鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

39 / 42
タイトルどおり、お兄ちゃん出現。
そして、遂に現場にあの人が現れます。
この話から更に、遊郭編が原作とかけ離れた戦いになりますが、どうかよろしくお願いします。


37 妓夫太郎

 

 

 

 

 

 

――――――ドゴオオオォォォンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ガハッ……!?」

 

 

 

炭治郎の肉体は、背中から勢いよく女郎屋の壁に叩きつけられていた。

その飛距離、実に二十メートル弱。

 

 

堕姫の肉体から突如生え出た腕が放った、大量の飛ぶ刃。

その内の一つが、炭治郎が咄嗟に引き戻し盾代わりにした刀と真正面からぶつかり合い……彼の身体を強く弾き飛ばしたのだ。

そして、それを追尾するかのように残る刃が飛来。

 

炭治郎はどうにか捌こうとしたものの、不安定な空中では完全に防ぎ切る事が叶わず。

左腕と右脚とに斬り傷を負い、そしてそのまま叩きつけられたのである。

 

 

 

 

「ッ……しまった、腕がッ……!!」

 

 

強い威力で女郎屋に衝突した結果。

炭治郎の身体は壁―――身体に命中せずそのまま後方に流れた飛び血鎌が炸裂していた事もあり―――を粉砕し、建物内にまで突入。

そのまま、瓦礫に半ば埋もれてしまっていた。

非常にまずい展開だ。

 

 

 

両腕が、瓦礫にッ……身動きが、取れないッ……!!

 

 

 

 

(ッ……呼吸を整えろッ!!

 腕に力をこめて、どうにか脱出するしかッッ……!!)

 

 

 

今、あの敵―――新たに出現したもう一人の鬼が来たら、一巻の終わりだ。

急ぎ瓦礫から脱しなければならない。

呼吸を整え、全身全霊の力で脱出を図らねば……だが、間に合うかッ……!?

 

 

 

 

 

 

――――――ドォォンッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ッッ!!??」

 

 

 

 

突如として響く、巨大な打撃音。

すぐ近く……それも、先程まで自分が立っていた方角からだ。

何かが強い力で叩きつけられた様な、この音は……?

 

 

 

(誰かが、闘っているッ……!?)

 

 

 

上弦の陸と、何者かの戦闘ッ……!!!

 

 

伊之助か、天元か?

 

或いは、消息が途絶えていた天元の嫁か、善逸か……?

 

 

 

違う。

聞こえてきたのは、打撃音だったッ……!!

 

 

 

徒手空拳で闘っている……今この場にいる中で、該当するのは一人しかいないッッ……!!

 

 

 

 

 

「禰豆子ッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァッ……大丈夫。

 もうアタシ一人で、大丈夫……ありがとうねッ……」

 

 

炭治郎が吹っ飛ばされて、間も無く。

堕姫は肩で息をしながらも、自らを救った存在―――体内の鬼に礼を告げた。

するとそれを聞いたであろうその者は、彼女の胴より出していた腕をするりと引っ込め、中に戻っていった。

 

炭治郎に見舞った一撃に、確かな手応えを感じたのだろう。

もはや自分が出ずとも、堕姫の言う通り彼女だけで後は十分だろうと。

 

 

 

 

しかし、それが誤りであった。

 

 

 

 

 

「ムウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!」

 

「……え?」

 

 

 

 

相手は、炭治郎だけではないのだから。

 

 

 

 

 

――――――ドォォンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ガッ……ァァッッッッ……!!??」

 

 

 

 

気が付けば脇腹に強い衝撃を受け、次の瞬間には二転三転と地面に打ち付けられながら撥ね飛ばされていた堕姫。

完全な不意打ち……対処不能の奇襲であった。

一体、何が起こったというのか。

 

 

近くに他の鬼狩りがいた……?

しかし、そんな気配は感じなかった。

つまりこの相手は、離れた間合いを瞬時に詰めてきたという事になる。

 

 

攻撃を受けるまで、全く捉えられない程の速度でッ……!!

 

 

 

(何ッ……何なのッ!!

 地下の鬼狩り以外にも、まだ他にいたっていうのッ!?)

 

 

脇腹―――先程の衝撃時に、抉り飛ばされた―――を即座に修復させた後、その相手を強く見据える。

並の隊士ではない。

力と速度とを両立させた実力者だ。

 

 

一体、何者が……?

 

 

 

 

「ッッッ!!!!

 麻の葉文様の着物に、市松柄の帯ッ……まさか、まさかッッ!!!」

 

 

 

眼前に現れたのは、全身より怒りを漲らせる禰豆子。

その姿に、堕姫は大きく目を見開いた。

 

 

聞いている。

その姿を、彼女はよく知っている。

 

 

見つけたら、必ず始末をするようにと。

他ならぬ主―――鬼舞辻無惨より伝えられていたのだから。

 

 

 

あの珠世と……『あの男』と同じく、支配を逃れたという鬼ッッ……!!!

 

 

 

 

 

「そう……アンタなのねッッ!!!

 あのお方が言っていた……『奴』と同じッッ!!!」

 

 

 

こんなところで遭遇するとは、思ってもみなかった。

攻撃を受けてしまったのは忌々しいが、これも不幸中の幸いというやつだ。

ここで目の前の敵を殺せば、今までの失態を取り戻しても余りあるッ……!!

 

 

 

 

「ッ……来たッッ!!!」

 

 

 

 

そしてここで、堕姫に更なる幸運が味方する。

吹っ飛ばされた事により、彼女はより早く合流を果たす事ができたのだ。

 

 

地下空間を脱し、地上に現れた分身体の元へッ……!!

 

 

 

 

「これで、あの方に喜んで戴けるわッ!!」

 

 

 

分身体は堕姫の姿を認識すると、すばやく彼女目掛けて飛び込んでいった。

そしてそのまま、体内へと吸い込まれてその姿を消し……同時に、堕姫の身に変化が起きる。

 

 

 

黒かった髪の色が銀に近い白へと変色。

 

頬には花びらを模した文様が色濃く浮かび上がる。

 

そして、その身から出る鬼特有の邪気はより禍々しく。

 

 

 

これが堕姫、最終形態―――……!!

 

 

 

 

 

「花街を支配する為に分裂していたアタシの身体……一つに戻った今、速度も力も今までの比じゃないわよッッ……!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

怒りとは、原動力である。

 

 

その度合いが強ければ強い程に、激しければ激しい程に。

 

 

 

怒りを宿す肉体は、より強く大きな力を発揮する事ができる。

 

 

 

時には、その限界―――体力の限界を、そして命の限界をも無視する程の力を生み出す事とてある。

 

 

 

 

現に、かの範馬刃牙が最凶死刑囚の一人であるシコルスキーと対峙した際。

 

最愛の人物を人質に取られた結果、刃牙は凄まじい怒りに身を任せ……それまでの彼からは考えられない程の猛撃を見せた。

 

相手の命を奪う事すら厭わぬ強暴さを発揮し、遂には高層ビルの窓からシコルスキーを叩き落とすに至った。

 

 

 

尤も、シコルスキーは驚異的な指先力によってビルの外壁にしがみついた為、どうにか命を拾ったのだが……

 

 

 

 

 

では……鬼であるが故に、底無しともいえるスタミナを持つ禰豆子が激怒すればどうなるか?

 

 

その肉体は、敵をこの世から消し去るまで……無限に動き続ける。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「げぅッ……!!??」

 

 

 

分身体を取り込み、本来の力を取り戻した堕姫。

確かにその戦闘能力は、先程までとは比較にならないレベルにまで上昇していた。

 

 

だが……それでも、相手が悪かった。

 

 

 

 

「アアアァァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

家族を傷つけられた怒り。

それは禰豆子の身体を急激に成長させていた。

竹の口枷は既に噛み砕かれ、彼女の咆哮を遮る物は何もない。

 

 

そしてその力は……今や上弦にも匹敵するッッ!!!

 

 

 

 

「この……ガキィッ!!!」

 

 

 

堕姫は蹴り飛ばされた身をどうにか引き起こすと同時に、大量の帯を放つ。

先程まで対峙していた炭治郎と違い、禰豆子のファイトスタイルが蹴りを主体とした徒手空拳なのはすぐに理解できた。

加えて、身に纏う防具もないベアナックル……即ち、斬撃と刺突に対する防御が無いのだ。

 

まともに帯が入れば、その身は切断されるほか無い。

 

 

 

だが……禰豆子はッ!!

 

 

 

(なんで……斬ったそばから、再生してんのッッ!!

 こんな速度……上弦にもッ……!!)

 

 

 

斬られた肉体が、瞬時に再生を果たすッ!!

 

腕を切り飛ばそうが、足を穿こうが、胴を両断しようがッッ!!!

 

 

 

瞬き一つするだけの間に、元通りになるのだッッッ!!!

 

 

 

「ガアアァァァァァッッッ!!!」

 

 

 

そして、そのダメージを意に介す事無く……止まる事無く突き進んでくるッッ!!!

 

 

 

 

 

――――――ドグオォォッッ!!!!

 

 

 

 

「ぐげぇぇッッ!!??」

 

 

 

前蹴り炸裂ッ!!

 

烈海王曰く、あの花山薫にも匹敵する程のパワーで繰り出される禰豆子の蹴り。

堕姫の身は容易く吹っ飛び転がされてゆく。

 

 

(そんな……帯で壁を作ったのに……防御が、通用しないッッ……!!)

 

 

蹴りの命中寸前、堕姫は咄嗟に帯を身体の前に展開して防御壁を作っていた。

だが、禰豆子の蹴りはその防御を容易く突破してきたのだ。

防御が無意味だと言わんばかりの破壊力。

 

 

圧倒的暴力ッッ……!!

 

 

 

(ッッ……単なる力馬鹿なら、まだどうにでも出来るッッ!!

 幾ら力があっても、攻撃が単調なら避けられるッ……でも、こいつはッッッ!!!)

 

 

 

そして、堕姫にとっては更に悪い事が一つあった。

 

もしも禰豆子が力任せのごり押しで来るタイプだったならば、彼女もここまで焦りはしなかった。

単調な攻撃はいずれ見切ることが出来る。

当たらなければどうという事はないと、幾らでも闘い様があった。

 

 

だが……禰豆子は、そうではない。

 

 

 

 

「ガアアァッッ!!!」

 

 

 

大きく前に踏み込んでの中段回し蹴り。

当たれば骨折は免れないだろう禰豆子の一撃。

防御が意味を成さぬ以上は回避に専念するほか無いと、堕姫はすばやくバックステップしてこれを避ける。

 

 

 

だが……禰豆子は勢いをとめない!!

 

前回し蹴りが外れても尚蹴りの速度を緩めず……そのまま、上段への後ろ回し蹴りに移行ッッ!!!

 

二段構えのコンビネーションッッ!!!

 

 

 

 

(素人のアタシでも分かるッ!!

 こいつは、拳法をやってるッッ……!!)

 

 

 

確信する堕姫。

禰豆子の蹴りには技術が乗っている。

素人目からしても分かる、拳法を学んだ者の動きなのだ。

 

 

 

 

 

そう……彼女は知る由などないが、禰豆子は蹴り技を学んでいる。

 

兄達が修練に励む中、自身も負けないようにと欠かさず鍛錬を重ねてきた。

 

 

 

 

かの拳雄―――烈海王の指導の下でッッ!!!

 

 

 

 

――――――シイィィィィッッ!!!!

 

 

 

 

(か、かわしたッ……危なかったッ……!!)

 

 

堕姫はギリギリのところで頸を反らし、二段目の蹴りを回避に成功する。

それでも、ビリビリと肌に感じる強い風圧ッ……命中していれば、確実に顎から上が吹き飛ばされていたッ……!!

 

すぐに間合いを取らなければ。

至近距離ではどうあっても勝てない、有利な距離を保ち攻めなければッ……!!

 

 

 

 

 

 

――――――グイッ。

 

 

 

 

「えッ……!?」

 

 

 

 

しかし、そんな意思とは裏腹に。

堕姫の肉体―――頭は、強く引っ張られていた……禰豆子の振りぬかれた蹴り足と、同じ方向に。

 

 

 

髪の毛を掴まれていたのだ……彼女の足の指にッッ!!

 

 

当然、そのまま脚が振り抜かれれば……彼女の頭は、地面に強く叩きつけられるッッ!!!

 

 

 

 

――――――ドゴォッッ!!!

 

 

 

 

「グフゥッッ……!?」

 

 

「アアアァァァァッッ!!!!」

 

 

 

禰豆子の怪力で叩きつけられたとあっては、鬼の堕姫とて痛みを感じずにはいられなかった。

だが、攻撃はそこで終わらない……更なる追撃を、禰豆子は仕掛ける。

 

 

倒れ伏した堕姫の背中目掛け、ストンピングの連打を放つッッ!!!

 

 

 

「ガッッ……グエエェッ!??

 うぐうウゥゥッッ!!??」

 

 

とんでもない重みと圧力の滅多打ち……そこからくる痛みに、堕姫は表情を歪ませた。

繰り出される踏み付けの全てが、脊椎に集中してきている。

言うまでもない人体の急所だ。

 

 

 

(こいつ……確実に、アタシを……壊しにきてるッッ……!!)

 

 

 

怒りに身を任せているにも関わらず……否、怒りに身を任せているからこそなのか。

培った蹴り技に足指の妙技、脊髄への執拗な踏みつけ。

 

禰豆子は、確実に堕姫を破壊できる手段を選び続けているのだ。

殺意の塊としか言い様がないッッ……!!!

 

 

 

「ッ……舐めんなァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

このまま黙って壊されてなるものか。

背中を踏みつけられているという事は、逆に言えば背中から相手への距離が最短という事だ。

 

 

この体勢からならば、どれだけ大量の帯を放っても確実に全段当たるッッ!!

 

 

 

 

 

 

――――――ザシュウゥゥッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ッッッ~~~~!!??」

 

 

 

 

堕姫が放った帯の総数、実に十発。

禰豆子はその全てを総身に受けた。

 

 

両腕が、両足が、胴体が、そして頸が。

 

バラバラに刻まれ、切り離されていく。

 

 

 

いかに優れた再生能力があろうとも、全身をバラバラにされれば流石に元通りになるまでに時間がかかる筈。

その前に、更に帯を放ち細切れにする……そうして小さな肉片に変えられてしまえば、如何なる力があろうともどうしようもない筈だ。

 

ようやく見えた勝ち筋に、堕姫は唇を吊り上げ笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

だが……彼女は、思ってもみなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

――――――ポトッ。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

禰豆子の五体は……その血までもが、鬼を滅する事に特化していようとは。

 

 

 

 

 

 

―――――ボウゥッッ!!!!

 

 

 

 

「ッッ……アアアアァァァァァァッッ!!!???

 熱い、熱い、熱いッッ!!??」

 

 

爆血。

その身から流れ出た血液を意のままに燃やし、鬼を焼く炎と成す禰豆子の血鬼術。

 

堕姫は、禰豆子の肉体を至近距離で切り刻んだ。

その為に彼女の血を全身で浴びてしまっていたのだ。

そこで術を発動させてしまえば、結果はこの通り……全身火達磨である。

 

 

 

 

「火……燃える……火ッ……!?

 嫌、イヤァァァッッ!!!???」

 

 

 

 

全身を焼かれる痛みに、堪らず絶叫する。

斬撃とも打撃とも異なる……今までに無い苦痛。

 

まるで、魂にまで染み入るかのようなッ……!!!

 

 

 

「ッ……あッ……!!」

 

 

 

のたうち、地面を転げ回る堕姫。

そんな彼女の目へと、次に飛び込んだのは……再生を終え、右脚を強く振り上げていた禰豆子の姿であった。

 

 

そしてその右脚は、激しい豪炎に包まれているッ……!!

 

 

 

 

――――――爆血蹴りッ……!!

 

 

 

 

鬼を倒す手段は大きく分けて三つ。

 

陽光を浴びせるか、日輪刀で頸を断つか、藤の花の毒を用いるか。

 

故に、先程までの堕姫の様に幾ら暴力に晒されたとしても、死ぬ事はない。

 

 

 

だが、禰豆子の爆血は鬼を焼く事に特化した血鬼術だ。

これを纏った蹴りで頸を破壊されれば……日輪刀と同様、鬼は死に至る。

 

 

 

「ッッッ~~~~!!!」

 

 

 

堕姫も、それを直感で察した。

この蹴りは今までとは訳が違う。

これを受けてしまえば、確実に死んでしまうと。

 

 

 

 

 

――――――フン、この阿婆擦れめ。

 

 

 

――――――卑しい身分の分際でッ……身の程をわきまえないから、こうなるのだ。

 

 

 

 

 

炎に焼かれ、挙句に黒焦げの身を足蹴にされた……もはや記憶からも消えかかっていた、かつての時のように。

 

 

 

 

 

 

「ッ……助けて、お兄ちゃああぁぁぁぁぁんッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

だから、彼女は叫んだ。

こんなところで死にたくない、焼かれて殺されるのは嫌だと。

 

 

 

助けを求め……そして、その声は届く。

 

 

 

 

 

「おう……任せなあぁ」

 

 

 

 

 

体内に潜む、その鬼に。

 

 

 

 

 

 

そして、兄同様……禰豆子の身は、刃に晒された。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「がッ……ウウッ……!?」

 

 

 

堕姫の顔面を踏み砕こうとした瞬間。

その胴体から生え出てきた何者かによって、禰豆子は全身を切り刻まれ吹き飛ばされていた。

 

決して油断はしていなかった。

兄がやられた瞬間も目にしていた……だからこそ。

鬼の身体の中に何がいようとも、出てくる前に諸共粉砕すればいいと思っていた。

 

だが、相手の動きがそれよりも速かった……後一歩だったというのに。

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

身体がふらつく。

全身を何度も切り刻まれた上に、爆血の発動にも至った結果……血を流しすぎたのだ。

如何に底なしのスタミナと再生力があろうとも、流血による消耗は避けられない。

それが禰豆子の弱点であった。

 

このままでは、戦闘の続行は難しい。

なんとかしてエネルギーを補充しなければならない。

 

 

 

そう思った矢先の事であった。

 

 

 

 

「ひッ……ひいぃッ……!!」

 

 

禰豆子のすぐ近くで、女性が腰を抜かし小さく悲鳴を上げていた。

この吉原に店を構える者の一人だが、どうやら戦闘の煽りを喰らったらしい。

 

彼女は眼前の惨状に理解が追い付かず、ただただ目の前の者達に恐怖する他なかったのだが……

 

 

その腕からは、血が流れていた。

 

闘いの余波を受け、怪我をしてしまったのだ。

 

 

 

 

それを……禰豆子は、はっきりと目にしてしまった。

 

 

 

「ッ……ゥゥッ……!!」

 

 

 

強く、心臓が高鳴る。

 

傷つき消耗した鬼にとって、人間の血肉は最高の御馳走だ。

最良のエネルギー源……摂取せずにはいられない栄養の塊だ。

 

 

それは、禰豆子にとっても例外ではなかった。

まして彼女は、堕姫を破壊すべく怒りのままに身体を成長させた……より鬼化が進んだ状態にある。

鬼としての気質が、より色濃く出た状態にある。

 

 

そんな彼女の前に、血を滴らせた人間がいれば……本能のままに、動かずにはいられないッッ……!!!

 

 

 

 

「グウァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

雄叫びを上げる。

そして湧き上がる欲望に身を委ね、女性目掛けて飛びかかろうと足に力を込めッ……!!!

 

 

 

 

 

―――安易な道に逃げ出すなど、言語道断だッッ!!

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

頭に響いたその声に、全身を硬直させた。

 

 

 

 

 

―――これから先、鬼殺隊員として闘うのであれば、こうして血を流す事は日常茶飯事ッ!!

 

 

 

 

それは、忘れもしないあの日―――柱合会議の場に、兄共々呼び出された日の言葉。

 

鬼殺隊の一員として闘う、その覚悟と決意への問いかけ。

 

 

 

 

はじめて、あの漢―――烈海王と出会った日のッ……!!!

 

 

 

 

 

 

―――共に闘う仲間が重傷を負い、そして貴方自身も深く傷つくだろうッッ!!

 

 

 

―――ならばこそ、この程度の血の誘惑に負けてはならぬッ!!

 

 

 

 

そうだ。

まさに今が、言葉通りの状況ではないか。

 

 

ならば……決して負けてはならない。

 

あの日、あの場で血の誘いをはねのけた時の様に。

 

 

 

 

―――耐え抜き、そして打ち勝てッ!!

 

 

―――私にその強さを、ここで見せてみろッ……!!

 

 

 

 

 

自らを信じてくれた者達の為にッ……この程度の誘惑を、乗り越えられずしてどうするッッ!!!

 

 

 

 

 

「ムンッッッ!!!」

 

 

 

強い意志を以て、目の前の女性より視線を外す。

そして、睨み直すは上弦の陸。

 

血の誘惑を……鬼としての本能を、禰豆子はその強靭な意志によってねじ伏せたのだッ……!!

 

 

 

 

 

 

「やるじゃねぇか、竈門禰豆子。

 兄貴の啖呵も派手だったが、お前も負けてねぇぜ」

 

 

 

すると……そんな彼女の肩へと、背後より優しく手が置かれた。

よくやった、頑張ったという労りの気持ちが伝わってくる、大きくそして温かな手。

 

 

 

音柱―――宇随天元が、遂に戦場へと駆け付けたのだ。

 

 

 

 

「禰豆子ッ!!」

 

 

 

続けて、瓦礫より脱する事の出来た炭治郎が馳せ参じた。

脱出に時間はかかったものの、肉体の損傷は然程大きくはない……万全とは言い難いが、戦闘続行は可能な状態だ。

彼はすぐに禰豆子の側に駆け寄り、その身を案じる。

 

 

 

「大丈夫かッ……ごめん、俺が動けない間に頑張ってくれてッ……!!」

 

「おいおい……お前、自分の方を心配しろよ。

 怪我の具合でいえば、そっちの方がやべぇじゃねぇか」

 

 

ダメージ具合でいえば炭治郎の方が大きいというのに。

自分よりも妹を心配するその姿に、天元は小さくため息をついた。

もっとも、彼もこの手の男は嫌いじゃなかった。

実力が伴っていなければ無謀の阿呆というしかないが、炭治郎の場合は十分及第点だ。

 

 

 

 

「……で。

 奴等はなんだ、竈門兄妹……?」

 

 

 

一転、表情を引き締め険しい顔つきで前方を見据える天元。

その視線の先に立つは、倒すべき鬼……堕姫。

 

 

 

 

そして……彼女の肉体から生え出た、もう一人の鬼。

 

 

堕姫よりも更に強く禍々しい殺気を放つ、両手に鎌を携えた痩身の男。

 

 

炭治郎と禰豆子の二人に刃を放った張本人。

 

 

 

 

 

「危なかったなぁ本当。

 けれど、もう怖いものはねぇぜ……俺が出てきてやったからなああッ……!!」

 

 

 

 

彼こそが、真の上弦の陸。

 

 

この吉原に君臨し続け、十五人もの柱を葬ってきた悪鬼。

 

 

 

 

「ッッ~~~!!!

 竈門炭治郎、すぐに妹を下がらせろッッ!!!

 こいつは派手にやべぇ……今の消耗した状態じゃ危険すぎるッッッ!!!」

 

 

 

その危険性に真っ先に気付いたのは天元。

すぐさま、禰豆子の退避を要求した……集団戦闘では、弱った者から狙われるのが鉄則だ。

そしてそうなれば、炭治郎までもが闘えなくなる……妹を守る事を優先して、攻め手に出られなくなる恐れがある。

だからこそ、この場で禰豆子を下がらせた後に戦線復帰してもらうのが最良と判断したのである。

 

 

 

何せ……彼には即理解する事が出来たのだ。

 

 

今までに対峙してきたどんな鬼よりも、目の前の男が強敵である事を。

 

 

 

 

「取り立てるぜ俺はなああッ……やられた分は必ず取り立てる。

 死ぬときグルグル巡らせろ……俺の名前は、妓夫太郎だからなああッ……!!!」

 

 

 

 

 

 

その名を、妓夫太郎ッ……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(速いッ……本当に蟷螂みたいな奴だッ!!

 何だこの太刀筋はッ……!!)

 

 

第二ラウンド開幕より数分が経過。

天元と炭治郎の両名は、劣勢を強いられていた……妓夫太郎の強さは、堕姫の比ではなかった。

 

 

その闘法は、両手に携えた鎌―――自らの肉体を変異させて生み出したらしく、その刀身には脈打つ血管が張り付いている―――による斬術。

鬼特有の怪力に加え、極めて柔軟な身体のバネから繰り出されるその太刀筋は、恐ろしく速く変則的であった。

 

そして何より、血鬼術『飛び血鎌』。

己が血を刃と成して放つ、その名が示す通りの飛ぶ斬撃だ。

先の戦闘で炭治郎と禰豆子が喰らったのもこれだ。

 

速度こそ鎌による直接攻撃に比べれば落ちるものの、この攻撃は妓夫太郎の意志によって軌道を自在に操れる。

紙一重で回避したと思っても、空中で曲がり再度襲い掛かってくる……故に、常にその動きに気を払わねばならない。

 

 

 

だが、それ以上に厄介な性質がこの刃にはある。

 

 

 

(ッ……身体が重いッッ……!!)

 

 

 

毒だ。

掠っただけでも傷口から全身を駆け巡り、やがて死に至らしめる……飛び血鎌は、そんな猛毒の塊でもあるのだ。

これが、柱を十五人も葬った妓夫太郎の真骨頂。

現に、天元と炭治郎の身体にはその影響が出始めている……二人共に、己が肉体に重みを感じ始めていた。

 

 

 

(落ち着け、呼吸を整えろ……毒の巡りを、少しでも遅らせるんだッッ!!!)

 

 

だが、決して動きを鈍らせてはならない。

敵はその隙を確実に突いてくるのだから……二人はすぐさま呼吸で肉体を整え、毒に対抗を図った。

 

 

もしもこの時―――……妓夫太郎と相対していたのが彼等で無かったならば、既に勝負はついていただろう。

 

 

忍びとして毒に強い耐性を持つ天元、鬼への強い特効力を持つヒノカミ神楽の呼吸を持つ炭治郎。

この二人だからこそ、妓夫太郎を相手取りまともに闘う事が出来ているのだ。

 

 

 

 

(ッ……炭治郎はまだ持ちそうか。

 そうなると、問題はあっちの二人ッ……さっさとこいつの首を斬り落とさねぇとッ……!!)

 

 

 

しかし……この闘いにはまだもう一点、厄介な問題があった。

そしてそれこそが、妓夫太郎と堕姫を上弦足らしめている最大の所以。

 

 

何故、彼等は揃ってその瞳に『上弦』の称号と『陸』の階級を宿しているのか……答えは極めて簡単。

二人で一つの存在であるが為だ。

 

 

即ちこの二人を倒したくば、首を同時に落とさねばならないのだ。

如何に優れた力量の剣士であろうとも、この条件を満たさぬ限り絶対にこの兄妹を倒す事は出来ない。

 

故に、炭治郎達は二手に分かれた。

妓夫太郎には天元と炭治郎が……そして堕姫には、妓夫太郎出現と同時に現場へ駆けつけた伊之助と善逸の二人が現在立ち向かっている。

 

禰豆子は天元の指示通りに炭治郎が下がらせ、今は離れた位置で入眠中だ。

彼女も血鎌を受けてはいるが……鬼の身である以上、毒に対しては恐らく人間より強い。

更に再生力も考えれば、自力での解毒をきっと成し遂げられるだろう。

 

 

 

 

だが……正直なところ、禰豆子の離脱は痛手だった。

 

 

 

 

 

(音の感じからして、間違いねぇッ……妹鬼の方も、強さが増してやがるッ!!

 下弦の比じゃねぇッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハッッ!!!

 どうしたのよ、この不細工どもッッ!!!

 偉そうな口利いといて、この程度なのかしらァッッ!!!」

 

 

 

善逸と伊之助もまた、苦戦を強いられていた。

先刻は禰豆子に圧倒されていた堕姫であったが……今の彼女の姿には、到底結びつかなかった。

 

 

 

「なんだよこのミミズ女ッッ!!??

 これじゃあ全然近寄れねぇぜッ!!」

 

 

堕姫は明らかに強くなっていた。

妓夫太郎が肉体から分離したというのに、力が落ちるどころかより増している。

 

特に目を引くのが、反応速度と迎撃精度の上昇だ。

手数の多い伊之助に速力が売りの善逸でさえ、迎撃で手一杯になり攻めに回れないでいる程なのだ。

 

 

 

 

これは、妓夫太郎と堕姫が感覚を共有している事に由来している。

 

 

 

あろうことか妓夫太郎は、天元と炭治郎と闘いながら……堕姫から送られてくる情報を分析して彼女に伝え、伊之助と善逸を倒せる様に操っているのだ。

効率よく的確な攻めを、無駄なく選択して。

 

 

恐るべき情報処理能力―――マルチタスクッ……!!

 

 

 

 

「アタシ達は二人で一人ッ……二人揃えば、最強なのよッッッ!!!」

 

 

 

 

加えて……今の堕姫は、この上なく絶好調であった。

 

 

 

 

――――――自分には誰よりも頼れる兄がいる。

 

 

 

――――――二人揃えば、自分達は無敵だ。

 

 

 

強く思い込む力―――イメージ力は、肉体にも影響を与える。

そして兄妹が揃った事により、堕姫のイメージは最大限にまで膨らんでいた。

 

 

 

自分達に負けは無い……そう強く思う心が、彼女の能力を最大限にまで高めていたッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「他人を心配するとは余裕だなああッッ!!!」

 

 

天元の意識が善逸と伊之助に向けられたのは、たった一瞬。

隙と呼べるようなものでは無い、ほんの僅かなタイミング……だが、妓夫太郎はそこを突いてきた。

自身から意識が反れる今こそが好機とみて。

 

 

彼は取立てを生業とする『妓夫』であったが為に、相手の僅かな挙動も見逃さない。

 

 

 

決して逃がさず、必ず取り立てるッ……!!!

 

 

 

 

 

 

――――――血鬼術『円斬旋回・飛び血鎌』ッッッ!!!!

 

 

 

 

 

突き出された両腕を軸に放たれる、血鎌の旋風ッ!!

 

 

斬撃の質・量ともに最大級ッッ!!!

 

 

触れるもの全てを切り裂き粉砕する、妓夫太郎が誇る絶技ッッ!!!

 

 

 

「ッ……踏ん張れよ、炭治郎ッッ!!!」

 

「ハイッ!!!」

 

 

 

 

 

――――――音の呼吸 肆ノ型『響斬無間』ッ!!

 

 

――――――水の呼吸 肆ノ型『打ち潮』ッ!!

 

 

 

炭治郎と天元は咄嗟に技を撃ち放つ。

前方広範囲を斬る型で、迫る刃の暴風を迎え撃ちにかかった。

 

 

 

(ッッ~~~~!!!??

 重いッ……攻撃が重いッッ!!)

 

 

 

しかし、血鎌の一発一発が非常に重いッ……!!

受けた刀身を伝わり、強い衝撃と痺れが両腕を走っていくッ……!!

 

ここまで受けてきた血鎌よりも更に威力が高い。

その上に量も多く勢いがあるッ……!!

 

 

(流せ、受け流せッ!!

 まともに受けたら刀が折れるッ……力の流れを見誤るな、正しく受け流すんだッッ!!!)

 

 

これを真正面から受け続けては、日輪刀が持たない。

正しく力の走る方向を見極め、血鎌を流さねばならない。

ここで武器を失っては、致命傷だ。

 

 

より集中し、全身の感覚を研ぎ澄まさなければッッ……!!

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!??

 そんなッ……まずいッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

しかし、ここで思わぬ事態が起きた。

 

広い範囲に放たれたが為に、飛び血鎌の中には炭治郎と天元から外れたものもあった。

その内の一発が、後方にあった家屋へと真っ直ぐに向かっていったのだが……

 

 

 

その家屋には……まだ、住民が取り残されていた。

吉原の者達は、天元の妻達―――伊之助によって地下貯蔵庫より救出されていた―――が主導となり避難誘導をしていたのだが……逃げ遅れがいたのだ。

 

 

炭治郎は、それを匂いで感じ取った。

感じ取ってしまった。

 

 

感覚を研ぎ澄ませたが為に、匂いをより鋭敏にッ……そして気が付いてしまった以上は、もはや無視は出来ないッッ……!!

 

 

 

 

(助けなきゃッ……けど、間に合うのかッ!?

 この距離……どんなに速く走っても、もうッ……!!!)

 

 

だが、距離が離れている。

自身に出せる最大速力の技―――円舞一閃でも、届く間合いではない。

いや、そもそも間に合う距離であったとしても、眼前には血鎌の嵐……背を向けるのは危険すぎる。

 

 

 

(死んでしまうッ……!!

 俺達の戦いに巻き込まれたせいでッッ……!!!)

 

 

最悪の状況だ。

そしてこの状況を招いたのは、他ならぬ自分達だ。

 

だというのに……目の前で命が零れてしまうのを、黙って見過ごすしかないのかッ……!?

 

 

 

 

 

 

 

そう、絶望の意思が走った……その刹那であった。

 

 

 

 

 

 

――――――バキイィィィンッッッ!!!!

 

 

 

 

「えッ……」

 

 

 

その刃が、音を立てて砕け散ったのだ。

家屋に命中する事無く、何一つとして被害を出す事無くッ……!!

 

 

 

「ッッ!!??

 鬼狩りの新手かッ!?」

 

 

 

妓夫太郎にも、確かに見えていた。

粉砕された刃が……刃を粉砕した、何者かの人影が。

 

 

だが、堕姫の方は変わらず闘い続けている……彼女が対している二人には物理的に不可能だ。

ならばこれは、鬼殺隊の援軍が現れた事に他ならない。

 

 

(並の隊士じゃねえ……上弦の俺達がいるって分かった上での援軍だ。

 だとすりゃあ、来たのは柱か……?)

 

 

そしてその援軍は、弱者では務まらない。

上弦が相手だと承知の上での派兵とあらば、真っ先に考えられるのは柱だ。

一体、どんな奴がきたというのか。

 

 

妓夫太郎は目を凝らし、その者の姿を確かめようとするが……

 

 

 

 

 

次の瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、高速で飛来する刃であった。

 

その総数は実に六本ッ……!!!

 

 

 

「なッ……チイイィィィッッ!!!」

 

 

 

咄嗟に鎌を振るい、飛来してきた刃を全て叩き落とす。

その軌道に、妓夫太郎は息を呑んだ。

 

両目、喉元、鳩尾、両膝。

放たれた刃は全て、急所を目掛けて飛んできていたのだ。

 

急所を狙っているというのが明確に分かるほどに、正確な狙いでだ。

 

 

 

 

「今のはッ……!!」

 

 

その刃に、炭治郎と天元は見覚えがあった。

見せてもらっていたからだ。

 

 

鬼殺隊で最も多くの武具を扱い、そのいずれもが一級品……その有り様に興味を持たずにはいられず、見せてほしいと頼んだのだ。

 

 

 

刃の正体は、飛鏢―――中国拳法で使われている、日本で言うところの手裏剣の一種だ。

 

 

 

そう、中国拳法ッ……あの漢が来たのだッッ!!!

 

 

 

 

 

選手入場ッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「烈さんッッ!!!」

 

 

 

 

烈海王ッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「炭治郎、大丈夫か?」

 

「玄弥、後藤さん……!!」

 

 

烈海王に続き、玄弥と後藤も同じくその場へと参じた。

 

実に心強い援軍だ。

強さは勿論だが、それ以上に烈海王と玄弥は先日の任務で上弦の参と接敵している。

上弦の強さと恐ろしさは皆知っている……だが、あくまでもそう伝え聞いているだけだ。

実際に体験した者とでは、その認識レベルには天と地ほどに差がある。

 

上弦という未知の強敵と闘うに当たり、彼等の経験値は得難い武器となりうるッッ……!!!

 

 

 

 

 

(烈海王ッ……こいつがッ……!!)

 

 

 

一方、対する妓夫太郎は強い衝撃を受けていた。

援軍が来る事自体は想定していたが、まさかこうも早いタイミングで……それも、あの烈海王が現れようとは。

 

 

 

主―――鬼舞辻無惨が、はじまりの剣士以来となる深手を負わされた拳法家。

 

 

柱と同格以上とされる戦闘力を誇る、優先抹殺対象。

 

 

 

 

 

 

そして……あの猗窩座と闘い、誰もが予想だにしなかった結末を生んだ元凶ッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

(ならッ……これしかねえよなあッッッ!!!)

 

 

敵が未知数かつ強大である場合、最も効果的な攻撃は何か。

最も大きくダメージを与えられる手段は何か。

 

 

 

 

――――――血鬼術『円斬旋回・飛び血鎌』ッッッ!!!!

 

 

 

 

それは、初見の大技による奇襲ッ……!!

 

開戦直後の今、烈海王には対戦相手に関する情報が無い。

闘法も血鬼術も、全く分からない。

 

故に、今この時こそが最も術を使うに適した瞬間ッッ!!!

 

 

 

 

 

「死ねえええぇぇッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

宇髄天元 二十三歳 鬼殺隊『音柱』。

 

 

 

 

 

彼は、この日の死闘を多くの隊士へと文字通り『派手』に語ったのだった。

 

 

 

 

 

 

―――奴は、烈さんの姿を見るや否や術を発動させやがった……悔しいが、確かに戦法としちゃ正しい。

 

 

 

―――俺達みたいに血鎌自体を先に見てたなら兎も角、烈さんにとっちゃあの血鎌の暴風は初見殺しにも程がある。

 

 

 

―――炭治郎も、避けてくださいって烈さんにすぐ叫んだんだけどよ……

 

 

 

 

 

―――烈さんな……避けるどころか、突っ込んでったんだよ。

 

 

 

 

―――服の下から棍を取り出して……ああ、折り畳み出来る長い棒な。

 

 

 

―――それを身体の前で思いっきり回転させて、円状に盾っぽい感じにして……

 

 

 

 

―――真正面から、血鎌の渦に派手に突撃したんだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「なッッ!!??」

 

 

まさかの動きに、妓夫太郎は驚き声を荒げた。

円斬旋回に対して、防ぐも避けるもせず……逆に真正面から向かってくるなど、予想だにしていなかったのだ。

 

 

だが……一見無謀に見えて、理に適っている。

 

 

 

(そうかッ……!!

 台風で大荒れになっても、目の真下だけは穏やかな様に……奴の竜巻は、中心部が死角になっているッッ!!

 そして中心寄りの刃も、ああやって棍棒を回して弾き飛ばしていけばッッ!!!)

 

 

 

炭治郎達も、すぐにその意図に気が付いた。

 

円斬旋回は強力な血鬼術だが、一点だけ弱点があった。

渦巻き状に血鎌を飛ばすその性質上、中心部は空洞になるのだ。

烈海王は瞬時にそれを看破し、飛び込んだのである。

 

被弾率を限りなく下げ、且つ妓夫太郎との間合いを最短距離で詰める為にッ!!

 

 

 

(この野郎ッ……確かに円斬旋回は真ん中が弱え。

 けど、だからって……怖くねえのかよッッ!?)

 

 

しかし、いくら理屈の上ではそうだと言っても。

刃が乱れ飛ぶ暴風を前にしてコレに突っ込めと告げられれば、大抵の者は身が竦み二の足を踏む。

 

 

それを烈海王は、微塵の躊躇いもなく実行に移した。

 

 

 

自らが培ってきた武を信じられるからこそ……中国拳法に絶対の自信を持つからこそ、彼には成せるのだッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――そうやって、烈さんはあの血鬼術をド派手に正面突破したんだ……ん?

 

 

 

―――それでも少しは掠めるだろうし、毒喰らってやばくならなかったのかって?

 

 

 

―――おいおい、何寝ぼけた事抜かしてんだよ……忘れちまったのか?

 

 

 

 

 

―――烈さんは、あの鬼舞辻無惨から猛毒を喰らったろ?

 

 

 

 

―――鬼舞辻の猛毒は、奴自身の血液によるものだったって話だった。

 

 

 

―――んで、上弦の陸の毒も、奴自身の血液から生成されてる物だった……もう分かったろ?

 

 

 

 

―――鬼舞辻の毒を乗り越えた烈さんには、免疫が出来てたんだよ。

 

 

 

―――あの兄鬼にとって、烈さんは最大の天敵なのさ。

 

 

 

 

―――ちょっと意味合いは違うかもしれねぇが、烈さんの言うとおり……次に活かせたわけだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

――――――ドンッッ!!!!

 

 

 

 

「ガァッッ……!?」

 

 

棍による鋭い突きが、妓夫太郎の喉元に炸裂ッ……!!

 

その強烈な一撃を前に、彼の身体は大きく後方へと吹っ飛ばされる形となった。

 

 

烈海王としては、頸を穿ち粉砕するつもりではあったのだが……そこは上弦の陸、そう簡単にはいかなかった。

それでも急所に全力の突きを叩き込まれたというだけあって、妓夫太郎の顔には苦悶の色が浮かんでいる。

確実なダメージが通っているのだ。

 

 

 

 

(ッッ……最悪だ。

 こいつには……毒が、効かねぇッッッ……!!!)

 

 

天元達を相手にしても尚余裕を見せていた妓夫太郎だったが、今やその全てが吹き飛んでいた。

 

上弦の彼は、当然主より烈海王の情報を与えられている。

故に、主の猛毒から復活を果たした烈海王が、自身にとって最大最悪の相性である事を把握していた。

 

常人ならば触れただけでも死は免れない致死性の猛毒だというのに……この男は、それを克服している。

だからこそ、円斬旋回を初手で放った。

毒の効果が期待できない以上、威力と物量で押す他なし……その結果が、御覧の有様だ。

 

残る手は、鎌による直接攻撃―――近接戦闘。

だが、あの猗窩座と真正面から殴り合いをした拳士にそれを挑むのは、分が悪すぎるッ……!!!

 

 

 

たった一人の援軍が、盤面の全てを変えてしまったッッ……!!!

 

 

 

 

「ありがとよ、烈さん……やっぱド派手だわ、あんた。

 これで向こうを助けに行ける」

 

「助けに……成る程、敵は一人ではないのですね」

 

「ああ、話が早くて助かるぜ。

 上弦の陸は二人で一つの鬼だ……もう片方とは、善逸と伊之助が今やりあってる。

 二人の首を同時に落とさねぇとこいつらは倒せねぇ」

 

 

 

妓夫太郎が怯んだ隙に、天元がすばやく情報交換を済ませる。

勝利条件は、兄妹両方の首が落ちている状態にする事。

戦力が増えた今ならば、十分人手を割ける……勝ち目が一気に見えてきた。

 

 

「烈さん、この場は任せた……俺は二人を助けに行く。

 炭治郎と……お前が、烈さんの継子か。

 不死川の弟だっていう噂の……烈さんの援護をしっかり頼んだぜ?」

 

「ッ……はいッッ!!!」

 

 

 

烈海王と玄弥、炭治郎の三者が妓夫太郎を。

善逸と伊之助に加え、天元が堕姫を。

 

この布陣で挑めば、確実に上弦の陸を討てる。

もう少しすれば天元の分析―――譜面の完成にも至れたが、それを待つ事無くやれる。

毒の巡りも気になる以上、ここは速攻で片付けるのが最善手だ。

 

 

 

(やれる……上弦を倒せるッ……!!)

 

 

 

上弦の討滅。

何百年と変わらなかった鬼の最上位格を、ここで遂に討つことができる。

 

勝機あり。

この現実に、誰しもが心を昂ぶらせ闘志をより漲らせていた。

昂ぶらずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

しかし、彼等は失念していた。

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊側に、列海王と玄弥が援軍として駆けつけたのであれば。

 

 

 

 

 

 

――――――ベベンッ。

 

 

 

 

 

鬼側も、同じく援軍を寄越す可能性があるということを。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――私としては、烈さんが少し心配かな。

 

 

 

―――今回の闘いを機に、より一層鬼舞辻から目をつけられる事になるだろうね。

 

 

 

 

無限列車での戦いを終えた後、耀哉はそう口にしていた。

 

鬼舞辻無惨と直接拳を交えて無事生還し、そして上弦の参すらも退けた今……彼は、鬼側にとって最大の怨敵となった。

 

 

ならば、彼を倒す為には手段を選ばなくなりえる……それが心配だった。

 

 

 

 

そして、その懸念は今、現実のものとなる。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「琵琶の音ッッ!!??」

 

 

 

突如として戦場に大きく鳴り響いた琵琶の音。

この場にいる者達―――妓夫太郎も含めて―――は皆、それが何なのかを知っていた。

 

 

 

 

鬼舞辻無惨には、他に類を見ない血鬼術を扱う側近がいる。

 

空間と空間を自在に繋げる襖を出現させる、転移術の使い手―――鳴女。

 

彼女が術を発動させる瞬間には、必ず琵琶の音が鳴る。

 

 

 

それが今、ここに響いたということはッッ……!!!!

 

 

 

 

(鬼側の援軍ッ……嘘だろッッ!!??

 って事は、出てくんのはこいつらと同じッッ……!!!)

 

 

 

最悪の事態だ。

鬼側の援軍が、烈海王を確実に葬り去る為の戦力投入なのは疑いようが無い。

 

 

 

 

そして……上弦の陸が苦戦を強いられるとあれば、出てくる鬼の階級はそれ以上でなくてはならないッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……とんでもない事になってるなぁ。

 君達が、ここまで追い詰められているなんてね」

 

 

 

 

次の瞬間。

 

烈海王達と妓夫太郎の間に、一枚の襖が出現―――音も影も、現れる兆候は一切無くいきなり―――する。

 

 

 

 

その中から、その者は姿を現した。

 

 

 

色白い肌をした、若い―――鬼なので外観年齢は全く当てにならないが―――男性。

にこにこと屈託の無い笑顔で、穏やか且つ優しい口調。

手に携えるは、対の鉄扇。

 

 

 

 

瞳に宿る字はッッ……!!!!

 

 

 

 

 

「上弦の……弐ッ……!?」

 

 

 

 

 

 

上弦の弐―――童磨、参戦ッ……!!!!

 

 

 

 

 

 




Q.この時点で童磨がくるのはやばすぎない?
A.烈さんを何が何でも倒す為です。

原作と最大の乖離点となりました、童磨参戦になります。
烈さんは無惨の毒を乗り越えてしまっているので、同じく鬼由来の毒を使う妓夫太郎にとっては天敵もいいところでした。
そしてこれでは絶対に勝てないと無惨に判断された為、童磨が送り込まれてます。

Q.どうせなら黒死牟を送り込んだらよかったのでは?
A.黒死牟は烈さんにぶつけられない理由があります。
 もしも二人を戦わせてしまった場合、鬼側にとって都合が悪い事態が起こりかねないと無惨に判断された為、童磨が選ばれました。


Q.禰豆子も大分強くなってない?
A.烈さんに指導してもらった結果、足技を体得して原作に増して凶悪になりました。
 パワー一辺倒だった原作と違って技術を使えるようになった為、より効率的に堕姫の破壊を狙ってます。

Q.お兄ちゃん、炭治郎倒した後に引っ込んだの?
A.弱点に気づかれぬよう、なるべく自分達の情報は秘匿しておきたかったというのがあります。
 また、原作と同じく禰豆子相手に中々出てこなかったのは、堕姫も言うように鬼同士だと決め手が無い不毛な争いになってしまう為です。
 しかし堕姫のトラウマスイッチが入った上に、爆血蹴りを見て「これはまずい」と直感したため、急いで出てきました。

Q.禰豆子は人を襲わない?
A.烈さんに発破かけられたのが効いており、自身の意思で衝動を押さえ込みました。
 その為、天元が駆けつけた後に子守唄抜きで自主的に回復させようと眠ってます。
 そのまま闘うには消耗が激しく、自身でも足手纏いになりかねないと分かっていた為です。






Q.堕姫のいう、支配を逃れた『あの男』とは?
A.原作とは異なり、無惨の元を離れた鬼が新たに一人います。
 それが誰かは、もう予想出来ていると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。