鬼狩り? 私は一向に構わん!!   作:神心会

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烈さんが何故、全集中の呼吸を既に扱えていたのか。
独自の解釈が入ってますが、ご了承ください。


そして題名通り、彼等との出会いになります。


07 柱合会議

日輪刀。

 

 

 

それは陽光の力を刀身に秘めた、鬼を滅する事が出来る唯一の武器。

 

 

 

太陽に一番近く、且つ一年中陽の射す陽光山でのみ採れる、猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から打たれた刀である。

 

 

 

そしてこの日輪刀は、またの名を色変わりの刀とも呼ばれている。

 

 

 

一定以上の力量に達した鬼殺の剣士が手にした時、その刀身の色が一度限りで変化するのだ。

 

 

 

風の呼吸ならば緑色に、水の呼吸ならば青色に。

 

 

 

持ち手に最も適した呼吸の色へと、文字通り染まるのである。

 

 

 

 

「私が……全集中の呼吸をッ……!?」

 

 

 

そして今。

 

烈海王が抜いた日輪刀は、まさしくその色を変えたのだ。

 

 

青よりも更に深い、紺碧―――海を思わせる色へとッッ……!!

 

 

 

 

「馬鹿なッ……!?」

 

 

 

これには、外ならぬ烈海王本人が驚いていた。

 

何せ、全集中の呼吸については今しがた知ったばかりだというのに……何がどうなっているのか……ッッ!?

 

 

 

「……烈さん。

 これは仮説なのですが……あなたは先程、呼吸法はあらゆる武術の基礎と言われましたね」

 

 

そんな、まじまじと紺碧の刀身を見つめる烈海王に、しのぶはやはりと言った表情で語りかけた。

驚く彼とは逆に、極めて彼女は落ち着いていた。

 

それもその筈……彼女には、結果がこうなるであろうと予測出来ていたのだ。

 

 

 

「四千年に渡る中国武術の中で培われてきた、基礎の呼吸方法。

 それをあなたは、数多くの鍛錬と実戦を積み重ねていく中で、徐々に徐々に変化させていった。

 最も肉体に適した呼吸……闘いの場において、烈海王という拳法家が常に全力を発揮できるような息遣いに。

 それが、全集中の呼吸に極めて近い物だったのではないですか?」

 

 

 

ヤクをはじめとする高地に潜む野生動物が、酸素濃度の低い環境下でも適応し呼吸できている様に。

 

 

 

烈海王の呼吸は彼自身でさえ知らぬ内に、闘争に適応した形に変化していたのではないか。

 

 

 

肉体のポテンシャルを、常に最高の形で引き出せる様にとッ……!!

 

 

 

 

即ち、全集中の呼吸に限りなく近い物にッッッ!!!

 

 

 

 

「……確かに、そう考えれば筋は通ります。

 自分の持てる全てを、如何なる状況下でも常に発揮できるようにする……それは武術の基本。

 同時に、呼吸は肉体にとって最も大事な活動の一つだが……ほぼ無意識下のものでもあるッ……!」

 

 

 

自分の息遣いを日常的に観察する者など、皆無に近い。

 

 

それこそ、全集中の呼吸に慣れ親しんだ鬼殺の剣士ぐらいのものだ。

 

 

烈海王が気づかなくても、無理は無いだろう。

 

 

 

 

 

疑問、氷解ッッ……!!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「しかし、そうなると……ふむ。

 しのぶさん、もし私が全集中の呼吸を身につけようとするならば……可能ですか?」

 

 

日輪刀の色変わりについての謎が分かったところで、烈海王の中にはある懸念事項が生じていた。

 

 

即ち、全集中の呼吸を完全な形で身につけられるのかだ。

 

 

今の彼は、あくまでも全集中の呼吸に近い形が出来ているだけであり、全集中の呼吸そのものが使える訳ではない。

良く言えば烈海王オリジナルの息遣いだが、悪く言えば全集中の呼吸・不完全体なのだ。

 

その証拠として、全集中の呼吸には特有の呼吸音がある。

この音はかなり独特なモノで、その者が呼吸法を使っているか否かが聞くだけでも簡単に分かるぐらいだ。

しかし、烈海王にはそれがない……故に、彼の呼吸は全集中としてみると未完成。

 

ならば、これを完全な形に出来れば、更なる実力の向上に繋がるのだが……

 

 

「……難しいかもしれません。

 既に烈さんの呼吸は、独自のものとして身についています。

 それを急に変えようとすれば……」

 

 

その懸念は、残念な事に当たっていた。

烈海王の呼吸法は、中国武術を基礎にした経験の積み重ねで、偶発的に生み出されたものだ。

言うなれば、彼のスタイルに最も適した動き……一種のリズムでもある。

 

 

人の身体に染みついた癖とは、簡単に取り払えるものではない。

 

これを無理に崩そうとすれば……烈海王がそれまで培ってきた武術もまた、崩れかねない危険性があった。

 

既に烈海王の肉体に刻まれているものを、捨て去る事にもなりえるのだ。

 

 

 

「成程……ならば、私は一向に構いません」

 

 

しかし。

それにも関わらず、烈海王の返答は明るい物だった。

何故なら……しのぶは難しいとは言ったものの、不可能とは口にしなかった。

あくまで、急なスタイル変更が不可能というだけだ。

 

 

ならば……徐々に重ねてゆけばいいだけの事。

 

 

 

「例えどの様な技術であろうとも、簡単に習得できるものなどこの世にありはしません。

 長い年月が掛かる事など、百も承知です。

 そして中国武術もまた、歴史の中で数多くの技術を積み重ねていき、今の形を成した。

 私が全集中の呼吸に合わせるのではなく、全集中の呼吸を私に……延いては中国武術に合わせればいいだけの事です」

 

 

 

中国武術とムエタイを組み合わせた、サムワン海王といった例がある様に。

 

現代空手に中国拳法のエッセンスを混ぜ、より進化させた愚地克巳の様に。

 

 

 

鍛錬を重ね、長い時間をかけて。

全集中の呼吸を、自らに適したものへと変化させ吸収すればいいのだ。

 

 

 

 

言うなれば、中国拳法版全集中の呼吸……烈の呼吸へとッッ!!

 

 

 

 

「っ……そう言うと思いましたよ。

 実の所、鬼殺隊にも烈さんの様な考えを持つ人はそれなりにいるんです。

 何を隠そう、私もそうですから」

 

 

あまりにも予想通り過ぎた答えに、しのぶは思わず噴き出しそうになった。

しかし、彼と同じ答えを見出した剣士が意外に多いのもまた事実だ。

 

 

複数の呼吸を、状況に応じて混ぜて使う者。

 

既存の呼吸から独自のモノを掴み、新たな派生の呼吸を生み出す者。

 

 

長い歴史の中で、多くの剣士が呼吸法を進化させてきた。

 

 

 

 

 

ならば……一人ぐらい、中国拳法と全集中の呼吸を混ぜて使う人間がいても、いいのかもしれない。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「しかし……烈さん。

 全集中の呼吸を学びたいという事は……つまり、そういう事なのですね?」

 

 

呼吸法を身に着けると決意表明した烈海王に、しのぶは真剣な顔つきで問いかけた。

 

全集中の呼吸は、鬼を狩る為に編み出された鬼殺の技術。

それを学びたいと口にする事が、何を意味するか。

 

 

「……その通りです。

 先程も、つい感情的になってしまいましたが……私は鬼という存在を許せない。

 知ってしまった以上、武に生きる者として見て見ぬふりは出来ません。

 どうか私を……鬼殺の戦列に、加えさせていただきたく存じます。」

 

 

 

即ち、鬼殺隊への入隊希望だ。

もとより行く宛の無い身であった烈海王にとって、己が武を存分に振るえる環境は望むところ。

新たな技術も学べるというのであれば、これを断る理由は尚無い。

 

 

 

何より……鬼の在り方には、どうあろうとも許せぬモノがある。

 

その様な鬼を作り上げた、全ての元凶―――鬼舞辻無惨には、一撃見舞わねば気が済まないッ……!!

 

 

 

「……分かりました。

 私達鬼殺隊としても……あなた程の方が入隊してくれるというのであれば、これ以上無い幸運です」

 

 

しのぶにとっても、そして鬼殺隊にとってもこれを断る理由は無い。

 

日々熾烈を極める鬼との戦い。

命を落とす隊士も、決して少なくはない……何度怒りを覚え、心を痛めた事か。

 

そんな中で、十二鬼月を圧倒する程の実力者が自ら名乗りを上げてくれたのだ。

これを幸運と言わずして何と言うのか。

 

 

 

「ですが……残念ながら、あなたをすぐに隊士として認める事は出来ません。

 隊律上、入隊希望者には必ず、最終選別と呼ばれる試験を受けてもらわなければならないのです。

 もっとも、烈さんの実力ならば容易に合格はできるでしょうけど……」

 

「ふむ……入門に当たっての試練という訳ですね」

 

 

しかし。

鬼殺隊に入隊するならば、その為の試験―――最終選別を潜り抜けてもらう必要がある。

こればかりは、如何に柱たるしのぶが烈海王を認めていようとも変えられない。

例外を認める事は出来ない。

 

勿論、烈海王にも不満は無い。

武の世界においても、入門資格があるかどうかを試されるのは当然の事。

そして門を叩いたのは自分の方……寧ろ、喜んで試験を受けようという気分である。

 

 

ならばと、早速しのぶは最終選別についての説明に入ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その、次の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「伝令、伝令!!

 胡蝶シノブ、明後日ノ柱合会議ニハ烈海王ヲ同伴サセヨ!!

 繰リ返ス!!

 胡蝶シノブ、明後日ノ柱合会議ニハ烈海王ヲ同伴サセヨ!!」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 

 

突如として、客間に一羽の鎹鴉が飛来。

 

 

全く予想だにしていなかった伝令を、二人に届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈海王を、柱合会議に連れてこいとッッッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

柱。

 

 

それは鬼殺隊における、最高位の称号。

 

呼吸を極め実力に秀でた剣士九人からなる、文字通り鬼殺隊を支える存在だ。

 

 

 

そんな彼等が、半年に一度集い情報共有をし合う場こそが、柱合会議である。

 

鬼殺隊の活動方針を決める、極めて重要な会議。

 

柱未満の階級の隊士は、原則として参加する事は出来ない。

 

 

 

 

故に、隊士ではない一般人が招かれる事は……極めて異例の事態。

 

 

 

 

「……着きました、烈さん。

 ここが、お館様のお屋敷……産屋敷邸になります」

 

 

翌々日。

事後処理部隊『隠』に連れられ、烈海王はしのぶと共に柱合会議の場―――産屋敷邸を訪れていた。

 

 

 

「ありがとうございます……よもや、この様な事態になろうとは」

 

「ええ……本当にそうですね」

 

 

丸一日という時間を置いても尚。

烈海王としのぶの両名は、この想定外の事態に未だ戸惑っていた。

 

 

鎹鴉の伝令後、最終選別についての話は一旦保留となった。

それも当然の事……柱合会議にこの様な呼び出しがかかるなど、前代未聞なのだ。

次第によっては、彼の入隊云々どころではない展開に繋がるかもしれない。

そう判断されたが為の措置であった。

 

 

果たして、何が起ころうとしているのか……二人には、皆目見当がつかなかった。

 

 

 

 

 

「よく来てくれた、しのぶ。

 これで皆、揃ったようだね」

 

 

 

 

 

そんな二人に対して、屋敷の奥から声がかけられた。

 

 

 

 

それは、不思議な声であった。

 

 

 

優しく耳に響き、安らぎすらも感じられる―――例えるなら、上質なヒーリングミュージック。

 

同時に、不思議な高揚感が身体の奥底から沸き上がってくる―――例えるなら、壮大なオーケストラ。

 

 

相反する二つの性質が、互いに損なわれる事なく調和しているという、矛盾の音色。

 

例え敵意を持つ者でさえも、聞けば不思議な懐かしさと安堵感を抱いてしまうだろう。

 

 

 

(なんと、心地良い声か。

威厳と慈愛に満ち、引き込まれそうになる……!)

 

 

 

烈海王は、瞬時に理解した。

 

 

この声の主こそが、鬼殺隊を束ねる長―――産屋敷家九七代目当主。

多くの鬼狩り達を心服させてきた、超常的なカリスマの持ち主。

 

 

産屋敷耀哉その人であると。

 

 

 

 

「お、お館様ッッ!?

 そんな、もう御出でになられていたのですかッッッ!?」

 

 

その姿を目にし、しのぶは慌てて駆けだし平伏した。

いつもの柱合会議ならば、彼は皆が揃ってから最後にやって来るのが常であった。

そして、彼への挨拶は早い者勝ちであるが故に、集まった面々が今か今かとそわそわし始めるのがお決まりでもあった。

 

 

 

だと、言うのに……どういう訳か。

 

正しく、顔から火が出る様な思いであった。

 

 

 

 

不意打ちにも程があるッ……!

 

既に耀哉は、その姿を皆の前に見せているではないかッッ……!!

 

 

 

 

 

「しのぶ、そう慌てなくても大丈夫だよ。

 今日はとても気分が良くてね……ついつい、誰よりも早く顔を出してしまったんだ」

 

 

そんなしのぶを和めるかの様に、耀哉は優しく微笑みかけた。

誰よりも早く、自分が来ただけの事だと。

その言葉に、まさかと思い横に並ぶ柱の面々へと視線を移すと……殆どの者が、苦笑いをしていた。

どうやら―――そもそも、嘘だと疑う気は微塵もなかったが―――事実らしい。

 

 

 

ならば、何故彼はこの様な……戯れとも取れる行動に走ったのか。

 

 

心当たりは、一つしかない。

 

 

 

 

「さて……会議の前に、皆に是非紹介したい方がいるんだ。

 烈海王さん……下弦の陸討伐に力を貸してくれた協力者であると同時に、片平紳助隊士を救ってくれた命の恩人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「鬼との初遭遇が十二鬼月で、その正体も分からないままに討伐したぁッ!?

 マジかよ、ド派手過ぎるぜオイッッ!!」

 

 

耀哉からの紹介を受け、烈海王は自らがここに至るまでの経緯を柱の面々へと説明していた。

 

その反応は、最初のしのぶと同様―――困惑と驚愕の二言に尽きた。

何かの間違いじゃないかと、八名全員が表情で露わにした程だ。

 

しかしながら、複数の鴉からの目撃報告があり、何よりしのぶが何処か遠い目をしているという事実。

もはや療養中の片平隊士に確かめるまでもなく、彼の話は真実であると皆が理解したのだった。

 

 

「凄いのね、中国武術って!!」

 

「うむ、心底驚いているッ!!

 我々鬼殺隊よりも古い歴史を誇り、且つ上位の鬼を容易く滅するとは!!」

 

 

 

 

音柱――――――宇髄天元。

 

 

恋柱――――――甘露寺蜜璃。

 

 

炎柱――――――煉獄杏寿郎。

 

 

 

まず、烈海王に対して好意的な態度を取ったのはこの三者であった。

 

皆それぞれ、十二鬼月撃破という彼の快挙を喜んでいる。

そして同時に、中国拳法の程―――延いては烈海王という拳法家の実力に、心胆していた。

まさか鬼殺隊の外に、これだけの武人がいたなんて……夢にも思わなかったのだから。

 

 

 

「……待て、甘露寺、煉獄、宇髄。

 喜ぶには早計過ぎる……その十二鬼月は、末端の下弦の陸だろう?

 単なる数合わせ、碌な実力も持たない雑魚だったという可能性もある……

 だからこそ、その男も無事で済んだだけではないのか?

 そうでなければ、幾ら強いといっても一介の拳法家が討伐するなどと……あまりにも信じ難い」

 

「俺も同感だァ。

 倒されたのが十二鬼月なのは間違いねぇにしても、簡単にくたばり過ぎだぜ?

 まして、片平が負傷した相手を無傷で倒すなんざよぉ」

 

 

 

一方、烈海王に懐疑的な態度を取ったのはこの二人。

 

 

蛇柱――――――伊黒小芭内。

 

 

風柱――――――不死川実弥。

 

 

単なる一介の武術家が、十二鬼月を撃破―――それも圧倒出来るとは思えない。

倒された下弦の陸は、末席だけあって余程弱かったのではないだろうか。

容易に打倒できるだけの、何かしらの理由があったに違いない。

その様に、この二人は考えていたのだ。

 

 

 

 

しかし……逆を言えば。

 

二人は、烈海王が十二鬼月を倒したという事実そのものは一切否定していないのである。

 

 

そこは、流石は歴戦を潜り抜けた柱というべきか。

しのぶ同様に、烈海王が一般人と呼べる存在でもない事を初見で見抜いていたのだ。

身に纏う空気、その隙の無い立ち振る舞い、威風堂々とした態度。

どれを取っても、下手な隊士よりもずっと上……一級品に過ぎると。

 

それでも尚、烈海王を認め難しと感じているのは、やはり十二鬼月という鬼の強さを知っているが為だろうか。

或いは、鬼殺隊の柱としての自負故か。

 

 

「ふむ……時透、冨岡。

 お前達はどうみる?」

 

「……別に。

 僕はどっちでも構わないけど」

 

「……そうだな」

 

 

 

そして、どちらとも言わず静観に入っているのが三人。

 

 

岩柱――――――悲鳴嶼行冥。

 

 

霞柱――――――時透無一郎。

 

 

水柱――――――冨岡義勇。

 

 

前者三名程の肯定具合は無いが、かといって後者二名程の否定もまた無い。

ただ、事実を事実として受け止め、冷静且つ客観的に判断している―――無一郎と義勇に関しては、疑わしい点もあるが―――のだろう。

 

 

特に……鬼殺隊最強と謳われる悲鳴嶼は。

 

 

(……不死川と伊黒の言う通り、下弦の陸が格落ちの鬼だった可能性も大いにあり得る。

 しかし、それを抜きにしてもだ……この肉体はどうだ?

 身長こそ煉獄と同程度だが、体重量に凄まじい差がある。

 そして、その殆どが作り込まれた筋肉……宇随にも迫る密度ッ……!)

 

 

光無き眼であるからこそ、余計な情報に惑わされる事なく。

彼が発する足音や声量、空気の流れ。

伝わる全ての要素を結びつけ、その肉体の完成度を瞬時に見抜いていた。

 

烈海王に対する評価という点では、寧ろ好意的な態度を取っていた三人よりも上であったのだ。

 

 

 

しかし……それにしても、分からない事がある。

 

 

「……お館様。

 下弦の陸討伐の次第はこれで理解できましたが……その為だけに、態々この方を呼び出したのですか?」

 

 

烈海王をこの場に招集した理由だ。

十二鬼月を撃破したのは確かに喜ばしい事であるだろう。

まして隊士の命を救ってもらったのだから、礼を言いたいという気持ちも十分に理解できる。

 

 

 

しかし……それだけならば、態々彼をこの場に呼び出さずともよかったのではないか?

 

 

 

下弦の陸についての報告だけでいえば、しのぶと片平の二人が証言すればいいだけの事。

 

ただ烈海王に礼を言うだけならば、柱であるしのぶは産屋敷への訪問を許されている身なのだから、彼女に同伴させれば済む話でもある。

態々、半年に一度の柱合会議という貴重な時間を使わなくてもいい筈だ。

 

 

 

つまり、裏を返せば……何かしら、彼をこの場に呼び出すだけの必要性があるという事。

 

 

 

「君の思っている通りだよ、行冥。

 私には、烈さんを是非ともこの柱合会議の場に招きたかった理由があったんだ」

 

 

そして耀哉は、察しの通りだと告げた。

柱の面々と……誰よりも烈海王を、この場に集める必要があったのだと。

 

ならば、それはいかなる理由か。

誰もが神妙な面持ちで、次なる言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、次の瞬間に出た言葉は……烈海王にとって、あまりにも衝撃的すぎる代物であった。

 

 

 

 

 

「何せ、烈さんは『海王』を名乗る事が許された名士。

 中国大陸においては、国民的な人物……国手だからね。

 そんな方が鬼殺隊に協力してくれたのだから、こちらも隊を代表する皆と共に出迎えるのが、礼儀でもあると思ったんだ」

 

 

「なッッ!?」

 

 

烈海王は、一瞬己が耳を疑ってしまった。

 

 

 

まさか、そんな。

 

 

世界中の猛者を集めた、地下闘技場最強トーナメントでさえも、自身の称号を知る者は少なかったというのに。

 

 

ましてここは、現代よりも百年近く前の大正時代。

 

 

社会情勢について知る方法は、現代と比較して圧倒的に少ない筈だというのにッッ……!!

 

 

 

 

 

 

「耀哉さんッッ!!

 あなたは……海王を、知っておられるのですかッッ!!??」

 

 

 




Q:烈さんが全集中の呼吸を使えていたのは何故?
A:闘いの中で自然と、それに近い呼吸を自分でも知らない内に覚えていた。

格闘技は勿論陸上競技等においても、呼吸方法には独自のコツがあるケースが多いです。
その為、烈さんは中国武術を学び闘っていく中で自然と自分に合う呼吸法を身に着けていき、それが結果的に全集中の呼吸に近い物になっているという独自の解釈をさせていただきました。

そうした理由なのですが、メタ的な事を言いますと……

〇烈さんは呼吸法を全く使わずあの強さ→呼吸法を本格的に学んだ場合、パワーバランスが完全崩壊してしまいストーリー的に色々と破綻する。

〇呼吸法を最初からマスターしている→これをすると縁壱さんの立場がなくなる=鬼殺隊の存在意義にも関わってしまう上に、刃牙世界の人達にとって「鬼は簡単に倒せる存在」に成り下がってしまい鬼滅世界全体のレベルが相対的に下がる事態も起こり得るので、絶対に避けたかった。


こういった事情があり、最もバランスがいい着地点として「烈さんは呼吸を自然に使えているけれど、まだ伸びしろがあり不完全な形態」という結果に落ち着きました。



烈さんに対する柱達の反応については「多分こうするだろうな」という感じで書かせていただきました。
執筆当初は、色々な作品で見られる「こんな一般人が鬼を倒した?何かの冗談だろう」的なお約束の発言を風と蛇の両名がしていたのですが、柱ともあれば寧ろ烈さんの実力を見抜けないのもおかしいと思い、「こいつなら確かに鬼をやれるかもしれない、けれど素直に信じていいものか」という反応に変更させていただきました。

また、文章量が多くなりすぎる為本文には書けませんでしたが、烈さんも柱の面々については「相当な闘士達だ」と一目で判断してます。
特に甘露寺さんについては「細身ッ……!?否、内部に圧縮されたこの凄まじい筋肉量ッッ!!」という様な反応をし、伊黒さんに滅茶苦茶怖い視線を向けられる所まで書きかけましたが、収拾がつかなくなりそうなので止めておきました。

お館様が海王について知っている理由については、次回冒頭に説明させていただきます。

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