ソードアート・オンライン ジーニアス・メモリーズ 作:人民の敵
この作品、書いてるのは楽しいんですけどヒロインがあんまり出てこない&リアル中心なせいで執筆カロリーが中々に高い……ずっとお堅い話ばかりですし……
「プロジェクト・メディキュボイド……」
神代博士からその計画を聞かされた数日後、俺は自室に戻って計画の練り直しをしていた。メディキュボイド、恐らくは
「しかし、どう動こう」
一応東都工業大学寮という拠点は確保した上、神代博士と言う明確な支援者も見つけることが出来たわけだが、具体的な行動計画は不明瞭なままだ。下手に動けば神代博士の忠告通りメディアの情報操作に使われそうだし、まだメディア露出をするわけにはいかない。と、なれば――
「議員か官僚、このどちらかにアタックするしかなさそう……か」
もともとロビイングとはそういうものだ。権力を持つ議員、政策を根本的に決めることが出来る官僚に対してロビイングを行い、自らの望む方向に事態を持っていく。一つ致命的なまでに違うのが、俺にはここでのコネの類が全くと言っていいほどないことなわけだが。
コンコン!
そんなことを考えていると、寮のドアにノックがあった。俺が「はい」と答えると、寮長を務める女性が声を掛けてきた。
「失礼します、総務省職員を名乗る方が桧宮博士と面会したいと……」
「総務省?えぇ、通してください」
分かりました、という声から程なくして眼鏡をかけ、スーツを着込なした男性が入ってきた。一礼する男性に対して、俺も一応立ち上がって礼をし、席を勧める。男性はそれを見ると、軽く会釈をして席に座り、口を開いた。
「初めまして、桧宮柚樹博士。MITが誇る天才科学者が、まさかここまでうら若き少年だとは思わなかったよ。あ、僕の名前は菊岡誠二郎、ただのしがない一介の役人さ」
「初めまして、菊岡さん。何故総務省の人間が、僕なんかの元に?僕はこの国の制度には疎いですが、少なくともこの事件を管轄するのが警察なことくらいは分かりますよ」
「ま、そうなんだけどね。実質今この件を一番追ってるのは僕たちでね、僕も上から何も詳しいことを聞かないまま協力してもらえるか聞いて来いって言われてさ」
菊岡と名乗った男性は眼鏡をくいっと掛け直しながら言う。
「成程、大体分かりました。しかし僕は一介の科学者、探偵でもなければ事件の証拠を握ってるわけでもないんですよ。唯一提供できるとすればナーヴギアの構造に関する知識くらいですが、それはアーガスの人間を頼った方が早いでしょうし」
「はは、もちろんそれは承知の上だよ。僕たちが君に頼みたいのは事件解決じゃない。むしろそのためのリカバリーの方さ」
「リカバリー?」
「君がここに来た目的もそうだと僕は睨んでるんだけど。僕たちは言っちゃあれかもしれないけど端から犯人にはあんまり興味がないんだよね。それは警察の仕事だし」
「……そもそも真っ先に僕の下に来たことから考えても、貴方は僕のことを、そしてその目的についても知ってると見てよさそうですね。まさかメディアに僕の情報を流したのは貴方が?」
「まさか。僕は本当に上から君の居場所を教えられて話を聞いて来いって言われただけの官僚だよ」
菊岡は手を振った。明らかに怪しい人間だが、もしも官僚と言うのが本当なら彼の存在は大きい。渡りに船と言ってもいいくらいだ。
「そうですか。ではお教えしましょう、僕の目的は恐らく活発化していくであろうVR技術規制活動の牽制及び規制阻止。まぁ現状では八方ふさがりとかいう奴なんですが」
「ビンゴだったね。まぁここで話をするのも何だ、喫茶店にでも行こうか。僕がおごるよ」
「よろしいんですか?」
「構わないよ。君への接待費と考えれば安いもんさ」
幸いメディアもここは突き止めていなかったらしく、大学にメディアが詰めかけている……なんてことはなかった。そして、俺と菊岡を乗せた車は大学を出ていずこかを目指して走り始めた。
―――――――――
「いいんですか菊岡さん?僕には円の感覚は全くないんですけど、パッと値段を見る限り庶民が使うような店ではないのは分かりますよ」
俺は菊岡に渡されたメニュー表を見ながら俺は言った。いきなり4桁の数字が出てきて、ドルを使ってる身としては少々びっくりした。
「さっきも言ったけど、君と食事をすれば全部接待費で落ちるからじゃんじゃん頼んでもらってもいいよ」
「経費名目の税金の無駄遣いはどこの国も一緒ですか。ステイツが金権政治で腐ってるだけかと思いきやここもとは」
「耳が痛いよ。……まだ若いのにそんな世の中の闇に染まらなくてもいいと思うんだけどねぇ」
「僕のパートナーは染まってませんよ。……いや、怪しいか」
俺はアルの顔を思い浮かべながら肩を竦めた。実際アルはそう言ったこととは無縁なはずだが、彼女は彼女で俺の知らないところでそう言った知識は身に付けてそうではある。
「僕が君くらいの年齢だった頃なんて能天気に遊びまわってた記憶しかないよ。天才と凡人とは頭の作りが違うしその分周りからの期待や責任その他が重いのはよーく分かるんだけど、遊んだりすることも重要だというのは凡人の僕からのアドバイスだよ。そうでもしなきゃいつか何かが壊れてしまうかもしれないからね」
「アドバイスはありがたく受け取っておきますが、菊岡さんは僕にそんな話をしに来たんじゃないでしょう。割り切ってさっさと注文を決めて、本題と行こうじゃないですか」
俺は取り敢えず二品だけ選んでウェイターを呼び、注文をすます。一方の菊岡はと言うと――思う存分経費を活用し五品くらい頼んでいた。
「……じゃあ本題に入ろうか。僕……というよりも上も含めた僕たちは
「それは容易に想像できます。その中のどれくらいの人間がVRを正しく理解しているのかすらよく分かりませんが」
「君がそれ言っちゃうとほとんどの人間が反論できないね。しかも庶民の中にはそれなりに根強い反VR勢力がいると来た。これを見てくれ」
そう言って菊岡はバッグからタブレット端末を取り出し、画面を見せてきた。俺はそれにしばらく見入る。
「《仮想現実から子供を守る市民連合》・《仮想技術の危険性について考える学者有志の会》・《仮想技術と言う劇薬から日本を守る集い》……ざっと50は越えている感じですか。もしかしてこのリスト全部が?」
「うん、現時点で活動している反VR勢力団体だよ。思想的には右から左まで様々、少なからず便乗して政治主張しようと試みてる連中はいるにしても、まだ事件から一ヶ月経つか経たないかでこの数は異常だ。恐らく前々からそういった活動を準備して、こうしてSAO事件という格好の起爆剤が見つかったって感じかな」
「自分たちがやらなければいいだけなのに、暇人が多いみたいですね、この国は。……そう言えば事件から一ヶ月で思い出したんですが、今の死者って……」
「軽く2000人は上回ってるね。もうこの時点で人類最大の殺人と言っても過言じゃない」
菊岡から聞いたその数字に、俺は頭を抱えた。SAOの世界に拉致された人間は1万人、単純計算で行けばこのままだと5ヶ月も経たないうちに全滅してしまうことになる。
「……解放条件はSAO全100層の攻略。今どのあたりにいるのかすら僕たちには知る術がほとんどないわけですが、全てが終わった時に生存者がいるかすら怪しくなってきましたね」
「酷な言い方にはなるけどそうなるね。少なくとも僕たちはそのタイムリミットまでにVR規制法案を阻止しないといけない」
「法案?もうその段階まで来ているんですか」
俺は菊岡に聞いた。それこそいくら何でも動きが早すぎやしないだろうか。
「あーいや、まだ綿密な法案が出来上がっているわけじゃないんだけど、野党の方でそういった動きがあるっていう話。でもそう遠くない未来に提出されるのは確実ってとこかな」
「なるほど。それまでに法案阻止に必要な数の議員を説得しろと」
「いや、恐らく日本の中にもVR規制に乗り気ではない議員はそれなりに多い。特に利権を持たない非族議員ならなおさら新たな利権になり、既存の利権を根本から破壊できるこの技術に目を付けているはずだから、もしこのまま法案が提出されたとしても拮抗はすると思う。そこで競り勝つための君だよ」
「ここでも利権ですか。政治家になるのは利権目当て、悲しくなってきますよ本当に」
「君の言いたいことは分かるけど、一回抑えてくれないかな。その利権体質が今回僕らに味方するわけだしさ」
菊岡に言われ、俺は渋々頷く。別に日本の政治体制なんて本来俺の知ったこっちゃないことなのだ。
「そうしておきます。で、僕の一番の出番は……」
「衆議院での参考人招致、だと思うね。今でこそお偉いさんは君がここにいることを殆ど知らないけど、じきに君の下に手紙が届くはずさ」
「参考人招致、とは?」
「あぁそうか。まず衆議院は分かるかい?」
菊岡が合点したように手を叩く。
「ステイツで言う下院、ですか?」
「厳密には大分違うんだけどまぁその認識で問題ないよ。で、参考人招致っていうのは専門知識がない議員のために今回で言うと君みたいな専門家を呼んでお話を聞くって言うことなんだ」
「なるほど……ちょっと待ってください。もし仮に僕がその参考人招致で議会に呼ばれたとして、その発言に法的な責任が伴うことはあるんですか?もしあるなら僕はそんな怖い賭けやりませんよ」
俺は聞いた。アメリカでは偽証罪が適用された場合5年以下の自由刑に処されることがある、日本の法制度もそろそろ学ばないといけないかもしれない。
「そっちは証人喚問。参考人招致では刑事責任を君が負わされることはないしそもそも未成年の参考人招致なんて前例がなさ過ぎて仮に君が何かアウトなことを言ったとしても厳重注意になるのが関の山じゃないかな」
「なら安心しました。未だに外国人で未成年のガキが参考人招致されるとは思えないんですけど……」
「そりゃまぁ、わざわざアメリカくんだりから来てる君を議会の人間が呼ばないとは思えないしね。規制推進派からすれば危険性を語ってくれたら万々歳、規制反対派もそれは一緒」
「そうですか。まぁ僕は規制賛成派にとって耳が痛い話をすることになりそうです」
「あはは……まぁ本気で怒らせない程度でお願いするよ」
善処しますよとだけ言うと、ウェイターが注文したものを運んできた。テーブルに所狭しと――と言っても半分以上は菊岡のだが――スイーツが置かれ、俺たちは一旦話を中断し、目の前のスイーツにしばらく夢中になっていたのであった。
――――――――――
「ふぅ……ご馳走様。いやぁ食べた食べた。甘いものをこんなに食べたなんていつぶりかな」
「僕はそれだけ食べてどうやってその体型が維持できるのかと愕然としているんですけど」
結局菊岡はものの30分もかからずに5品のスイーツ+飲み物を完食して慣れた手つきで会計を済ませ、俺を伴って外に出た。
「君が思っている以上に官僚ってのは胃と体に負担がかかる仕事でね。部下の不始末の責任と上司からの重圧で毎日どこかしらがキリキリするもんだよ」
「へぇ……その割には僕には菊岡さんは大分気楽そうに見えますが」
「そりゃぁ君とコンタクトして来いっていう上からの最重要
「僕は取り敢えず初見の人には丁寧な対応をする主義なので。一見菊岡さんに丁寧に対応しているように見えて心中ではすっごい悪印象かもしれないですよ」
俺が冗談めかして言うと、菊岡は手を振る。
「勘弁してくれよ、柚樹君。ここで君に嫌われると上から何言われるか分かったもんじゃないんだから」
「まぁ、僕としても菊岡さんとの関係はありがたいものは間違いないので。……所用があるので、僕はここいらで失礼します」
「あぁ、こちらこそ。次会う時はこっちから連絡するけど、もし君の方から僕に用があったら、総務省がある合同庁舎まで来てもらって、僕の名前を出してくれればすぐにでも向かうようにするよ」
「そこは電話呼び出しじゃダメなんですかね……」
「これでも一端の国の官僚だからね。色々手続きを踏まないといけないのさ」
「それなら仕方ない、と言うべきでしょうかね。……これからもどうぞよろしく頼みますよ」
「うん、またよろしく」
俺はまだ知らなかった。この菊岡誠二郎と言う人物が、ただの官僚ではなく、そしてこれからの俺の人生に大きく関わることになることになるとは――
この裏SAO編は多分10話そこそこ続くと思います。それが終わればメディキュボイド開発編……ですかね
次回もお楽しみに!