鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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無限列車編突入になります。

ただ、今回は原作とは大きく違うほぼほぼオリジナルの展開となってしまいました。
何卒よろしくお願い申し上げます。


24 終着駅

 

 

無限列車。

 

 

東京駅より始まって、山間部を結ぶ交通の要として運行する長距離鉄道。

 

 

日暮れから日の出にかけてを主とする、夜行列車である。

 

 

都市部間に比べれば流石に劣るものの、多くの乗客が日々利用する人気路線となっていた。

 

 

 

 

しかし、ある日を境に状況が一変する。

 

 

どんよりとした空模様の中、四十人余りの客を乗せて列車は終着駅に辿りついた。

 

 

そして、駅員が扉を開いた時……その客席には、誰一人として乗っていなかったのだ。

 

 

 

 

全員が途中下車をしたか?

 

 

否……客席上部の手荷物預けには、複数の鞄類が残されていた。

 

 

一つ二つならば忘れ物という可能性もあっただろうが、明らかにそうじゃないだけの数がそこにあった。

 

 

 

 

つまり……乗客全員が、一夜にして行方不明となってしまったのだ。

 

 

すぐさま駅員達は車掌や添乗員に状況説明を求めたが、車掌曰く切符の拝見以降は運転に集中していた為、客席の様子は分からなかったとの事。

 

また添乗員も、先頭車両付近で待機していた間に乗客が消えたと証言しており、何一つ手掛かりは得られなかった。

 

 

 

この異常事態に対し、鉄道管理局は無限列車の運行を一時的に休止……一度列車を整備に回し、原因の究明に当たるという体を取った。

 

 

だが、問題はそこで収まらなかった……今度は、路線近辺で新たな事件が発生したのだ。

 

様々な場所―――駅の近辺から車両内に至るまで―――で、全身をズタズタに引き裂かれた遺体が複数発見されたのである。

 

 

 

 

この猟奇事件を、地元の新聞社は『切り裂き魔事件』と取り上げ……民衆の間では、先の神隠しも同一犯による犯行ではないかと噂されるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「で……最初の神隠しの直後に、産屋敷家と繋がりのある国鉄のお偉いさん方が連絡を入れてきたんです。

 この事態には鬼が関わっている可能性があるから、どうか調査をしてほしいって」

 

「その結果、派遣された隊士達は消息を絶った……か」

 

 

日が落ち、すっかり暗くなった空の下。

人気の少ない田舎道を、一台の車が駆け抜けていた。

 

そのハンドルを握るは、隠の後藤。

そして助手席には烈海王、後部座席には玄弥と片平隊士が乗り込んでいる。

皆、神妙な面持ちでこの先に待ち受ける脅威―――無限列車に潜む鬼について、思案している最中であった。

 

 

「……炎柱様が整備工場に潜んでいた鬼を倒したんですよね?

 手口からして、切り裂き魔と呼ばれていた鬼はそいつで間違いないとの事でしたが……」

 

 

 

実は今朝方、鎹鴉より通達が届いていた。

 

前もって現場入りを果たしていた杏寿郎が、鬼―――切り裂き魔と遭遇。

明け方、これを無事に討滅したと……整備員が一人負傷はしたものの、不幸中の幸いで命に別状は無かったらしい。

 

無限列車も本日より運行再開が決定し、これで全てが無事解決したかに思われた。

 

 

 

 

しかしッ……!!

 

 

 

 

「うむ……だが、手段と強さが噛み合っていなかったそうだ。

 乗客四十人余りを喰らい、調査に当たっていた隊士を返り討ちにした鬼は……別にいる」

 

 

 

事件は、まだ終わっていなかった。

杏寿郎曰く……無限列車に纏わる鬼は、もう一体いるとの事なのだ。

そう判断した根拠は、二つ。

 

一つは、犯行手口の差異だ。

無限列車の乗客達は、神隠し―――忽然と姿を消したのに対して。

切り裂き魔はその名の通り、惨殺の痕跡を現場にハッキリ残していた。

杜撰にも程がある……同一犯の犯行とは、到底思い難い。

 

そして二つ目は、ずばり鬼の強さ。

切り裂き魔は、杏寿郎に呆気なく首を落とされたのである。

四十人以上の乗客を喰らい、複数人の隊士を倒したにしては……あまりにも弱過ぎたのだ。

 

 

 

「この鬼は、実力も然る事ながら知恵もかなり回る輩だ。

 大胆にも国営の鉄道を犯行現場に選びながら、自身の尻尾は掴ませず……十二鬼月という耀哉さんの見立ては、ほぼ間違いないだろう」

 

「十二鬼月……やっぱり、車掌と添乗員の誰かが鬼じゃないんですか?」

 

 

ここで、玄弥がある疑問を口にした。

無限列車に乗り込んでいたにも関わらず、五体満足でいた乗組員達……その内の誰かが、鬼ではないかと。

状況からすれば、一番怪しいのは確かに彼等だ。

もっともな疑問ではあるのだが……

 

 

「いや……俺も最初はそう思ったんだが、彼等は人間だ。

 列車から降りて、日の下を堂々と歩いていたらしい」

 

 

車掌と添乗員は、紛れもない人間である。

夜明けに終着駅へと到着した後、陽光が差すホームに全員が降りてきているのだ。

肌の色や気配等なら兎も角、鬼である以上は陽光から逃れる手段は無い……彼等の内の誰かが鬼というのは、有り得ぬ事である。

 

 

 

 

 

しかし、だ。

 

 

 

 

 

「だが、玄弥の考えも間違いではない。

 車掌と添乗員が無事だった……それがおかしいのだ。

 何故彼等を喰わずにいた……生かしておく必要がどこにある?」

 

「ッ……確かに……!!」

 

 

烈海王は、そこに違和感を覚えた。

 

 

 

車掌達が人間なら……何故鬼は、彼等を喰らわなかった?

 

 

乗客だけを喰らった……車掌達を生かしておく必要があったのではないか?

 

 

 

「添乗員は兎も角、車掌がいなくなったら列車の操作が効かない……いや。

 切り裂き魔の方は、別路線の車掌を車内で惨殺している……車掌抜きで運転できるかはこの際置いとくとして、確かに妙だ」

 

「そうっすね……片方は容赦なく殺しておいて、もう片方は生かしてる。

 無限列車の方が少し不自然っていうか……絶対何かある」

 

 

 

切り裂き魔側の犯行と照らし合わせると、余計にその異質さが目立ってくる。

故に、四人の中で疑念は確信へと完全に変わった。

もはや疑う余地は無いだろう。

 

 

 

「無限列車の生存者……その中に、鬼の協力者が潜んでいる。

 あまり、考えたくは無かったがな」

 

 

敵は鬼のみに非ず。

同じ人間が、敵勢力に潜んでいる。

 

鬼殺隊が鬼より守るべき……人間がだ。

 

 

「けど、行方不明者の処理とかは確かにやりやすいですよね。

 駅員が鬼側だっていうなら、書類関係とかはある程度誤魔化しが効きますし。

 血鬼術で操られているとか、人質とかならまだいいんですが……自発的にって事だけは、あってほしくないですね」

 

「……それを確かめるのも、任務の内か」

 

 

烈海王、玄弥、片平、後藤の四人が受け持った任務。

それは、無限列車の辿り着いた先……即ち終着駅での調査にあった。

 

鬼が潜む本命は、勿論列車そのものだろうが……しかし、国営の場でこうも大胆かつ狡猾な立ち回りが出来る相手だ。

それ程の相手ならば、駅側にも何かしら手を伸ばしている可能性は高い。

 

何故なら、列車内で乗客を襲うというのは鬼側にとっても大きなリスク―――待ち伏せの危険性を背負わなければならない。

 

鬼が列車に潜んでいると分かっているならば、終着駅で待ち構えれば良い―――ただし、乗客の命を危険にさらす事にもなる―――のだから。

 

 

 

 

ならば、それを回避するにはどうすればいいか?

 

 

 

答えは簡単……終着駅にも、対鬼殺隊用の何かを置けばいい。

 

 

 

 

「別種の鬼か、或いは人間か……もしかすると、鬼の本体は駅に潜んでいるという事とてあり得るだろう。

 だが、何が来ようが一向に構わん……立ち塞がるならば闘うまでだ」

 

 

 

耀哉はその可能性を読み、烈海王達を終着駅へと送り込み……同時に、杏寿郎と数名の隊士を列車内へと送り込む事で挟み撃ちの形を作ったのだ。

烈海王達は終着駅の脅威を排する事が出来たならば、すぐに後藤の車で線路に沿って疾走。

無限列車を確認でき次第、転身して並走……可能ならば車両に飛び乗り援護に向かうというのが、作戦の全容である。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「そういえば……不死川。

 炎柱様に同行してる炭治郎達なんだけど……同期だったよな?」

 

「玄弥でいいですよ、片平さん……はい。

 伊之助って奴とは会ってないけど……最終選別の時に、一緒でした」

 

 

ふと、片平は何気なく玄弥に話を振った。

無限列車内に杏寿郎達と共に乗り込んでいるのは、烈海王達もよく知る四人―――炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助だ。

最近はメキメキと実力をつけている有望株であり……また、今回の任務においてはこれ以上ない適役でもある。

 

炭治郎の嗅覚、善逸の聴覚、伊之助の触覚。

 

三人の持つ超感覚は、列車という狭い空間に潜む鬼を見つけ出すのには打ってつけなのだ。

そこも踏まえた上での人選なのは、間違いあるまい。

 

 

そんな彼等と玄弥は、同じ最終選別に挑戦した者同士。

カナヲも加えて、五人は同期に当たる訳なのだが……

 

 

 

「…………」

 

 

 

そう答えた玄弥の表情は……少し、暗かった。

あまり思い出したくはないといった様子の雰囲気……それを察し、烈海王は彼に問いかけた。

 

 

 

「玄弥……炭治郎さん達と、何かあったのか?」

 

「あ……はい。

 ちょっと、最終選別が終わった時に……揉めてしまって」

 

 

それは玄弥にとって、少々……否、かなり苦い思い出であった。

 

 

最終選別の終了後。

一分一秒でも早く鬼の首を狩ろうと、日輪刀欲しさから一人の少女に手を上げてしまった。

この所業を、炭治郎に咎められたのである。

今になってみれば、あれは流石に自分が―――ただ、炭治郎が全力で腕を折りにきた事については、やりすぎだろうと思わないでも無いが―――悪い。

 

悲鳴嶼にも指摘されたが……あの頃の己は、本当に酷い有様だった。

唯々鬼を滅する力のみを追い求め、我が身を一切省みず、他者を傷つける事すら厭わなかった。

兄の後を追う……その為だけに、全てを捧げてきたが為に。

 

荒れ果てていた事この上なしだ。

しかも、これでもし悲鳴嶼との出会いが無ければ……烈海王との出会いが無ければ、より酷い事になっていたかもしれないと思うと。

 

 

 

「……玄弥。

 お前が自身を恥じているのであれば、どの様な諍いがあったかは敢えて聞くまい」

 

 

烈海王も、それを責める様な真似はしない。

己が行いをしっかりと悔い改めているのならば、ここで言及してもただ玄弥を傷つけるだけだ。

決して、良い効果は得られないだろう。

 

 

「だが……無礼を働いた詫びは、必ず果たすべきだ。

 心に蟠りを残したままでいては、お前の為にも決してなるまい。

 この任務が終わったら、炭治郎さん達にはしっかりと謝罪をしておく事だぞ?」

 

 

しかし、非礼の詫びはしなければならない。

それは玄弥が果たすべき義務であり負うべき責任だ。

己が所業を恥じているのならば、尚更の事……健全な肉体に健全な精神が宿ると言うが、その逆もまた然り。

武を磨くと決めたからには、正しい方向に進んでもらわねばならない。

 

 

師として、そうハッキリと……烈海王は、己が弟子に告げたのであった。

 

 

 

「烈さん……はい、そうさせていただきます」

 

 

 

その想いは、確かに玄弥へと伝わっていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

それから、一時間余りが過ぎた頃であった。

 

 

 

「片平さん、後藤さんッ!!

 皆さんを駅の外へッ……急いでくださいッッッ!!!」

 

 

 

無限列車の終着駅は今、パニックに陥っていた。

構内の人々が皆、悲鳴を上げて我先へと出口に駆けだしていた。

 

 

 

 

駅のホームに降り立った、二体の異形―――鬼を目にしたが為ッ……!!!

 

 

 

 

「ッッ……やはり、予想通りだったか……!!」

 

 

 

烈海王達は、無事に駅へと到着した後。

何はともあれ、まずは駅内がどうなっているのかと視線を巡らせていた……その最中であった。

玄弥と視線の合った駅員の一人が、顔を伏せて目線を逸らす動きを見せたのだ。

しかもその表情には、明らかに動揺の色があった。

 

自分達を見て血相を変える理由など、一つしかあるまい……鬼殺隊の隊服に気が付いたのだ。

 

 

 

 

すぐさま、玄弥はその駅員に声を掛けようとしたのだが……二体の鬼が出現したのは、その直後であった。

 

一体は天井をぶち破り、続けてもう一体が空いた穴からぬるりと這い出てきたのだ。

 

 

 

一体目は、2メートルはあるであろう筋骨隆々の巨躯。

そして何より特徴的なのが、一つの頭に二つの顔を持つという……双面の鬼である。

 

 

二体目の特徴は、常人の二倍以上の長さを誇る手足。

それを天井に伸ばして、蜘蛛かヤモリかの様にピタリと逆さの態勢で張り付いている。

 

 

 

両者共に、獰猛な気配と殺気を滾らせている。

烈海王達を獲物に定めているのは明白……故に、すぐさま皆が行動に移った。

 

 

後藤と片平が駅内の人々を誘導、急ぎ外へと逃がす。

 

 

 

 

そして……烈海王と玄弥の二人が、鬼と対峙するッ……!!

 

 

 

「玄弥……天井の鬼は私がやろう。

 双面の鬼は、任せていいな?」

 

「ッ……!!」

 

 

 

烈海王に師事して、数日……玄弥にとっては、彼と臨む初めての闘いになる。

僅かな時間と言えど、教わった事はとても大きかった。

 

 

果たして、それを身に出来ているのだろうか?

 

鬼を相手に、無事闘い抜く事が出来るのだろうか?

 

 

様々な怖れと不安が、胸中に渦巻く。

 

 

 

 

しかしッッ……!!

 

 

 

 

「はいッ……任せてください、烈さんッッ!!」

 

 

 

 

それ以上に……胸が高鳴っているッ!!

 

 

新たな自分を試せるこの機にッッ……!!!

 

 

何より、師に闘いを任されたこのシチュエーションにッッッ!!!

 

 

 

 

 

「「いくぞッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ガアアァァァァッ!!!」

 

 

双面の鬼が、唸りを上げて玄弥に迫る。

同年代に比べれば恵まれた体格を持つ玄弥なれど、相手の鬼はそれを上回っている。

身体の大きさ、筋肉の搭載量。

フィジカル面で見れば、どう考えても鬼有利の一択であった。

 

 

「ッ……来やがれッッ!!」

 

 

それを玄弥は、真正面から受けて立った。

しかし、日輪刀は抜かず……代わりに構えるは、両の掌。

皮膚の色では無く、鈍く黒い鉄の色を帯びている。

 

そう、烈海王が扱うのと同じ、猩々緋砂鉄製の鋼線を編み込んだ手袋と手甲だ。

玄弥の弟子入りが決まったあの日、烈海王はすぐに刀鍛冶の里及びゲスメガネこと前田に連絡。

彼にも同じものを与えてほしいと懇願していた―――前田が悲鳴を上げたのは言うまでもない―――のである。

拳法家として鬼を滅するには、必須の武具であるが為に。

 

 

 

 

――――――ガシィィッッ!!!!

 

 

 

 

「くっ……!!」

 

 

乾いた音が、双方の掌より響いた。

 

双面の鬼が広げた手を、玄弥が真っ向から受け止めた。

そして、手四つで力比べという体勢に入ったのだ。

 

 

この状況に、双面の鬼はにやりと笑った。

身体の大きさも筋肉の積載量も、圧倒的に自分が勝っている。

こんな小さい相手に、力比べで負ける筈が無い。

 

 

押し切り、無様に倒れた所を喰らってやろうじゃないか。

 

両腕に一気に力を籠めッ……!

 

 

 

 

 

(ッッッッッ~~~~~~!!!????)

 

 

 

 

動かないッッ……!!??

 

 

馬鹿な、全力で力を込めているというのに……目の前の鬼狩りは、びくともしないッッ!!!???

 

 

 

 

「……どうした、力自慢ッ……!!」

 

 

双面に浮かんだ焦りを見て、今度は玄弥が獰猛な笑みを返した。

 

 

この時、鬼が見たその背後に浮かぶイメージはッ……!!

 

 

 

 

強く根を張る、一本の巨木ッッ……!!

 

 

 

 

 

(……そうだ、稽古を思い出せ。

 ただ、力で踏ん張るんじゃない……この手も、脚も、背も。

 全身に真っすぐ、垂直に力を込めろ……見立てるなら、肉体そのものを一つの杭にッッ!!)

 

 

 

烈海王に引き取られてから、一日たりとも欠かさず行っていた基礎訓練がある。

 

站椿、或いは馬歩ともいう。

背筋は曲げる事無く垂直に、膝は乗馬をする様に九十度曲げて。

そして、両腕を真っすぐ前へと伸ばした体勢で一定時間立ち続ける。

多くの拳法で、打撃力強化の為に取り入れられている基本の修練だ。

 

加えて烈海王は、玄弥の両手に水が一杯に入った甕を持たせ、その膝にも同じく水が入ったお猪口を乗せるという形式を取った。

少しでも体勢が崩れれば、当然膝のお猪口は落ちてしまう……そうなれば、失敗と見なされ最初からやり直しだ。

 

 

基礎からしてかなり厳しい修練ではあったが、玄弥はこれを毎日成し遂げている。

元より、岩柱の弟子として師事してきた身……彼が行ってきた修練とこの站椿には、繋がる所があったのだ。

即ち、足腰の強靭化……正しい重心の取り方及び強化だ。

 

 

 

 

―――いいか、玄弥……あらゆる武において、重心移動は極めて重要な要素となる。

 

 

―――全身に一本の芯を通すのだ……自分自身を、一つの鉄杭に例えるといい。

 

 

―――真っすぐに……ぶれる事無く!

 

 

 

(烈さんッ……!!)

 

 

 

無論、積んできたのは站椿だけではない。

打撃の訓練、受けの取り方。

短期間ながらも、濃密且つ過酷な日々……だが、玄弥は一切弱音を吐く事無く。

 

強き熱意と覚悟を秘めて修練に臨み……その日々に、大きな充実感と満足感を得てすらいた。

 

 

 

その結果が今……こうして、実を結んだッ!!

 

水を得たスポンジが如く、僅かな期間に見る見るうちに吸収していき……大きく成長を果たしたのであるッッ!!

 

 

 

「ッッ……グウゥゥアァァァァァァッッッッ!!!??」

 

 

鬼が悲痛な叫びを上げる。

どれだけ力を込めても、どれだけ踏ん張っても。

押し返される事こそ無いものの……玄弥の身体は、それ以上動かない。

 

 

 

 

―――これと似たケースは、近代スポーツの場においても見られている。

 

 

―――あるバラエティ番組にて、芸能人が棒立ちしている柔道家を投げ飛ばせるかという企画があった。

 

 

―――チャレンジした芸能人達は、それなりに肉体を鍛えている面々……体格で優っている者も中には居た。

 

 

―――だが、結果は惨憺たるものに終わった……柔道家の肉体を浮かすどころか、数ミリ動かすことすら誰も叶わなかったのだ。

 

 

 

 

そう、動かせるわけが無いのだ。

ただただ力任せに、何の技術も持たず暴れるだけの鬼にッ……!

 

 

幾千年と人間が培ってきた、武はッッ!!!

 

 

 

「グルアァァァッ!!」

 

 

ならばと、双面の鬼は二つの口を大きく開き牙を見せた。

両手を組みあっているこの体勢、見方を変えれば身動きを封じたとも言える。

手を離さぬ限り、移動する事は不可能なのだから。

 

至近距離……このまま喉笛に噛みついてくれるッ!!

 

 

 

「へっ……絶対、やると思ったよッッ!!」

 

 

 

しかし、玄弥はそれを読んでいた。

何せ噛みつきは、己が十八番……敵の血肉に牙を突き立てるのは、鬼の専売特許ではない。

 

この様な手四つの態勢から噛みつきを行おうとすれば、自然と身体は前傾姿勢になる。

そして狙いは、首か肩口に絞られる……ならばッ!!

 

 

 

 

――――――バキャアァッ!!!

 

 

 

 

「ギャアアァァァァッッ!!??」

 

 

射程範囲ッ!!

顎目がけて一直線に、右の蹴り上げが炸裂ッッ……!!

無防備なところへ吸い込まれるかのように入ったその一撃は、鬼の頸を大きく跳ね上げたッッ!!!

 

 

 

(勝機ッ……!!)

 

 

蹴りの痛みと衝撃とで、鬼の握力が緩む。

その瞬間を玄弥は見逃さず、素早く両手を振り払う。

そして、日輪刀を抜刀……狙うは勿論、鬼の首。

 

蹴り上げによって、あまりにも無防備に曝されている急所ッ!!

 

 

 

 

――――――ザシュッッ!!!

 

 

 

 

放たれた斬撃は、鬼の首元に入る……しかし、断ち切るには至らず。

半ばの所で、筋肉に阻まれ刃が止まったのである。

容易く切断できる程、甘い相手ではないという事か。

 

 

 

「だったら……押し込むまでだァッ!!」

 

 

否、断ち切ってみせるッ!!

鬼の首に刃を留めたまま、日輪刀の柄より手を離す。

 

 

続けて、強く右脚で床を踏み抜く……震脚ッ!!

 

そうして生じる威力の全てを、右手へと伝え……全力で掌打を繰り出すッッ!!!

 

 

 

 

 

――――――ザンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ッ……やったぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

 

歓喜の雄叫びを上げる玄弥。

 

彼が繰り出した掌打は、見事日輪刀の峰を捉え……その威を以て、鬼の首を断ち切る事に成功した。

 

 

 

勝ったのだ……この手で、自らの武で、鬼にッッ!!!

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「よくやったな、玄弥」

 

 

勝利に喜ぶ玄弥の背後より、烈海王が称賛の声を掛けた。

まだまだ荒いところはあれども、培った技術をフル動員して見事に鬼の首を断ち切った。

短い指導でありながらも、ここまでの上達……それを可としたその執念は、見事と言わざるを得ないだろう。

 

 

「烈さん……はい!!」

 

 

玄弥は笑顔で振り返ると、そこには余裕の表情で佇む烈海王の姿があった。

既に鬼は討滅済み……それも、玄弥より素早く一撃で彼は終わらせていた。

 

長い手足を活かし、壁と天井を自在に跳躍しながら鬼は烈海王に襲い掛かったのだが……呆気なく見切られ、柳葉刀で首を落とされたのである。

四方八方を飛び交っての攻撃ならば、先日手合わせをした善逸の霹靂一閃の方が遥かに速くて高度だった。

正直、比べるのも悪いレベルだろう。

 

 

「しかし、玄弥。

 水を差す様で悪いのだが……」

 

「大丈夫ですよ、分かっています。

 こいつらは無限列車の鬼じゃない……この程度の奴な筈が無い」

 

 

ここで二人は、倒した鬼の実力について疑問を覚えた。

烈海王が一撃で討滅し、また玄弥も無傷で勝利する事が出来た二体の鬼。

やはり呆気なさすぎる。

どう考えても、こいつ等が無限列車に潜む鬼とは思えないのだ。

 

 

「足止めか、陽動か……やはり本命は、列車内部だ。

 すぐに後藤さんに車を出してもらおう。

 先程逃げて行った駅員に関しては、片平さんに対処を……」

 

 

 

 

「れ、烈さん、玄弥ッ!!!

 大変ですッッ!!!」

 

 

 

その時だった。

息も絶え絶えに、凄まじい勢いでホームへと後藤が駆け込んできた。

表情には、今まで見た事が無い程の焦燥が浮かんでいる……彼が、ここまで狼狽えているという事は!

 

 

「まさか……後藤さん、無限列車に何かッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、鎹鴉から……十二鬼月がッ!!

 それも相手は、上弦の鬼……上弦の、参ですッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【もしも、烈さんが無限列車に乗車していたら?】

 

 

 

 

 

「ああああああぁッ!?」

 

 

夢の中で、自らの命を断ち切った炭治郎。

無事に血鬼術を打ち破り、覚醒―――現実世界への帰還を果たした。

幸せな夢を見せ、その中へと対象者を封じる……実に恐ろしい、凶悪な血鬼術であった。

 

 

「禰豆子、大丈夫か!?

 煉獄さん、善逸、伊之助、玄弥!!」

 

 

他の皆は大丈夫だろうか?

炭治郎はすぐさま周囲を見渡し、皆に声をかける。

禰豆子はどうやら術から逃れられたらしく、無事に己が側にいる。

 

善逸、伊之助、玄弥の三人はまだ目覚める気配が無い。

また杏寿郎はどういう事か、女性の首を掴んだ態勢のまま硬直している。

目が覚めたのは自分だけなのだろうか。

 

 

いや、もう一人いる……烈海王は、どうなった?

 

 

 

 

「烈さん、無事で……って、えええぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!???」

 

 

 

そこで炭治郎の視界に飛び込んだのは、想像を絶する事態であった。

 

 

 

 

 

激しく立ち回り、拳を、脚を繰り出す烈海王ッッ!!!

 

 

その猛撃を受け全身に酷い痣を作り、今にも意識を飛ばしそうになっている中年の男性ッッ!!

 

 

両者の腕は縄で繋がれており、男は逃げたくても逃げられないッッ!!

 

 

 

「た、たしゅけ……助け、て……!!」

 

「わあぁぁぁッッ!!??

 烈さん、烈さん止まってくださいッッ!!!

 死んじゃいます、この人このままじゃ死んでしまいますよッ!!??」

 

 

 

かつて、愚地独歩が最凶死刑囚ドリアンと闘った時。

ドリアンは催眠術を放ち独歩を見事催眠状態に追いやった。

 

幻惑の中で闘い続ける彼を前に、ドリアンは勝利を確信して近寄り……そして、見事なカウンターをもらった。

独歩は催眠術にかかった状態でありながらも、その身に沁みついた経験と闘争本能から、無意識にドリアンへと攻撃を仕掛けたのだ。

それは、烈海王が術を解いた後でも全く変わらず……彼に、自身が術にかかっていたという自覚すら無い有様であった。

 

 

全ては、強い本能が為せる技だ……杏寿郎が女性の首を掴んだ体勢のままでいるのも、それが理由である。

夢の中でこの女性に精神の核を破壊されれば、自身は闘えなくなるが故に……それを防ぐ為に。

しかし、隊士として人の命を奪う訳にはいかないとギリギリのところで加減をし、膠着状態にあったのだが……

 

 

 

烈海王の本能は、まずい事に加減をしていなかった。

 

 

武術家として……『倒されるわけにはいかぬ』と。

 

 

その前に、目の前の相手を打ち倒そうと……身体を突き動かしたのであるッッ!!!

 

 

 

 

「ね、禰豆子ッ!!!

 すぐにこの縄を焼いてくれッ!

 烈さんのと皆のと、兎に角速くぅッッ!!」

 

 

烈海王を羽交い締めにしながら、決死の形相で炭治郎は叫んだ。

このままだと目の前の男性のみならず、自分達と縄で繋がっている人々にも仕掛けかねない。

そうなる前に、全力で止めねばッ……!!!

 

 

 

 

――――――血鬼術『爆血』ッ!!!

 

 

 

 

「……ハッ!?

 炭治郎さん、私は……眠っていたのか……?」

 

「ハァ、ハァ……はい。

 鬼の術で……その、俺も今目を醒ましたばかりですが……」

 

 

 

無事に術から逃れる事が出来た烈海王。

意識を覚醒させ、即座に状況を把握する……敵の接近には気を付けていたというのに、何たる事か。

 

 

 

「烈さん、俺は鬼を探します。

 臭いがどこかにある筈です……烈さんは、他の皆が目を醒ますまで禰豆子とここに……」

 

 

 

 

 

――――――パンッ!!!

 

 

 

 

 

「……解きましたよ、術を」

 

 

「……え?」

 

 

次の瞬間。

烈海王は、勢いよく手を叩き……それに合わせて。

眠っていた玄弥達が、次々に目を醒まし始めたのだ。

 

 

 

「え、えっと……あの、烈さん?

 術を、解いたって……?」

 

「中国拳法にも、催眠術の類はあります。

 以前、海王の一人が用いた事もありましてね……勿論、禰豆子さんが術で皆さんの縄を焼いてくれた御蔭でもあります。

 異能の術相手では、流石に私の技だけでは難しかったでしょう」

 

 

 

 

催眠術、中国拳法。

一体、海王とは何なんだろうか……炭治郎は、そう考えずにはいられなかった。

 

 

 




烈さん達の乗車を期待していた方々には、大変申し訳ございませんでした。
最初は烈さん達も無限列車に乗せるつもりだったのですが、書いていく内に幾らか問題点が浮かび上がりました。


・あの用意周到な魘夢なら、列車の外にも必ず何かを配置している。
・烈さんと玄弥まで列車に乗り込んでの大所帯となると、魘夢も流石に警戒して手を出さないかもしれない。
・本能的に烈さんが動くと一般人に重傷者を出しかねなかった。
 それどころか、放っておいたら善逸同様に無意識状態のまま魘夢を倒しかねない。
・ドリアン戦で「解きましょう、術を」と言って手を叩いたように、催眠術に対する心得がある=全員を簡単に目覚めさせる危険性があった。


魘夢にとって、色々な意味で烈さんは相性が最悪だったんです。
また、折角弟子入りしたのに初戦の相手が列車と同化した魘夢では、玄弥が実力を活かしきれないという問題もあり、それを避けたくもありました。

そこで、動いているのが国営の鉄道=人間側の協力者が複数人いなければ絶対に出来ないと思って、そちら側を押さえる役目に回ってもらいました。
実際、乗客が丸々消えるという異常事態ですから、原作でも鉄道運営局や駅員の調査は絶対にしているだろうと解釈をさせていただいてます。


そして次回は、いよいよお待ちかね。
あの鬼と烈さんとが出会う事になります。


Q:無限列車の添乗員って?
A:アニメ及び劇場版で、煉獄さんが食べた弁当の山を片付けていた二人組の女性です。
 彼女達は車掌と異なり何も知らない一般人だったのですが、殺害すると車掌を真っ先に捕縛される危険があったので、撹乱を狙い魘夢が敢えて生かしていました。
 ただ、切り裂き魔の方が別の車掌を殺害するというイレギュラーを起こしたため、結局怪しまれる羽目になりました。

Q:終着駅に居た駅員は、魘夢の協力者?
A:はい、乗客殺害後の後処理を円滑に進める為に用意していました。
 烈さん達の考察通り、神隠しについての書類処理が担当です。

Q:終着駅にいた二体の鬼って、劇場版で煉獄さんが夢の中で倒した鬼達?
A:その通りです。
 魘夢が自分の存在を隠す為に切り裂き魔同様に誘導し、また終着駅で無事下車できるように足止め用の捨て駒として用意していました。

Q:玄弥、たった数日でかなり強くなってない?
A:鬼喰いの影響もあって元々フィジカル面では優れていた為、拳法家としての素質はかなりありました。
 また、岩柱の下での修行内容を聞いた烈さんも、そこから中国拳法へと自然にシフトしていける様に内容を考え実施したので、吸収は早いです。
 何より、自分を後継として認めてくれた烈さんへの感謝で相当前向きになっている為、厳しい修業も全く苦とは思っておらず、ジャック・ハンマーの如く熱心に取り組んでいます。
 
Q:現時点での玄弥の強さは?
A:並の隊士よりかは強いですが、常中を習得している炭治郎達と比べれば流石に劣ります。
 しかし、ここに鬼食いが加わればどうなるかは分からないです。
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