鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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烈さんの日輪刀をどうするかは、勿論考えてあります。

ドイルや武蔵戦を見ればわかりますが、烈さんは武器においてもスペシャリストです。
それを踏まえた上で、今回の話を書かせていただきました。


04 中国武術

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 

永久に続くかに思われた―――実際には、三秒にも満たない短時間だが―――拳打の中。

 

 

臓腑に耐えがたい苦痛を感じながらも、そこは流石十二鬼月と謂うべきか。

 

 

釜鵺はこの状況下における最適解を本能的に導き出し、反撃に転じてきた。

 

 

 

(この尾……やはり、厄介だなッ……!!)

 

 

 

それは、尾より繰り出される強打。

鞭の様にその身をしならせ、烈海王の肉体を砕かんとしてきたのだ。

烈海王は咄嗟に拳撃を止め、後方へと大きく下がりこれを回避する。

 

側部につけば、四足獣の手足では即座に反撃できない。

しかし釜鵺には、大蛇そのものの尻尾が生えている。

先程、頭上からの攻撃を迎撃したのと同様……これを活かす事によって、死角がカバー可能となる。

このメリットがどれだけ大きいかは、言うまでもないだろう。

 

 

これこそが、釜鵺を十二鬼月が下弦の陸たらしめる理由。

 

 

優れた獣性に加えて、如何なる戦況にも対応可能な基礎力こそが彼の強みなのだッ……!!

 

 

 

「お前の打撃が危険なのは、よく分かったッ……!!

 なら……近づけさせなければいいッッッ!!」

 

 

そして、釜鵺の攻撃はまだ終わらない。

立場逆転と言わんばかりに、烈海王へとその歩を進めつつ……同時に、尾の大蛇で周囲を激しく打ち鳴らした。

言うなれば、鞭の結界だ。

釜鵺と烈海王とで決定的な差となっているのは、ずばり間合いである。

こうして尾を振り回しつつ、手足が届かない距離を保っている限り……決して、烈海王は攻撃出来ない。

 

 

「ッッッ!!」

 

 

どうにか、烈海王は尾撃の連打を回避し続けられていた。

鞭に比べれば数倍以上の太さを持つ尾だけに、スピードそのものは見切れないレベルではない。

しかし、逆に言えば太さの分だけ威力がある……直撃すれば、ダメージは決して軽くないだろう。

そして厄介なのは、尾の軌道が余りにも不規則極まりない事。

規則正しい動きならば、如何に速かろうが見切り懐に潜り込めるのだが……

身の一部にして大蛇であるが故にか、かなり変則的だ。

 

 

(飛び道具で隙を生む?

 だが、半端な攻撃では尾に弾かれるのが見えている……ならば……)

 

 

足元の砂や小石を、弾丸として撃ち出すか。

 

避けるのではなく、尾そのものを拳で真正面から弾き飛ばしてみようか。

 

或いは……武蔵との闘いでも用いた、あの極意を使うか。

 

 

烈海王は釜鵺の猛攻を避けつつ、戦略を巡らせていた。

如何にして、これを攻略すべきかと……

 

 

 

そう考えていた……矢先の事だった。

 

 

 

「待ってくれ……!

 このまま、攻撃してもダメだッ……!!」

 

 

闘いを見守っていた片平隊士が、語り掛けてきたのだ。

 

その手の刀を、強く握りしめ……その刀身を、烈海王に見せて。

 

 

「さっき、言いそびれた……『鬼』の倒し方だ……!!

 あいつ等は……この刀で、日輪刀で倒せるッ……!!

 日輪刀で首を刎ねれば……鬼は、この世から滅び去るんだッッ……!!」

 

「何とッ……!?」

 

 

伝えられた内容に、烈海王は驚き声を上げた。

日輪刀……日輪、即ち太陽。

先程言っていた日の光云々とは、もしやこれの事か。

 

刀身を見る限りは、至って普通の日本刀。

特別なモノがあるとは思えないが……いや、目の前に空想上の生き物すらいるのだ。

 

 

ならばこの刀にも……何か不可思議な力があっても、おかしくはないッ!!

 

 

 

「すまぬ、その刀をッ!!!」

 

「勿論だ……使ってくれッッ!!」

 

 

片平隊士は、烈海王へと刀を投げ渡した。

守るべき一般人に日輪刀を委ねるなど、普通ならば言語道断。

鬼殺隊隊士として、恥ずべき行為だ。

 

 

 

 

しかし……ここまでの闘いを見て、彼には不思議と自信があった。

 

 

 

目の前の男は、自分より強い存在なのだと。

 

 

正しい手段さえ分かれば、鬼を確実に滅殺できる猛者なのだと。

 

 

 

刀を託すに相応しい、漢なのだとッッ……!!

 

 

 

 

 

「感謝する……む?」

 

 

 

そうして、日輪刀を受け取った烈海王だったのだが。

手に取ってすぐ、彼はある違和感に気づいた。

 

 

刀の柄が、妙に重たい……まるで、重りを付けているかのように。

重心のバランスが、不自然過ぎるのだ。

 

 

これはどういう事か……確かめるべく、視線を走らせてみると。

 

 

 

(鎖分銅……?)

 

 

 

柄の先には、本来日本刀にある筈がない物……鎖分銅が繋がれていたのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――ええ、俺が使っているのは岩の呼吸なんです。

 

 

―――こう言ったら何ですけど……岩って、基本の五大流派なのに異質じゃないですか?

 

 

―――水も炎も雷も風も、普通に剣術として成り立ってる中で……一つだけ、武器の時点で違いすぎてて。

 

 

―――俺のは、鎖分銅付の日輪刀ですが……岩柱様に至っては鉄球に斧だから、鬼殺の剣士とは何だろうって気になりました。

 

 

―――……失礼、少し話が逸れましたが……つまり、武器の扱いにくさだと岩の呼吸は群を抜いてます。

 

 

―――だから……あの時は無我夢中で渡しちゃったけど、すぐ「あ、やばいかも」って我に返ってしまいました。

 

 

 

 

 

―――けど、それも杞憂に終わりました。

 

 

 

 

―――あの人……素手でも馬鹿みたいに強いのに、武器の扱いも滅茶苦茶上手かったんです。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「日輪刀を持った……だが、それがどうしたッッ!!

 少し間合いが広がっただけの事、俺の優位は以前変わりはしないッッッ!!」

 

 

烈海王が日輪刀を手にした事に多少は驚くも、すぐに余裕の表情へと戻る釜鵺。

たかが刀一つで、間合いの優劣には何も影響しない。

このまま尾の乱舞を続ける限り、自分の勝ちは揺るがないのだ。

 

 

そう、勝利を確信して烈海王を睨み……

 

 

 

「ッ!?!?」

 

 

 

直後、その表情から笑みが消えた。

 

 

 

(鎖分銅ッッ!?

 そうだった、あの隊士は岩の呼吸の剣士ッ……!!)

 

 

烈海王は左手に刀を、右手に鎖を手にしていたのだ。

余りにも呆気なく倒せたので失念していたが、隊士の日輪刀は岩の呼吸特有のモノだ……そうなると、話が変わってくる。

 

刀だろうと拳だろうと、尾の間合いがある限りは届かないと踏んでいた。

しかし、鎖分銅だけは違う……あれは、自分の尾と同じ間合いを持っている。

こちらに、攻撃が届きうるのだ。

 

 

(落ち着け……奴は確かに強いが、素手の戦法が主だッ!!

 鎖分銅なんて、ましてあんな日輪刀を、簡単に使えるわけがッッ……!?)

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―――岩の呼吸の俺からしても、烈さんの鎖は凄いものでした。

 

 

―――鬼が尾を振り回す中に、凄い勢いで分銅を投げて……見事に絡め取ったんです。

 

 

―――そりゃもう、奴の慌てふためいた事……何せ、鎖も分銅も猩々緋砂鉄製です。

 

 

―――それで思いっきり締め付けられたんだから、尾は徐々に爛れ始めてました。

 

 

 

 

―――このままじゃまずいと思ったんでしょうね、鬼は力比べに出たんです。

 

 

―――烈さんを引っ張り寄せようと、鎖を全力で引っ張ったんですが……

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

(う……動かないッッッ!?)

 

 

 

釜鵺は全力で踏ん張り、尾を引くも。

同じく鎖を引く烈海王は、微動だにしていなかった。

 

 

 

 

何がどうなっているッッ!?

 

自分の半分にも満たない身長の男に、筋力で負けているッッッ!?

 

 

 

「……力ならば負ける筈がないと思っていたのだろうが……ならば、大きな間違いだ」

 

 

 

そんな彼の心中を見透かして、烈海王は静かに……しかし強く、口を開いた。

 

 

「私がお前に勝っているのは、力故ではない……確かに力は、闘いにおいて重要な要素だ。

 だがッッ!!」

 

 

地を踏みしめる両足に、更なる力が籠る。

今、烈海王が釜鵺との引き合いを互角に繰り広げられているのは、彼の言う通り力だけではない。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

現代日本において、とあるバラエティ番組で行われた有名な綱引き対決がある。

片や、プロレスラーや柔道家を始めとする屈強なスポーツ選手達。

片や、何処にでもいそうな―――失礼な言い方になってしまい、申し訳ないが―――中年女性達で形成された、綱引きのプロチーム。

 

体格も筋量も、差は歴然としていた。

どちらが勝つのかというクイズに対し、参加者の大半は前者を選んだ。

視聴者も殆どが、同じ予想だったという。

 

 

 

その為……勝負が始まった瞬間、彼等は皆驚愕した。

 

 

勝ったのは、予想を裏切って後者の女性達……それも、圧勝だったのだ。

 

 

筋力の差では大きく溝を空けられている彼女達が、何故勝てたというのか。

 

 

 

 

 

それは偏に……積み重ねられた『技術』に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「力を入れる方向、重心の取り方、適した瞬間を見出す。

 歴史の積み重ねにより、人は最大限に力を発揮する術を学んできた。

 それこそが、武だッッッ!!」

 

 

中国武術四千年。

その歴史は、長い年月を生きてきた鬼達すらも凌駕する。

 

 

 

 

 

「貴様は、この烈海王をッ……!!

 中国拳法を舐めたッッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――烈さんのあまりの気迫に押されたんでしょうか、遂には鬼の方が引き合いに負け始めたんです。

 

 

―――鎖の締め付けは、よりきつくなって……とうとう、奴の尻尾は千切れ跳びました。

 

 

―――鬼は悲鳴を上げながら、力の反動を受けて尻もちを突く形になり……

 

 

―――その隙を見逃さず、烈さんは一気に間合いを詰めました。

 

 

―――鬼の喉元目がけて、もうどっちが鬼だって言うような形相で……刀を振り上げました。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(訳……分かんねぇ……!?)

 

 

視界が、反転する。

頭部が逆さまになった……地面に落ちたのだ。

 

首を断たれてしまった。

十二鬼月が、鬼殺隊でも何でもない男の手によって。

 

 

何がどうなっているのか、説明してほしい。

十二鬼月に無事選ばれ、心機一転して縄張りも変えて、絶好調だったのに。

 

 

何故、自分は負けたのだ……目の前の男は、何者なのだ。

 

 

 

(誰か……教えてくれッッ……!!)

 

 

 

出会いの瞬間から終始。

 

釜鵺は、烈海王という存在に困惑し続け……そして、この世を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――見事、鬼の首は断たれました……下弦の陸は、こうして討伐されたんです。

 

 

 

 

 

 

―――え……烈さんの、最後の言葉が引っかかる?

 

 

―――まあ、きっと……人間を舐めるなとか、力任せだけで勝てると思うなとか、そういう意味合いだと思うんですが。

 

 

―――でも……確かにあの鬼は、中国武術を舐める様な事は一言も口にして無かったな……

 

 

 

 

 

―――……何であの人、あんな事言ったんだろ……口癖?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

(肉体が、塵一つ残さず消滅する……こんな生き物がいたのだな)

 

 

釜鵺の死体が消滅する様を見て、烈海王は『鬼』という存在について考えた。

日光を弱点とする怪異……西洋で言う吸血鬼に近い生き物か。

治癒力をはじめ、人間の領域を大きく逸した生物ということになるが……

 

 

(ふっ……『鬼』か。

 これは、奇縁と言うべきか……)

 

 

鬼。

そう聞いて脳裏に浮かぶのは、ただ一人の男。

烈海王にとっては、浅からぬ因縁がある暴力の化身。

 

即ち、地上最強の生物―――範馬勇次郎だ。

 

その規格外の戦闘力から、彼は人ではなく鬼と称されている。

もっとも、今仕留めた様な妖怪ではなく立派な―――そう言っていいのか、ギリギリの所もあるのだが―――人間なのだが。

 

 

(刃牙さんが知ったら、どう言うのやら……)

 

 

そして、その息子である範馬刃牙。

かつて死闘を繰り広げ、そして敗れ去ったグラップラー。

彼もまた、鬼の血を引くに恥じない闘士。

常に自身の予想を上回り、素晴らしい力を見せてくれている……期待せずにはいられない雄だ。

 

 

(つくづく、私は鬼というものに縁があるのだな)

 

 

烈海王にとって、鬼とは特別な意味を持つ呼び名だ。

遥か過去である大正時代にまで来て、その名と出会えようとは……どこか、感慨深さすらある。

 

 

 

「っと、いかん……!」

 

 

今は、感慨深さを味わっている場合ではなかった。

鬼について気になる事は多いが、それより先に為さねばならぬことがある。

 

烈海王は、木に持たれかかっている片平隊士の元へと駆け寄った。

彼が武器を授けてくれなければ、決着を付けられなかった。

感謝してもしきれない……この恩に、何としても応えねばならぬ。

 

 

「あんた、凄ぇよ……十二鬼月に勝ったんだから……」

 

「喋らない方がいい、体力を消耗する。

 今止血をしよう……こちらこそ、君がいなければ奴を倒しきれずに終っていた」

 

 

上着を脱いで刀で裂き、男の傷口を縛る。

これで止血の応急処置は出来るが、それ以上の治療は無理だ。

一刻も早く、彼を病院へと運ばねばなるまい。

麓の町まで戻れば、医者がいる筈だ。

 

烈海王は動けずにいる男を、その背に担いだ。

全力で駆けても落ちぬように、手足をしっかりと縛って結びつける。

 

 

「少々揺れるが、我慢してくれ。

 このまま下山して、町医者の元まで……」

 

 

瀕死のドイルを運んだ時に比べれば、この山道はまだ楽な方だ。

一気に駆け下りれば、五分から十分と言ったところか。

 

 

烈海王は脚に全力を込め、駆けだそうとした……

 

 

 

 

「いいえ、待ってください。

 彼は、私の屋敷に運びますから」

 

 

 

その瞬間であった。

 

 

凛とした声が、烈海王の背後より響いてきたのだ。

当然、彼は大きく目を見開いて背後を振り返った。

まさかこのタイミングで、新たな乱入者が出てこようとは。

 

 

遭難したという親子か?

 

まさか、今倒した鬼の仲間か?

 

 

警戒心を剥き出しにし、視線を向けたその先にいたのは。

 

 

 

「……蝶……?」

 

 

 

一人の、小柄な女性であった。

 

 

担いでいる男と同じデザインの黒い制服。

その上から、まるで蝶の翅を思わせる白い羽織を纏っている。

極めつけは、髪飾り―――蝶そのものの形だ。

そんな様相なのだから、つい蝶と口にしてしまったのも無理はないだろう。

 

 

 

「貴方は……胡蝶様……!」

 

 

 

その姿を見て、担がれていた片平隊士が驚き彼女の名を呼んだ。

 

 

驚くのも当然の事……彼女は、鬼殺隊が誇る最強の剣士が一人なのだから。

 

 

 

 

「はい、蟲柱の胡蝶しのぶです。

 貴方の鴉から、こちらに十二鬼月が現れたと聞いて駆け付けたのですが……随分、変な状況みたいですね。

 ひとまず治療を行いますので、それからご説明願えますか?」

 

 




片平隊士も回想で呟いてますが、ドイル戦で本当に脈絡なく「お前は中国拳法を舐めた!」と理不尽に言ってたので、その流れで今回も叫んでます。
また、前話で「こいつもしかしたら恐竜レベルか?」と期待してたのに対し「ある程度強いは強いけど、それでもこの程度か」レベルだった事への不満もあって、鬱憤溜まってたのだと思います。

追記:中国拳法の頂点である海王に勝てると思う→中国拳法を舐めたという図式が出来上がるので、烈さんの「お前は中国拳法を舐めた」発言があるというご指摘をいただきました。
皆様方、ありがとうございます……
まあ、しっかりした理屈が烈さんの中にはあるにしても、ドイルや釜鵺達側からすれば「俺いつ中国拳法馬鹿にした!?そんな事言ってねぇよ!?」とボコボコにされながら理不尽に感じてるんじゃないでしょうか、きっと(´・ω・`)


鎖分銅の扱いに関しても、同じくドイル戦で投擲→捕縛のコンボを見せてますから、これぐらいは出来るだろうと判断して書かせていただきました。

そして、本編キャラとの合流をようやく果たせました。
次回から本格的に、鬼殺隊と烈さんが関わっていく事になります。




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