鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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お久しぶりです。
諸事情につき、中々時間を確保する事ができませんでした。
更新が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。
ようやく執筆する事が出来ましたので、投下いたします。


今回はタイトルどおり、獪岳についての話になります。
以前にも触れた「中国拳法を馬鹿にした隊士がボコボコにされた話」の真相です。


23 獪岳

獪岳 鬼殺隊隊士 『桑島慈悟郎』一門。

 

 

彼は、本当に極僅かな親交のある隊士にのみ限定し、その日の出来事を後にこう語った。

 

 

 

 

 

―――俺は、努力をし続けてきた。

 

 

 

 

―――強くなる為に……努力をすれば、必ず強くなれるからだ。

 

 

 

 

 

―――ああ、そうだ。

 

 

 

 

 

 

―――だから……どうしても、許せなかったんだよッ……!!

 

 

 

 

 

「……烈海王……何だよ、そいつッッ!!」

 

 

 

 

―――中華民国の名士である『海王』の称号を与えられた男が、鬼殺隊の食客となった。

 

 

 

―――その階級は……柱と同格ッ……!!

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねぇッッ!!!

 死ぬ様な思いで努力して、鬼を狩りまくった隊士のみが認められる頂……そいつが柱だろッ!?

 それを……それをぽっと出の野郎が、いきなり柱だァッ!!??」

 

 

 

 

―――この通達を聞いた途端……あのクズと自分が同格にされた時と同じぐらい、腹が立った。

 

 

 

―――柱になるべき人間は、選ばれた実力者だけ……いつかは、俺も立つべき頂点だッ!!

 

 

 

―――俺よりも後に入った新参が、いきなり立つなんてありえねぇ……お館様は何を考えてやがるッッ!!

 

 

 

 

「ッ……呼吸もロクに使えない武術家が、柱と同格?」

 

 

 

 

 

―――だから……俺は、我慢する事無くはっきり言ってやったよ。

 

 

 

―――幾ら強かろうが、所詮は鬼のいない大陸の話。

 

 

 

―――炎柱様との一戦も、お偉いさん相手で怪しいもんだし……下弦の陸討伐は漁夫の利狙いのまぐれに過ぎないだろって。

 

 

 

―――その場にいた隊士や隠達に、思った事をそのままぶちまけてやった。

 

 

 

 

 

 

―――それが……あんな結果につながるなんて、思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(ここで待てって……合流する隊士でもいんのかよ?)

 

 

任務を終え、藤の花の家紋を持つ屋敷で休息をとっていた獪岳。

相手は大した鬼でも無かった為、疲労が回復すればすぐにでも動く事は出来るレベルだったのだが……何故か、自身の鎹鴉はここに留まる様命じてきた。

 

待機命令という事は、近辺で異変が起きているのだろうか?

自分一人では手に負えない―――だとすれば、気に喰わない判断だが―――相手がいるのか?

 

 

そんな風に考えつつも、どうせ休めるならばゆっくりさせてもらおうと、静かに茶を啜っていた……最中だった。

 

 

 

 

 

「失礼するぜ……お前が、獪岳だな」

 

 

 

 

彼の目の前に、一人の隠―――後藤に連れられて、二人の屈強な男が現れたのは。

 

 

 

(この人は……音柱ッ……?

 柱が、俺の前にッ……!?)

 

 

 

 

その姿を見て、獪岳は息を呑んだ。

 

 

何せ現れた内の一人は、鬼殺隊の最高位である柱―――『音柱』の宇随天元だ。

屈強な肉体、忍びの技術、絶対的聴力……その身に宿る様々な能力を駆使して、誰よりも派手に鬼を斬るとされる漢。

 

まさか、こんなところで対面するなどとは思ってもみなかった……それ程の相手である。

 

 

 

 

 

 

だが……それ以上に。

 

 

 

 

 

 

「ッッッッ!!!!????」

 

 

 

 

天元の横に立つ、もう一人の漢を目にした途端、最大級の衝撃が驚嘆を伴って全身を駆け巡った。

 

 

 

その肉体造形は、鬼殺隊でも屈指とされる天元と見比べても遜色無い領域にあり。

 

 

その風貌は、歴戦を潜り抜けた戦士であると一目見るだけでも分からされる代物であり。

 

 

 

何より……その全身から放たれる威圧感―――怒気ッ……!!

 

 

 

 

恐ろしく重いッッ……!!

 

 

 

 

「おーい……地味に何ビビっちまってんだよ。

 もう一度聞くが、お前が獪岳で合ってるな?」

 

「あ……は、はい……あ、あの、音柱様。

 こちらの方は一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

「……烈海王だ。

 お前が散々、酷評をしてくれた……な」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――あの時の、あの圧は……思い出すだけで嫌になるぜ。

 

 

 

―――けど、幾ら侮辱されたからって……仮にも最上位の人間が直接会いにくるなんて、普通思う訳ねぇだろ?

 

 

 

 

―――その後は、まあ全員知っての通りだ……音柱立ち合いの下だから、名目上は正式な稽古って形だけどよ。

 

 

 

―――中国拳法がどんなものか、身を以て教えてやるって……有無を言わさず、屋敷に併設された道場に連れてかれたんだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

(……何なんだよ、この展開……)

 

 

 

ハッキリ言って、訳が分からなかった。

目前に立つ烈海王へと暴言を吐いたのは、確かに事実だ。

それに対して怒りを覚えるのもまた、当然の事ではあるだろう。

 

しかし……それを差し引いても、言いたい事が一つある。

 

 

 

この男には『暴言を吐かれるも止む無しという立場なのも、また事実』という認識はないのだろうか?

 

 

 

(新参者がでかい顔をすれば、反発が生まれるのは当たり前だろ?

 俺と同じ考えの隊士だって、きっと他に何人もいる……いる筈だッ……!!

 くそッッッ!!!)

 

 

そう考えると―――自分の事は棚に上げて、だが―――腹立たしくなってきた。

先程まで感じていた緊張感や重さは、いつしか消え去っていた。

 

 

そして、入れ替わりに湧き上がって来るは……激しい怒気と闘志ッ!!

 

 

 

(そうだ、考え方を変えろ……柱立ち合いの下での勝負だぜ?

 俺の力を見せつける、絶好の機会じゃねぇかッ!!

 こいつを物にしねぇでどうするッッ!!!)

 

 

 

柱と同格と認められた食客……?

 

 

上等……!

 

 

それを叩き伏せれば自分の評価は上がるというものッッ……!!

 

 

 

 

「……見ててくださいよ、音柱様ッ……!!」

 

 

 

木刀を構える獪岳。

そこにはもう、初対面時の萎縮具合は微塵も無い。

その身より漲り溢れる闘志は、傍らに立つ天元にも十二分に伝わるレベルであった。

 

 

 

 

 

しかし。

 

漲らせているのは、当然彼だけではない。

 

 

 

 

 

「ほう……良い表情だ。

 口先だけの剣士ではないと……そう言わんばかりか」

 

 

 

肝心要の烈海王もまた……滾っているのだ。

 

 

 

 

「ならば獪岳よ。

 お前のその意気に応えよう……出し惜しみは、一切無しだ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

ここまで語れただけでも、かつての獪岳と比べれば大きな成長と言える。

 

 

だが、流石に闘いの仔細を語るのは屈辱だったのだろう……これ以上の内容を、彼は口にはしなかった。

 

 

 

 

 

 

そして代わるは、立会人―――宇髄天元 二十三歳 鬼殺隊『音柱』。

 

 

柱合会議時の御前試合と同様に……後に彼はこの闘いを、訪ねてきた幾人かの隊士達へと語る事になった。

 

 

 

 

 

 

―――烈さんが出し惜しみ無しって言った時は、こりゃやべぇって感じたわ。

 

 

 

―――あの人のそれは……拳だけじゃなくて、武器も全部ド派手に使うって事だからな。

 

 

 

―――後藤なんか、内心で「オイオイ、あいつ死ぬわ……」とか感じてたんじゃないか?

 

 

 

―――まあ、だからって止められる空気でも無かったし……ぶっちゃければ俺も興味があったから、そのまま試合開始の合図を出したんだ。

 

 

 

 

 

 

―――そしたらよ……互いに間合いで無いにも関わらず、烈さんがいきなり腕を振り上げて。

 

 

 

 

―――次の瞬間に、袖口から分銅が飛び出したんだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「なッッ!!??」

 

 

 

まさかの奇襲ッ!!

 

拳法の構えを取っているにも関わらず、襲ってきたのは飛び道具ッ……!!

 

 

初手からこの様な攻撃が飛び出してくるとは、当然獪岳は思ってもみなかった。

故に、彼は即座に対応する事が出来なかった。

気が付けば、分銅―――無論、訓練用に強度は押さえてあり殺傷力も低い―――はもはや目前……額に直撃するか否かという距離にあった。

 

 

「ッ……チィィッ!!!」

 

 

 

しかし、獪岳とてそれなりには危機を潜り抜けてきた剣士……無様に直撃をもらうという醜態は晒さない。

ギリギリのところで膝を折り、身を屈める事で分銅を回避したのだ。

 

 

(あぶねぇッ……だが、避けたッ!

 すぐに間合いを詰めて反撃にッ!!)

 

 

見たことかと、獪岳は口角を吊り上げ刀を強く握った。

奇襲は得てして、破られた直後に隙が生じやすい。

即ち、今は絶好の攻め時。

 

 

このまま間合いを詰めて一気に叩き伏せてやろうと、屈身で地に向けていた視線を前に向け……

 

 

 

 

 

 

――――――バキャアァッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

強い炸裂音と共に、獪岳は後頭部から床に倒れ伏したのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――奇襲の一発……避けられて間合いを詰められるだろう事は、折込済みって訳さ。

 

 

 

―――烈さんは、左の手で分銅……流星錘を放った直後に、右の袖からも新しい武器を抜いてたんだよ。

 

 

 

―――長い鬼殺隊の歴史でも、恐らく扱ったのは烈さんが初の武具……九節鞭だ。

 

 

 

 

―――獪岳からしちゃ、たまったもんじゃねぇだろう……顔を上げると同時に、烈さんの突き出した九節鞭が額に直撃したんだぜ。

 

 

 

 

―――炭治郎みたいな石頭でもなけりゃ、あれはな……だが、まあ何だ。

 

 

 

 

 

―――結局のところ……油断しちまったアイツが悪いわ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「未熟ッッッ!!!!」

 

 

 

仰向けに倒れ込んだ獪岳を前に、烈海王は吼えた。

二段構えなれど、この程度の攻撃で呆気なく倒れ伏す有様。

 

 

どうして、未熟と呼ばずにいられようかッッ……!!

 

 

 

 

「もしも相手が鬼ならば、どうなっていた……?

 如何なる血鬼術を扱うかも分からぬ存在を前にして、拳法の構えだからと対応したその甘さッ!!

 その命は、既に潰えていたッッッ!!!」

 

 

 

そう、対峙した相手が鬼ならば既に獪岳は死んでいたのだ。

何せ彼らが放つのは、人知の及ばぬ異能の血鬼術。

九節鞭や流星錘による奇襲など―――達人である烈海王のそれに対処しろという無茶振りは、この際置いておくとして―――比べ物にならないであろう代物だ。

 

悪鬼と対峙するならば、常に相手の能力と挙動には気を払わなければならない。

それを獪岳は欠いていた……見た目のみで攻撃手段を判断するという、初歩的なミスを犯した。

まして、事前に『出し惜しみはしない』と忠告をしていたのにも関わらず……烈海王からすれば、愚かとしか言いようがない。

 

 

 

 

実際、この凡そ一年後……ある任務にて、同様のミスを犯した隊士が命を落としている。

彼は対峙した鬼が小さな子供だったという事で、舐めてかかったのだが……その実態は、なんと下弦の伍ッッ……!!

 

哀れ、全身を血鬼術で切り刻まれて……サイコロステーキ状の肉片に変えられたのであったッッ……!!

 

 

 

 

「ッッ……アァァァァァッ!!!!!」

 

 

烈海王の痛烈な口撃を耳にした、次の瞬間。

獪岳は喉が張り裂けんばかりに絶叫し、すぐさま身を起こした。

 

 

 

 

(この……野郎ッッッッ!!!!!!!)

 

 

 

並大抵の者ならば即座に意識を刈り取られ、立ち上がる事など到底不可能な一撃だったが……それを為し得たのは、強き憤怒故である。

 

 

 

 

生来、強き自尊心とプライドを持ち合わせている獪岳。

 

そんな彼からすれば、烈海王からの未熟者呼ばわり―――柱立ち合いの下という場の状況も手伝って―――は、何よりも耐え難き侮蔑だったのだ。

 

 

 

まして実力も示せぬままに、ただ侮辱を受け入れる事が……どうして出来ようかッ!

 

 

 

 

 

 

許すまじ……烈海王ッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

――――――雷の呼吸 参ノ型『聚蚊成雷』ッ!!!

 

 

 

 

 

怒りのままに強く刀を握り締め、呼吸により脚部より生じさせた加速力で一気に間合いを詰める。

そして繰り出すは、参ノ型―――相手の周囲を旋回しつつ放つ、連続斬撃だ。

 

ただ間合いを詰めて切りかかるだけならば、寧ろ肆ノ型―――壱ノ型を扱えない獪岳にとっては―――の方が向いているだろう。

しかし、流石に今の奇襲を受けておきながら尚も真正面から突っ込むのは危険と判断して、こちらを選んだのである。

 

 

 

加えて……獪岳は、ある可能性にも気づいていた。

 

 

 

(偉そうに高説垂れるぐらいならよ……テメェも、初見の技に対応してみやがれッッ!!)

 

 

 

烈海王は、入隊して日が浅い。

即ち、各呼吸についての理解がそこまで深くは無い……知らぬ技、或いは知っていても目にするのは初の技がある筈なのだ。

そこを獪岳は狙ったのである。

トリッキーなタイプの肆ノ型は、初見で対応するのは困難と見ての……奇襲に対しての意趣返しだ。

 

 

「シィィッッ!!!」

 

 

烈海王とのギリギリの間合いになった瞬間、すかさず強烈な勢いで地を蹴り右ステップ。

この瞬間、烈海王の正面にあった筈の獪岳の姿が視界から一時的に消える。

そして、消えた先が右へと気が付いた時には既に……獪岳は、廻り込んだ勢いを乗せての横斬撃に入っているッッ!!

 

 

 

(取ったッッ!!!!)

 

 

 

 

 

 

――――――ガキィィンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――腐っても、桑島一門の剣士……技の精度自体は、まあそこそこ良い線いってたぜ。

 

 

 

―――ただ、なぁ……最初の奇襲でも感じたが、自分の物差しだけで相手を判断しがちなのが、あいつの致命的な悪癖だ。

 

 

 

―――考えてみろよ……烈さんだぞ?

 

 

 

―――武術を磨く為なら、徹底的にやる人だぜ……各呼吸の技を把握してない訳が無いだろ。

 

 

 

―――あの人はな……入隊してすぐに、蝶屋敷で治療を受けてる連中をはじめ、身近にいる隊士達へと片っ端から声をかけてたんだ。

 

 

 

―――全集中の呼吸を派手に詳しく知る為にな……当然、五大流派の雷の呼吸については早い段階で知ってたってよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!??」

 

 

刀身から伝わる硬い感触と震動に、獪岳は大きく目を見開いた。

何せ、クリーンヒットしたと思われていたその一撃が……完全に阻まれていたのだから。

 

 

烈海王の手に握られていた、新たな武具―――ヌンチャクによってッッッ!!!

 

 

 

(どんだけ武器を隠し持ってんだよ、こいつッッ……だがッッ!!!)

 

 

しかし、驚きはしたもののすぐに頭を切り替える。

肆ノ型は連続攻撃……初撃を阻まれても、止まりはしない。

弐撃目以降で決定打を狙うのみだ。

すかさず脚に意識を集中させ、旋回。

フットワークを活かし、烈海王の周囲を回りつつ連続で斬撃を放つッ……!!

 

 

 

 

しかしッッ!!!

 

 

 

 

(~~~~ッッッッ!!!???

 全部、防がれている……かすり傷一つ無ぇッッ!!??)

 

 

 

 

その尽くを……烈海王は、捌き切ったッ!!

四方八方から襲い来る斬撃の嵐を……ヌンチャクの柄で、鎖で、全て防ぎ切ったのであるッッ!!

 

 

 

 

(この派手な対応力……型を知ってるにしても、初見にしちゃ上出来すぎる。

 さては、烈さん……経験済みか)

 

 

 

その烈海王の動きから、天元はある事実に気付く。

恐らく、同様の攻撃を烈海王は過去に体験したことがあると……そして、それは見事正解している。

 

重ねて言うが、聚蚊成雷は相手の周囲を旋回しながら放つ連続攻撃である。

雷の呼吸が生み出す脚力を活かしての、素早い脚運びから仕掛ける波状攻撃。

 

 

 

そう……フットワークを武器に、対戦相手を周りながら仕掛けると言えば。

 

 

 

 

御存知、ボクシングッッ……!!

 

 

 

 

リーチの差でこそ刀には劣るものの、全方位より放たれるジャブの手数とスピードは、あらゆる格闘技の中でも最上位に入る。

まして烈海王が拳を交えてきたのは、世界最強のボクサー達ッッ……!!

 

あの恐るべき拳撃の雨と比べれば……防げぬ道理は、どこにもないッッッ!!!!

 

 

 

 

 

――――――バキャァッ!!!

 

 

 

 

「ガッ……!?」

 

 

斬撃の合間を掻い潜り、ヌンチャクの横薙ぎが獪岳の首元に直撃する。

防御の為に力を籠める僅かな時すらも与えぬ、見事な間隙をぬっての一撃だった。

 

当然耐えきる事は叶わず……獪岳の身は、横へと大きく吹っ飛ばされる羽目になった。

 

 

 

 

(……強ぇ……こんな奴が、いるなんて……)

 

 

 

ヌンチャクを喰らってから、床に落ちるまでの時間はたったの2秒程。

しかし、獪岳にはその僅かな時間が、途轍もなく長く―――ダメージを受けて分泌された、アドレナリン等脳内物質の効果である―――感じられていた。

 

 

その様な、全てがスローに流れていく最中で。

 

 

 

 

 

 

――――――た、頼む……見逃してくれ!

 

 

 

――――――この先に、寺がある……そこには、子どもと目の見えねぇ大人だけしかいないんだッ!!

 

 

 

――――――お、俺を生かしてくれるのなら……案内するからさッッ!!

 

 

 

 

――――――死にたくねぇ……死ぬのは嫌だッッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

不意に、脳内を過ったのは……かつての、恐怖の記憶。

 

 

今もこびりついて離れない……愚かで弱かった、過去の己の姿であった。

 

 

 

 

 

(……俺は……強く、なってる……強く……なっている筈なのにィィッッ……!!!)

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――意地とでもいうかねぇ……俺もそこで終わりかと思ったんだが、獪岳はまだ立ち上がったんだよ。

 

 

 

―――烈さんの挑発が、余程効いてたか……未熟呼ばわりは、あいつにとって琴線に触れる何かがあったらしい。

 

 

 

―――だが、どう足掻いても実力の差だけは埋まりはしねぇ……その後も、散々な結果さ。

 

 

 

―――間合いに入れば烈さんお得意の体内に響く拳打、距離を取れば棍や飛鏢の嵐……本当に派手派手な攻めが、獪岳が立ち上がる度にずっと続いた。

 

 

 

―――ん……烈さんがそんだけ攻めてて、よく獪岳もそこまでもったなって?

 

 

 

―――まあ、そこはあいつも鍛えていたからってのと……さっきも言ったが、やっぱ意地だな。

 

 

 

―――烈さんには失礼な言い方になっちまうが、一度でも見下した相手に易々屈するってのもあいつの性格上耐えられなかったんだろう。

 

 

 

 

―――とはいえ……あのまま続けてたらマジで獪岳がヤバくなってたから、流石にそこでは止めさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ、烈さん……これ以上派手にやっちまったら、手合わせじゃ済まなくなる」

 

 

息も絶え絶えで突っ伏す獪岳に対し、汗こそ流しているもののまだ余力がある様子で佇む烈海王。

そんな両者の間に、勝負ありと天元は割って入った。

このまま続けさせれば、より酷い有様になるのは目に見えている……柱として、流石に止めねばならなかった。

 

 

「宇髄さん……ええ。

 仲立ち、ありがとうございます」

 

 

烈海王も、それを受け入れて構えを解いた。

ここで制止を振り切って襲い掛かる程、彼も愚かではない。

 

 

手合わせの目的は、これで果たせたのだから。

 

 

 

「獪岳……私が何故お前との立ち合いを望んだか、分かるか?」

 

 

 

構えこそ解いたものの、変わらず厳しい表情を浮かべたまま、烈海王は獪岳―――心配した後藤に、支え起こされている―――へと真っすぐに問いかけた。

何故に、いきなりこのような形で闘いを挑んだのか……と。

 

 

「ッ……俺が、あんたを馬鹿にしたからだろ……?

 その報復に……態々……」

 

 

仕返し目的の襲撃。

それ以外に何があるというんだと、獪岳は憎らし気に返した。

彼からすれば、理不尽にも程がある仕打ちでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

その答えを、聞いた瞬間。

 

 

 

 

 

 

「愚かァァァァァァッ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

烈海王……大激怒ッッ!!!

 

 

空気をビリビリと震わせ、鼓膜を破壊せんがばかりの大声で、一喝したッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「お前は中国拳法を舐めた……確かに、それも許し難い愚行ッッ!!!

 立ち合う理由の一つである事は認めよう……しかし、それだけだと思ったかッッ!!!」

 

 

獪岳の言う通り、中国拳法への侮辱が許せなかった事は事実だ。

だが、彼にはそれ以上の理由が何も浮かばないという……それが、烈海王には殊更許せなかったのだ。

 

 

 

 

「私とて、自身が簡単に受け入れられないだろう事は百も承知だ。

 お前の様に、陰口を叩く輩が出る事ぐらい分かっていた……それだけならば、ここまでする気も無かった。

 だが、お前はあろう事か……私だけではなく、耀哉さんや杏寿郎さん達をも侮辱したのだぞッッッ!!!」

 

「ッ……!!??」

 

 

 

 

 

―――幾ら強かろうが、所詮は鬼のいない大陸の話。

 

 

 

―――炎柱様との一戦も、お偉いさん相手で怪しいもんだし……下弦の陸討伐は漁夫の利狙いのまぐれに過ぎないだろ。

 

 

 

 

烈海王の言葉に、獪岳は言い返す事が出来なかった。

そう……その通り―――勢いに任せたものとはいえど―――口にしてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

何よりも、烈海王の逆鱗に触れてしまう……恩義を感じた者達や、拳を交えた優れた武術家達への悪意を。

 

 

 

 

 

 

「私を認めてくださった耀哉さんを、素晴らしき剣技を魅せてくれた杏寿郎さんを……その場に居合わせた全ての者を、お前は見下したッ!!

 我が恩人を……隊士として、己が目指すべき頂をだッッ!!!

 その厚顔無恥さ……心より恥じろッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―――フッ……こう言っちゃなんだが、聞いた時は嬉しかったぜ。

 

 

 

―――中国拳法を舐められた事も然ることながら……お館様や俺達のために、あんたはそこまで怒ってくれるのかってな。

 

 

 

―――あの瞬間、俺は完全に決めたよ……その気持ちを持ち続けてくれる限り、俺はいつまでもあんたの味方だって。

 

 

 

 

 

―――ん……噂で聞いたのと、何か微妙に違うって?

 

 

 

 

 

―――ああ、そりゃそうだろ……烈さん自身の要望があって、獪岳の名前を伏せる事にしたんだからよ。

 

 

 

―――あの後、烈さんは……倒れていた獪岳に、こう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「獪岳……お前の武技そのものは、決して否定はしない。

 懸命な努力の末に結実したであろう事は、よく伝わった……だからこそ、自分を見つめ直せ。

 お前の暴言は、決して見過ごせるものではないが……私とて、己こそがと驕り昂っていた時期もあった。

 故に、一度は許そう……これを機に、どうか猛省して励んでほしい」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―――正直想像つかねぇが……獪岳には、昔の自分と重なるところがあったらしい。

 

 

 

―――だから、立ち直る機会までは奪いたくなかった……後で、そう俺達に話してくれたんだ。

 

 

 

―――もしもよ、これで俺や後藤が獪岳の名を普通に出してみろ……あいつ、村八分なんて次元じゃ済まなくなるぞ?

 

 

 

 

 

―――とは言え……このままじゃまた獪岳みたいな隊士が出てくるかもしれねぇし、そうなりゃ隊の士気に大きく影響が出る。

 

 

 

―――だから落としどころとして、獪岳の名前こそ出さねぇが、烈さんが他の隊士とやりあったって話だけは少し流させてもらうって結論になったんだ。

 

 

―――勿論、お館様に了承を得た上でだぞ?

 

 

 

 

 

―――で……今流れている噂通り、烈さんが中国拳法を馬鹿にした隊士をボコボコにしたってところだけ、妙に強調されちまってるのが真相だ。

 

 

―――ま、お前みたいに獪岳の名前をどっからか嗅ぎ付けた奴や、獪岳本人から聞いて俺のとこに来た奴もたまには居るけどな?

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……そんな事が……」

 

 

烈海王と獪岳の間にあったぶつかり合い。

その一部始終を聞き、悲鳴嶼はただただ驚く他なかった。

 

あの惨劇から行方知れずとなっていた獪岳が、同じく隊にいたというだけでも衝撃だったというのに……烈海王との間で、その様な事が起きていたとは。

 

 

 

「獪岳の名前は、私の希望で出さないように努めてもらっていました。

 育手の慈悟郎さんにだけは、今後の為にと耀哉さんから仔細が伝えられましたが……」

 

「……そう、か……獪岳。

 あの子が鬼殺隊に……」

 

 

 

悲鳴嶼からすれば、何とも複雑な気持ちであった。

あの獪岳が、生き延びていた……ハッキリ言ってしまえば、子ども達を喰い殺した鬼の次に恨むべき相手だろう。

 

 

 

自らの保身の為に、他者を踏みにじった……子どもへの不信感を持つに至った、全ての元凶。

 

 

しかし、何故か彼は鬼を狩る隊士として……自分と同じ目的を持って、この隊に居る。

 

 

一体、何が彼にあったというのか……?

 

 

 

 

「……烈さん、頼みがある。

 獪岳が生きていると分かった以上、私はあの子と会わねばなるまい」

 

 

当然、獪岳と会わないという選択肢は悲鳴嶼には無い。

 

どうして、あんな凶行に走ったのか。

本当に子ども達は、我が身可愛さで逃げたのか……それとも烈海王の言う通り、自分を助けようとしていたのか。

 

全ての真相を知らねばならない……それは、育ての親である己が義務なのだ。

 

 

 

「だが……その時、はたして自分を抑制できるかが分からん。

 冷静な心境ではいられぬかもしれん……だから、その場に立ち会ってくれないか?」

 

 

 

しかし、そこには一抹の不安があった。

今日まで、子どもに対し強い猜疑心を抱き生きてきた。

そんな己が、元凶たる獪岳と相対した時……果たして冷静でいられるのだろうか?

 

もしかすれば、憤怒の形相でそこに立つかもしれぬだろう。

勢いに任せて拳を、刃を振りかざす事にもなりかねないだろう。

互いに命を奪い合うという……最悪の事態とて起こり得るだろう。

 

 

そうならない為にも、確実に自分達を止められる存在が必要になる……それを安心して任せられるのは、烈海王だ。

獪岳の傲慢に真正面から向き合い、それを粉砕し……その上で諭した―――もっとも、それを獪岳本人がどう捉えているのかは分からないが―――のであれば。

仲立ちに当たって、彼程の適任はいないと断言できる。

 

 

「勿論です。

 私にこそ、貴方達を最後まで見届ける義務がある」

 

 

烈海王はそれを快諾した。

そもそも全ての発端は、自身が獪岳の話をした事にある。

それでおいて、後は彼等だけに任せるなんて……そんな無責任な真似はしたくない。

二人の為にも力を尽くさねばならない……これは、己が果たすべき責務だ。

 

 

 

「私は一向に構いません……悲鳴嶼さん。

 どうか、よろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「獪岳には私から連絡を入れましょう。

 鎹鴉を飛ばします……後は、なるべく早く都合がつく事を祈りましょう」

 

「うむ……ありがとう、烈さん」

 

 

悲鳴嶼と獪岳の再会に当たって、烈海王が鎹鴉―――どうやら獪岳と一戦を交えていた間に、彼の鎹鴉とある程度親しくなっていたらしい―――を飛ばす事で獪岳への連絡はすぐにつけられる。

後は、三者でタイミングを計るのみだ。

出来るならばすぐにでも話をしたいところだが、皆それぞれに任務がある……鬼殺隊として優先すべきは、鬼を狩り人々を守る事だ。

そこを疎かにしてはならない……赴くべき闘いがあるのだ。

 

 

 

「そういえば、隠から聞いたのだが……近々、煉獄と任務に当たるそうだな?

 貴方と煉獄が共にとなれば、相当の相手……お館様は、十二鬼月を想定しておられるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ……鬼が出現したのは、列車の中だそうです。

 何人かの隊士を送り込んだものの、行方不明になったと……名を、無限列車と言います。

 玄弥共々、任に当たらせていただきます」

 

 

 

 




Q:烈さん、ぽっと出の自分に対して悪口言われる事ぐらい想定してなかったの?
それで中国拳法を馬鹿にされたから怒るのは、流石に酷くない?
A:烈さん自身が8話の時点でその問題に触れている通り、想定済みです。
 なので、中国拳法を舐められても怒るつもりはありませんでしたが……獪岳は、お館様達への侮辱とも取れる発言をしてしまったので、流石に烈さんの逆鱗に触れてしまいました。

烈さんが獪岳へと仕掛けた真相ですが、寧ろ恩人を馬鹿にされた事の方が大きいです。
そして同時に、地下トーナメント時点では自分も獪岳に近い振る舞いをしていたので、放っておけなかったというのもありました。
それが後藤さんと宇髄さん経由で名前を伏せたまま広がった結果、「中国拳法を馬鹿にしたら烈さんが飛んできてボコボコにされる」という部分が強調されるという伝言ゲームあるあるが、隊内で起きてしまいました。
実際、20.5話その2で善逸はその通りに認識してしまい、一方で真相を知る後藤さんは片平隊士共々「烈さんが怒るのは、武を蔑まれたり親しい人間を侮辱された時」と語ってます。


Q:獪岳、烈さんによくここまで立ち向かったよね?
  黒死牟に遭遇した時の様に、すぐ頭を下げなかったの?
A:悪い意味でプライドが高い為です。
  善逸に敗北した事を「耐えられない」と言った様に、例え実力差があろうとも一度は見下した相手に屈する事は我慢できなかったのです。
  そんな相手に「未熟者」と呼ばれれば、自己顕示欲の高い獪岳だから余計意地になります。
  また、音柱立ち合いという場の状況も手伝って敗北を認める事が尚更出来ませんでした。

正直、この点に関しては相当悩みました。
もしも相手が煉獄さんや不死川さんであれば、速攻で頭を下げていたかもしれません。
ですが、烈さんに関しては実力に対して懐疑的であった上に「依怙贔屓のまぐれ男」と見下していた事もあったので、一度口にした事を引っ込め頭を下げる事の方がきっと屈辱だろうと判断し、この様にしぶとく粘る結果とさせていただきました。


Q:獪岳、親しい相手に限定したとはいっても自分が負けた事を語れるの?
 それこそ、思い出したくない忌まわしい過去じゃないの?
A:上述した通り、自己承認欲とプライドが高い獪岳には有り得ない行動です。
 しかし、これに関しては勿論理由があります。
 詳細は後々、悲鳴嶼さんと獪岳の再会時に語らせていただきます。



尚、獪岳についてですが「壱ノ型こそ使えないが、それなりには強い剣士」と解釈しています。
そう判断した根拠ですが

・善逸と共同とはいえ、元鳴柱に後継として認められている。
・あの黒死牟が、殺さず鬼にしようと考える=弱い剣士なら命乞いされても一蹴する可能性が高い。
・鬼化後は人を喰らっての成長とは言えども、短期間で上弦入りするだけの評価を一応得られている。

これらの要素を踏まえると、主要キャラには劣るものの一般的な隊士と比較すればそこそこ高い水準でもおかしくないと思います。

Q:分銅からの九節鞭って、武蔵戦と同じ?
A:その通りです、対剣士という事で試してみた烈さんでした。
 あの時は上着を投げて目隠ししましたが、今回は分銅からの九節鞭による奇襲を選択しています。

そして、次回では無限列車編に突入します。
感想でも多くの方が触れられた、あの鬼との対決にいよいよ入ります。
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