 

 

あるッッッ……!!!

 

 

 

「え……槇寿郎さん?」

 

「炭治郎君。

 我々が日の呼吸について知れたのは、私の先祖……はじまりの剣士と共に闘った、かつての炎柱の手記からだ。

 その手記に、日の呼吸に関する記述が確かに存在しているッッ!!」

 

 

そう、炎柱の手記ッ!!

 

槇寿郎は現在、手記の復元を試みていた千寿郎と共に、日の呼吸について情報を纏めている真っただ中にある。

烈海王の助言に従い、日の呼吸より学び各呼吸の精度を高める為にッ……!!

 

 

「ほ、本当ですかッ!!」

 

「ああ……治療を終え、任務に再び就く事を認められたならば、是非我が家を訪ねてくれ。

 喜んで、伝えるべき事を伝えよう……!!」

 

 

炭治郎の表情が、瞬時にして歓喜に染まる。

父より受け継いできた、竈門家にとって大切な伝統の神楽。

それを今……より完璧な形へと、進化させられる可能性が出てきたのだ。

嬉しくない筈がない。

 

 

 

そして……槇寿郎の歓喜は、それ以上であった……!

 

 

 

(……良かったですね、槇寿郎さん……本当に)

 

 

 

日の呼吸によって絶望し、失意のどん底にあった槇寿郎。

一度は、誰よりも―――鬼舞辻無惨達は流石に除外させてもらう―――日の呼吸を恨んだであろう。

 

 

そんな彼が、日の呼吸を知る己だからこそ出来る事があると再起を果たし……そして。

 

今、日の呼吸の剣士を自らの手で導く……!

 

 

 

 

武芸者として、これ程の誉れがどこにあろうかッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「さて……炭治郎さん。

 日の呼吸についての話は、これでひと段落となりましたが……実は、貴方に尋ねるべき事がもう一つあるんです」

 

 

ヒノカミ神楽を巡る話を終えた所で、烈海王は炭治郎へと切り出した。

ここまでは、槇寿郎と共に武に生きる者としての話であった。

そして、ここからは……鬼殺隊として、彼にせねばならぬ交渉だ。

 

 

 

「貴方の信を得る為にも、偽りなく単刀直入に言いましょう。

 貴方が浅草で出会った、はじまりの剣士とも面識を持つお方……珠世さんと連絡を取ることは、可能ですか?」

 

 

 

先の柱合会議で、耀哉より烈海王と槇寿郎に託された願い。

それは、炭治郎を通じて鬼殺隊と珠世との繋がりを構築する事であった。

 

これより先の戦いにおいて……彼女の存在は、必要不可欠になる。

 

 

 

「え……珠世さん、と……?」

 

「そうだ……君達には申し訳ないが、彼女やその連れの鬼についても我々は把握している。

 君の鎹鴉が、鬼舞辻無惨の件も含めてお館様に報告していたんだ……ああ、この病室にいる隊士達の事なら気にしないでくれ。

 胡蝶も我々が話すに当たって、配慮してくれている……見知った顔も多いだろうが、那田蜘蛛山で君達が助けてくれた者達が殆どだ。

 口外して君の立場が悪くなる様な事は無いと約束しよう」

 

「あ……!」

 

 

事情を察した上での付き合いになる善逸と伊之助は兎も角、他の隊士がいる中で珠世の話は流石にまずいのではないか?

そんな炭治郎の心配は、しのぶによって既に解決済みである。

 

炭治郎は、自身もそうだという事で然程気にしていなかったのだが……実はこの病室にいる隊士は皆、那田蜘蛛山に参加をしていた者達だ。

加えて言うと、ポニーテールに髪を纏めている女性隊士をはじめ、炭治郎が見知った面々ばかりである。

彼女等は槇寿郎の言葉を聞いて、無言で頷いてくれている。

自分達に誠心誠意協力してくれた任務解決の立役者たる炭治郎を、悪し様に言うつもりなど彼女達には毛頭ない。

己が仁義に基づき、炭治郎の事情を黙認する姿勢なのだ。

 

 

(……てか、ここで仁義破りしちゃったら烈さん達がぶっ飛ばしに来そうで、みんな怖いって訳じゃないよね……?)

 

 

 

ついつい、善逸はそんなネガティヴ思考を脳裏に浮かべてしまったが、断じてそんな後ろ向きな理由ではない。

 

 

 

「皆さん……ありがとうございます!」

 

「ふふっ……さて、話を戻そう。

 炭治郎君、我々は鬼舞辻無惨を討つに当たり、ある問題に直面している。

 その解決手段を持ち得るのが、他でもない珠世さんと連れの愈史郎さんなんだ。

 無論、彼女達に対しても君の妹と同じく刃を向けないと約束させてもらおう……それに、タダでとは言わない」

 

 

そう槇寿郎が告げると共に、烈海王が胴着の中に手を伸ばして『それ』を取り出した。

 

 

全体を布で丁重に包まれた、一本の小瓶。

窓からの陽光が己まで届かないのを確認した後、烈海王は布を解いた。

 

 

晒された小瓶の中に満ちているのは、紅い液体。

 

 

 

 

 

 

「これは、鬼舞辻無惨本人の血液です。

 先日、貴方の御蔭で発覚した奴の潜伏先で、一戦を交えた際に入手する事が出来ました。

 言ってみれば、貴方が得るべき報酬でもあります。

 禰豆子さんを人間に戻す上で、これ以上ない材料となるでしょう……これを珠世さんにお渡し願えますか?」

 

 

 




Q:ヒノカミ神楽って武と云うより舞、舞踊だな?
A:なんだァ?てめぇ……

炭治郎、原作よりも前倒しでヒノカミ神楽の凡その正体を掴みました。
烈さん達共々、日の呼吸が舞いに偽装されたモノと認識するに至りました。

炭治郎のヒノカミ神楽は不完全なものとさせていただきましたが、実際に「疲れない呼吸」という父の言葉に反して消耗が激しかったりと、完璧には遠いものだと思います。
原作でも縁壱の記憶を垣間見て正しい形を理解して、ようやく日の呼吸として完成に至りましたので、そうこの作品では取らせていただきました。


そして、舞と武となると……どうしても、独歩と武蔵のアレに触れざるを得ない結果となりました。
ただ、作中でもカポエイラの例を出したりしたように、流石の独歩もヒノカミ神楽に対して悪い印象を持ったりは絶対にしないでしょう。
アレは武蔵の挑発が余りに強すぎたと、そう好意的に解釈させてもらってます。
鍛え上げた空手を馬鹿にされた事が腹立たしかっただけで、舞踊に通じる武を否定するまで至る事は流石に無い筈です。


さて、前話でお館様が告げていた炭治郎への頼み事ですが。
こちらも日の呼吸関連と同じく前倒しとなりました、珠世さんへの協力要請です。
烈さんが無惨と接敵して能力を把握した事やその狙いを掴んだ事、鳴女対策の必要性、煉獄家の手記によって隊士達が早々に珠世さんの存在を知った事で、お館様が「珠世さんともう連絡とっても大丈夫」と判断した結果となりました。
その為の材料として、17話の後書きでも書かせていただきました「無惨を磔にした烈さんの日輪刀に付着した血液」をお館様は用意してます。
勿論、蝶屋敷での研究用に自分達の物もしっかり確保した上です。


大きく原作より前倒しにされた要素が二つも出てきたので、今後の展開においても相応の変化が所々であると思います。


次回ですが、烈さん&かまぼこ組+αのちょっとした番外編を挟む予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。