その『一応』の説明になります。
海王。
それは、中国武術界において最も栄えある称号である。
流派は問わず、その実力を武術省―――延いては大陸の万人に認められた者のみが、正式に名乗る事を許される。
四千年もの歴史を背負う事を許された、優れた武術家。
謂わば、中国拳法を極めた格闘士こそが海王なのだ。
(まさか……この日本で、海王の全容を知っている者がいようとはッッ!!)
その存在を、産屋敷耀哉は知っていた。
それは、烈海王にとって相当に大きな衝撃であった。
確かに中国大陸において、海王は国民的な存在だ。
名士として、その名は人々に広く知れ渡っている。
しかし、ここは遠く離れた日本の地……それも、メディアの乏しい大正時代だ。
現代日本ですら、海王が何たるかを知る人物は多くないというのにッ……!!
「ふふっ……私には、華僑との伝手がありましてね。
鬼殺隊にも、色々と便宜を図ってもらっているんですが……海王の噂は、その最中で耳にしたんですよ」
驚く烈海王の胸中を見透かし、耀哉は微笑みながら種明かしをした。
華僑―――中国本土から海外に移住した中国人及びその子孫を指す名称である。
特に古い時代からの移住者やその血縁者は老華僑と呼ばれているが、彼等の現地における力は強いものがあった。
同郷者同士での繋がりの強さを武器に、同業者集団による一大コミュニティーを形成。
そして、農業・漁業・貿易・建築等あらゆる分野において団結力を以て活躍し、財を成している。
この様な経済的な力強さから多方面への影響力もまた強く、地域によっては政治的な権力を持っている事も珍しくはない。
それを聞き、烈海王は驚き目を見開くと同時に、感嘆の息をついた。
確かに、華僑の者ならば海王の名を知っていても当然だ……十分納得はいった。
だが……同時にそれは、産屋敷耀哉という男の凄まじさを証明もしている。
何せ華僑は、同郷者への結びつきは極めて強い反面、余所者を容易には受け入れないのだ。
ビジネスとしてある程度の関係は持てども、それ以上の踏み込みはまず許されない。
そんな彼等から現地人が信頼を勝ち取るのは、極めて難しいとされている。
(だと、言うのに……鬼殺隊に便宜を図ってくれている?
さらりと言ってのけているが、それがどれだけ大きい事か……)
流石に国際化が進んだ現代社会では、こういった様相も減少傾向にあるのだが……問題は、今が大正時代という事だ。
その勢いは現代を悠に超えており、基盤も極めて強固である。
彼等と繋がりを持とうとして、逆に圧力をかけられた組織とて少なくはないだろうに……
曲者揃いの鬼殺隊を束ねる力量、その程を烈海王は思い知らされた。
方向性こそ違えども、人を惹きつけてやまないこのカリスマ性は……あの範馬勇次郎にも匹敵しうるかッッ……!!
◇◇◇◇◇
「……中国武術界における最高峰の武術家が、海王ですか。
烈さん……そんな事、一言も聞いてませんよ?」
「すみません、胡蝶さん。
ひけらかす様な真似をしたくはなかったので……」
耀哉から海王が何たるかの説明を受け、柱の面々は皆それぞれに驚きの反応を示していた。
武術の達人である事は最初から分かってはいたものの、まさかそこまで位の高い人物だとは流石に思ってもみなかった。
まして、誰よりも先に彼と出会っていたしのぶからすれば、尚更である。
海王が本名ではなく通り名・称号という事は一応聞いてはいたのだが、その地位については初耳だ。
もっとも、彼の性格を考えれば話してくれないのも仕方がない事か。
名に誇りこそ持てども、その権力を笠に着る様な振る舞いは絶対にしないだろう……そういった輩こそ、一番嫌いに違いないだろうから。
「成程、お館様の言うとおりだ!
我々柱は謂わば鬼殺隊の代表、まして海王と同じく一つの流派を極めた者同士ッ!!
こうして全員で出迎えるのが一つの礼儀かッ!!」
烈海王をこの場に招いた理由が分かり、真っ先に煉獄が声を出した。
柱もまたその名が示す通り、一つの呼吸を極めた者が辿り着く頂点。
海王とは、極めて近い存在と言えるだろう。
最高峰の者達が一堂に会する……武人にとっては、ある種最大の礼節に違いあるまい。
そう考えての、耀哉の采配だったのだ。
「ああ……だけど、それだけではないんだ。
烈さんを呼んだのには、まだもう一つ理由がある」
しかし。
煉獄の言葉を肯定しつつも、更に耀哉は言葉を紡いだ。
途端に、彼が纏う雰囲気が一変する。
その表情からは柔和な笑みが消えており、真剣そのもの。
それを見て、誰しもが直感する。
寧ろ、烈海王を招いた理由は……ここからが本番なのだと。
「……烈さん。
華僑の方々は確かに頼りになるが、彼等の強さは経済的政治的な物だ。
所謂裏の事情にも精通こそしてはいるが、どうしても分野の違いは否めなくてね……
だからこそ、海王であり世界を旅しているというあなたの話を聞かせてほしいんです」
「……私に答えられる事ならば、何なりと」
「ありがとう……では、単刀直入に聞きましょう。
改めての質問で申し訳ないですが……あなたは今まで、鬼の存在を耳にした事は一度も無いのですね?」
◇◇◇◇◇
「……それは……?」
烈海王―――そして、柱の面々も悲鳴嶼一人を除いて同様に―――は、耀哉の質問に首を傾げた。
今まで、鬼の存在を聞いたことは一度も無いのか?
まさに今しがた、それについては話したばかりではないか。
自分は鬼が何たるかも知らぬがままに下弦の陸と遭遇し、これを打ち倒したと。
それにも関わらず、この質問はどういう事か。
まさか、嘘をついていると疑われているのか?
(否……耀哉さんの言葉は、真偽を問い質すモノでは無い。
疑っているにしては、彼から発する気配が違う……何か意味がある筈だ)
つい先程も、自身について小芭内と実弥の両名に疑われはした。
あの時は中国拳法を舐められたとも感じたが、しかし彼等の心情も一応理解は出来る為、敢えて反論はしなかった。
いきなり余所者が現れて不俱戴天の仇を倒したとあれば、自身とて近い反応を示すかもしれないからだ。
もっとも、後少しばかり彼等が何かを言うようならば、何かしらの方法で中国武術の威を見せるつもりではあったが……
閑話休題。
今の耀哉から感じる空気は、二人とは全く違う。
自身を疑っているモノでは決してない……寧ろ、正しいと認識しているからこその質問というべきか。
ならば、その真意とは一体何なのだ。
(……待て。
耀哉さんは、華僑の方々に触れた上で私に問いかけてきた。
つまり、彼等にも同じ質問をしている……?)
ふと、耀哉の前置きに引っかかるものを感じた。
彼は華僑について口にした上で、問いを投げかけてきたのだ。
つまりは、彼等にも同様の話をしている……そうする必要があったが為に?
鬼殺隊の長として、自身や華僑に確かめなければならなかった事とは……?
「ッッッ!!!
そういう事ですか、耀哉さんッッ!!」
次の瞬間。
頭の中でガッチリと思考のピースが嵌り、烈海王は耀哉の真意を見抜いた。
彼が自身に求めている解答とは、即ちッッ!!
「私の知る限りにはなりますが、中国大陸に鬼は存在していませんでした。
つまり……鬼舞辻無惨の手は、この国の外には未だ伸びてはおりませんッッ……!!」
◇◇◇◇◇
「ッッッ!!???」
烈海王の返答に、皆が驚き顔を見合わせた。
そう……耀哉がこの柱合会議の場で確かめたかったのは、日本国外における鬼の有無。
即ち、鬼舞辻無惨が海外にまで勢力を伸ばしているかどうかだったのだ。
数多くの諸外国の中でも、中華民国は日本と極めて距離が近い。
同時に、その規模も世界屈指と言えるレベルだ。
もし無惨が国外へと視線を向けるならば、中国は真っ先に標的となる可能性が極めて高い。
そして海王ならば、もし中国大陸に鬼が生息していた場合、確実にそれを知っている筈。
武に生きる者として、人を超越した鬼の存在をあらゆる意味で放ってはおかないだろうからだ。
だが、烈海王は鬼の存在を知らないとはっきり口にした。
それ即ち……鬼舞辻無惨は、活動の場をこの日本に限定している事実に他ならないッッ!!
「……成程、確かに部外者を招いてでも聞く価値のある話だ。
俺達鬼殺隊にとって、鬼が何処に潜んでいるかは重要な事……」
「もし国外にまで派手に手を回されてたら、こっちも活動範囲を大幅に広げなけりゃならねぇからな」
これは、鬼殺隊の今後を左右しかねない極めて重要な案件だった。
万が一無惨が国外逃亡を果たしていようものならば、追跡は容易ではない。
藤の花の家紋を持つ屋敷の支えも一切なく、また隠も碌な力を発揮できないだろう異国の地だ。
任務の危険度が急激に跳ね上がる……鬼舞辻の尻尾を掴むどころか、普通に鬼を狩るのですら一苦労だろう。
その危険性が無くなったのは、実にありがたい事だ。
そして、それは同時に……鬼舞辻無惨には、この国に留まらなければならない理由があるという事。
安全性を考えれば、それこそ海外への高飛びは無惨にとって最も良い手段といえるだろう。
だが、無惨は千年以上に渡ってこの国から動いていない。
臆病とも取れる程に慎重な鬼が、鬼殺隊に狙われるというリスクを背負ってまで国内に留まるのは何故か。
もしかすると……そこに、鬼舞辻無惨を追い詰める鍵があるのではないか?
「その通りです、烈さん……意地の悪い質問をして、すみませんでした。
ただ、あなたならばすぐに気づいてくれるとは思っていましたから」
(あ……そうか。
だからお館様は……)
烈海王が自身の意図に気づいてくれた事に、耀哉は微笑みながら感謝をした。
そして、その様子を見たしのぶもまた、全てを察した。
何故、耀哉はこんな遠回しな質問を態々したのか。
中国大陸に鬼が存在していたかどうか、直接聞かなかったのはどうしてか……と。
これは、烈海王を立てるためだ。
実弥と小芭内の両名は言うに及ばず、義勇をはじめ静観をしていた面々にも、烈海王に何かしら思う所はあったに違いない。
だからこそ、目に見える形で彼を持ち上げようと耀哉は案じたのだ。
自分達でもすぐには察せなかった、産屋敷耀哉の真意。
それに誰よりも早く―――ただし反応を見る限り、どうやら悲鳴嶼だけは分かっていたようだが―――気づく。
彼を敬愛する者達にとって、これは中々に効果的な一手だ。
事実、実弥と小芭内の烈海王に向ける視線が僅かながらに変わっている。
不服そうなのはそのままだが、しかし最初程の厳しさは無い。
隊内の人間関係を円滑にし、次へと物事を運びやすくする。
これもまた、産屋敷耀哉の培ってきた人心掌握術の一端なのである。
◇◇◇◇◇
「さて、烈さん。
鎹鴉から既に話は聞いていますが……あなたは、鬼殺隊への入隊を希望しているという事ですね?」
国外における鬼の有無を確認したところで、耀哉は最後となる質問を口にした。
烈海王の鬼殺隊への入隊についてだ。
彼の中に、鬼の打倒を目指す強い意志がある事は既に知っている。
最終選別への参加を望んでいる事も、承知している。
しかし、それ等は全て又聞きに過ぎない。
そう……耀哉は、彼自身の口から改めて聞きたかったのだ。
鬼という存在を知った上で、烈海王がどうするのかを。
「その通りです。
私は、鬼という存在を……延いては鬼を生み出した鬼舞辻無惨を許せません。
武に生きる者として、一人の格闘士としてッ……!!
この手で、鬼を打ち倒したいッッ!!」
勿論、烈海王の決意は変わらない。
鬼という存在を、どうあっても許せない。
格闘士の誇りを汚す者共を、この手で打ち倒したい。
そう、力強く口にする。
「中国拳法四千年の歴史にかけて!!
今日まで拳を交えてきた、多くの拳士達の誇りにかけてッ!!
一人でも多くの鬼を、この世より滅してみせましょうッッ……!!」
それこそが、自身の果たすべき使命であるとッッ……!!
「……ありがとう、烈さん。
その言葉を聞きたかった……ならば、私もその誇りに応えなければね」
烈海王の決意表明に、耀哉は心からの感謝をする。
同時に、その口調にも変化が現れていた。
つい先程までは、烈海王という『客人』を前に敬語で接していたのに対し。
今の彼は、柱をはじめ隊士達に呼びかける様に……砕けた、それでいて柔らかい言葉使いに変わっていたのだ。
志を同じくする、鬼殺隊の一員として……烈海王を認めたが為に。
「ただ……あなたの入隊を認めるとなると、少々複雑な話になってね。
いくら鬼殺隊が政府非公認の組織とはいっても、あなたは中華民国における国士だ。
それを、一般人と同じ様に扱うとなっては……華僑は勿論、色々な方面から騒がれかねないんだ」
「む……それは……」
しかし。
ここで組織としてのしがらみが、烈海王を縛った。
彼自身は先程も口にした様に、海王の権力を笠に着る様な真似は心底嫌っている。
故に、特別扱いなど以ての外ではあったが……彼を取り巻く環境までは、流石にそうもいかないのだ。
鬼殺隊は政府非公認の組織なれど、政府と繋がりが全くないのかと問われると……答えは否である。
事後処理部隊『隠』の存在からも分かるように、鬼が齎す被害は時に甚大な物となる。
だが、それ等は決して表沙汰にはならない……してはならないのだ。
もし鬼の存在が公になれば、日本という国は大きくその在り方を変える事になってしまう。
多くの人々が夜を恐れ、生活は激変する……経済活動の悪化をはじめ、社会に与える影響は計り知れないものとなるだろう。
また、不老不死に憧れ自ら鬼となる事を望む者が現れるかもしれない。
身近にいる人間をも鬼と疑い、非道の限りを尽くす人間が出るかもしれない。
はたまた……鬼とはどれぐらいの強さなのかと、嬉々として戦いを挑む者―――それこそ範馬一族の様な―――まで現れかねない。
あらゆる悲劇と惨劇が、起こり得るだろう。
そういった事態を防ぐ為に動いているのが、正しく産屋敷の歴代当主達なのである。
彼等は異常に優れた勘―――先見の明と、その人身掌握術を以て莫大な財を成してきた。
そしてその財を以て、鬼の痕跡を表社会より消してきたのだ。
その過程において、また元が平安貴族の出という事も大きく、産屋敷は時の幕府や政治家達とも強い繋がりを持ってきた。
全国に散らばる藤の家や華僑との出会いも、その一端に含まれている。
では、そんな産屋敷が―――延いては鬼殺隊が、一国の名士を一般人と変わらぬ待遇で扱ったと噂されれば、どうなるだろうか?
当然、対外的な反感は大きなものとなるだろう。
最悪の場合、多くの協力者を一度に失う羽目にもなりかねないのだ。
鬼殺隊にとって、そういった者達の手を借りられないのは死活問題なのである。
故に……耀哉は、ある一つの解決策を持ち出した。
「そこでだ、烈さん。
我々鬼殺隊は、あなたを隊士ではなく協力者……食客として迎え入れたい。
海王の称号を持ち、且つ下弦の陸を打ち倒した実力を考慮し……ここにいる柱の皆と、同格の存在としてね」
◇◇◇◇◇
「お待ちください、お館様ッッ!!
この者を、我々柱と同じ待遇で扱うというのですかッッ!?」
耀哉の発言に、実弥が真っ先に反対の意を示した。
烈海王を柱と同格の扱いにする。
如何に敬愛する長の決定としても、それは彼にとって受け入れがたい話であった。
「恐れながらお館様……こちらも、実弥と同じ意見です。
組織として、そうしなければならないという理由は勿論承知しております。
ですが……如何に下弦の陸討伐という事実があれども、昨日今日鬼の存在を知ったばかりの男。
それを最高位である柱と同格に扱うとなっては、他の隊士から不満も出ましょう」
続けて、小芭内も彼程の苛烈さは無いにせよ、同等の意見を述べた。
烈海王にある程度の階級を与えなければならないという、組織としての都合は確かに分かる。
だが、いきなり柱と同格というのは流石に問題だ。
十二鬼月討伐は柱昇格への条件の一つでこそあるが、逆に烈海王には、それ以外の功績が何もないのだ。
これでは多くの隊士から、不満が続出するだろう。
それこそ、鬼殺隊という組織の運営に差し障りが出るぐらいにだ。
そして。
二人に続けて反対の意見を述べる者がまた一人、新たに出る。
「私も同意見です、耀哉さん。
実力を評価してくれる事は嬉しく思いますが、それでもただ一体の鬼を倒したに過ぎません。
この程度の実績など……彼等の反発はもっともです」
そう、烈海王本人である。
彼からすれば、相手が鬼の精鋭であろうがなかろうが関係ない。
ただ少し強いだけの鬼を、一体倒しただけに過ぎないのだ。
これを自身と中国武術界に置き換えれば、少々名前の知れ渡った通り魔を倒しただけで海王と認定された様なものだ。
耀哉の好意はありがたいが、流石に受け入れがたい物がある。
この発言には、小芭内と実弥も面食らった。
張本人である烈海王に、反発されるどころか逆に肯定されるとは、流石に思ってもみなかったからだ。
(……いや、ちょっと待て。
こいつ、今……たった一体の鬼を倒したに過ぎないって言ったぞ?
倒した相手が十二鬼月だって、散々聞かされた上でそう言うかァ……?)
しかし、ここで二人はある可能性に気づいた。
烈海王は、謙遜でも身の程を弁えているのでも無い。
寧ろ……その逆ではないかと。
(……そういう事かッッ!!)
そう……これは、柱に対しての烈海王からの挑戦。
下弦の陸が余程弱かったんじゃないかと言った自分達に対する、意趣返しではないか。
何せ―――そう言ったのは外ならぬ自分達だから、言い返せないのは皮肉だが―――十二鬼月を倒しておきながら「この程度」呼ばわりときたのだ。
それ即ち、自分ならば更に多くの十二鬼月を討ち取れるという自負ッ!!
実力を以て、柱と同格にまですぐ上がってやろうという自信の表れッッ!!
「ほう……言うじゃないか」
「……上等だァ……!!」
正直、こう返してくるとは思ってもみなかった。
随分と味な真似をしてくれるが……しかし、この気骨自体は嫌いではない。
実力で自身を立てるという考えは、寧ろ好ましいものだ。
烈海王を柱と同格に扱う事に反対した理由こそ、そこにあるのだから。
宛ら獲物を見つけた肉食獣の様な笑みを浮かべて。
鋭く強い眼光を、実弥と小芭内は烈海王に向けたのだった。
◇◇◇◇◇
「ふむ……なら、烈さんの実力を分かりやすく証明出来たらいいのかな?」
すると。
そんな実弥達の意思を汲み取ってか、耀哉がおもむろに口を開いた。
烈海王を認められない理由はよく分かった。
ならば、彼を手っ取り早く認めさせられる手段を取ればいい……と。
「ひなき、輝利哉。
用意していた物を、烈さん達に」
「はい、お館様」
耀哉は、横に控えていた二人の児童―――息子の輝利哉と娘のひなきに、声をかけた。
それを受けた二人は、傍らより木箱を取り出しその蓋を開ける。
「え……お館様?
それって、まさか……!!」
そこに入っていた物を見て、誰しもが驚いた。
何せ、取り出されたのは柱合会議に余りにも不釣り合いな物。
手入れの行き届いた……見事な、二振りの木刀だったのだから。
そして、輝利哉とひなきはそれを一本ずつ手に取ると、庭先へと降りて行った。
両名が向かう先は勿論、柱の面々と烈海王が控えるその場だ。
「おいおい……マジかよ。
派手にも程がありますよ、お館様……?」
実力を証明する。
そう言ってからの木刀の登場……これが意味する事など、一つしかない。
産屋敷耀哉は、今この場で試合えというのだ。
烈海王と、柱の剣士とでッッ……!!
(しかし……だとしたら、誰が相手を?
お館様が用意されたのは、至って普通の木刀だ。
私は勿論、宇随や甘露寺も武器の性質上、実力を発揮できぬ……)
(しのぶちゃんも、毒使いだから向いてないわよね?
伊黒さんは、日輪刀の形がちょっと変わってるけど大丈夫かしら……?)
そうなると、気になるのは誰が烈海王の相手をするかだ。
日輪刀の形状を考えると、木刀で戦える者はどうしても限られてくる。
冨岡義勇。
時透無一郎。
煉獄杏寿郎。
不死川実弥。
伊黒小芭内―――日輪刀の形状的に除外候補だったのだが、木刀であろうとも変幻自在に太刀筋を曲げられる達人でもあるので、有資格者とする。
候補となるのは、この五人。
それぞれが超一流の実力を持つ、指折りの剣士達。
その中から、耀哉が選んだのは……!!
「杏寿郎、君に烈さんとの手合わせをお願いしたい」
炎柱―――煉獄杏寿郎ッッ!!!
Q:何故、お館様は海王を知っていたのか?
A:華僑と繋がりを持っていたので、噂で聞いてました。
鬼殺隊は、非政府組織でありながらも「柱は好き放題給料取っていいよ」というとんでもない金払いをする上に、警察に裏から手を回して悲鳴嶼さんを釈放したり。
無限列車脱線という大事故でも鬼の存在は一切表社会に漏らさず、無限城の市街地出現もガス爆発として根回し・処理したりと、産屋敷一族の社会的地位は計り知れないレベルにある筈です。
それこそ、徳川のご老公と肩を並べるかそれ以上に……そうでなければ、あり得ない所業が多すぎますので(´・ω・`)
また読み切り作品『過狩り狩り』の設定も踏まえて、「非政府組織ではあるけれど、実際の所、日本政府には黙認されてる」とこの作品内では解釈しております。
その為、華僑とも当然繋がりがあり、海王も知ってたという事に『一応』させていただきました。
……ここで一応を強調するのは、実はまだ他にも理由があるからです。
そして、読んでいた上で疑問に思った方もいるかもしれません。
Q:お館様、やけに烈さん推し過ぎてない?風・蛇の二人の反発は当たり前じゃない?
はい、その通りです。
それっぽい理由付けこそあれど、少し話の流れが強引すぎるのではないかと。
ですが、これについてこそが、この作品における肝の要素なのです。
今はまだ明かせませんが、上述した海王を知っていた真の理由と共に、近い話で説明をさせていただくつもりです。
何卒、よろしくお願いいたします。
Q:無惨様、日本は上弦に任せて海外逃亡してたら、本当に安全だったんじゃない?
A:青い彼岸花の存在があるから、どうしても国内に留まる必要があったんでしょう。
また、鳴女の能力だと海外までは捕捉不可能だった可能性も高いです。