鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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タイトルからある程度の想像はつくかもしれませんが。

原作から大きく前倒しで、冨岡さんの過去話に突入します。
原作では、炭治郎の言葉によって解決する問題でしたが……今作では烈海王が介入した結果、大分異なる展開を迎えております。

どうかご了承お願いします。



34 漢として生まれたなら

 

 

 

 

凪。

 

 

それは、波紋一つ立たない無風の海面を意味する言葉である。

 

 

 

そしてその名を冠する剣技が、水の呼吸が拾壱ノ型。

 

 

 

間合いに入った全てのモノへと瞬時に無数の斬撃を浴びせ、凪の名が指し示す通り……無に帰す極意。

 

 

 

 

水の呼吸は本来、拾までしか型は無い。

 

 

 

この凪は、冨岡義勇が水の呼吸を極めた先に編み出した秘儀。

 

 

 

他の誰にも真似する事は出来ぬ、彼だけが掴んだ、彼だけのオリジナル。

 

 

 

 

 

その威力を以て……冨岡義勇は、烈海王との闘いを終わらせたのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ここまでですね……お見事でした、冨岡さん」

 

 

 

魔拳の乱れ打ちと凪。

 

激しい破壊力を持つ二つの技が激突し合った末……二人の勝負は、続行が不可能となっていた。

 

 

 

 

「いやはや、参ったものだなッ!!

 俺の時もそうだったが、やはり烈さんや柱同士の手合わせとなれば得物が耐え切れんかッ!!」

 

 

 

木刀と拐が、砕け散ったが為に。

両雄の力を前にして、武具が限界を迎えてしまったのだ。

 

一年前の御前試合でも同様だった。

杏寿郎の言う様に、柱レベルの隊士が全力でぶつかり合ってしまえば、鍛錬用の武器では彼等の力を受け止め切れない。

故にこの結果を迎えるのは、必然であった。

 

 

 

「感謝する……良い経験になった」

 

 

しかし、勝者を決める事こそ出来なかったものの。

この結果は、烈海王も義勇も十分に満足できるものであった。

今までに体験したことのない武を、存分に味わうことが出来たのだから……得られたものは、実に大きかった。

そうはっきりと、言い切る事が出来る。

 

 

 

 

「……冨岡さん。

 これで、すっきりしましたか?」

 

 

 

 

だからこそ……烈海王は、知りたかった。

 

 

水柱の名に恥じぬ剣技……それを手にするまで、義勇は血が滲む様な努力を積み重ねてきただろう。

 

 

 

ならば、何故……彼は、炭治郎の許しを拒んだのか。

 

 

より己が武を高められる機を自ら手放す、その矛盾の正体は……一体、何なのか?

 

 

 

 

 

「もし、話し辛いというのなら……少々、ずるい言い方をさせていただきましょう」

 

 

 

とは言え、それが彼の心に深く根ざす問題であるならば、他者へと簡単に話せるものでもないだろう。

 

 

故に……烈海王は、こう切り出したのだった。

 

 

 

「今回の手合わせは、貴方から申し出たものだ。

 私はそれを受けた側になる……ならば、対等にいくのであればこちらからも一つ要求する権利がある。

 そういうことになりませんか?」

 

 

 

この手合わせの代価という形で、話してほしいと。

 

 

己が命を賭けてまで炭治郎と禰豆子を助けた、その気概……闘いを通じて、より一層理解することが出来た。

決して、彼は恩を仇で返す様な人物ではない。

そう断言できる。

 

 

ならば……敢えてこう問う事で、彼は答えてくれるに違いない。

 

これは、そう信じたが為の選択―――烈海王なりの、助け舟でもあった。

 

 

 

 

 

そして……その判断は、正しかった。

 

 

 

 

 

「……俺は、最終選別を突破していない」

 

 

 

 

 

義勇は、彼の心に応え……全てを、話しはじめたのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「俺は、柱達と対等に肩を並べられる人間ではない」

 

 

 

 

 

義勇が語った内容に、炭治郎達はただただ言葉を失うしかなかった。

 

 

 

 

――――――彼には、錆兎という唯一無二の親友がいたという事。

 

 

――――――錆兎は優れた実力の持ち主で、彼曰く自分を遥かに凌いでいたという事。

 

 

――――――共に受けた最終選別において、山に放たれていた鬼の大半は彼が一人で倒したという事。

 

 

 

 

 

――――――自分はそんな彼に助けられ、鬼を一体も倒す事も出来ずにただただ生き残っただけの存在……選別を突破できたとは到底いえない人間であるという事。

 

 

 

 

――――――そして……錆兎は、最終選別で命を落としてしまっていたという事。

 

 

 

 

 

(そうか……だから、冨岡さんは……)

 

 

 

義勇の過去を聞いた今、炭治郎は全てを理解することが出来た。

 

 

 

―――水柱になってもらわなければ困る。

 

 

 

あの怒りは、自身が水柱に相応しい存在ではないという自責から。

 

 

 

 

―――俺は炭治郎を継子に出来ない。

 

 

 

あの否定は、柱ではない自分に継子を作る権利なんて無いという無力さから。

 

 

 

 

―――俺は、お前達とは違う。

 

 

 

あの拒絶は、己が皆と共にいていい人間では無いという辛さから。

 

 

 

(冨岡さんは……自分が死ねばよかったんだと、思い続けているんだ)

 

 

 

ずっと、彼は苦しんできたのだ。

 

自分よりも生きていてほしかった大切な者が、自分を守り死んだという事実が……その心を、抉り続けてきたが為に。

 

 

 

(錆兎がもし生きていたら、きっと凄い剣士になったんだろうな……それもあって、冨岡さんは余計に辛いんだ)

 

 

 

錆兎の名を聞いた瞬間、炭治郎は言葉に出来ない衝撃を受けた。

彼は、錆兎に会った事があったのだ。

 

鱗滝左近次の下、水の呼吸の修練に励んでいる最中……どこからともなく現れた、不思議な少年。

未熟な炭治郎に稽古をつけ、鍛え上げた……既に死んでいる筈の剣士。

 

志半ばに果てた無念からか、或いは同じ師を持つ剣士を守るためか……霊となって尚も、彼は鱗滝一門を助けようとその刃を振るった。

その存在が決して幻ではなかった事は、炭治郎の肉体に刻まれた経験が証明している。

 

 

その強さはよく知っている……だから、義勇の気持ちは痛いほどに分かる。

 

 

 

(けれど……俺に、何が言えるんだろう。

冨岡さんにとやかく言える立場じゃない、俺に……)

 

 

 

しかし、自分に何が言えるというのか。

彼等の事を何一つ知らない自分が、言葉をかけたところで……

 

 

 

 

 

 

 

(……え……?)

 

 

 

 

 

 

そう考えていた最中……炭治郎の鼻に、ある匂いが届いた。

 

 

誰しもが沈痛な面持ちをして、悲しい匂いを発している中において。

 

 

 

 

 

ありえない筈の匂い―――怒りの匂いがッ……!!

 

 

 

 

 

(え……ええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~ッッッッ!!!!????)

 

 

 

 

 

 

匂いの大本は……烈海王ッッ!!!

 

 

いや、もはや匂いが出ているという次元ではない……表情が、佇まいが、全身から滲み出ている闘気がッ!!

 

 

 

 

傍目から見て、丸分かり過ぎる程にッ……!!

 

 

その全てが、怒りに満ち満ちているッッ!!!

 

 

 

(なんで、なんで怒ってるんですか、烈さんッッ!!??)

 

 

 

義勇の境遇に共感していた身としては、同じく我が事の様に感じられてならない大激怒。

 

たまらず、義勇と烈海王との間でおろおろと視線を行ったり来たりさせる炭治郎……真横の千寿郎も、全く同じ反応をしている。

 

槇寿郎と小芭内の二人も、流石に彼等程ではないにしても驚きの色が表情に浮かんでいた。

 

 

 

そんな中で唯一、杏寿郎だけは極めて真顔で、且つ真剣な眼差しを烈海王と義勇の両者に向けている。

 

 

烈海王が何を思い、何に怒っているのか……彼には、察しがついているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「喝ッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

そして間も無く。

 

憤怒の形相で、烈海王は義勇へと一喝ッ……!!!

 

 

凄まじき怒気を、彼にぶつけたのであったッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「冨岡さん……貴方は、それで良いのかッッッ!!!」

 

 

 

 

武に生きる者として。

 

烈海王には、どうあっても許せない事があった。

冨岡義勇に、問わねばならぬことがあった。

 

 

 

「最終選別を超えられなかった己を不甲斐ないと恥じる思い……それはよく分かる。

 私とて、己が実力で勝ち取った訳ではない勝利を与えられようものならば、断固として拒否しよう。

 自らの勝利を誇れぬのは当然だ……そこに一切の間違いは無い」

 

 

 

それは、最終選別を突破していないと己を恥じる心か?

否……寧ろその点に関しては、烈海王は強く同調していた。

 

闘いの場に赴きながら、己が力量を示す事は叶わず……それにも関わらず、勝者の座を与えられた。

そんなものは、断じて勝利などではない。

これを功績などと誇る事は決して出来ない……嬉々として語る者がいるならば、それは唾棄すべき愚者だ。

 

 

 

しかし、だ。

 

 

 

「だが……貴方はそこから、己を磨き続けた。

 そんな己を恥じたからこそ、人一倍努力を重ねたのだろう……ならばッッ!!

 今の己までも、何故卑下するッッッ!!!!」

 

 

 

その恥ずべき勝利があったからこそ、重ねられた努力―――この手合わせとて、その思いがあったからこそ望んだ筈だ―――があるというならば。

 

 

「手合わせをしたからこそ、私にはハッキリと断言できるッ!!

 貴方自身がどう思おうとも、貴方は水柱だ……それに相応しいだけの強さがあるッッ!!

 誰も貴方の代わりになど、なれはしないッッッ!!!」

 

 

今の己を形作るに至った強さを得られたのであれば……決して、それだけは否定してはならないッ……!!

 

 

 

「そんな貴方に憧れた、目標と定めた隊士は大勢いるに違いないッ!!

 炭治郎さんや禰豆子さんとてそうだ……貴方が二人を救い導いてくれたからこそ、今があるッッ!!!

 ならば……貴方が己を卑下する事は、貴方が道を指し示した者達への侮辱ではないかッッッ!!!!」

 

 

 

謙遜も過ぎれば無礼となる。

自らを低く貶める事は、自らを慕う者達もまた貶める事に他ならない。

今の義勇は、炭治郎をはじめ多くの隊士に非礼を働いているも同然……これを見逃すことが、烈海王には出来なかった。

 

 

 

(烈さん……)

 

 

 

その叱咤は、千寿郎……そして槇寿郎の胸へと、強く響いた。

自らの無力を嘆き塞ぎ込んでいた槇寿郎を立ち直らせた、最後の一押し……それが、今の言葉に重なったのだ。

 

 

 

 

―――貴方は煉獄家の当主として、立派な剣士として在られた……だからこそ、見初められた。

 

 

 

―――それがこうも堕落していては、奥様も嘆かれるに違いない……どうか、立ち上がってください。

 

 

 

(けれど……なんだろう。

 父上の時よりも……烈さんは、怒っている……?)

 

 

 

だが……同時に、違和感も覚えた。

あの時と比べると、今の烈海王にはより強い苛烈さがある……より強い怒りを発している様に彼等には感じられたのだ。

 

 

 

「……お前の感じている通りだ、千寿郎。

 烈さんは、怒っている……冨岡の事を」

 

 

すると、杏寿郎―――千寿郎の思考を、表情から読み取ったのだろう―――がゆっくりと口を開いた。

 

やはり彼には、烈海王が何を思っていたのかが分かっていたのだ。

入隊以来、最も長く接してきた間柄であるからこその察しであった。

 

 

武に生きる者にとって、それを良しとするわけにはいかぬのだろう……と。

 

 

 

 

「無論、親しい者を失った痛みが貴方の根底にあるのは百も承知。

 その傷の深さは、私には到底想像できぬ……錆兎さんは、貴方にとって目標とすべき剣士だったのだろう。

 貴方程の剣士が認める腕前……生きていれば大成していたに違いない。

 だがッ……!!」

 

 

 

 

烈海王が、槇寿郎の時以上の激昂に至った理由……それは。

 

 

 

 

 

「貴方は……悔しくはないのかッッ!!!

 錆兎さんが素晴らしいと思うなら、超えてやろうと思わなかったのかッッ!!

 勝ちたいと、そうは思わなかったのかッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

義勇が、己の敗北を黙って受け入れている事である……ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ッッ……!!??」

 

 

 

 

烈海王の言葉を聴いた途端……義勇は、大きく目を見開き全身を硬直させた。

呼吸すらも忘れてしまう程の強い衝撃が、全身を一気に駆け巡る。

脳が一時的に思考を手放し、真っ白となる。

 

 

 

そんな事……考えてもみなかった。

 

 

 

錆兎は紛れもない天才で……彼の強さに、日々憧れた。

 

 

何故、劣る自分の方が死ななかったのかと……何度も思った。

 

 

 

 

そんな錆兎に……勝つ……?

 

 

 

 

 

「錆兎さんが貴方の思う様な剣士であるならば、今の貴方を見れば嘆き悲しむ筈だッッ!!

 自分の友は、こんなに弱い男だったのかと……こんな未熟者の為に命を張ったのではないとッッッ!!!」

 

 

 

 

周囲の者達からすれば、それは暴論もいい所だった。

 

烈海王は、錆兎の事など勿論何も知らない……ただ、義勇の言葉から捉えた印象でのみ彼を語っている。

 

義勇の立場からすれば、知ったような口を利くなと激怒してもいい場面だ。

 

 

 

 

「貴方が不甲斐無く生きる事は、それこそ錆兎さんへの冒涜ではないのかッッ!!!」

 

 

 

だと、言うのに。

 

 

 

 

―――他の誰でもないお前が……お前の姉を冒涜するな!!

 

 

 

 

(錆兎……)

 

 

 

 

 

義勇の胸中に到来したのは、怒りどころか……郷愁であった。

 

亡き友が、まるでそこにいるかの様な……懐かしさがあった。

 

 

 

 

 

「男なら、前へと進めッ!!!

 誇るべき目標がいるのならば、勝つ為に……超える為にッッ!!!

 貴方の目指す地点へ……錆兎のいた頂へと辿り着きたくはないのか、冨岡義勇ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――どんな苦しみにも耐えろ、義勇。

 

 

 

―――進め!

 

 

 

―――お前が漢なら、漢に生まれたのならッ!

 

 

 

 

 

 

「ッ……!!」

 

 

 

 

再び脳裏に蘇る、友の言葉。

 

それが今……完全に、烈海王の言葉に重なった。

 

 

 

 

(そう、か……さっきのは……)

 

 

 

手合わせの寸前。

何故、不意に錆兎の言葉が頭を過ったのか……その理由を、義勇はようやく理解した。

 

 

 

烈海王は、似ているのだ。

 

何処までも真っすぐで、面倒見が良くて……ぶれない、強い芯を持っていて。

 

 

 

 

 

だからだろう……自分は、烈海王との手合わせを望んだのだ。

 

柱どころか、隊士の誰にも持ち掛けた事が無かったというのに……何故か、彼には自然と言葉が出た。

 

 

 

 

その理由が、今ハッキリと分かった……彼の強さに興味を持ったのも勿論あるが、それ以上に。

 

大切な友の面影を……その背後に、見たが為だ。

 

 

 

 

 

「俺、は……」

 

 

 

 

瞳から、一筋の雫が零れ落ちていた。

 

もう長い間、涙なんて流していなかった……流す事を、忘れていた。

 

 

 

 

 

「俺は……錆兎に、勝ちたいッ……!!!」

 

 

 

 

気がつけば、奥底より湧き上がるその感情―――願いを、義勇は抑える事無く口にしていた。

 

 

 

男に生まれたのなら、前へと進め。

 

 

友から受け継いだ……ずっと忘れていた、その想いを。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(……冨岡さん……)

 

 

義勇が涙と共に発した、心からの言葉。

誇るべき友に勝ちたい、超えたいという願い。

 

それに合わせて、ずっと漂っていた匂い―――悲しみが、段々と薄れていくのを炭治郎は感じ取っていた。

烈海王の魂の叫びが、義勇の抱えていた闇を無事に払ったのだ。

 

 

 

(冨岡さんにも見えたんですね……錆兎の姿が)

 

 

 

錆兎の姿を烈海王に見たのは、義勇だけではなかった。

炭治郎にもまた、はっきりと見えていたのだ。

かつて、狭霧山で会ったときと同じ……厳しくも温かかった、その雄姿が。

 

 

 

(進め、男なら……男に生まれたのならッ……!!)

 

 

 

修行中、そう何度も投げかけられた。

錆兎のその言葉―――彼の信念は、確かな心の支えになってくれた。

 

 

 

 

そして、今も……炭治郎に、ある決心をさせた。

 

 

 

 

「烈さん、冨岡さん……義勇さん。

 素晴らしい闘いでした……ありがとうございます。

 おかげで、分かりました」

 

 

 

まずはゆっくりと立ち上がり、二人に一礼する。

この場に立ち会うことが出来た……それは、かけがえの無い経験となった。

 

より前に進む切っ掛けを、確かに掴む事が出来た。

 

 

 

「槇寿郎さんに呼吸を見せてから、俺……少し、焦っていたんです。

 俺には、父さんの様な立派な神楽は舞えない……一晩中舞い続けられる様な、あんな呼吸は出来ないって」

 

 

 

煉獄家の手記を目にした時。

自身の神楽と記されていた日の呼吸とに感じた差異は、己の未熟さに起因している物だと炭治郎は感じた。

だからこそ、呼吸を完璧なものにしたいと強く願った。

かつて、はじまりの剣士が扱っていた呼吸―――源流に限りなく近づける事で、完成度を高めようと。

 

その考えは、決して間違ってはいないだろう。

日の呼吸こそが最強である以上、それを目指すのは至極当然の事。

 

 

 

「炭治郎くん……」

 

「だから、俺の神楽を元の日の呼吸に少しずつ近づけて、その上で俺の身体に合った形に出来たらと考えてました。

 そうする事で、父の様に舞えたらなと……父の様になりたいと。

 その思いは今も勿論あります」

 

 

今思えば、義勇の抱えている問題を解決したいと願ったのは、彼の事が心配だからなのは勿論だが……焦りがあったからかもしれない。

一刻も早く父の如きヒノカミ神楽を習得したくて、その為の許しを得ようと願ったから。

 

 

 

 

 

だが……今の闘いを見て、烈海王の言葉を聞いて、こう感じてしまったのだ。

 

 

 

 

 

それでは、父やはじまりの剣士に『並ぶ』事は出来たとしても。

 

 

『超える』事は出来ないのではないか?

 

 

 

 

水の呼吸を極めた先に、新たな型を生み出すに至った……従来の水の呼吸を超えた、義勇の様に。

 

 

 

 

後から続く者達に託すと願ったはじまりの剣士も、そして父もきっと……それが望みの筈だ。

 

 

ならば必要なのは、更に一歩……日の呼吸を習得して尚、前へと踏み出す事ではないか?

 

 

 

 

「けれど、烈さんと義勇さんが教えてくれました。

 父が目標であることは変わりありませんが……俺は竈門炭十郎でも、はじまりの剣士でもない……竈門炭治郎なんだ。

 だから目指す事はあっても、同じになるんじゃなく……俺のやり方で、超えるべきなんだと」

 

 

 

早くに父を亡くして以来……自分は長男だから、父の代わりとして家族を支えなければならないと、ずっと思い生きてきた。

皆の父になろうとして、過ごしてきた。

 

だから、久しく忘れていたのだ。

 

 

 

強く大きな父の背を、目標を、憧れを、追い越したいと願う……男ならば、誰しもが一度は抱く当然の感情をッ……!!

 

 

 

 

「義勇さん……見ていてください。

 今から俺が出す技をッ!!」

 

 

 

 

炭治郎が日輪刀を鞘から抜き、両手で構える。

そして、強い集中の下に息を吸い……深く呼吸を練る。

 

 

 

それは、ヒノカミ神楽でもなければ水の呼吸でもなく。

 

 

ヒノカミ神楽でもあれば水の呼吸でもある呼吸。

 

 

完璧な神楽を舞えた父であっても、真似する事が出来ない呼吸。

 

 

 

 

炭治郎にのみ行える……炭治郎だけの呼吸ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ハアァァッッッ!!!」

 

 

 

 

 

――――――斬ッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ッッ……!?」

 

「これはッ……!!!」

 

 

 

 

炭治郎が披露した剣技は、その場にいる全ての者を驚嘆させた。

 

 

 

まず見せたのは、激しい濁流を髣髴とさせるうねりと速さの足捌き。

 

そして、その流れに乗せて繰り出された……紅蓮の炎を纏った、力強き刃による一閃。

 

 

 

高い完成度の呼吸には、その呼吸が司るイメージが視えるのは誰もが知ってのとおりだが……今の技に視えたイメージは、二つ。

 

水と火。

通常の呼吸ではありえない、複数の幻影を纏った剣。

 

これは、一体どういうことか?

 

 

 

「……成る程。

 水の呼吸とヒノカミ神楽の呼吸とを、混ぜ合わせたのですね」

 

 

 

その仕組みに真っ先に気づいたのが、烈海王であった。

 

水のイメージは水の呼吸、火のイメージはヒノカミ神楽によるもの。

どちらも、炭治郎が習得していた呼吸だ。

その二つが同時に視えたのであれば、結論は簡単……両者を掛け合わせた呼吸を、炭治郎が行った他にない。

 

 

「その通りです。

 水の呼吸のみよりも攻撃力は上がり、ヒノカミ神楽よりも長く動ける……今の俺が、最も力を発揮できる形の呼吸は何か。

 俺だけの持ち味を活かすなら……そう考えたら、出来ました」

 

 

同じ呼吸で優劣を競うのではなく、己にある持ち味を活かす。

そう視点を切り替えた時、二種の呼吸を掛け合わせることを思いついたのだ。

 

異なる呼吸を合わせる事への不安は一切無かった。

ヒノカミ神楽―――日の呼吸は、全ての呼吸の源流。

ならば、派生先である水の呼吸にもきっと合う筈という予感があった。

 

 

そして……何よりだ。

 

 

 

「義勇さん……俺は、義勇さんが願うような水柱になる事は出来ません。

 けれど、どんな形にも柔らかく変化する水の呼吸だからこそ、こうしてヒノカミ神楽と合わせる事が出来ました」

 

 

 

どのような状況下でも対応できる闘い方―――水の呼吸だからこそ、ヒノカミ神楽と合わせてもその真価を発揮できると信じていた。

 

 

 

「少し、義勇さんが思っている形とは違うかもしれませんが……俺は、鱗滝一門として水の呼吸を背負っていきます。

 悲しみの連鎖を断ち切る為に……鱗滝さんが、義勇さんが、錆兎が繋いでくれたモノの全てを、俺も繋いでいきますッッ!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――お前は絶対死ぬんじゃない。

 

 

―――姉が命をかけて繋いでくれた命を、託された未来を。

 

 

 

―――お前も繋ぐんだ、義勇。

 

 

 

 

 

(……大事なことだったのに……何故、忘れていた)

 

 

 

かつて、錆兎との間にあったやり取り。

 

その時の言葉が、次々と脳裏に再生されていく。

 

合わせて、頬を張り飛ばされた痛みと衝撃―――不甲斐ない己を立ち直らせようとした、錆兎の平手打ちによるもの―――が、鮮やかに蘇る。

 

 

 

ずっと忘れていた……否。

思い出さないように、心に蓋をしてきた記憶。

 

思い出せば、何も出来なくなってしまうから。

強い悲しみが、身体を……心を止めてしまうから。

 

 

 

(姉さん、錆兎……烈の言うとおりだ。

未熟で……ごめん)

 

 

烈海王の激しい言葉が、炭治郎の真っ直ぐな言葉が、心の蓋を外した。

 

おかげで、忘れていた涙が再び蘇った……けれど。

 

 

 

(俺は……前に進むよ)

 

 

 

大切な気持ちもまた、取り戻すことが出来た。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……すまなかった、皆」

 

 

義勇は涙をぬぐい、深々と頭を下げた。

己が未熟であったばかりに、皆に迷惑を掛けたと……今までのコミュニケーション力に欠けた彼からは考えられない程に、素直な謝罪であった。

 

 

 

「ふん……まったくだ。

 今まで随分な口を利いてきた理由が、こんな事だったとは……お前はもう少し、人に相談するという事を覚えろ。

 一人で抱えていたから、ここまで拗れたんだろうが……竈門炭治郎の様な、お前の助けになりたいという御人好しは多くいる。

 それを忘れるな」

 

「うむ、伊黒の言うとおりだ!

 俺達は仲間だ、いつでも頼ってくれて構わんッ!!

 助けが必要な時は、幾らでも力になるぞッッ!!!」

 

 

その謝罪に、小芭内は盛大なため息をついてネチネチと。

杏寿郎は快活明朗に、それぞれ言葉を返した。

 

まさか、今までの散々な義勇の態度が、過小なまでの自己評価からくる物だったとは……言葉足らずにも程がある。

こんな事を誰が予想できるというのか。

 

 

 

 

「では、冨岡さん……炭治郎さんを杏寿郎さんの継子にする事は、お許しになられるのですね?」

 

 

 

ここで烈海王が、義勇へと切り出した。

そもそも事の発端は、炭治郎が杏寿郎の継子になる許しを貰いに来た事にある。

ならば、その為の問題―――義勇の心を晴らせた今、断る理由は何も無いはずだ。

 

 

 

「……ああ、炭治郎は煉獄の継子だ」

 

 

 

そして、当然……義勇の答えは肯定。

 

炭治郎が杏寿郎の継子となる事を、了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

……が。

 

 

 

 

 

 

「そして……俺の継子でもある」

 

 

 

同時に、思いもよらぬ一言を口にもした。

 

 

 

「え……義勇さん……?」

 

 

「お前は、鱗滝一門の剣士だ。

 その技を受け継いでいくのなら……お前は、俺の継子だ」

 

 

 

 

煉獄杏寿郎の継子になる事は認めた。

 

だが、自分もまた彼を継子とすると……そう言ったのである。

 

自分達の願いを受け継いでいく、大切な存在として。

 

 

 

 

「義勇さんッ……はいッッ!!」

 

 

 

 

その言葉に、炭治郎は力強くハッキリと答えた。

二人の継子として、恥じぬ剣士になる。

 

そう、心に強く決めて。

 

 

 

 

 

「おい、冨岡、煉獄……良いのか?

 二人の柱が継子を持つなど、前例が……」

 

 

複数の柱が一人の継子を持つ。

この前代未聞の事態に、小芭内はたまらず杏寿郎へと問いかけた。

 

義勇の気持ちは分からないでもないが、隊の規律的にはどうなのか?

そう思ったが為に、彼の考えを聞こうとしたのだが……

 

 

「俺は一向に構わんぞ!!

 確かに前例のない事ではあるが、駄目だという決まりもないッ!!

 それに、継子が異なる呼吸の使い手であっても問題ないのも、胡蝶のところが良い例だッッ!!」

 

 

杏寿郎は、全面肯定であった。

駄目だとはっきり明文化されているわけではないのだから、一向に構わないと。

そもそも炭治郎の目的―――基本呼吸を学ぶ事でヒノカミ神楽の呼吸にフィードバックさせる事を考えれば、寧ろ好都合ともいえる。

 

 

「そうですね……私も、修行時代には複数の師から拳法を学んできました。

 おかげで今がある……師は何人いても、問題ないでしょう?」

 

 

そして、追い討ちをかけるかのように烈海王が言葉を発した。

彼もまた、幼少期には複数人の師に教わってきた身。

そうして手にした拳がある……であれば、炭治郎にも同じ事が言える筈だ。

 

 

 

 

「……まったく……」

 

 

 

 

二人の言葉に、小芭内はただただため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

尚、後日。

この件に関して報告を受けた耀哉は、あっさりとOKを出したのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

それから、凡そ半刻後。

皆、屋敷を発ってそれぞれの帰路についていた。

 

炭治郎は煉獄家の面々と共に再び炎屋敷へ。

 

義勇は水屋敷へ。

 

 

そして、烈海王と小芭内は二人並び揃って歩いていた。

小芭内は蛇屋敷に、烈海王は蝶屋敷に戻るところであったが、丁度道の方向が途中まで同じだったのだ。

 

 

 

 

「……烈。

 お前は、怖くはなかったのか?」

 

 

 

その最中。

小芭内は、不意に足を止めて烈海王へと問いかけた。

 

 

 

「伊黒さん……それは、冨岡さんの事ですか?」

 

「そうだ……あいつは無事に立ち直る事が出来たが、一歩間違えれば再起不能になっていたかもしれなかった。

 お前の言葉で、より心を閉ざす可能性もあった筈だ……それが、怖くはなかったのか?」

 

 

 

先程の一件。

烈海王の言葉によって、義勇は自身の弱さと向き合い立ち上がる事が出来た。

 

 

だが……小芭内には、それが綱渡りのように感じられていたのだ。

 

 

 

人間は誰しも、辛い過去を持っている。

 

忘れ去りたい、悲しい記憶……それを指摘される痛みは、決して小さいものではない。

 

 

 

自身が、そうである様に。

 

 

 

 

―――あんたが逃げたせいで、みんな殺されたのよッッ!!!

 

 

―――あんたが殺したのよッッッ!!!

 

 

 

「ッ……!!」

 

思い出すだけで、心が抉られる。

自分が如何に愚かで汚い存在であるかと、思い知ってしまう。

 

 

だから……先程の烈海王と義勇の会話は、聞いていて怖かったのだ。

一歩間違えれば、義勇の心に二度と癒えぬ傷を……自身と同じ様な痛みを、与えるところだったのではないかと。

 

そうなる事を、烈海王は……怖くはなかったのか。

それを確かめたかったのだ。

 

 

 

「……何も、不安はありませんでしたよ」

 

 

 

すると、あまりにもあっさりと烈海王は答えた。

そんな不安など……微塵も抱いていなかったと。

 

 

 

「冨岡さんは、そんな弱い男じゃない。

 私の言葉に痛みを覚えようとも、そのままでは終わらない……絶対に立ち上がる事ができる。

 そう信じてましたからね」

 

 

 

冨岡義勇の強さを信じていたが故に。

 

 

 

 

「……お前……そうか」

 

 

実に単純な、これ以上ない答えだった。

そう言われてしまえば、小芭内にはもう何も言うことは出来なかった。

 

烈海王は、義勇ならば大丈夫と信じ……自分は、彼を信じ切れなかった。

心の強さで、負けたという事か。

 

 

 

「強いな、お前は……」

 

 

烈海王の真っ直ぐな生き方が、想い人―――蜜璃とはまた違った形ではあるが、実に眩しく見えた。

自分の様な汚い人間とは違うと……そう、嫌でも感じる他になかった。

 

 

 

「……伊黒さん。

 私は、貴方の過去に何があったのかを知らない。

 だから、何を言うべきかは分かりません」

 

 

すると。

流石の烈海王も、小芭内の言動と態度から察したのだろう。

彼もまた、義勇と同じく何かを抱えているのだろうと。

 

自らの死を望む意思―――先程までの義勇が抱えていたものと似たモノが、あるのだろうと。

 

 

 

「ただ……これだけは言わせていただきたい」

 

 

 

しかし義勇と違い、彼はまだ何も語ってはいない。

だから、烈海王には告げられる言葉は何もない。

事情を語ってくれるのであれば、話は勿論別ではあるが……それを催促する事は出来ない。

 

 

 

ならば……言える事は、一つだ。

 

 

 

 

「もし、貴方に大切な方がいるのなら……その方の強さを信じてはいかがですか?

 全てを打ち明けても、受け入れてくれると……そんな狭量な方ではないのでしょう?」

 

 

 

自分に言うことは出来なくても、自分より信を置ける相手がいるのであれば、その者に全てを明かしてみろ。

伊黒小芭内が信じた者であるならば、全てを受け入れられるだけの強さがあるに違いない。

たとえどれだけ、己を卑下しようとも……それをも、伊黒小芭内を構成する大切な一部分として認めるだろうと。

 

 

 

「ッ……!!」

 

 

信じる者。

そう告げられて小芭内の脳裏に真っ先に浮かぶは、やはり甘露寺蜜璃の姿であった。

底抜けに明るく優しい……辛さも苦しさも微塵も感じさせない、あまりにも普通の女の子。

 

彼女と話していると、まるで自分も普通の青年に戻れたかのように……とても楽しくいられる。

何度、その存在に心が救われた事か。

 

 

 

「……俺は、彼女の傍にいる事は出来ないと思っていた。

 俺の様な穢れた血が、隣にいていい筈がないとな」

 

 

そんな彼女だからこそ、自分が隣にいてはいけないと思った。

鬼の手によって繁栄し、人を殺す事で私腹を肥やしてきた血族である自分に、その資格はないと思った。

 

 

 

だから、考えた事もなかった……彼女の方から、それでも構わないと言われるパターンを。

 

 

 

「……こんな俺でも、受け入れてもらえるのだろうか……?」

 

 

希望的観測といえばそこまでだが……明るい未来を少しでもイメージしてしまうと、気の持ち様が変わるのが人間という生き物だ。

それは、小芭内とて例外ではなかった。

 

 

 

「こんな……醜い俺でも」

 

 

口元を覆い隠す襟巻を、ゆっくりと外す。

 

 

両端を頬まで切り裂かれた、爬虫類を髣髴とさせる唇。

鏡を見れば、否が応でも一族を支配していた鬼を思い起こさせてしまうその形相。

自らが穢れた存在であるという証明の傷。

 

 

この傷を誰かに見せるのが嫌で、特に蜜璃の前では徹底して気を払っていた。

それを、今……自らの意思で、小芭内は外した。

 

上手くは言えないが……烈海王にはと、気が付けば不思議とそう思っていたのだ。

 

 

 

 

「なんだ、全然普通じゃないですか」

 

 

 

そして、傷跡を見せられた烈海王はと言えば、全く気にする素振りも見せなかった。

たかがその程度の傷かと、そんな様子であった。

 

 

実際……あの花山薫や、ピクルに口元の皮膚を丸ごと食いちぎられたジャック・ハンマーに比べれば。

たかがこの程度、烈海王からしたら可愛いものである。

 

武術家は、傷を負ってなんぼのものなのだから。

 

 

 

「刀削麺の作り方を教えた時も、ずっと口元を隠して召し上がらなかったから、余程のダメージがあるのかとばかり思っていましたが……」

 

「ふん……そんな反応をされては、悩んでいたのが少し馬鹿らしくなってくるな」

 

 

 

 

完全に振り切る事は、流石にできない。

 

恨みがましい目をした亡霊達は、未だに自分にしがみついている……その感覚はある。

 

 

 

けれど……同じように辛い過去を背負っていた義勇も、前に進むと決めたのだ。

 

なら、同じ男として……彼に出来た事が自分に出来ないというのも、悔しく感じる点はある。

 

 

 

 

だから自分も、少し前に進もう……自分を信じてくれるであろう者の為に。

 

 

そんな、今までよりも少しだけ前向きな気分に……なる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「あれ……烈さん、あれって」

 

 

数日後。

任務を無事に終え、烈海王と玄哉は街道を歩き帰路についていた。

 

その最中……二人の目に、ある光景が飛び込んできた。

 

 

 

 

「……ふふっ。

 最強よりも最愛……ですか」

 

 

 

街道の一角に位置する、小さな喫茶店。

その窓際の席に、一組の男女が座っていた。

 

 

特徴的な桜色の髪をした女性―――恋柱、甘露寺蜜璃。

 

そして、その対面に座るのは……蛇柱、伊黒小芭内。

 

 

 

 

 

楽しそうに笑い合い、食事を口に運ぶ『二人』の姿が、そこにはあったのだった。

 

 

 




Q:煉獄さんの時と同じ決着ですか?
A:宮本武蔵が竹刀を一瞬で粉砕したように、練習用の武器では柱や烈さんには耐えられません。

勝負の結果ですが、武具粉砕による引き分けという形にさせていただきました。
鬼滅原作でも水柱と風柱が互いに木刀を粉砕しあって勝負を終えてますので、ある意味当然の帰結です。


Q:錆兎の事を知った烈さんは、一体どう答える?
A:大激怒します。

炭治郎は冨岡さんの過去を知って深く共感しましたが、烈さんは寧ろ怒るだろうと考えこの様な展開とさせていただきました。
目標といえる男がいるのなら、それに勝とうと思わないでどうする。
自分では叶わないと負けを認めたまま生きるなど、言語道断と……無惨にぶちギレたのと、根本は同じです。

ただ、それが思わぬ形で功を奏しました。
錆兎が何度も口にしている「男に生まれたなら」という台詞ですが、これは正しく刃牙世界における最大のテーマ「男として生まれたからには、一生のうち一度は夢見る地上最強の男」に通じるものがありました。

その為、冨岡さんは烈海王の言葉に錆兎の姿を重ねて、まるで彼に怒られながらも励まされた様な形になり、錆兎に勝ちたいという願いを持つに至りました。


また、これに合わせて炭治郎にも大きな変化が起こりました。


Q:炭治郎、原作よりも早く複合呼吸を習得?
A:父親越えという目的意識が生まれた事に加え、冨岡さんの凪を改めて見て、自分もまた自分だけのオリジナルをと触発されました。

感想でも「日の呼吸の習得を目指すだけではただの守りでしかない。炭治郎は縁壱になれないのだから、自身の呼吸を生み出す形にしないと意味がないのでは?」というご意見を頂いてましたが、正しく自分が書きたかった展開がそれでした。

原作の炭治郎はヒノカミ神楽を習熟させ、最後には日の呼吸を完全な形でマスターしていますが、遊郭編での水・神楽の複合呼吸に加え、半天狗戦での円舞一閃の様に、独自の技もまた見せています。
今作ではそこを踏まえ且つ冨岡さんの話と合わせる事で「炭治郎は神楽のマスターを目指し、且つそこから一歩進む事で自分だけの強さを目指す」形とさせていただきました。
縁壱は化け物すぎるのでアレですが、刃牙同様に漢として父越えを目指してほしいです。


Q:炭治郎の性格を考えたら、父親に勝ちたいと思う事はないのでは?
A:早くに父を亡くした事で、自分が父親代わりにならなければという思いが強かった為に、父越えの発想が出なかったと解釈しました。
  炭治郎自身は錆兎の動きを見て「あんな風になりたい」「勝ちたい」と思ったところを見るに、競争心自体は絶対にあると判断しました。



さて、無事に冨岡さん関連は解決と相成りましたが。
今回は、思いもよらぬ形でもう一人の過去にも踏み込む形になりました。

Q:伊黒さん、ネチネチ言いながらも冨岡さんのことを心配していた?
A:辛い過去を持つ者同士と途中で分かってからは、彼の境遇に共感していました。
  その為、烈海王が叫ぶ毎に結構ビクビクしてました。

伊黒さんの問題に関しては、ここで踏み込むべきか否かは少し迷いました。
ですが、繊細な伊黒さんなら冨岡さんの事情を知ってしまえば、少なからず自分に重ねてしまうだろうし、そうなれば冨岡さんの問題を無事解決した烈さんにはついつい口を開いてしまうのではと判断し、この様な形にさせていただきました。

Q:色恋沙汰に疎そうな烈さんだけど、流石に伊黒さんと甘露寺さんの事には気づいてる?
A:刃牙と梢の事を割と近くで見ていたので、似た空気を纏っているという事でそれとなく勘付いていました。
  その為、「甘露寺さんなら伊黒さんがどんな過去を背負ってたとしても、一緒に背負うだけの強さがあるだろう」と考えて、敢えて深くは言わずに軽めの助言をしました。

伊黒さんは自分の過去を汚らわしいものと捉えてますが、烈さんは伊黒さんが悪人ではないとよく分かってますし、まして甘露路さんはそんな事を気にする人じゃないとも分かってましたので「気にしすぎだ、過去より今を大事にしろ」と言う気持ちから、その背中を押しにかかりました。
結果、流石に全てを振り切る事は叶わなくても、少し前向きになれたようです。
冨岡さんが目の前で前に進む決心をした事も、後押しになっています。


Q:烈さん、伊黒さんの顔を見ても平然としすぎてない?
A:元々傷だらけな上に口の中で銃弾炸裂というえげつない状況になった花山さん、ピクルに顔面食いちぎられたジャック、一本指貫手で顔面切り刻まれた猪狩さん……刃牙世界じゃ、たかが口裂けぐらいでは驚きません。

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