鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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またしても前回より間が空いてしまった事、深くお詫び申し上げます。
執筆時間の確保が難しい状況が続いていますが、出来る限りの努力を致しますので、何卒宜しくお願い致します。


38 上弦の弐

 

 

 

 

 

 

「はい、何処にも問題はありません。

 至って健康体ですよ、玄弥君」

 

 

 

それは、炭治郎達が吉原遊郭に向かう数日前の事。

蝶屋敷の診察室での出来事であった。

 

 

胡蝶しのぶによる定期検診。

不死川玄弥には、悲鳴嶼行冥に師事していた時よりそれが義務付けられていた。

理由は無論、彼が行っていた鬼喰いにある。

 

 

鬼の血肉を喰らう事で、自らの肉体を一時的に鬼へと近づける技術。

言うなれば身体増強のドーピング行為だ。

強い咬筋力と特殊な消化酵素を持つ玄弥だからこそ、為し得る技だが……悲鳴嶼はこれを危険視していた。

 

如何に玄弥の体質が特殊であろうとも、相手は鬼なのだ。

肉体にどんな影響が出るか分かったものではない―――現に、同年代の隊士と比較しても彼の肉体は歪な速度で成長・増強されていた。

 

 

故に悲鳴嶼は、玄弥の身を気遣いしのぶの元へ通う様に命じたのである。

 

 

 

 

「身体の造りは前よりしっかりしていますけど……これは鬼喰いの影響ではなく、玄弥君自身の努力に依るものです。

 頑張っているのが良く分かりますよ」

 

 

 

そしてそれは、現在―――烈海王の継子となった今も続いている。

接種していた薬物が、服用から数ヶ月或いは数年後に突如として牙を剥く事がある様に。

鬼喰いもまた、長い目で診続ける必要があると判断されたからだ。

 

 

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

 

 

診察結果は至って良好。

その言葉に、玄弥は勿論……付き添いで同室していた烈海王も、ホッと一息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――玄弥、私の下で学ぶにあたり伝えねばならぬ事がある。

 

 

 

―――お前の鬼喰いについてだ。

 

 

 

 

―――武を、真なる強さを手に入れたいと願うならば、楽な近道などありはしない。

 

 

 

―――地道な鍛錬の積み重ねこそが、唯一の道だ。

 

 

 

 

 

 

―――もしもお前が、安易に手に入る強さを求め鬼喰いを行おうというのであれば……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

烈海王に師事する事を決めたあの日から、玄弥は鬼喰いを一度も行っていない。

 

兄に少しでも近づく為、呼吸を使えぬ己が非力を補う為に鬼喰いに手を伸ばしたが……烈海王の言う事はもっともだ。

彼は、必ず自身を強くすると誓ってくれた。

ならばその心意気に応えねばならない。

 

安易な鬼喰いを続ける事は、己を強くさせようと真摯に向き合ってくれている師への侮辱なのだから。

 

 

 

 

(本当に……烈さんの教えは、確実に実を結んでいる。

 今は鬼喰いを行っていないにもかかわらず、この肉体の成長度合い……玄弥君の直向きな努力があればこそ)

 

 

 

しのぶは、そんな玄弥を高く評価していた。

鬼喰いに頼らぬ地道な積み重ね……それが確実に、彼の肉体を強く成長させていたからだ。

 

烈海王の指導が、余程あっていたのだろう……彼の事を、強く信頼しているのだろう。

乾いたスポンジに注いだ水の如く、見る見るうちに吸い込み己が物にしている……それが如実に伝わってくる。

 

 

 

(そして……上弦の闘いを目の当たりにした。

 その経験も、彼の中で活きているのでしょうね)

 

 

 

また、玄弥はつい先日―――無限列車での任務で、上弦の参と接敵している。

そして、烈海王と上弦の鬼との死闘を誰よりも間近で視た。

これは非常に得難い経験である。

 

 

彼が今までに相手取ってきたどの鬼よりも強い、隔絶した力量を持つ修羅。

その力の程を目の当たりにして尚、無事に帰還する事が出来た。

 

倒すべき鬼の精鋭が、どれだけ恐ろしい猛者であるか……それを正しく認識出来た。

目指すべき頂の高さを、改めて知る事が出来た。

 

 

間違いなく、日々の鍛錬にも強く影響を与えている―――実際、後日にリアルシャドーの相手として、玄弥は猗窩座を選んでいる―――だろう。

これもまた、彼の成長の一因に違いあるまい。

 

 

 

 

「……烈さん。

 貴方は上弦の参を退け、そしてあの鬼舞辻無惨にも手傷を負わせています。

 今現在、最も鬼に警戒されているでしょう……今後、より強い鬼が派兵される可能性は極めて高いです。

 これは行動を共にしている玄弥君にも、同じ事が言えます」

 

 

しかし、同時にある危険性も生じている―――つい先日、実弥と耀哉も同様に危惧していた。

 

鬼舞辻無惨の警戒度が、より高くなったという事だ。

十二鬼月でさえ退けた今、無惨は烈海王を今以上に危険視するだろう。

ならば必然的に、二人が相対する鬼の強さは跳ね上がる事になる。

 

 

 

 

 

だからこそ、伝えねばならない。

 

 

 

 

 

「……お二人に、お伝えしたい事があります。

 私には、ずっと探し続けている一体の鬼がいます」

 

 

 

 

自身が追い求めている、あの鬼の事を。

 

 

 

 

「その鬼は、柱を一人葬っています……あの人の実力は、よく知っています。

 誰よりも間近で、見てきましたから……並の鬼に倒されるとは、到底考えられません。

 恐らく、十二鬼月……それも上弦であると思います」

 

 

「ッ……!?

 胡蝶さん、もしやその柱とはッ……!!」

 

 

 

胡蝶しのぶが、誰よりも間近で見続けてきた柱。

それが誰の事であるか、烈海王にはすぐに察しがついた。

 

 

この蝶屋敷に身を預け、屋敷の者達と交流を深めてきた……その中で、何度も話題に出た人物が一人いる。

 

しのぶの先任として蝶屋敷を預かり、数多くの功績を上げてきた女性隊士。

曰く、あの不死川実弥でさえその実力を認め、辛辣な態度を取る事は然程無かったという。

 

 

間違いなく、彼女の事だ。

 

 

 

 

「その通りです、烈さん。

 私が追っている鬼は、私の姉……カナエ姉さんの仇です」

 

 

 

 

胡蝶カナエ。

しのぶの姉にして、花柱として鬼殺隊の中枢を担っていた剣士。

 

数年前に、鬼との闘いで致命傷を負い死亡した……その死には、多くの隊士が衝撃を受け悲しみ、そして怒りを抱いたという。

 

 

 

 

 

 

「烈さん達は、姉を殺した鬼と出会う確率が誰よりも高いです。

 だから……お二人には、お伝えしなければなりません。

 死の間際に姉が伝えてくれた……その鬼の特徴を」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――頭から血を被ったかのような姿。

 

 

 

―――にこにこと屈託なく笑い、穏やかで優しい口調。

 

 

 

―――その手には、鋭い対の鉄扇。

 

 

 

 

 

 

「こいつがッ……!!

 こいつが、胡蝶さんの姉を殺したッッ……!!!」

 

 

空間に生じた襖より、突如として出でた新たな鬼―――上弦の弐。

その風貌の全てが、見事なまでに合致した。

 

疑いようは無かった。

目の前に立つ鬼こそが、胡蝶カナエを殺害した張本人であるとッッ……!!!

 

 

 

「妓夫太郎、大丈夫かい?

 まさかこの場所で、また君を助けるなんて……不思議な縁を感じるなぁ」

 

「ど、童磨さん……すみません」

 

 

上弦の弐―――童磨と呼ばれた鬼は、横に立つ妓夫太郎へと優しく語り掛けていた。

 

手傷を負った彼を労り、心からその身を案じていると感じさせる声色と仕草。

その光景だけを見聞きすれば―――整った容姿も相まって―――実に良い好青年という印象を、大抵の者は受けるだろう。

 

 

 

 

 

だがッ……!!

 

 

 

 

 

(ッッッ~~~~!!!???)

 

 

 

 

この場にいる全ての隊士達が抱いた印象は……真逆ッッ……!!

 

 

 

 

 

 

(な、なんなんだこの鬼……そんな事、あり得るのか!?)

 

 

 

真っ先に異常性を感じ取ったのは、炭治郎であった。

 

 

人は喜怒哀楽の感情を発する時、特有の匂いを肉体より生じさせる。

それは常人には感じ取れない微々たるものなのだが、炭治郎は優れた嗅覚によりその匂いを感じ取る事が出来る。

その精度は高く、常に感情のコントロールを心掛け周囲に悟られぬ様に振舞う胡蝶しのぶの心境でさえ、彼は読み取った。

 

 

故に、対面する相手が如何なる思いを抱いているかを、匂いによって大凡把握する事が出来るのだが……

 

 

 

 

 

(鬼特有の臭いは、色濃くある……とんでもない強さだ。

 だけど……だけど、あまりにおかしすぎるッ!!

 どんな鬼にも、臭いに個人差があった……どれだけ強い鬼でも、その鬼の性格や個性を表す臭いが伴っていた。

 それが、この鬼には……全くないッ……!?)

 

 

 

童磨からは……それが微塵も感じられなかった。

鬼が放つ特有の臭いこそ、色濃く感じられるが……それだけなのだ。

言うなれば『これが鬼だ』という見本的な臭いこそあれど、他の臭いが全く混じっていない。

これは異常と言ってもいい。

 

 

例えば先刻まで彼が対峙していた堕姫は、鬼特有の臭気に加えて微かな甘い匂いを混じらせていた様に。

何かしら、個人個人での微妙な差が必ず生じる筈なのだ……これは、何も鬼に限った話でもない。

人間や動物でも、特有の匂いがある。

同じ事柄に怒りを抱いた人間を二人並べたとしても、それぞれで匂いに差が出る様に……その人物を象徴する何かが、普通はあるのだ。

 

 

 

 

 

だが……童磨には、それがまるで無いッ……!!

 

 

 

 

 

(こいつには、感情が無いのかッ!?

 だから臭いが……けど、鬼だって元は人間だ。

 感情が一切無い……馬鹿な、そんな事が有り得る筈がないッ……!!)

 

 

 

感情が存在しない。

それは、人である以上決してありえぬ事だ。

 

事実、辛い過去により心を閉ざしたと周囲に認識されていた栗花落カナヲでさえ、感情が一切ないわけでは無かった。

彼女はただ、トラウマによって自分を封じていただけに過ぎなかった……その奥底には、確かな心があった。

 

 

 

 

 

 

ならば……感情の一切が感じられぬこの鬼は、一体何なのだッッ……!!??

 

 

 

 

 

 

(上弦の弐ッ……これがッッ……!?)

 

 

 

続けて、烈海王達も童磨のその異常さを全身で感じ取った。

 

 

 

 

強き敵、恐るべき困難を前にした時、人はその相手に強い幻想―――イメージを垣間見る事がある。

 

 

 

 

ルミナ少年は、いじめっ子に命じられるがままに範馬刃牙と対峙した際、その姿が10メートルを超える巨躯に見えた。

 

かの達人渋川剛気は、ジャック・ハンマーとの死闘に赴く最中、決して踏み越えてはならぬ巨大な門を見た。

 

範馬刃牙は、大剣豪宮本武蔵を前にして核兵器を思わせる巨大なキノコ雲を見た。

 

 

 

 

 

それらと同じく……童磨の背後に見えたイメージはッッ……!!!

 

 

 

 

(黒雲ッ……大穴ッ……馬鹿でかい虚ろッッ……!!??)

 

 

 

この上ない漆黒の穴ッ……ブラックホールッ……!!

底知れぬ冷たさと得体の知れぬ恐怖を兼ね備えた、圧倒的虚無ッッ……!!!!

 

 

(……この男、武術家ではないッ……!!

 今まで相対してきたどの相手とも、根本から異なるッッ!!

 それでいて……間違いなく、強いッッ……!!)

 

烈海王は、童磨を未知の強敵と認識した。

武術家が持つ空気が一切ない……かといって、花山薫やピクルの様な野生ともまた違う。

それでいて、強いという事実だけは如実に伝わってくる。

あの鬼舞辻無惨の方が、生物として分かりやすいぐらいさえある……この様な敵は、初めてだ。

 

 

(くそったれ……最悪の事態だ。

 烈さんのおかげで見えた勝ち筋が、消えちまったッ……!!)

 

その認識は天元も同様であった。

上弦の弐の位に恥じず、これまで見てきたどの鬼よりも遥かに強い。

おかげで、先程まで見えていた確かな勝機が、瞬く間に消えてしまった。

 

 

(考えろ……ここで判断を間違えれば、命取りになる……!)

 

 

このままでは、最悪全滅すらありえる……すぐに戦術を考案しなければならない。

最も確実に、鬼を討てる手段は何か?

 

(兎に角、確実に倒せる奴を狙うしかねぇ……上弦の陸を真っ先に仕留める。

 善逸と伊之助には悪いが、このまま妹鬼を任せよう。

 そして俺達全員で弐を足止めしといて、その隙に陸を烈さんが倒すッ……!!)

 

この戦いにおいて鬼殺隊側がもつアドバンテージは、言うまでもなく烈海王と妓夫太郎の相性だ。

烈海王は、鬼の毒に対して強い免疫を獲得している……妓夫太郎の強みである血鎌の猛毒が一切通用しない。

故に、彼に妓夫太郎の相手を任せ、倒し切るまでの時間稼ぎに自分達は徹する。

 

これが現状での最善手ッ……!!

 

 

「烈さん、あの鎌野郎の相手をッ……!!」

 

 

すぐさま、天元は烈海王に向けて声を上げた。

長い言葉はいらない……この一言のみで全員が意図を察してくれるだろう。

後は、全力を以て闘うべき相手に各自向き合うのみだ。

 

 

 

 

 

……しかし。

 

 

 

 

 

「させないよ」

 

 

 

天元の判断、それ自体に誤りはなかった。

即座に状況を見抜き、完全な正解へと辿り着けていた。

彼が導き出したのは、紛れもない最適解であった。

 

 

 

だが……残念な事に、模範解答過ぎたのだ。

 

 

 

 

「ッッッ~~~~!!!???」

 

 

 

天元が声を出した瞬間……同時に振り上げられていた、童磨の鉄扇。

間もなく視界に入ったその光景を目にして、天元は己の失態をすぐさま悟った。

 

 

もしも、彼が普段通りの冷静さを発揮できていれば、気付けていただろう。

ここは安定の守りに入るのではなく、多少のリスクを冒してでも攻めに出る事こそが正解であったと。

 

だが、妓夫太郎との戦闘でのダメージと毒による消耗……そして童磨の襲来という異常事態が重なり、僅かながらに集中力と判断力が落ちてしまっていた。

 

 

 

 

――――――烈海王は、妓夫太郎に対して圧倒的に優位に立てる。

 

 

――――――故に、勝つ為には彼等に闘い合ってもらう必要がある。

 

 

 

(だからッ……上弦の弐が来たんだろッッ……!!)

 

 

 

そう……この展開を、鬼側が予測出来ていない訳がなかったのだ。

 

 

最も避けるべき烈海王と妓夫太郎との対決を、黙ってさせる訳がないッ……!!

 

 

 

対抗策は、すでに出来上がってしまっているッッ……!!!

 

 

 

 

――――――ドンッッッッッ!!!!!!

 

 

 

次の瞬間……烈海王達と童磨達の間に、轟音を立ててそれ等は落ちてきた。

 

無数の、太く鋭利な氷の槍ッ……!!!

 

 

「つららッ……!?」

 

 

 

――――――血鬼術『冬ざれ氷柱』ッ……!!

 

大量の氷柱を頭上に出現させ、敵目掛けて矢の如く放つ童磨の血鬼術であるッッ……!!

 

 

 

「ッ……やられたッッ!!!」

 

 

降り注いだ氷柱の全長は、大凡二メートル。

その数は三十余り……それらが地面に次々と、隙間なく横並びで突き刺さったのだ。

 

 

 

丁度、鬼殺隊と鬼との中間地点で……両者を隔てる壁となる形でッ……!!

 

 

 

「ッ……すまねぇ、童磨さん!!!」

 

 

妓夫太郎は、この術の目的をすぐに把握した。

氷壁により姿が隠され、且つ接近も一時的に阻止できている今……為すべき事は一つ。

 

この機を逃す手はないッ……!!

 

 

 

 

――――――タンッッ!!!

 

 

 

地を蹴り、疾走する妓夫太郎。

その進行方向は、烈海王達がいる地点とは百八十度真逆。

つまり、完全に彼等に背を向けて走る形であった。

 

 

己が不利を悟り、逃亡を選んだか?

 

 

 

否ッ……彼が向かう先はッッ……!!!

 

 

 

「臭いが遠ざかって……この方向ッ!?

 宇随さん、奴はッ!!」

「分かっているッ!!

 あの野郎、妹と合流するつもりだッッ!!!」

 

 

堕姫の元ッ……!!

烈海王から距離を離すと同時に、まず善逸と伊之助を葬るつもりなのだッッ……!!

 

堕姫を相手に一進一退が続いている現状で、もしも妓夫太郎が現れたら二人に勝ち目が無くなる。

いや、二人だけの問題ではない。

この兄妹の性質―――首を同時に落とした状態にしなければならない―――上、手勢が減れば討滅はより絶望的になってしまう。

 

それだけは、何としても阻止しなければならない。

 

 

 

「ッ……来い、炭治郎ッッ!!

烈さん、不死川の弟……すまねぇッッ!!」

「……はいッッ!!!」

 

 

追いかける他に道は無し。

天元はすぐさま駆け出し、氷壁を迂回する形で妓夫太郎の後を追った。

炭治郎も、その後に続き疾走する。

 

 

それが童磨の思惑―――自分達の分断―――通りと分かっていながらも、そうする他無かった。

 

上弦の弐という未知の強敵を、烈海王と玄弥の二人だけに任せるしかない。

申し訳ない事この上ないと、天元も炭治郎も強く感じていた。

 

 

しかし。

 

 

 

 

「……大丈夫ですよ、天元さん、炭治郎さん。

 私達の事は、何も心配しないでください」

 

 

 

 

全てが未知数の強敵が相手?

 

 

 

上等ッッ……!!!

 

 

 

答えなど、最初から決まっているッッ!!!

 

 

 

 

「私達は……一向に構いませんッッ!!!」

 

 

 

右の拳を固く握り絞める。

 

 

その後、眼前の氷壁へと拳を強く押し当て……瞬時に、全力を解き放つッッ!!!

 

 

 

―――――――バキャァァァァッ!!!

 

 

 

無寸勁ッ……!!

 

烈海王、氷壁を一撃で粉砕ッッ!!!

 

 

その先に待ち受ける童磨と、強く向き合うのであったッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「へぇ……成程ね。

 烈海王……あの方が警戒しているのも、分かる気がするよ。

 強いね、君」

 

 

 

無寸頸により崩落した氷壁の先。

そこに立つ烈海王の姿と闘気を前にして、童磨はよりにこやかに笑みを浮かべた。

 

今まで、多くの隊士を葬ってきた。

中には柱を筆頭に、優れた実力者も大勢いたが……これは中々に興味深い。

主があそこまで警戒するのも良く分かる。

 

 

 

烈海王……紛れもない最上級ッ……!!

 

 

 

「あの方から、猗窩座殿が拳法で引き分けたと聞いた時は、最初は信じられなかったけど……うんうん。

 いやぁ、参ったなぁ」

 

 

主に手傷を負わせ、且つ生還したのみならず。

鬼随一の拳法家である猗窩座が、正面切っての殴り合いでも勝てなかった。

 

先日―――無限列車での闘いが終わって間もなく―――緊急の招集をかけられてそう聞かされた際には、正直言って半信半疑であった。

だが、蓋を開けてみればこの通り……事実、妓夫太郎は完全に圧倒されていた。

 

主の言の葉に、嘘も誇張も一切無し……全てが事実と、心から納得できる。

 

 

 

 

 

 

「……何……?」

 

 

 

 

そんな童磨の様子と言葉に……烈海王は、違和感を覚えた。

 

 

 

 

 

(……主……鬼舞辻無惨から、聞いた……?)

 

 

 

童磨は今、自分達の闘いについて鬼舞辻無惨から聞いたと……そう口にした。

そして、それに今の今まで疑問を抱いていた。

 

 

 

 

おかしい。

 

 

 

 

(この男……猗窩座本人からは、何も聞いていない……?)

 

 

そうだ。

 

それ程気になるというのであれば……当事者である猗窩座に話を聞けばいいではないか。

 

 

(猗窩座が闘いについて話さなかったのか……?

ありえない話ではないが……)

 

 

この振る舞い方を見るに、猗窩座と童磨のソリが合わないであろう事は容易に想像がつく。

話さなかったという可能性は、勿論ゼロではないだろう。

 

 

 

 

しかし。

 

 

(違う……鬼舞辻無惨の性格ならば、そんな事は許されないッ……!!)

 

 

それは、個人間での私的なやり取りに限る。

組織の最高幹部同士による情報交換という観点からすれば、やはりありえないのだ。

 

 

慎重極まりないあの鬼舞辻無惨が、猗窩座に事の次第を一切話させなかったとは到底考えられない。

敵戦力の把握は、戦場において最も重要な要素……それを直に味わった者がいるならば、寧ろ積極的に話させる筈ではないのか?

まして、自分は―――光栄という気持ちは微塵もないが―――鬼にとって最も警戒すべき敵の筈なのに?

 

 

 

 

(そもそも……鬼舞辻無惨は、細胞を通じて情報を与える事が出来る筈だ。

 配下が見聞きした光景を、別の鬼に見せる……現に猗窩座は、私の発勁を知っていたッ!!)

 

 

 

 

 

――――――これがあのお方にさえ手傷を負わせた拳打……発勁というものかッッ!!!

 

 

 

 

(あの時の猗窩座は、鬼舞辻無惨より記憶の共有をさせられていたに違いない。

なら……私を警戒すると言うのならば、何故同じ事をしていない……?)

 

 

 

猗窩座と自分の闘いを、鬼舞辻無惨は猗窩座を通して視ていた筈だ。

何故、それを上弦の鬼に共有していない……?

戦略的見地からして、ありえない愚行。

 

 

 

 

それとも……共有が、できなかった……?

 

 

 

 

 

見せるわけにはいかない、不都合があった……?

 

 

 

 

 

 

「……フッ……フハハハハッッ!!

 そうか……そうか、猗窩座ッッ!!!」

 

 

あの闘いで、鬼舞辻無惨が配下に明かせぬ事柄は何か。

そんなもの……たった一つしかない。

 

 

 

猗窩座に語った、武術家として鬼を許せぬ理由。

 

最強を夢見ておきながら、最強の鬼に逆らえない矛盾ッッ……!!!

 

武に生きる身からすれば、致命的にも程がある欠陥ッッッ!!!

 

 

 

アレを見せられるわけがない……見せてしまえば、気付く者が出るからだ。

 

 

 

 

そして……童磨が、猗窩座から直接話を聞いていないのはッッ……!!!

 

 

 

 

―――私の言葉を聞いても尚、何も思わんというのであれば、貴様に武を磨く資格はないッッ!!!

 

―――だが、改めて武を極めたいというならば、今一度己が原点に立ち返れッッ!!!

 

―――何が為に強さを得んとするか……それを思い出せッッ!!!

 

―――鬼舞辻無惨などの為では決してない筈だッ!!

 

―――禰豆子さんの様に、珠世さんの様に……己自身の意志を以て、改めてその心に問えッッ!!!

 

 

 

あの日の問いかけは……届いていたッッ……!!!

 

 

 

「猗窩座は、鬼舞辻の枷から外れた……そうなのだろう、童磨ッッ!!!」

 

 

 

 

猗窩座は、鬼舞辻無惨の支配から外れたのだッッ!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……ハァ。

参ったなぁ……そこまで見抜けるんだ。

失言だったね、今のは」

 

 

烈海王の言葉を耳にして、童磨は大きくため息をついた……即ち、認めたのだ。

自らの失言と、事実を。

 

 

彼が言う通り……猗窩座は、既に自分達の元を離れていると。

 

 

 

(上弦の一角が離反……鬼にとっては最悪の凶報。

そして鬼殺隊にとっては、最大級の吉報だ)

 

 

 

数百年もの間、討滅が敵わなかった鬼の最大戦力―――上弦。

その一角が、主に背き独自の行動を取りはじめた。

隊士からしてみれば、これ以上ない朗報と言えるだろう。

 

流石に、味方とまでは言えないかもしれないが……少なくとも、鬼舞辻無惨と敵対する存在になった事は確かだ。

敵戦力の低下と同時に、敵首魁の首級を狙う存在が生まれた……これまで数百年動かなかった戦況が、遂に大きく動く時が来たのだ。

 

 

 

(だが……それでもこの男は、まだ生きている)

 

 

しかし、喜んでばかりもいられない。

その事実を口にしても尚……童磨は、この場に立っているのだから。

 

鬼にとっては不都合極まりない―――事実、本人も失言と認めている―――発言。

もしもこれが低級の鬼であったならば、最後まで言い切る前に即処刑されていただろう。

鬼舞辻無惨ならば、確実にそうしている筈だ。

 

もっとも、猗窩座の離反自体を上弦未満の鬼には伝えていない可能性は高い……それ程までに秘匿性の高い情報なのだから。

 

 

 

 

そして……再度言うが、それを口にしても尚、童磨はこの通りこの場に立っている。

 

 

 

 

即ち、情報漏洩の失態があって尚も処刑されないだけの逸材。

替えが利かぬ最大戦力という事だ。

 

 

 

 

「ねぇ……猗窩座殿に、一体どんな話をしたのかな?

 興味あるから、聞いてみたいんだけどなぁ」

 

 

更に……やはりと言うべきか、童磨は猗窩座離反について詳しく知ろうとしてきた。

これも、秘匿徹底を努める鬼舞辻無惨の意に反する行為の筈だ。

 

 

かのアンチェイン―――ビスケット・オリバやゲバル達の様に、強さ故に自由が保障されているという事か。

 

 

 

「……断る。

武術家でない貴様に話したところで、理解は出来まい」

「えぇ……そんなぁ」

 

 

だが、烈海王にはそれを教えるつもりなど毛頭なかった。

相手が武に生きる者ならば共感も得られたであろうが、この男はそうではない。

武術家でもない上に、推し量れぬ虚無を心に秘めた鬼ときた……何を言った所で、心に響きやしないだろう。

 

 

(軽薄軽率な振る舞いながらも、言いふらす様な輩では決してあるまい……その様な男を刺客に差し向けはせんだろう)

 

 

一応、童磨に真実を伝えればそれを誰かに伝聞するかも……という展開も考えはしたが、すぐさま思考から打ち消した。

流石にそこまでしてしまえば、鬼舞辻無惨の許容範囲を外れる……確実な処刑遂行だ。

童磨もそれは分かっている筈……他言は一切すまい。

鬼舞辻無惨も、そこまで見越して童磨を派兵しているに違いない。

 

 

烈海王と対話をしても、心揺れず戦える存在……そんな鬼でない限り、猗窩座の二の舞になりかねないのだから。

 

 

 

 

 

 

「……上弦の弐。

 俺達からも、お前に聞きたい事がある」

 

 

 

ここで、今まで沈黙を保っていた玄弥がはじめて口を開いた。

 

 

その表情は、極めて厳しく。

 

その声は、重く強く……暗い熱がこもっていた。

 

 

 

 

「お前は……胡蝶カナエさんを覚えているかッ……!!」

 

 

 

玄弥の口から放たれたのは、しのぶの姉―――胡蝶カナエの名。

 

 

童磨に殺されたという彼女の事を、何としても聞かねばならなかった。

 

闘いに挑む前に、どうしても確かめなければならなかった。

 

 

 

「お前が殺したカナエさんの事を、覚えているのかッッ!!!」

 

 

 

玄弥もまた、家族を鬼―――その身を悪鬼に変えられてしまった母―――の手によって失った身。

 

妹も、弟も、母も。

皆、無惨に死んでしまった。

 

理不尽に家族を奪われる辛さは、痛い程に知っていた。

 

 

 

カナエとしのぶも、隊士として覚悟を決めた身ではあっただろう。

互いに闘いの中で命を落とすかもしれないと、承知の上ではあっただろう。

 

 

それでも……それでも。

 

 

遺された者が負う痛みは、如何なる肉体の苦痛にも勝る。

そしてその痛みは、一生涯消える事は無い。

 

 

 

だからこそ……こうして、彼女達の痛みの大本と向き合う事が出来た今。

問わずにはいられなかったのだ。

 

 

その無念を、僅かでもこの手で晴らせるなら……と。

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

 

「胡蝶、カナエ……?

 ん~……ごめん、誰の事か分からないや!

 今まで、沢山殺してきちゃったからなぁ」

 

 

 

 

そんな玄弥の気持ちを、踏み躙り嘲笑うかの様に……童磨はあまりにもあっさりと、事もなげにそう答えたのだった。

 

 

 

 

「名前からして、女だよね?

 だったら尚の事だな……男と女だとね、女の方が栄養あるんだよ?

 身体の中で赤ん坊を育てられるだけ、たっぷりとさ!」

 

 

 

 

それどころか、嬉々として女性を食う利点を語り始めた。

喰らってきた者の命など、何とも無いと言わんばかりに。

 

 

 

「ッ……テメェッッ……!!」

 

 

当然、こんな事を聞かされて……平気でいられる筈が無い。

 

まだ、猗窩座の様に闘った相手への敬意―――鬼特有の価値観から、少し歪んだ部分はあったものの―――を持つ様であれば、幾分かはマシであったかもしれない。

 

しかし、実際はこの通りだ。

 

 

 

 

こんな……こんな輩に、しのぶは家族を奪われたというのか?

 

 

 

 

こんなクズにッ……こんな外道にッッ……!!!

 

 

 

 

「猗窩座殿にも伝えたんだけどね……何故か猗窩座殿って、男しか食わなかったんだよなぁ。

 女を食べていれば、もっと強くなれてたのに……勿体ないと思わない?」

 

 

 

 

――――――プツンッ。

 

 

 

 

「黙れえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!!」

 

 

 

 

玄弥、キレるッ……!!!

 

 

 

 

――――――ドンッッ!!!

 

 

 

瞬時に脳内にて読経、反復動作による身体能力の全解放ッッ!!!

 

 

全力で前へと踏み込み、童磨目掛けて怒涛の勢いで一直線に突き進むッッッ!!!!

 

 

 

 

 

(ッ……思った以上に速い。

 烈海王の継子……そうなれるだけの力量はあるみたいか)

 

 

 

その勢いは、童磨からしても称賛に価するものであった。

怒りによる身体向上効果はあるにしても、並の隊士のそれではない。

実によく練られている。

 

 

 

(全く……残念だなぁ)

 

 

 

だが……それでは、童磨は倒せない。

既に玄弥は、彼の術中に嵌ってしまっていた。

 

 

 

(怒りで頭に血が上ってしまっている……呼吸も当然大きくなるよね)

 

 

 

 

――――――血鬼術『粉凍り』

 

 

 

童磨を上弦の弐足らしめているのは、冷気を操る強力な血鬼術。

その中でも、最も鬼殺隊を死に至らしめてきた術が、この粉凍りだ。

 

自身の血を空気中に散布し、それを術により瞬時に氷結。

常人では視界に捉えられない微細な氷の粒子として、周囲に撒き散らす術である。

これを空気と共に吸い込み取り込んでしまえば……肺胞は徐々に凍り付き、最後には壊死してしまう。

 

全集中の呼吸を扱う鬼殺隊にとっては、正しく天敵と呼べる戦法。

そして並外れた視力や皮膚感覚がない限り、これの存在を察知する事はほぼほぼ不可能。

柱であろうとも逃れる術はない、完全な初見殺しである。

 

 

そして玄弥は今、通常時よりも大きく呼吸をしてしまっていた。

 

即ち、大量の粉凍りを体内に取り込んでしまっていた。

 

 

童磨からすれば、既に勝利が確定している状況となったのだ。

 

 

 

(後は、出せる限りの技を見せてほしいな)

 

 

肺が壊死するまで、時間が少しかかる。

それまでの間、烈海王共々出し得るだけの技を見せてもらいたい。

折角、主がここまで警戒する敵と出会えたのだから……出来るだけの観察をしてから終わらせたい。

 

まずは、この一撃を防ぐとしよう。

これだけの速度と勢い、握られた拳の強さ……果たしてどれだけの重さが出るか。

 

 

鉄扇を展開、拳が向かう先であろう首元へと掲げて盾代わりに……

 

 

 

 

 

 

――――――ドゴォッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 

 

 

 

するよりも、速く。

 

 

 

玄弥の右拳が、童磨の顎元を打ち抜いていたッッ……!!!

 

 

 

 

 

(ッッッ!!???

 俺までの距離は、まだあった……拳が届く間合いじゃなかった。

 なのに……今のはッ……!?)

 

 

 

打撃により、その身は大きく後方へと吹っ飛ばされて―――首をもぎ取られずに済んだのは、流石の丈夫さというべきか―――いく。

 

 

訳が分からなかった。

 

防御のタイミングは完璧、当たる筈が無い一撃だった。

 

 

 

だが……今の一瞬。

 

 

 

 

(加速したッ……!?)

 

 

 

玄弥の速力が、突如として爆発的に上がったのだッ……!!

 

 

 

「ッッ~~~~!!??」

 

 

 

更に、玄弥の動きは止まらないッ!!!

 

 

震脚後、跳躍ッッ!!!

 

地面に倒れ込もうとしている童磨目掛け、追撃―――上空より全力の足刀を放つッッ!!!

 

 

 

 

 

―――――――ガキィンッッ!!!

 

 

 

 

 

(重いッ……!!!)

 

 

 

 

今度はどうにか、防御が間に合った。

喉元目がけて放たれたその一撃を、鉄扇でどうにか受け止めたのだが……恐るべきは、その威力。

恐ろしく重い、力の籠った蹴撃であった。

これ程までの一撃を受けたのは、いつ以来だろうか。

 

 

先程の急加速といい、一体どこからこんな力が……?

 

 

 

 

「ッ……そうか、君はッ……!!!」

 

 

 

ここで、童磨はある事に気が付いた。

 

先程まで対峙していた玄弥と、今の彼と。

 

 

 

 

 

筋肉の搭載量が、違う。

元々鍛え上げられていたであろう肉体だが、今は更に膨れ上がっている。

 

 

 

そして……その瞳の色。

 

黒く濁った、この色はッ……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―――もしもお前が、安易に手に入る強さを求め鬼喰いを行おうというのであれば……

 

 

 

―――……すまない、今の言葉は撤回させてくれ。

 

 

 

―――お前が、どんな気持ちで鬼喰いに手を伸ばしたか……決して安易とは言えない道であっただろうに。

 

 

―――だからこそ……どうか、今まで以上に慎重になってほしい。

 

 

―――お前自身の成長の為……お前の身を案じる者達の為に。

 

 

 

 

 

―――だがな、玄弥……実のところ、私は中国拳法を捨てようとしたことが一度だけある。

 

 

―――武を守らんが為に、誇りも何もかもかなぐり捨てて……みっともなく、涙まで流して。

 

 

 

―――この先……お前にも、もしかするとそんな時が来るかもしれない。

 

 

―――だから、だ。

 

 

 

 

―――仲間の為、友の為……譲れぬ一線を守る為に、必要になったのであれば。

 

 

 

 

―――その時は……どうか、迷うな。

 

 

 

 

 

―――お前が武を学ぶのは……大切なモノを自らの手で、守る為なのだろう?

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「鬼喰いッ……話には聞いていたけど、相手をするのは初めてだよッ!!」

 

 

童磨は、玄弥の急激な変貌が鬼喰いによるものであると察した。

それならば、全て腑に落ちる。

 

粉凍りは、凍結させた童磨の血を微粒子状にして散布する術である。

 

 

そう……上弦の弐の血なのだ。

並の鬼とは比較にならない程に、濃く鬼舞辻無惨の因子が含まれている。

 

 

 

それを鬼喰いである玄弥が多量に吸い込めば……効果はこれこの通りッッ!!!

 

 

全身の身体能力は一気に増強ッッ!!!

 

肺の壊死など、当然起こりうること無しッッ!!!

 

 

 

 

(だけど……それにしたって、大したものだよ。

 俺の血を大量に取り込んで……それでも無事で済むだけの逸材か……!!)

 

 

 

しかし、如何に鬼喰いとはいえ相手は上弦の弐。

色濃い鬼の血を一気に取り込めば―――事実、鬼舞辻無惨の血を一気に流し込まれた結果、鬼化する事無く死亡した者は多く存在している―――普通は、肉体が耐え切れない。

 

 

 

だが、玄弥は見事に粉凍りを己が力へと変えている。

 

 

 

日々の鍛錬により、鍛え抜かれた肉体ッ!!

 

 

外道童磨を許すまじという、激しい怒りッッ!!!

 

 

穢された胡蝶姉妹の誇りを守らんとする強き精神ッッッ!!!!

 

 

 

その全てが作用し合いッッ……今、玄弥は童磨の血を超えたッッ!!!!

 

 

 

 

マックシングッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ウオオオオォォォォォッッッ!!!!」

 

 

 

玄弥は鉄扇を蹴り、真上へ再跳躍。

そして強く握り締めた右の拳を、落下の勢いに乗せて振り下ろすッッ!!!

 

 

 

「フフフッ……いい、実にいいねッッ!!!」

 

 

 

その様を見て、童磨は尚も笑った。

 

警戒すべきは烈海王と、妓夫太郎と闘っていた柱。

それに耳飾りの隊士だけだと思っていたが……面白い伏兵がいたものだ。

 

何とも嬉しい誤算だ。

 

 

観察しがいがあるというものッ……!!

 

 

 

 

――――――血鬼術『蔓蓮華』ッ!!!

 

 

 

 

玄弥の拳が童磨の顔面を捉える寸前。

童磨の肉体を囲む形で、氷で出来た蓮の花が地面より出現する……その数、合計六。

そしてその全てより、氷の蔓が勢いよく噴出ッ……!!

 

 

四方八方より迫り、玄弥の肉体を瞬時に絡め取るッッ!!!

 

 

 

「ッッ!!??」

 

 

拳、届かず。

氷の蔓に全身を拘束され、一切の身動きが取れないッ……!!

 

 

 

「今度はこっちの番だよ」

 

 

鉄扇を玄弥に向け、術式の展開に移る童磨。

玄弥の今の筋力を考えれば、この拘束も力尽くで突破されかねない。

だから、そうなる前に仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

……しかし。

 

 

 

当然、それを許さぬ者がここには一人いるッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

「破ァッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

烈海王ッ……!!!

 

 

 

――――――バキイイィィィンッッッ!!!!

 

 

 

九節鞭の一撃により、玄弥を捕える氷の蔓……その全てを粉砕ッッ!!!

 

 

 

 

 

「おっと……そりゃ、割って入るよね」

 

 

 

その様を見て、童磨はすかさず地を蹴り二人との距離を取った。

仕切り直し、改めて闘いに向き合うべく。

 

 

 

 

(粉凍りはもう使えないな……継子の鬼喰いが面倒だ)

 

 

粉凍りをこれ以上使う訳にはいかない。

自身の血にも耐えうる域の鬼喰いならば……吸い込めば吸い込む程、強くなりかねない。

烈海王という強敵も同時に相手取るには、無視できないリスクだ。

 

 

 

 

こんな経験は……初めてだ。

 

 

 

 

 

 

(いいね……実にッ……!!)

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「烈さん……すみません、ありがとうございます」

 

 

拘束から逃れ、玄弥はすぐに烈海王へと頭を下げた。

怒りに身を任せて、ついつい突撃してしまったが……ご覧の有様だ。

冷静になってみれば、未知の相手に対して取るべき戦術では無かった。

 

もう少し出方を伺って、慎重に動くべきであった。

そう、自らの未熟さを恥じたのだが……

 

 

 

「いや……今回は、お前が先に出たからこそ分かった事もある。

巧遅は拙速に如かずとはよく言ったものだ。」

 

 

しかし、烈海王はそれを責めなかった。

彼が先に飛び出したからこそ、童磨の術式の恐ろしさを把握できた。

 

 

玄弥のパンプアップ、そしてマックシングへの突入。

鬼喰いによるこの増強を見て、烈海王は見抜いたのだ。

 

童磨は己が周囲に、目に見えぬ何かを散布していると。

加えて、彼が冷気を操るのであれば……微粒子の霧氷に違いないと。

 

これに気付かぬままに闘いに挑めば、確実にやられていただろう。

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

「……それにな、玄弥。

 私とて……あの男には、怒りを抱かずにはいられぬッッ!!」

 

 

 

 

 

 

怒り心頭なのは、烈海王もまた同じッッ!!!

 

 

 

柱とは、選ばれた隊士にのみ許された名誉ある称号ッ!!

 

 

それだけの優れた剣士と闘っておきながら、その存在を忘却する暴挙ッッ!!!

 

 

 

断じて許せぬッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「いくぞ、玄弥ッッ!!」

 

「はいッッ!!」

 

 

 

 

 

その報い……受けてもらうッッッ!!!

 

 

 

 

 

 




Q:乱戦になったら、相性の都合で真っ先に妓夫太郎潰されない?
A:だから童磨は分断に入りました。


開戦、烈さん&玄弥vs童磨。
天元さんと炭治郎は原作通り、陸兄妹との闘いという流れになりました。

当初は乱戦の展開も考えてはいましたが、妓夫太郎の不利を知った童磨がそれを許すとも思えないので、この様な形になりました。
また、童磨には「次に備えて相手の技を極力出させてから殺す」という研究癖があるので、烈海王戦に極力集中したいというのもあります。


Q:烈さん的に鬼喰いってどうなの?
A:玄弥が鬼喰いに至った心情はよく分かっているので、責めたりはしません。
 そしていざという時には使うべきとも思ってます。

烈さんは、玄弥が安易な気持ちで鬼喰いに走った訳では決してないと理解しています。
その鬼喰いも含めて今の玄弥があるので、責める様な真似は一切しません。

また、ジャックの闘いぶりや振る舞いを見ても烈さんは嫌悪感の類は一切示していない為、ドーピングや肉体改造をそこまで悪くは捉えていない節もあると思います。

とは言え、彼の成長を思えば今後の鬼喰いは出来れば極力控えてほしいとも思っており、玄弥もそんな烈さんの親心を分かっているので、師事以来一度も鬼喰いは行っていませんでした。

ただ、烈さんも中国拳法を守る為に意地もプライドもかなぐり捨ててぐるぐるパンチに走った身です。
その為、玄弥にとって守りたい何か・譲れない一線の為に使う必要があるのであれば、それは迷うなとも伝えてます。



Q:粉凍りは烈さんでもやばくない?
A:玄弥とタッグマッチで無効化できます。

対童磨戦の最大の壁であった粉凍り。
これについては、流石の烈さんでも吸い込んでしまってはどうしようもありませんでした。
しかし、玄弥は話が別です。
鬼喰いの特性上、粉凍りを吸い込んでも肺の壊死は無効化。
そこへ、鍛え抜かれた肉体・童磨への怒り・強い意志が重なり合った結果、上弦の弐の血を乗り越え、最強トーナメント決勝戦のジャックと同じマックシングに至りました。

元々、半天狗を相手にそれなりに闘えるだけの実力がある玄弥がマックシング状態になったとあれば、その戦闘力は童磨にとっても無視出来ず。
リスクを考えると、粉凍りを使う事ができなくなりました。


Q:武術家的に二対一はありなの?
A:相手は武術家ではないし、タイマンするだけの価値もないです。

仮に相手が黒死牟であったならば、烈さんは猗窩座戦同様にタイマンに臨んでいたでしょう。
しかし、童磨は武術家ではなく……且つ、烈さんからすれば許し難い相手でした。
更に、玄弥の怒りもよく分かるので極力彼に闘わせたい反面、彼一人では勝てない強敵だとも認めているので、結果としてタッグマッチを選択しました。

また、本家異世界転生でもデュラハンの居城攻略ではロバートと組んで闘っているので、相手や状況に応じてというのはあると思います。



Q:猗窩座は離反した?
A:離反しました。
 そして無惨はそれを上弦&鳴女にしか伝えておらず、且つ離反の理由は誰にも話していません。
 抱え込まなきゃヤバい爆弾です。

感想欄でも多くの方々が触れていた通り、猗窩座は離反しました。
烈さんとの闘いを経て、無惨の支配から逃れるに至りました。
武術家として、烈さんの言葉と拳に感じ得るものがあったが為です。

そして無惨は、猗窩座離反を上弦と鳴女以外には話しておらず、離反理由は誰にも口にしてません。
鬼殺隊側に伝わるリスクは勿論、下手をすれば武術系の鬼の殆どが自身の存在意義に疑問を抱きかねないからです。

その為、その辺を考慮した上で童磨が送り込まれまいた。
烈海王から話を聞いたとしても決して心に響かず、且つそれを言いふらす心配もないからです。

ただ、流石に口を滑らせた事に関しては無惨もキレてます。
しかし、替えが効かない最高戦力&教団の寄付金を鬼側の活動資金に充てているという事情があるし、何より烈海王対策に送り込んだのに即処刑しては本末転倒なので、かなりイライラしてます。




Q:もしかして妓夫太郎、玄弥とも相性悪い?
A:御館様はそれを予見していたので、烈さんと玄弥を送り込んでました。
 もし対戦が実現していたら、血鎌を喰らっても鬼喰いの性質上「毒が……裏返るッッ!!」状態になっていた為、烈さんとは別の意味で相性が悪かったです。

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