鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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皆様、本当にありがとうございますッッッ!!!


03 殴られるという事

グラップラーによる猛獣退治の武勇伝は、事欠かない。

 

 

 

 

 

範馬刃牙と愚地克己は、奥飛騨の山地に生息する巨大かつ凶暴な夜叉猿を倒した。

 

 

 

愚地独歩は、空腹となり獰猛さを剥き出しにした人喰い虎を倒した。

 

 

 

アレクサンダー・ガーレンは、全長15メートルはあるであろう大蛇を倒した。

 

 

 

 

優れた闘士の実力を証明するには、十分すぎる功績の数々。

 

故に烈海王もまた、猛獣相手に闘う事が出来ればと望んでいた。

 

 

 

 

しかし……眼前にいる相手は、果たして猛獣と呼んでもいい相手なのかッ……!?

 

 

 

 

(鵺……空想上の生き物ではないかッ!!)

 

 

 

鵺。

それは日本に古くから伝わる、極めて凶悪とされる妖怪の一つ。

猿の頭に虎の手足と胴、長い尻尾には蛇を宿すと言われている、恐るべき怪物だ。

当然、地球上にそんな出鱈目な生物が存在する筈がない……無い筈、なのだ。

 

 

 

しかしッ!!

 

 

 

現に今、鵺は烈海王の前に姿を現したッッ!!!

 

 

 

下弦の陸『釜鵺』が、その身を変異させてッッッ!!!!

 

 

 

(肉体のベースは虎だが、尻尾の蛇はどう動かせるのだ!?

 猿の貌となると、視野は?

 噛みつきの威力も、果たして……!!)

 

 

夜叉猿、虎、大蛇。

正しく先程連想した三匹だが、個々ならば十分対処できるという自信はある。

 

だが……融合体となると、全く未知の領域だ。

全ての長所を持ちうる野獣……その厄介さは如何程か。

 

 

 

ジャック・ハンマーが仕留めた、巨大な北極熊か……否、その領域は確実に超えている。

 

 

花山薫が砕き潰した、ホホジロザメか……海中と陸上では、一概に比較はできない。

 

 

ならば……範馬勇次郎が葬り去ったという、軍隊ですら太刀打ちできずにいた超規格外アフリカゾウのレベルか?

 

 

或いは……ピクルが喰らってきた、原始の恐竜達に届きうるか?

 

 

あらゆる可能性が、烈海王の脳裏によぎる。

人知を超えた、恐るべき物の怪……この強敵を前にして、彼が抱いた感情は。

 

 

 

(……面白いッッ!!

 刃牙さんは、象形拳でティラノサウルス、プテラノドン、トリケラトプスの融合した恐竜を作り上げた。

 あのイメージ力の凄まじさは、大したものだったが……しかしッ!

 これはリアル……形のある、外ならぬ現実だッッ!!)

 

 

 

強い歓喜ッ……!!

 

怪物への恐怖など、微塵もない。

あるのはただ、未知の存在と闘える事への喜びだった。

何せ、四千年を誇る中国武術界の歴史において……こんな相手と闘った者は、誰一人としていなかった。

 

外ならぬ、自身が初なのだ。

 

 

これを喜ばずしていられようかッッ……!!

 

 

 

 

「フゥゥ……!

 これが、俺の真の姿だ……!!

 この姿になった以上……最早、お前に勝ち目は無いッッ!!」

 

 

一方、対する釜鵺は……当然ながら、凄まじい怒気を全身から発している。

彼からすれば、闖入者―――それも、鬼狩りでも何でもない男―――に好き放題殴られ蹴られたのだから、不快極まりない。

 

まして自分は、選ばれし十二鬼月の一人。

鬼の始祖―――偉大なるあのお方にその実力を認められた、鬼の中の鬼。

下弦の陸『釜鵺』なのだ。

 

 

その誇りを傷つけられて……どうして黙っていられようッッ……!!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

先に仕掛けたのは釜鵺。

溢れ出る全ての怒りを四肢に込め、凄まじい勢いで烈海王へと飛び掛かった。

倒れ伏している片平隊士の事など、最早眼中に入っていなかった。

 

自身をコケにした男の肉体を、原型無きまでに砕き散らして絶望させ、骨の一欠けらも残さず食らう。

そうする以外に、この激情を晴らす方法などないのだからッッ……!!

 

 

 

 

――――――バッキャアァァッッッ!!!!

 

 

 

大振りで繰り出された爪の一撃を、烈海王はすかさず横に跳んで回避。

代わりに、その背後にあった大木が見事直撃をもらい……派手にぶち折れた。

轟音を立てて倒れこみ、震動が周囲へとビリビリ伝わっていく。

 

 

(ほう……!

 このパワー、単なる虎の物でも無いな……!!)

 

 

その様を見て、その揺れを感じ取って、烈海王は釜鵺の力を冷静に分析する。

唯の虎の一撃ならば、深い引っ掻き傷こそ残せどこの太さを折る事など出来はすまい。

助走の勢いを加味しても、筋力は中々のものと見た。

 

 

 

「逃がすかァァァッ!!」

 

(加えて……やはりある、猫科特有の敏捷性ッ!!)

 

 

烈海王を追い、釜鵺もまた瞬時の横跳びを見せた。

そのスピードたるや、視界に捉えるのも容易ではない。

 

 

実戦空手の父、大山倍達曰く。

仮に人と猫が檻の中で戦ったならば、人は刀を持って対等との事である。

爪、牙、反射神経。

人が持ちえぬ様々な武器を有する猫だが……とりわけ、運動神経とスピードッッ!!

この二点において、猫は人を大きく上回っている。

 

それは、体格・重量が数倍の虎であろうとも基本的には変わらない。

強靭なバネと機動力を以てして、釜鵺は再度烈海王へと迫るッ……!!

 

 

「だが、如何に速かろうとッッ!!」

 

 

二撃目もまた、烈海王は跳躍して回避した。

しかし……今度は、横ではなく上にだ。

如何に相手のスピードが速かろうとも、動きの予測がついていれば回避は出来る。

烈海王は釜鵺がまず横跳びで襲い掛かるだろうと当たりをつけており、そして実際にそうなった。

 

頭上というのは、人に限らず多くの生物にとって死角となる位置。

そして、延髄―――即ち首は、あらゆる生物にとって急所となる箇所。

 

烈海王は釜鵺の頭上を取り、そこに狙いを定めた。

高い治癒能力を持つ怪物なれど、首を折られればタダでは済まない筈だ。

 

放つのは、虎殺しの独歩がトドメに使ったのと同じ形―――手刀。

鍛え抜かれた烈海王のそれは、サンドバック―――それも、死刑囚ドリアンが加藤を中に詰めていたビッグサイズ―――すらも両断する鋭さを持つ。

タイミングは完璧であり、まず防がれる事のない一撃である。

 

 

 

ただし……それは、通常の生物ならばの話だ。

 

 

 

「シャアァッ!!」

 

(ッ……!?

 尻尾の……蛇ッッ!!)

 

 

釜鵺の尾は、視覚を有する大蛇なのだ。

故に、例え相手が背後・頭上を取ろうとも、そこに死角は一切ない。

特有の唸り声を上げ、中空の烈海王へと蛇が身を伸ばした。

噛みつきか締めつけか。

烈海王の腕程の太さがある大蛇だ、どちらで来ようとも相応の威力はあるだろう。

 

 

「シィッ!!」

 

 

咄嗟に空中で身を捻り、紙一重で大蛇の頭を回避する。

更にはその勢いに乗せて、裏拳を側頭―――勿論、本体ではなく蛇の―――に叩き込んだ。

ただ避けただけでは、巻き付きに移行される恐れがあった。

それを防ぐ為、拳で大蛇を弾き距離を取ったのだった。

 

そして、烈海王の攻撃はまだ終わらず。

首への攻撃を見舞う事は叶わなかったが、着地したのは胴の真横だ。

四足獣は真正面から相対すると脅威だが、しかし側面というのは意外と良いポジションになる。

 

 

「破ッッッ!!」

 

 

 

何せ、虎の様に胴の長い四足獣には、手足が届かないのだからッッ……!!

 

 

 

「グギャアアアアァァァァァッッッ!!??」

 

 

 

釜鵺の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

正しく天然のサンドバッグッッ!!!

 

 

木槌の様だと自身で例えた拳が、釜鵺自身の身に、今まさに連続してぶち込まれているッッッ!!!!!

 

 

 

(何なんだよ、これは……この威力はッ!?)

 

 

釜鵺は襲い来る痛みの中、烈海王に恐怖を抱いた。

真の姿に変化し、皮膚は硬くなり防御力は確実に上がっている。

多くの鬼狩りが繰り出してきた日輪刀の一撃を、防ぎきってきた実績とてある。

 

 

 

だというのに、この拳打は何だッ!?

 

硬い表皮を貫き……体の内側に、衝撃が響いているッッッ!?

 

こんな打撃があるというのかッッッ!!??

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――隊士ならば知っての通り、上位の鬼になればなる程、皮膚の硬さは上がる傾向があります。

 

 

―――首を断とうとした日輪刀が逆に折れるなんてのは、まあ日常茶飯事ですよ。

 

 

―――拳なんて繰り出そうものなら、逆に拳の方が砕けるものなんですが……

 

 

 

 

―――中国武術って、とんでもないですよね。

 

 

―――後で烈さん自身に聞いたんですが、あの打撃は『発勁』って技術を使ってて……

 

 

―――まあ大雑把に言うと、相手の内部にまでしっかりと衝撃を伝えられるらしいんですよ。

 

 

 

 

 

―――体内への威力……断ち切る事に重きを置く俺達剣士には、無い発想ですね。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

発勁。

それは中国武術における力の発し方であり、多くの武術にとって深奥とされる極意でもある。

その解釈は、武術の流派によって詳細が異なる事もあるが……共通する点を、分かりやすく現代風に言うと。

 

 

 

運動エネルギーのロスを如何に生じさせず、対象に叩き込めるかという技術だ。

 

そして烈海王の発勁は、超一流の一言に尽きる。

 

 

 

ボクシングの元ヘビー級チャンピオンにして一流の闘士であるアンドレイ・ワーレフを、ノーインチからの一撃で制する。

 

 

拳を押し当てた密着状態からの突きで、サンドバックを破壊―――それも、反対側から破裂する形で―――する。

 

 

横並びにさせた合計九つのコンクリートブロックに打撃を加え、指定された位置のブロックのみを粉々に粉砕する。

 

 

高速で突っ込んでくる二輪車を真正面から片手で受け止め、衝撃を後部に伝わらせて破壊―――運転手は全くの無傷―――する。

 

 

 

『魔拳』の異名に恥じぬ、数多くの功績を打ち立ててきた烈海王にとって。

釜鵺の皮膚が如何に硬かろうとも、突破し内部にダメージを届かせる事は十分可能である。

 

また、拳が砕けるのではないかという片平隊士の心配だが、これも問題は無い。

烈海王の拳の硬さは、彼の想像を大きく超えている。

何せ、2メートルもの巨大な黒曜石を実に二年もの間殴り続けて、宝石の様に磨き上げるという荒行を成し遂げているのだ。

そんな拳が軟な訳ない。

 

 

(打撃……殴られるッ……!?

 殴られる痛みが、こんなッッッ!!??)

 

 

襲い来る、染み渡る痛み。

釜鵺にとってそれは、言葉で表し辛い未知のモノであった。

 

何せ彼は―――寧ろ大半の鬼が、だが―――殴られる事に慣れていなかった。

片平隊士も後に語った様に、鬼殺隊の攻撃は刀による斬撃が主だ。

一応、鉄球等を使う例外的な隊士もいるにはいるが……それでも、打撃で鬼を倒しにかかる隊士はいない。

まして烈海王の様な拳法家など、誰一人としていない。

 

故に……斬られる事は多くあれども、殴られた経験は皆無。

殴られる事への耐性が薄いのだ。

ダメージは軽減される事なく、体内へと確実に蓄積されていく。

 

 

(外傷が即座に治癒され、脳震盪も一切起こさぬ肉体……

 ならば、体内の臓腑に衝撃を与え続ければッッ!!)

 

 

烈海王の狙いもそこにあった。

外傷が致命打にならないならば、内部を破壊すればいいのではないかと。

実際、痛みは確かに伝わっている様だ。

 

 

(先程は、この怪物の弱点を残念ながら聞きそびれてしまった。

 太陽がどうこう、と言うのまでは伝わったのだが……)

 

 

情けない話だが、実は烈海王は男の話を聞き逃していたのだ。

怪物の咆哮と変容という異常事態に、不覚にも意識を奪われてしまったが為に。

故にこうして、出来る事を試しているのである。

 

 

(押し切るッッッ!!)

 

 

 

拳撃は、更なる苛烈さを見せる。

重さ・鋭さはより増し、肉体の損傷度はより加速する。

 

 

このままいけば、確実に勝負は決まるだろう状況だ。

 

 

 

 

 

……しかし。

 

 

 

 

「ッッッ……!!!

 貴様ァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」

 

 

 

それは相手が、通常の生物ならばの話。

 

 

 

如何に優れた拳打があろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

それでは『鬼』は倒せない。

 

 

 

 

 

 




Q:烈さん、太陽でないと鬼を殺せないって聞いたのに、何で構わず殴ってるの?
A:釜鵺が喧しかったのと、目の前で妖怪変化という異常事態に気を取られて、上手く聞き取れていませんでした。
  後、未知の存在相手でテンション上がってて「とりあえず殴りたい」気持ちが強く出てます、きっと。

Q:鬼って殴られて痛み感じるの?
A:作中でも書いたように、斬られる事には慣れてても殴られた経験はあまり無いです。
  また、半天狗がヒノカミ神楽を喰らった時・黒死牟が赫刀を喰らった時の反応からしても、鬼にも痛覚はある筈です。

Q:会議の時と比べて、釜鵺のメンタル強くない?性格ちょっと違う?
A:理不尽の権化な上司相手じゃなく、余裕で倒せる隊士に一般人が相手の差があります。
  そして、その一般人に殴られ放題されたので、怒りでテンション振り切れた結果です
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