鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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前話より少し間が空いてしまい、申し訳ございませんでした。

不死川玄弥の弟子入り。
烈さんの介入により、原作から変更された点はこれまでもありましたが、今回はその最たるものになるかもしれません。


21 不死川玄弥

 

 

 

「不死川……玄弥?」

 

 

 

 

悲鳴嶼が告げた少年のその名に、烈海王は少々驚いていた。

 

不死川といえば、あの風柱―――実弥と同じ姓ではないか。

世の中には、同姓同名の人間が複数人存在する事例も確かにあるものの……不死川という名字は、かなり珍しい部類だ。

偶然の一致という可能性は極めてゼロに近いだろう。

 

 

何より、その面持ち―――特に目元、その目つき―――だ。

 

 

この少年の顔は、実弥と似通っている。

血縁者、それもかなり近しい存在でなければ、こうはいくまい。

 

 

「すまない。

 もしや君は、実弥さんの……?」

 

「はい……不死川実弥は、俺の兄に当たります」

 

 

そして、その予想は当たっていた。

玄弥と実弥の二人は、血の繋がった兄弟であると……しかし。

 

 

どういう訳か、それを口にした玄弥の表情が暗い。

普通は、身内が地位の高い者や実力者等であれば、それを自慢なり誇りなりに感じるケースが多い。

刃牙や克巳が、己が父に尊敬の情念を抱いていた様に。

だが、玄弥にはその気配が微塵も感じられなかった。

 

 

 

嫉妬の類か―――否、怒りの気配は一切ない。

 

寧ろ、沈痛さに満ちたこの表情は……?

 

 

 

 

「……どうやら、事情がある様ですね。

 悲鳴嶼さん、彼を弟子に取らないかという話にも関係していると見ますが……お話し願えますか?」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……成程。

 それで、実弥さんにもう一度会う為に入隊を果たしたと……」

 

 

数分後。

話を聞き、烈海王は腕組みをして小さくため息をついた。

玄弥の表情から何となく予想は出来ていたが、やはりという答えであった。

 

 

実弥と玄弥は、母子家庭で母親や兄弟達と仲良く暮らしていた。

 

しかし、そんな最中に母が鬼と化す惨事が起きてしまう。

 

兄弟達は母の手で惨殺されてしまい……唯一生き残ったのが、実弥と玄弥の二人であった。

 

 

そして、その母は実弥の手により消滅したものの……まだ幼く鬼というものを知らなかった玄弥は、実弥を責めてしまった。

 

 

 

―――何でだよ……何で母ちゃんを殺したんだッッ!?

 

 

―――人殺し……人殺しィィッッ!!!!

 

 

 

その日を境に……実弥は玄弥の元を離れてしまい、二人は別々で生きてきた。

 

だが、玄弥はその事を心の底から後悔していたのだ。

兄は自分を守る為に、必死に戦ってくれたというのに……なんで、あんな酷い事を言ってしまったのかと。

どうしても、彼に謝りたかった……無知だった己を恥じ、あの日の事を心より謝罪したかった。

 

それ故に、兄との再会を果たす為に玄弥は努力を重ねてきた。

何故母はあの様な鬼になったのか、鬼とは一体何なのか。

出来得る限りの手段を尽くし、情報を集めていき……そして行きついたのが、鬼殺隊だ。

 

そして何たる偶然か、そこで兄が鬼殺隊にいる事を知ったのだ。

ならばと死に物狂いで努力をし、無事に最終選別を突破して入隊を果たした。

 

 

 

だが……待ち受けていた現実は、非情であった。

 

 

 

 

 

―――テメェみたいな愚図は、俺の弟じゃねェよ。

 

 

―――雑魚はいらねェ……お前に才能なんか無ェ。

 

 

―――鬼殺隊なんか、とっととやめちまえ。

 

 

 

ようやく、兄との再会を果たした矢先……告げられたのは、拒絶の声。

それまで聞いた事も無い様な、恐ろしい冷たさと重さだった。

実弥は、憤怒を以て玄弥を突き放したのだ。

 

 

「……あの日以来、兄とは話していません。

 癸の俺では、多忙な柱と面会する機会も設けてもらえなくて……兄はきっと、俺の事を恨んでいます。

 だから、もう一度……もう一度、話をしたくてッ……!!」

 

 

それでも、玄弥は諦めきれなかった……諦めるなんて、到底できなかった。

だから、彼は上を目指す事にしたのだ。

階級が上がれば、柱になれば、兄とまた話せると。

 

その時にこそ、改めて彼に謝まる為に。

 

 

 

(……そういう事だったか。

 実弥さんが鬼へと抱く、異常なまでの憎悪……その原動力に)

 

 

烈海王は、実弥を突き動かす鬼への怒りについて前々から疑問に思っていた。

彼が高い実力を身に着けた背景は、如何なる物だったのか。

あれ程までの執念を身に宿し、鬼の殲滅に只管こだわる理由は、一体何なのか。

 

ようやく納得がいった。

道理で、禰豆子の事を中々認められなかった訳だ。

自らの身内が鬼と化し、そして守る為には殺す他無かったとあれば……似た境遇の炭治郎達を容認など、簡単には出来ようもない。

 

 

 

「……だが、残念な事に不死川の言う事も一理ある。 

 玄弥の実力は、決して高いとは言い難い……玄弥は、全集中の呼吸が使えないのだ」

 

「何とッ……!?」

 

 

告げられた言葉に、烈海王は大きく目を見開いた。

鬼殺隊でありながら、全集中の呼吸を身に着けていない隊士。

これは、隊の歴史上でも極めて珍しい存在だ。

呼吸を抜きに戦うという事は、頼れるのは純然たる身体能力と技術になる。

最終選別の突破でさえ、どうなるか怪しいというレベルだ……まさか、自身以外にもその様な者がいるとは。

 

 

確かに、恵まれたこの体格―――目算で180cmといったところか―――ならばそれも……

 

 

 

 

(……いや、待て……?)

 

 

 

 

しかし、ここで烈海王はある疑問を抱く。

実弥の弟ということは、彼の年齢は見立て通り十代中頃から後半……恐らくは、炭治郎達と同年代。

だとすると……少々、違和感がある。

 

 

 

(身体の造りが……不自然……?)

 

 

 

炭治郎達と比較してみると、玄弥はどこか―――蜜璃の様な特異体質を考えると、一概にも言えないのだが―――歪んだ印象を受けるのだ。

まだ面持ちに残る少年らしさとは裏腹に、服の上からでも見て取れる骨格と筋肉の造形が……歪に伸びていると言えば良いか。

上手く言葉には出来ないのだが……自然な物ではない印象を受けるのだ。

 

 

(呼吸を扱えない身となれば、血中酸素の巡りをコントロール出来ない分、鍛錬における肉体の改造効率は他の隊士に劣る筈。

 まして十代中頃から後半にかけては、男女問わず肉体が著しく発達する時期だ。

 この時期での鍛錬が成長に及ぼす影響は、極めて大きい……全集中・常中を体得している炭治郎さん達は、正しく成長の絶頂期といってもいい。

 にも関わらず、彼等に近しく……だが、この様な違和感を覚えるとなると)

 

 

正しい有り様とは言い切れぬ、それでいて出来上がっている身体の具合。

それが何を意味しているのか……烈海王には、心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

成程、考えてみれば確かに……『彼』とどこか似ている雰囲気がある。

 

 

 

 

 

 

「……玄弥。

 実は、君の事を何回か蝶屋敷で見かけていた」

 

 

ここで思い返されるのが、一度や二度ではない蝶屋敷への来訪だ。

定期的な診療を必要としていながら、しかしその身に外的負傷は一切見られなかった。

即ち、内的要因によるダメージという事になる。

 

不自然さ・違和感を感じさせる肉体を持つ戦士。

その者が定期的に身体を診てもらっているとあれば……もはや答えは一つしかない。

 

 

 

 

烈海王も知る、あの漢と同じだ。

 

 

 

 

 

 

――――――今日強くなれるのならば、明日はいらない。

 

 

 

 

 

 

彼はその手段を選ばなかった。

 

 

 

 

 

 

――――――最強の肉体と死を引き換えにする覚悟はできているッッ!!

 

 

 

 

 

 

常人ならば到底耐える事の出来ない激痛に耐え抜き、命を縮める苦行すらも厭わなかった。

 

 

 

目的を果たす為……その為の力を、強さを得る為ならば。

 

 

 

 

 

 

「君は、ステロイド……薬物か何かを摂取しているな。

 呼吸の使えない自身の身を補い、強さを得るために」

 

「ッッ!!??

 ど、どうしてそれが……分かるんですかッ!?」

 

 

 

 

 

 

父―――範馬勇次郎を超える為ならば。

 

 

 

 

 

 

「ああ……よく知っている。

 君の様な漢をな」

 

 

 

 

 

 

もう一人の範馬―――ジャック・ハンマー。

 

 

烈海王が玄弥から感じ取ったのは、彼と同じ空気であった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「鬼喰い……それが、君の肉体に作用しているものの正体か」

 

 

鬼喰い。

それは名が示す通り、鬼の血肉を喰らう行為である。

筋力や再生能力からも見て取れる様に、鬼の持つ身体的アドバンテージは極めて大きい。

 

 

 

 

 

では、その鬼を喰らえばどうなるのか?

 

 

答えは簡単……殆どの者が、鬼が持つ特有の血肉細胞を消化しきれず体調を崩す。

最悪の場合―――烈海王が無惨の毒で生死の境を彷徨った様に―――死に至る可能性とて、十分にあり得るだろう。

 

 

 

しかし、極稀にそれを覆す者が現れる。

 

極めて高い、異能と言っても差し支えない程の高機能な消化器官を以て。

鬼の血肉すら肉体に取り込める逸材―――即ち、鬼喰いを可能とする者が。

 

 

 

そして、鬼喰いを成した者は……一時的なれど、鬼が持つ圧倒的な力の一部をその身に宿せるのだ。

 

大木すら容易くへし折れる程の筋力増強。

胴を両断されようとも復活可能な不死性と再生力。

 

 

 

 

例え全集中の呼吸を扱えずとも、鬼を力尽くでねじ伏せられる強さを手に出来るのであるッ……!!

 

 

 

 

「……呼吸が使えないって分かって、どうしたらいいんだって焦って。

 それである日、力が手に入るなら何だっていいとヤケクソになって……倒した鬼の肉を食べたら……」

 

「自分に眠る鬼喰いの適性に気付いた、か……」

 

 

 

ならば、玄弥から感じた違和感にも納得ができる。

一時的とはいえ鬼の力を取り込んでおいて、成長期の身体に全く影響しないわけがない。

筋組織は勿論、全身の骨格形成、果ては内臓系に至るまで作用している筈だ。

そこに、強さを得たいという玄弥自身の執念と鍛錬が合わさった結果……今の彼が形作られたのだ。

 

 

「玄弥とは、ある任務の最中で出会ったのだが……見ていられなくてな。

 このままではいつ命を落とすかも分からぬ故に、力を付けさせるべく弟子にしたのだ。

 蝶屋敷への定期的な診療も、私が胡蝶を紹介した為だ」

 

「そうでしたか……」

 

 

悲鳴嶼がこう言うとは、当時の玄弥は余程だったのだろう……何とも皮肉な話だ。

本人からすれば非力非才を補おうと必死だったのかもしれないが、他者からすれば自殺行為にも等しい闘いぶり。

そのおかげで、鬼殺隊最強の指導を受けられる立場になれたとは……

 

 

「それでも、出来る事には限界がある。

 私も隊士である以上、日々の鍛錬には呼吸を前提にした物が多い。

 故に、玄弥には適さぬ点も幾らかある……ある程度までは伸ばせようが、どうしても超えられぬ壁が出てしまうのだ」

 

 

だが、悲鳴嶼を以てしても玄弥の指導は難しい物であった。

鬼喰いで補っている点こそあれど、やはり全集中の呼吸を扱えないディスアドバンテージは大きすぎた。

呼吸による身体強化をかけられないが為に、どこかしらで肉体に限界点が生じてしまう。

それ以上の伸びしろが見込めなくなってしまうのだ。

 

 

 

だから、玄弥は継子ではなく弟子なのだ。

 

非才の身であるが故に……岩柱の武を『継ぐ』ことが出来ないが故に。

 

 

 

 

「ッ……!!」

 

 

 

 

玄弥には、それが悔しくて仕方がなかった。

 

兄の言う通り……自分は幾ら頑張っても、ダメな存在なのかと。

 

 

 

 

 

 

しかし……つい先日の事だった。

 

そんな彼の前途に、一筋の光明が差し込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

「烈さん……そんな折に、貴方の話を聞いたのだ。

 最近の貴方は、幾人かの隊士を熱心に指導し……皆、確かな実力がついていると」

 

 

烈海王。

柱と同格の戦闘力を持ちながら、しかし全集中の呼吸は不完全な形でしか出来ぬ漢。

そんな彼が、ここ最近は隊士達の指導によく当たっており……その成果は、しっかりと実を結んでいる。

誰しもが、新たな強さを闘いの中で実感できているのだ。

 

 

 

 

 

そう……烈海王の指導とは即ち、呼吸に頼らぬ指導ッ!!

 

 

 

 

「ッ……お願いします、烈さんッ!!

 俺は、強くなりたい……強くなって、柱まで上り詰めたいッ!!

 もう二度と、弱いからって切り捨てられたくないんですッ……!

 兄貴にもう一度、今度は堂々と会える立場になりたいッッ!!!」

 

 

 

 

それ即ち、今の不死川玄弥が最も欲してやまないモノなりッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「俺は強いからここまで来れたんだ、文句は言わせないって……そう、胸を張って兄貴と向き合う為にッッ!!

 俺を……強くしてくださいッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(敗北をバネに……もう二度と負けまいと、か……)

 

 

強くなりたい。

そう吐露して真摯に頭を下げる玄弥の姿には、感じ入るものがあった。

 

 

(思い出すな……克巳さん)

 

 

脳裏を過るは、自身に教えを乞う愚地克巳だった。

彼は最強トーナメントでの敗北から、己が力量不足を悟り……その上で、自身を訪ねてきた。

空手をより磨く為、強くなる為にと……頭を下げてきたのだ。

 

 

その克巳の姿が……玄弥に今、はっきりと重なっている。

 

 

 

敗北は誰しも、悔しいものだ。

 

だからこそ、次こそは負けたくない……絶対に勝ちたい。

 

その為に力が、強さが欲しい。

 

 

武に生きる者として……その気持ちは、痛い程に分かる。

 

 

 

 

自分とて、今日に至るまで……何度、そう感じる時があったかッ……!!

 

 

 

 

 

「……玄弥、顔を上げてくれ。

 君の強さへの想い……確かに伝わった」

 

 

強くなりたい。

そう純粋に願い頭を下げる者を、決して無碍には出来ない。

 

 

 

 

 

 

故に……知りたい。

 

 

 

 

強さを教え、導くならば……まずは、知らねばならない。

 

 

 

 

 

 

「だから……私と、今ここで立ち合ってもらおう。

 今の君が、どれだけのものなのか……実力を、今ここで私に示したまえッッッ!!!」

 

 

 

 

 

拳雄烈海王が、弟子と定めるに値するか否かをッッ……!!

 

 




Q:玄弥ってジャックと同じじゃね?
  強くなるために手段を選ばないし、噛む力とんでもないし、ヤバい物接種して肉体急成長しているし。
A: そ れ だ 。


玄弥とジャックの共通点の多さから、烈さんが玄弥の鬼喰いを見抜く形となりました。

・炭治郎が驚く程に短期間で身長が伸びている。
・刀鍛冶の里で、折れた歯がいつの間にか生え変わっていた。
・そもそも鬼の肉を摂取していない段階でも、哀絶の串刺しや黒死牟の胴体両断に耐えている。

平時からして鬼喰いの影響が身体に出ている描写があり、烈さん曰く「鍛えているのは間違いないが、どこか歪でもある」という具合の肉体に至っていると、解釈させていただきました。


そして、烈さんへの弟子入りですが「弟子にしてください」と言われて素直に了承する烈さんでは勿論ありません。
まずは入門試験、何はともあれ真っ向からのぶつかり合いが基本となります。


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