ソードアート・オンライン ジーニアス・メモリーズ   作:人民の敵

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お久しぶりです
色々重なってまたもや遅れました……
今回はクリスマス編&オリヒロお披露目会です。と言ってもクリスマス要素は薄いですが……
では、お楽しみください!


#6 カムバック・マサチューセッツ

 俺は、日本(こっち)に来てからその日をすっかり失念していた。出国前にアルの誕生日祝いをし、それだけで満足して日本での活動に注力していたが、一つだけ絶対にアメリカ(ステイツ)でやっておかなければいかないことがあったのだ。

 

『柚樹君、もちろん降誕祭(クリスマス)にはこっちに帰ってきてくれるんだよね?』

『あっ』

 

 数日前にアルと通話した際に思い出したその行事とはすなわち、クリスマス。完全に失念していたが、まだ日数には余裕があった。幸いその付近に人と出会う用事はなかったので、あらかじめ菊岡や神代博士に連絡が取れない旨を伝えてから成田空港を飛び立ち、約一ヶ月ぶりにアメリカに戻ったのだった。

 

 

――――――――――

 

 

「お久しぶり、柚樹君!元気にしてた?」

「わわっ、いきなりだな」

 

 マサチューセッツ州ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港に着いた俺を迎えたのは会うなり人目を気にせずいきなりハグしてきたアルと、そして―――

 

「柚樹君、お久しぶり。相変わらず七色ちゃんとはラブラブだねー。日本(あっち)の生活はどうだったの?」

「愛情表現じゃなくて挨拶だよ……久しぶりシオン。僕がいない間に僕の部屋をいじくったりしてないだろうね?」

「まっさか。忍び込むたびに七色ちゃんに見つかって追い出されるもんだから、柚樹君の部屋の中を漁ってそんなものやあんなものを見つけるなんて出来なかったよ」

「やろうとしてる時点でアウトなんだが?」

 

 アルの隣に立ち、にへへと舌を出す少女だった。彼女の名前は水無月(みなづき)シオン。日本人の母親と北欧三王国(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン)の混血の父を持つ天才医学博士であり、MITの姉妹校的存在であるマサチューセッツ医科大学への留学生である。専門は確か感染症医学と麻酔科学。

 

「まぁまぁ。もう半分MITでも顔覚えられてるくらいだし、云わば公認の行為なんだよ柚樹君」

「違うね。そもそもなんで彼女をここに連れてきたんだ?」

「空港までの道のりでたまたまシオンちゃんと会って、どこ行くのって聞かれて答えたらついてきたのよ」

 

 俺は口をひん曲げた。ストーカーじゃん……

 

「私と柚樹君たちの仲だし多少は許してくれても、ね?」

「流石に引いた。ついでに言えば前に医科の方に行って君の評判を聞いたら真面目な優等生と聞いて愕然とした」

「ふふん。そりゃぁここまで無茶苦茶するのは柚樹君たちの前くらいだからね」

 

 シオンがドヤ顔で答える。ストーカーや研究室への忍び込み、何なら寮にまでずかずかと乗り込んでくるなどの問題行動を起こしている彼女だが、驚くほど医科の方では悪い話を聞かない。それどころか論文をバンバン出して実績を上げ続けている優秀な医学生だというのだからもう分からない。今は日和見感染症の研究をしているそうだ。

 

「なーんでまた大学も違う僕らに……」

「年が近い、日本と欧州の混血。この条件だけで大学でお話しできる人すっごい少なくなるんだからね?」

「そんなものなのかね」

 

 彼女とはそれなりに長い付き合い(?)だが、前述のような医学生としての実績はともかく、プライベートでは未だに素性がよく分からない。悪い人間ではないのは分かるのだが、俺たちへ接触する理由は恐らく彼女が言うような単純なものではないんだろう。

 

「さて、今日は何時から礼拝があるんだい?」

 

 いつまでもシオンを詰っていても仕方ないので、わざわざ戻ってきた理由であるクリスマス礼拝について尋ねる。無論別に日本にも教会はあるしそっちで済ませてもいい行事なのだが、わざわざ戻ってきたのはここらで一回くらい顔を合わせてないと、アルの通話頻度がさらに上がってきそうで怖いからだ。後純粋に久しぶりにアルの顔が見たかったから。

 

「16時から。それまでは自由にしといていいって教授が言うもんだから、わざわざお迎えに上がったという訳だよ、柚樹君」

「余計なお世話ですよ。……今が14時、取り敢えず研究室に戻りますか」

「だね。柚樹君がいない間に、あたし結構研究進めたんだから、それも見てもらわないとね」

「おー、私も付いて行っていいかな?」

「お断りします」

「あたしもパス。こればっかりはあたしも認められないわ」

 

 俺とアルに否定されてシオンは口をひん曲げる。

 

「えー、減るもんじゃないでしょー」

「価値が減る」

「そこをなんとか」

「ダメなものはダメです」

「むー……」

 

 シオンはなおも粘りそうな雰囲気を出していたが、どうやらどこまで粘っても無理そうだというのを感じ取ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 

 

――――――――――

 

 

「たったの一ヶ月でここまで進むとはね。感情のデータ化はまだ遠そうだけど」

「サンプルが少なすぎてね。流石に一般人相手に『感情のデータ取りたいのでサンプルになってください!』なんて言う訳にもいかないし」

 

 久しぶりのMIT。その中にある俺たちの根城・仮想技術応用研究室第一研究室の中で、俺はアルの話を聞いていた。俺がいなくても優秀な彼女なら研究に支障はそこまでないだろうという予想をしていたが、案の定しっかり研究を進めていた。

 

「そこはもう時間を掛けていくしかないね……あっ―――」

「どうしたの?柚樹君」

「いや、それこそVR空間ならある程度の人間の感情をデータ化して、方法によってはこっそり収集することが出来るんじゃないかってね……」

「あー……でもそれって非合法じゃぁ……」

「法規制されなければ違法じゃない。それこそVR機器を通じて直接人の脳に何か細工を施すとかその領域まで行かないと立件は極めて難しいはず」

 

 俺の発言にアルは若干引いたようなポーズを取る。

 

「……柚樹君、もちろん君なら知ってると思うけど、脳に電子とは言え――メスを入れて感情を扱う行為はかつて世界で――」

「……前頭葉白質切截術(ロボトミー手術)。その罪の重さくらいは医学のトーシロでも脳科学に関わる人間として知ってるさ」

 

 俺が言うと、アルはこくりと頷いた。

 

 ロボトミー手術。それはかつて日本を始めとする全世界で行われていた、精神病患者に対する人格矯正手術のこと。当時治療不可能と言われていた精神病を部分的に抑制することが可能であることが判明し、世界中で続々と行われ、一時期は精神外科として一つの医療領域とまで言われ蝶よ花よともてはやされた新世代の医療技術―――だった。

 

 しかしその死亡率や術後後遺症が重篤であることの発覚、そして何より治療のためとはいえ脳にメスを入れ神経を遮断するという禁忌を犯した手術であることが世間に広まるにつれ次第にこの手術は倫理上の問題をはらむようになっていく。更にはインフォームドコンセントを得ないまま施術した医師を元患者が襲撃する事件が発生するなど事態は悪化。現在ではこの手術は完全に禁止され、歴史の闇に葬られた。

 

 VRで感情を収集するとはとどのつまりそれの(まが)い物になる事と同義だ、とアルは言いたいのだろう。ロボトミーは金属のメスで感情を切断する手術だが、VRはそれが金属が電子のメスになっただけではないかという疑問は尤もだ。

 

「電磁パルスで脳をスキャンするとどうなるか、それこそ今回のナーヴギアが教えてくれたわ。数千人と言う犠牲者を代償に……」

「アレは規格外だよ。大容量のバッテリーに強力なパルス発生器、脳を高速振動させて発熱させる。余程ではない限り感情スキャン程度のパルスで人を殺傷し、脳に後遺症を与える可能性は低い」

「でも……」

「アル、"コラテラル・ダメージ"という言葉を知っているかい?」

 

 俺が聞くと、アルは首を振った。

 

「日本語に訳せば"政治的に致し方ない犠牲"だそうだ。つまり全体の利益のために切り捨てられる一部の犠牲者のことを指すんだけど、技術の発展に犠牲は付き物だということを主張する際の免罪符のようなものさ」

「……そんな詭弁、許されるとは思えないわ」

「無論、無関係の一般人にすればそうなるだろうね。でも、例えばその相手がアルに惚れていたとしたら?」

「へ?」

 

 アルがキョトンとしたように首をかしげる。

 

「仮定の話さ。いや、こう例えようか。アルに好きな人ができたとすると、その人と別の人とではやっぱり許容できる行為に差は出てくるだろう?」

 

「それはまぁあるでしょうね。あたしだって人間なんだし」

「つまり、無関係な人間ではなくアルにそれなりの恋慕ないしは親愛の感情を抱いている人間にならばこの臨床実験は可能だ、ということだよ」

「……色々と言いたいことはあるけどまぁいいわ。でも、そもそもあたしに親愛の感情を抱く物好きがいるとは思えない」

「その姿でよく言うよ。それこそアイドルにだってなれ――」

 

 そこまで言って気づいた。アイドル、それは偶像(idle)の名を持つようにもっとも人々の関心、そして羨望を集めるのに効果的な職業であり手段の一つ。

 

「……アル、歌に自信は?」

「歌?今日の柚樹君はコロコロ話題を変えるわね。……うーん、それなりに好きではある、かしら」

「微妙に会話が噛み合ってないけどこの際無視しようか。じゃあもし僕がプロデュースするからVRでアイドルになってくれ、って言ったらやってくれるかい?勿論VRを僕らが守り通せたら、という前提付きだけど」

 

 俺が至極真剣な顔をして言うと、アルは本気で驚いた顔をしてこっちを見てきた。

 

「変なことを言うわね、柚樹君。あたしをアイドルにして、何のメリットがあるのかしら?それと、柚樹君にプロデューサーが務まるかしら?」

「一つ、大量のアルに好意を持つ"被験者"が手に入る。二つ、この手段なら非合法的かつ倫理的に()()()()()な問題を孕む手段をとる必要性がない。三つ、コストはアルの歌唱レッスンその他のみしかかからない。そして僕にプロデューサーが務まるのかというもっともな疑問についてだが、これでも僕は歌はお世辞にも上手くはないがそれを支える方には少々自信があるんでね。心配してくれないで構わないよ」

「少なくとも柚樹君が考えていることだけは分かったわ。…………考えておく、という答えはありかしら?」

「構わないよ。僕だって今思い付いたことに対する即答を求めるほど性急に事を動かしたりはしないさ」

 

 俺は手を振って答えた。ほんの思い付きで物事を動かすことほど愚かなことはない。もしこの案を真剣に考えるならどう見積もっても三・四ヶ月は準備が必要だろう。

 

「そう、ならありがたいわ。……あ、いけない。もう礼拝の時間ね」

 

「おっと、すっかり忘れてた。じゃ、今から行こうか」

 

 俺とアルは研究室を出て、礼拝堂へ向かった。

 

 

――――――――――

 

 

「結局あたしたちだけになっちゃったね」

「宗派が違うんだからしょうがない。普遍主義者(カトリック教徒)と一緒に祈りを捧げるなんてのは土台無理な話だ」

 

 俺はちょこっとした礼拝堂の中でアルと一緒に祈りを済ませ座っていた。ロシア正教とローマ・カトリック教会を始めとする西方教会はイスラム教のスンナシーアほどではないにしろ因縁はそれなりにある。……大半が正教会側の祖国ロシアが正教徒保護を名目にバルカン半島のカトリック教国に侵攻したのが理由なのだが。

 

「あっちでは今ごろ豪勢なパーティーでもしてるのかしら」

「そっちに行きたかったかい?」

 

 俺が半ば挑発するような口調で言うと、アルはムッとした顔を反駁した。

 

「ぜーんぜん。色んな人と話して疲れるくらいなら、ここで柚樹君と話している方が落ち着くし気が楽だわ」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

 

 俺が言うとアルは舌を出して笑った後、ポツリと呟いた。

 

「……小さな礼拝堂に男女二人でポツンと座るなんて、なんだか結婚式みたいなシチュエーションね」

「今からでも挙げるかい?僕は相手がアルなら大歓迎だけど」

 

 からかうようにそれに返すと、アルは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。冗談半分で言ったつもりが、本気でとられてしまったのかもしれない。いや今アルと結婚なんてしたらもれなく逮捕一直線なんだけど……

 

「もう!柚樹君はどうしてそう誤解されかねないような発言ばかり言うの!」

 

 なんて事を考えていたら飛んできたのはアルの手だった。ペチンという音と共に俺の頬をアルの小さな手が撫でる。初速が早かったせいか、大分痛かった。

 

「いやごめんってアル。流石に君と結婚なんて凶行に走ったら漏れなく社会的な制裁が待ってるってことくらいは知ってるさ」

「全く……」

 

 しばらく、二人の間に静寂が流れた。

 

「……ねぇ柚樹君、その……日本で、どんな感じなの?」

「どんな感じって?大まかなことは通話で話した通りだけど」

「あーいや、そうじゃなくて。勿論柚樹君があっちで頑張ってるのはよく分かってるんだけど、その……日本で過ごした感想を聞きたいなって」

「ほう?」

 

 意外な質問だった。アルが日本に興味を持つなんて露ほどにも思わなかったが、思えば彼女にしても日本は血の祖国だった。

 

「いい国だよ。水は綺麗で食べ物も安全、治安もいい。生活するには申し分ない環境だ。……マスメディアと先導される大衆が愚かなのは、こっちと変わらないけど」

「へぇー……」

「日本に興味が湧いたのかい?」

「ちょっとだけ、だけどね。もしこのまま日本が産業面でVRを引っ張っていくようなこと否れば、あたしも日本に行かないといけない機会が出来るかもしれないし」

「はは、確かにそりゃそうだね。なら僕はそのためにももっと頑張らないといけないわけだ」

「うん……頑張ってね柚樹君。あたしに出来ることがあったら何でも言ってくれればあたしなりに頑張るから」

「ありがとうアル。君を一目見ることが出来たから、またあっちで頑張れそうだよ」

 

 俺がそう言うと、アルはへへっとはにかんだような笑顔を見せた。

 

 ――この笑顔を曇らせないためにも、VR規制は絶対に阻止して見せる。そう俺に決意を抱かせるには、十分すぎるほどまぶしい笑顔だった。




はい、オリジナルヒロイン・水無月シオンのお披露目です

この小説のオリキャラ頭良すぎる人間多すぎかよと思うかもしれませんがコンセプトがコンセプトなので仕方ないです……後フィクションなので……

彼女も後々物語のキーパーソンになっていきます。原作のキリトでいうリズベット枠です(このまま行くと、ですが)

次回はまた日本に戻ります。今回はいわば番外編ですね。次回もお楽しみに!
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