鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

41 / 42
またしても遅くなりまして、申し訳ございませんでした。
ようやく執筆時間の確保が叶ったので、投稿させていただきます。

タイトル通り、童磨戦開戦となります。
よろしくお願いいたします。



39 烈海王&玄弥vs童磨 タッグマッチ開戦

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊『隠』 後藤。

 

 

 

 

 

 

彼は、この一夜の死闘について、多くの隊士へとこう語ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――烈さんって、多対一で戦う印象が全く無かったんだよなぁ。

 

 

 

 

―――こう、武道家なんだから一騎打ちで当然だろ……って事じゃなくてな?

 

 

 

 

―――複数人で一体の鬼にぶつかる必要性が、今まで一度も無かったんだよ。

 

 

 

 

 

 

―――強いんだから、あの人。

 

 

 

 

 

―――これは柱全員に言える事でもあるけど……大抵の相手は、一人だけで十分に討滅可能なわけ。

 

 

 

 

 

―――精々、敵が複数人の時に、ある程度の数を同行の隊士に任せる……って例があるぐらいだな。

 

 

 

 

―――まあ、そもそも鬼が徒党を組む事自体が稀だから、それもあってないようなもんだわ。

 

 

 

 

 

 

 

―――だから……あの闘いの衝撃度合いは、半端じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

―――思い出しただけでも寒気がするぜ……あの、出鱈目すぎる血鬼術ッ……!

 

 

 

 

 

 

―――上弦の弐ッ……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

マックシング―――上弦の弐の血を多量に体内に取り込んだ事による、鬼喰い強化の極致。

 

 

 

全身の筋肉がパンプアップした事により、当然ながら打撃力と速力は大幅に増強。

 

併せて、全身の神経・五感もこの上なく研ぎ澄まされている。

 

 

 

 

マックシングに至った事により、玄弥の能力は大幅に向上していた。

 

 

故に今、彼はこれ以上ない程に武を振るえていた。

 

 

 

 

 

(出来るッ……!!)

 

 

 

 

烈海王に師事し、貪欲に武を追求してきた。

その成長速度たるや、稽古の様子を見た炎柱が見事なものだと認めるレベルにある。

 

 

それでも、やはり師と比較すればまだまだ未熟。

 

幾ら目に焼き付け、理論では分かっていたとしても。

いざ同じ様に動こうとしたら、どうしても動作の至る所で差が出てしまう。

 

 

 

 

こればかりは、地道な訓練を積み克服する他無い……本来ならば。

 

 

 

 

 

(頭の中で思い描いていた動きに……身体が、ついてきているッッ!!!)

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

今の玄弥は、増強された身体能力と研ぎ澄まされた神経とを全力で駆使する事により、その差をカバーしていた。

 

理解してはいながらも実現が出来なかった動きに、手が届いたのだ。

 

 

 

 

例え一過性のものであっても、闘志を昂らせずにはいられない。

 

心身共に過去最高のポテンシャルに到達しているといっても、過言ではない。

 

 

 

事実、今の彼ならば下弦級の鬼は容易く討滅出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

……だが、それでも尚。

 

 

 

 

 

 

「いいねぇ……面白いねぇ!!」

 

 

 

 

童磨は、未だ優勢ッ……!!

 

 

 

 

首元への右貫手―――首を僅かに逸らされ、回避ッ!!

 

 

間髪入れずに一歩踏み込み、胴体への左崩拳―――鉄扇で防御ッッ!!

 

 

ならばと、顎元目掛けての左穿脚―――スウェーバックで回避ッッ!!!

 

 

その振り上げた左脚を勢いよく落としての、爪先目掛けた踵撃―――バックスステップでまたしても回避ッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ッ……これならどうだァッッ!!!」

 

 

 

 

踵撃の勢いのままに、左脚を強く地面に叩きつける―――震脚ッ!!!

 

 

渾身の力を込めた、左右の拳による乱撃ッッッ!!!

 

 

 

 

「アハハッ!!

 いい速さだね、流石に術無しは難しいかなッ……!!」

 

 

 

 

 

 

―――――血鬼術『枯園垂り』ッ!!!

 

 

 

 

 

 

対する童磨は、すかさず術を発動ッ!!

 

横薙ぎに両の鉄扇を振ると共に、その軌道に沿って湾曲した氷柱が出現ッッ!!

 

 

 

迫りくる玄弥のラッシュを阻みにかかるッッッ!!!

 

 

 

 

「ッ~~~~!!

 この野郎ォォォォォッッ!!!!」

 

 

 

 

 

――――――ガガガガガガガッッッ!!!!

 

 

 

 

だが、玄弥の勢いも止まらない。

 

放たれたラッシュは全て、真正面の氷柱に叩き込まれッ……!!

 

 

 

 

 

 

――――――バキィィィンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

氷柱、粉砕ッッ!!!

 

 

 

「破ァァッッ!!!」

 

 

 

そのまま、童磨に勢いに乗せた拳を叩き込みにかかるッ……!!!

 

 

 

 

 

――――ガキィッッ!!!

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

「威力を殺してこの重さかぁ……いい腕力してるよ」

 

 

 

だが、その一撃も鉄扇の防御に阻まれる。

 

有効打、未だ入らずッ……!!

 

 

 

 

(楽に倒せる相手じゃねぇってのは、分かっちゃいたけどよッ……!!)

 

 

 

 

苛烈な勢いで繰り出される玄弥の攻撃に対し、冷静且つ的確に回避と防御を重ね、致命打を防いでいく。

微笑を絶やす事無く、一見余裕がある―――整った容姿も手伝って、優雅さすら感じさせる―――様な振る舞いだが……その実、恐るべき反応速度及び観察力という他ない。

 

 

 

(動きが、読まれ始めてるッッ……!!)

 

 

 

実のところ、開戦直後こそ玄弥の攻撃は童磨に通っていた。

流石に首への攻撃は防がれていたものの、胴体や手足への攻撃は幾らか叩き込めていた。

 

しかし、今はこの通りだ。

動きに順応されている……玄弥の筋力と速度を、童磨が完全に把握しつつあるのだ。

 

 

 

 

 

そう……彼の相手が、玄弥一人ではないにも関わらず。

 

 

 

 

 

 

「破ァァッ!!!」

 

 

 

 

童磨を挟みこむ形で、烈海王が背後より迫る。

 

 

 

その両の手で棍を握り、震脚ッ……!!

 

間合いに入ると同時に、突きのラッシュを繰り出すッ……!!

 

 

 

 

「ッ……危ない危ないッ!!」

 

 

 

 

 

 

――――――ガキイィィィンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

しかし、届かずッ……!!

 

 

 

 

 

 

――――――血鬼術『蓮葉氷』ッ!!!

 

 

 

 

 

 

烈海王が繰り出すよりも僅かに速く、童磨が反応ッ……玄弥を片手の鉄扇で押さえつつ、振り向きざまに即血鬼術を発動ッッ!!!

 

 

氷で出来た蓮の花を中空に多数出現させ、棍を全て受け止め切ったッッッ!!!

 

 

 

 

 

(多芸ッ……この男の最大の強みは、やはり手数の豊富さッ……!!)

 

 

童磨の纏う空気も振る舞いも、武術家のそれとはまるで異なる。

されどその身のこなしは、武術家に劣るものでは決して無く……そして何よりもの強みが、この血鬼術だ。

 

如何なる状況にも適応可能な、攻防一体変幻自在の氷術。

これまで闘ってきた鬼と比べて、圧倒的と言っていい程に手数が多い。

そしてその全てが、高い水準で練り上げられている。

 

 

これが、上弦の弐たる所以ッ……!!

 

 

 

 

 

 

「烈さん……ならッ!!」

 

 

 

 

烈海王の連撃を凌がれるや否や、ならばと玄弥が動いた。

 

右拳を鉄扇に阻まれたこの状況。

見方を変えれば、密着状態―――零距離だ。

 

 

 

ならばッッ!!!

 

 

 

(今の俺なら……やれるッッ!!!)

 

 

烈海王が得意とする、防御不能の一打。

限りなく零に近い間合いから繰り出される、全力の拳打―――無寸勁。

 

 

先日―――伊之助と手合わせをした際―――は、まだ使う事が叶わなかった技術。

理屈自体は理解していたものの、実践できるだけの技量が己にはなかった。

 

 

 

 

しかし、今ならば……放てるという自信が、確証があるッッ!!!

 

 

 

 

(このまま鉄扇ごとぶち抜いてやるッッ!!!)

 

 

 

 

全身全霊を拳と脚部に集中ッッ!!!

 

重心を瞬時にずらし、押し当てている右拳の先へと体重全移動ッ……!!

 

 

 

 

全ての重みを拳に乗せ、威力を一気に解放ッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?

 玄弥、下がれッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

する、直前ッ……!!

 

 

突如として響き渡る、烈海王の警告ッッ……!!!

 

 

 

 

「~~~ッッッ!!!???」

 

 

 

 

その瞬間、玄弥も感じ取っていた。

 

拳先より伝わってくる、異様な感覚……凄まじい悪寒ッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

否ッ……これは悪寒ではないッッ!!!

 

 

 

 

 

「うおおおぉぉぉッッ!!!??」

 

 

 

 

咄嗟に地を蹴り、玄弥は童磨との距離を取り……そして、驚愕した。

 

鉄扇に押し当てていた、自分の右拳……そこに薄っすらと張り付いていた、氷膜にッ……!!

 

 

 

 

(嫌な寒気がしたどころの話じゃねぇ……この野郎、マジで冷気を放ってやがったッッ!!)

 

 

 

抜け目がないなんて次元を超えている。

童磨は、瞬間的に鉄扇へと冷気を流す事で右拳の破壊を狙っていたのだ。

 

ある程度までの傷ならば、鬼喰いの再生力で復元可能だ。

しかし……肉体を凍結され砕かれようものなら、流石にどこまで戻せるかは分からない。

 

 

 

もしも、烈海王が見抜いていなければッ……!!

拳を引くのが僅かでも遅れていたら、どうなっていたかッ……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「凄いなぁ……あの一瞬で見抜くなんて」

 

「貴様には、見せてしまっていたのでな……」

 

 

 

先刻―――自分達と天元達が、氷壁によって分断された時。

 

 

烈海王は、その破砕に無寸勁を使った。

その時より、彼は警戒をしていたのだ。

 

技を放つ瞬間こそ、氷で姿が隠れていたが……相手は最上位の鬼。

ならば、破砕直後の己が立ち位置と拳の構えから、放った一撃が零距離打撃であると見抜くに違いない。

同じ技に二度も三度もかかる相手ならば、上弦に非ず……使おうものなら、必ず対策を打ってくるだろうと―――事実、そうなった。

 

唯一の誤算は、自身ではなく玄弥が放とうとした点であったが……ギリギリ、警告が間に合ってよかった。

 

 

 

 

「烈さん……すみません!!」

 

「いや、迂闊に技を見せた私にも非はある。

 いい勉強になった……すまなかったな」

 

 

 

そう……この男に対しては、迂闊な行動であったと認めざるを得ない。

 

 

 

(ここまでの攻防……こいつが、強い観察眼を持つ鬼だという事はよく理解できた。

 だが、闘いを楽しむという輩では決してない……何故なら……)

 

 

 

闘いを通して、童磨がどの様な趣向を好む鬼なのか……凡そだが、理解できた。

 

屈託なく笑顔を浮かべ続け、こちらの出方を楽しむかのような振る舞い。

繰り出される攻撃を、一つ一つ冷静に受け止め分析するその仕草。

 

 

相手の技を出来る限り引きずり出したい、長く闘争を楽しみたいと願うのは、武術家ならば当然の事だろう。

 

 

 

だが……童磨は、そうではない。

 

彼と、今まで闘ってきた格闘士―――グラップラー達とは、決定的に違う点が一つある。

 

 

 

 

 

(熱が無いッ……!!!)

 

 

 

 

 

纏う気配が、極めて無機質で……その身より、闘気が微塵も感じられないのだ。

同じく闘争の場で笑みを浮かべているというのに、あの猗窩座とは受ける印象が全く正反対といってもいい。

 

 

楽しいという感情が無いわけでは無いが、闘いその物が楽しみなのではない。

闘争に限らず、眼前の人物が取る行動そのものを眺める……観察する事が楽しみというべきだろうか。

 

 

 

 

(そう……最初にこの男に感じた、虚無のイメージ。

 そしてこの気配……感情が極めて希薄なのだ。

 だからこそ、人の所作や言動に……己が持ちえぬそれに、興味を抱いているッ……!!)

 

 

 

 

それが童磨という鬼の本質。

 

はたしてそれが生来のものなのか、鬼と化したが為の物なのかは分からない。

 

 

 

 

 

だが……それならば。

 

 

絶対に、この鬼にだけは負けてはならないッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「喝ッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

闘争への熱意を持たぬという事は、即ち絶対に勝つという気概が無いという事ッッ!!!

 

 

出来るなら勝ちたいが、負けたら負けたでそれでもいい……そう心に抱いているならば、断じて許せぬッッッ!!!!

 

 

 

 

 

そんな思考で闘いに―――ましてこれは、生死を賭した果し合いだ―――挑むなど、侮辱以外の何物でもないッッッ!!!!

 

 

 

 

「噴ッッッ!!!」

 

 

 

 

右脚で強く一歩踏み込むと同時に、足首に捻りを加えるッ!!

 

 

その勢いに乗せ、全身を回転ッッ!!!

 

 

併せて棍の先端部分を強く握り、両手に力を込め……全力で薙ぎ払うッッッ!!!

 

 

 

 

 

「へぇッ……!!」

 

 

 

その一撃に、童磨はまた目を光らせた。

 

全力で全身を回転させての横薙ぎ―――全集中の呼吸でいえば、水の捻じれ渦に近い一撃。

勢いの苛烈さは中々のモノ……加えて、武器が刀ではなく棍である為に生じる利点がある。

 

 

しなるのだ。

 

 

長尺の棍を遠心力に乗せて強く振るう事により、しなった棒の先端付近は大きく震動―――ブレが生じる。

結果……対戦相手は、着弾予測地点が極めて読み辛くなる。

棒が上下に大きく揺れ動く為、何処へ目掛けてくるのかがギリギリまで分からなくなるのだ。

 

 

 

 

「オラァァッ!!!」

 

 

 

そして、玄弥も同時に仕掛けた。

 

 

袖口から流星錘を取り出し、全力で振りかざし投擲ッ!!

 

凄まじい勢いで弧を描き、童磨の肉体を粉砕せんと迫るッッ!!!

 

 

 

 

 

(直線軌道じゃなく、円軌道での投擲……師弟揃って、命中予測が困難な一撃って訳か!)

 

 

 

挟みこむ形で、読みにくい変則軌道を同時に放つ。

成程、二対一の利をよく活かしている。

師弟だけあって、実に良い連携力だ。

 

 

(寸での見切りは危ない……一気に間合いの外へ逃れるのが正解だ)

 

 

童磨はこの挟撃に対し、ギリギリでの回避はリスクが高いと判断。

強く地を蹴り、横へと大幅―――その距離、実に十メートル―――に跳躍する。

 

 

 

結果、棍と錘は何も捉える事無く空を切った……

 

 

 

 

 

……否ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「烈さん、狙ってくださいッ!!」

 

「応ッッ!!!」

 

 

 

 

空振りでも、烈海王は勢いを止めず……さらにその場でもう一回転ッ!!!

 

より強い遠心力を乗せ……その一撃を、飛来してきた錘に叩き込んだッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

――――――カキイィィンッッ!!!

 

 

 

 

 

現代野球における、四番打者のクリーンヒットが如くッ!!

 

打たれた錘は、童磨の喉元目がけて真っすぐに突き進むッッ!!!!

 

 

 

 

 

「そッ……そうきたかァ~~~~~ッッ!!!」

 

 

 

この連携は、童磨も予想だにしていなかった。

錘が烈海王に当たらぬ様、玄弥が直前で軌道修正をかけるだろうと予測をしていたが……まさか、打ち返しにいくとは。

 

自身の想定を超える速度。

これは、余裕をもっての回避とはいかない……ギリギリになるッ!!

 

 

首を、咄嗟に傾けッ……!!

 

 

 

 

――――――ザシュッ!!

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 

僅かに錘が首を掠め、肉を裂くッ……!!

 

直撃していれば、流石に危ない威力だったかッッ……!!!

 

 

 

 

 

「まだだァッ!!!」

 

 

 

だが、これで終わりでは無かったッ……!!

 

回避行動を見たと同時に、玄弥が流星錘の布部分を強く手繰る……回避される事は、織り込み済みッ!!!

 

 

 

 

次の瞬間、錘は横方向へとその軌道を変え……結ばれた布が、勢いよく童磨の首に巻きつくッッ!!!

 

 

 

 

(首を……!!

 けれど、これはただの布だ……巻き付かれたところで、俺に痛みは無い。

 人間相手なら絞殺も狙えるだろうけど、鬼相手じゃ意味がない攻撃だッ……!!)

 

 

急所を取られた事には流石に驚くも、瞬時に状況を分析する童磨。

 

これが、猩々緋砂鉄による鉄鎖や鋼線を編み込んだ代物であれば、首を焼かれるところであった。

だが、そうではない……痛みが走らないところからして、これはただの布だ。

恐らくは速度と操作性を重視して、敢えて鋼線を編み込まなかったのだろう。

 

 

ならば、どうという事はッ……!!

 

 

 

 

 

 

「ッッッッ!!!???」

 

 

 

 

直後ッ……!!!

 

 

突如として首全体に奔る、強烈な痺れッッッ!!!

 

 

馬鹿な、単なる布切れに何故ッ……!!??

 

 

 

 

(……そうか。

 この布……藤の花の染料に浸してあるッ……!!)

 

 

 

答えは、毒―――藤の花ッッ!!!

 

 

流星錘の布全体を、藤の花の染料―――それも、鬼に対する毒性の強い部分を抽出して―――に浸しているッ……それならば、この痺れも分かるッッ!!

 

 

一部の集落では、鬼除けに藤の花の御香を焚く風習があると聞くが……毒を染み込ませた布とは、思いも寄らぬ手段をッ……!!

 

 

 

(鬼喰いの身で扱うには、自分も危ない武器だろうに……いや。

 手甲越しなら、関係は無いか……!!)

 

 

玄弥自身に影響がないのは、しっかり手甲を身に着け直接触れるのを避けているからだろう。

しかし考えてみれば、その手甲とて危うい代物だ。

鬼喰いが扱えば、まず自分の手が焼け爛れるだろうに……その様子が無いという事は、皮膚に直接触れない何かしらの工夫がされているのだろう。

 

 

ああ……実に、よく考えられている。

 

 

 

(だが……この程度の毒なら、すぐ分解できる……!!)

 

 

しかし、如何に素晴らしい発想であろうとも……並の鬼ならいざ知らず。

鬼として高い能力を持つ上弦相手では、効力はほんの僅かでしかない。

まして、直接体内に毒を打ちこむ訳でもないのならば……対応は容易だ。

 

 

 

(俺の動きを毒で封じている間に、烈海王に仕留めさせるつもりなんだろうけど……残念だったね。

 この距離なら、接近より早く布を断てる……!!)

 

 

 

玄弥が両手で流星錘を握り締めている以上、仕掛けてくるのはまず間違いなく烈海王だ。

だが、残念ながら攻撃が自身に届く事は無い。

 

烈海王の速力は、ここまでの戦闘で大凡把握できている。

十メートル近く距離を離している現状……間合いを詰められるよりも早く、確実に布を切断できる。

毒の痺れも、和らぎつつある……動作が遅れる心配もない。

 

 

 

すぐに鉄扇を振り上げ、布を狙おうとした……その刹那。

 

 

 

 

 

――――――ドンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

烈海王は、確かに予想通り駆け出していた。

 

強く地を蹴り、全力で。

 

 

 

だが……それは、童磨のいる方向に非ず。

 

全く、埒外の方向ッ……!!

 

 

 

 

最短距離で、一直線に……童磨と玄弥の中間地点―――両者を結びピンと張られている、流星錘の紐へとッ……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――糸電話って知ってるか?

 

 

 

―――海外発祥の伝達道具なんだが……竹筒を二本用意して、それぞれの片側に紙を貼り付けたら、その中心に木綿糸を通すんだ。

 

 

 

―――音柱様の刀みたいな感じって言えば分かりやすいか?

 

 

 

―――で、片方の筒を自分の耳に当てて、もう片方の筒に誰かが声をかけると……なんと、音が聞こえてくるんだよ。

 

 

 

―――なんでも、音の振動が糸を伝わって相手に届くから……って事らしいぜ?

 

 

 

 

 

 

―――もう、何が言いたいか分かったろ?

 

 

 

 

 

 

―――上弦の弐の首に紐が巻き付いてて、玄弥がそれをピンと張ってる……そこに烈さんの一発が入れば、な?

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

透勁。

 

 

それは、打撃の威力を文字通り『透す』一撃である。

 

分厚い筋肉の鎧を透し、臓腑へと衝撃を与える……これまで数多くの鬼に致命打を与えてきた、烈海王の十八番だ。

 

 

 

過去に烈海王は、密着状態で一列に並べられたコンクリートブロックの先端へと打撃を打ちこみ、任意のブロックのみを破砕するという芸当を披露した事があった。

また、高速で突進してきたバイクを正面から受け止め、リヤタイヤのみを吹き飛ばした事もあった。

 

 

高い練度が成せる、衝撃の伝播技術。

 

 

 

 

 

そんな彼の前に、お誂え向きに布で繋がれた鬼がいる。

 

 

 

 

全力の拳打を、張られた布へと叩き込み……衝撃を迸らせるッッ!!!

 

 

 

 

 

 

――――――ビシイィィィィィッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ガッッ……!!??」

 

 

 

 

 

布を伝わり、童磨の首元へと強烈なダメージが奔るッ!!

 

 

 

刀とは全く異なる質の、急所への一撃ッッッ!!!

 

生涯一度も感じた事が無い、未知の攻撃ッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

「うおおおおぉぉぉッッッ!!!」

 

 

 

 

流石の童磨も、これには一瞬硬直せざるをえない……その隙を打つッッ!!

 

 

 

拳打を放ったのとは反対側の手で握り締めていた棍を、全力で投擲ッッッ!!!

 

 

 

その喉笛を穿つッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ッ……甘いよッ!!」

 

 

 

 

 

だが、童磨の復活がやはり早いッッ……!!

 

 

咄嗟に鉄扇を振り上げ、布を切断……同時に、血鬼術を発動ッッッ!!

 

 

 

 

 

 

――――――血鬼術『散り蓮華』ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

術によって生み出されるは、散りゆく蓮華の花びらが如き大量の氷刃ッ!!

 

迫りくる棍を命中寸前で弾き飛ばすッ!!!

 

 

 

 

そして……刃はそのまま、烈海王と玄弥に飛来するッッッ!!!!

 

 

 

 

「ッッ……こんのおおォォォォッッ!!!」

 

 

 

咄嗟に玄弥は、横へと跳躍。

 

目的は、真横にある倒壊した―――闘いの余波で破壊されてしまったが、住民は後藤の誘導により避難済み―――遊女屋。

 

 

 

その壁を剛力任せに引っぺがし、迫る刃目掛けてぶん投げるッッ!!!

 

 

 

 

 

 

――――――バキャアァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

氷刃、相殺ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「フゥゥゥッ……!!」

 

 

一方。

 

烈海王は、迫る氷刃を冷静に真正面から見据えていた。

 

 

 

左腕は、地面と水平になる様に。

 

右腕は、左腕と垂直になる様肘を垂直に曲げて前へ。

 

 

 

そう……これは、戦友の一人が得意とした防御の構え。

 

 

 

 

烈海王をして見事と言わしめた、愚地独歩の受け技ッ……!!!

 

 

 

 

―――矢でも鉄砲でも、火炎放射器でも持ってこいやァ……!!

 

 

 

 

 

 

「破ァッッ!!!」

 

 

 

 

 

――――――廻し受けッ!!!

 

 

 

 

両の腕で大きく円を描き、迫る氷刃全てを掻き消し弾き飛ばすッ!!

 

かつて独歩が、最凶死刑囚の火炎放射を完全に防ぎ切った時の様にッッ……!!!

 

 

 

 

 

「ふぅ……玄弥、無事か?」

 

「はい、俺は大丈夫です」

 

 

 

攻撃を凌ぎ切った両者は、構え直し童磨と再度向き合う。

 

 

 

ここまで、致命的なダメージを受ける事無く闘えている。

 

状況的には、五分五分―――二対一ではあるものの―――というところだろう。

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

「本当……ここまでやるとはなぁ。

 粉凍りも使えないし、こんなに長く闘ったのって久しぶりだよ」

 

 

 

 

 

 

それは……童磨が、完全な本気を出すまでの話である。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

―――あの鬼は、血鬼術の凶悪さが持ち味なんだが……だからって、アレはねぇよ。

 

 

 

―――あいつの本気の術は……その血鬼術を、更に何倍にもする……とんでもねぇ代物だったんだッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

――――――血鬼術『結晶ノ御子』

 

 

 

次に童磨が発動させた術は、攻撃技では無かった。

 

彼は両手の扇を重ね合わせ……その中心より、一体の氷像を生み出した。

 

 

 

自身を模した、全長四十センチ程度の氷像を。

 

 

 

 

 

「ッッ!!??」

 

 

 

 

その出来上がりを見た瞬間、烈海王は咄嗟に動いた。

 

九節鞭を抜き、全力でその氷像目掛けて駆け出したのだ。

 

 

 

(この状況下で繰り出すという事は、間違いなくあの氷像は切り札。

 そして、自身の姿を模したものであれば……その効果はッッ!!!)

 

 

 

嫌な予感があった。

 

早急にあの氷像を砕かねば、まずい事になるッ……!!

 

 

 

 

「疾ッッッ!!!」

 

 

 

間合いに入ると共に、九節鞭を真っすぐに突き出すッ!!!

 

その先端が、氷像の脳天目掛けて迫りッ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

――――――血鬼術『枯園垂り』

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!??」

 

 

 

 

氷像の前に突如として出現した氷柱に、弾かれるッ……!!!

 

 

 

 

「なッ……!?」

 

 

 

眼前の光景に、玄弥は驚愕し目を見開いた。

 

 

今、烈海王の一撃は血鬼術により阻まれた。

 

 

 

 

 

 

だが……その血鬼術を使ったのは、童磨ではなかった。

 

 

 

 

 

 

砕かれようとしていた氷像自体が……術を放ったのだッ……!!!

 

 

 

 

 

 

「ッ……やはりかッッ……!!」

 

 

 

予想が当たってしまった。

 

これが、童磨の切り札である血鬼術。

 

 

 

 

 

本体と同じ血鬼術を、同等の威力で放てる氷像……それを生み出す、分身術ッ……!!!

 

 

 

 

 

 

「さあ、数の有利も逆転だ。

 これからは二対二……いや、ここは二対四ぐらいにしておこうかな?」

 

 

 

 




Q:童磨の術って反則だろ。
A:全くもってその通りです。

烈さんとマックシング玄弥のタッグ。
そこらの鬼では相手にならない師弟コンビですが、相手はやはり反則極まりない童磨。
二人がかりで互角、やや烈さん達が現状は優勢という戦況になりました。


ただし、それも結晶ノ御子が発動されるまでの話になります。
自身と全く同じレベルの術を使える分身という、作中最強最悪のチート血鬼術。
これが発動してしまった以上、ここからは一気に状況が引っ繰り返ってしまいます。


Q:マックシング玄弥ってどれくらい強い?
A:刀鍛冶の里編終了時の炭治郎と互角以上です。
 ただし、鬼喰いである以上は時間制限が掛かってくる為、油断は一切できません。

童磨の血をたっぷり吸い込んだおかげで、滅茶苦茶強くなってます。
加えて、柱稽古編のアニオリ補完を見た結果……あのレベルの訓練を呼吸無しで突破しているあたり、やはり玄弥は素のフィジカルが相当な逸材であると再認識しました。
その為、大幅強化と至りました。


Q:糸電話って大正時代にあるの?
A:明治時代には既に日本に伝わっているという文献がはっきり残ってます。





Q:これ、烈さんたち勝てないのでは?
A:現時点では勝率はかなり低いです。
 しかし、原作の童磨戦と違う『ある要素』がここには存在しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。