五条悟が最強であることは理解していたが、まさか封印されるとは思ってなかったんだ。 作:のれん(-_-)zzz
伏黒が千代の方を向き、にやりと笑う。
「お前も、闘うか?」
戦闘意欲を著しく欠いている千代に伏黒はわざわざ問う。
狙うのは千代の前にある天内の遺体。伏黒は盤星教信者ではなくただの雇われた人間である。お金が入るなら、別に千代を殺す必要はない。彼女が邪魔しなければそのまま天内の遺体をもって雇い主の盤星教の元へ向かうだけだ。
「兄様は…本当に死んだのですか?」
「あ?兄様?」
唐突に出た千代の言葉に一時的に止まる。そして顎に手を当て、彼女の容姿をじっくり見て答えを出す。
「ああ、お前が五条悟の替玉と言われている妹か。道理で似ている。」
伏黒は禪院家の出。同じ御三家として他の家の情報は入っていた。
千代は伏黒の言葉に何も反応しない。空虚な瞳を持ち、ただ答えを待っている。
「確かに俺が殺した。脳天をぶっ刺してな。さっきの場所まで行けばいい。死体が転がってるぜ。」
「…………そうですか。」
伏黒は今の千代に戦う意思がないと結論付け、彼女の元まで寄り、天内の遺体を担ぎ、来た道を戻っていった。それを千代はただ目で追っただけだった。
(あれはダメだな。個の思考に他のものが介在しすぎている。他、ここでいえばあの五条家の小僧がダメになった時点で、あれは意思を持たない。)
歩きながら、伏黒は、生きているかも死んでいるかも分からなくなりながらも存在する先程の女の姿を思い浮かべた。
(ああいう、生き方は流石に嫌だな。)
伏黒が去ってから、十数分後。千代が動き出した。
(まだ…、もしかしたら…)
千代は兄の遺体を実際に見ていない。現実は違うものかもしれないという淡い希望を導き出し、兄の死を確認するために動いた。
五条の元へ向かおうとするとき、かすかな吐息が聞こえた。後ろを見る。そこに夏油が横たわっていた。
「傑先輩…」
先ほどまで伏黒と戦い、彼自身の術式ゆえに生かされた夏油。千代ならば、伏黒がまだいたときは確実に殺られるため動けなかったという理由付けは出来るが、彼が去った後でも治そうと思えばすぐに治せた。
つまり、治そうと思っていなかったのだ。そこまで千代の考えが及んでいなかったのだ。しかし、五条の死を確かめに行こうとする際、かすかに千代の脳裏に五条の親友といわれる彼の姿が浮かんだ。
「…私は最低ですね。」
そう言っって、夏油の元へ近づき、彼が負った傷を自身に移す。まだ、気を失っているが、時期に目を覚ますだろう。彼への微かな感謝の気持ちだけで彼を治癒した。あとは兄の元へ向かうだけだ。千代は移された傷を癒しながら、出口へと向かう。
千代は出口までの道のりをとても長く感じた。一歩一歩の足が重い。千代はこの重さは移した傷によるものではないと分かっていた。
ようやく地上に出て、先ほどの五条と伏黒が戦闘を始めた付近へ向かう。遺体があれば現実を受け止めなければならない。その時、千代自身がどのようになるかなど、彼女も知らない。
(もうすぐ着く。あの角を曲がれば…)
心臓がドクドクと鼓動する。
角を曲がる瞬間、一度目を瞑り、そして開けた。
「は、ははは…。」
地表が抉れ、建物が半壊している戦いの跡が戦闘時の壮絶さを物語っていた。そして、その中に、呪力の
千代は笑う。非常に乾いた笑いであった。その眼には歓喜の光と絶望の闇が織り交ざっていた。
「ああ、兄様。兄様は本当に最強になられてしまわれたのですね。」
誰もいない場に、千代の声が吸われていった。待ち望んでいたような、そうではないような感情が混ざった声であった。
千代が放心してしばらくすると、高専関係者が現れ始めた。何か事が起きたことをようやく察知したようだった。千代は彼らに事のあらましと夏油の居場所、そしておそらく兄が敵を追撃していることを伝えた。
高専関係者たちがひとまず、夏油のところまで行こうとしたら、彼は既に千代たちの元まで来ていた。
夏油は千代を見つけ、声をかける。
「…千代ちゃん?」
千代は幽鬼のような表情をしていた。夏油に気づき、微かに微笑み、言葉を発する。
「傑先輩、兄様は生きていました。多分、あの男を追ったと思います。行ってください。」
夏油があの男と天内の遺体を追いたい気持ちを察していたようだ。五条も生きていると分かり、早く行動したいはずだった。ただ、千代の様子が少し気になった。
目の前の彼女は兄の死を知り絶望の中にいた先ほどまでの姿とは違った。しかし、兄が生きていると知ってうれしいと素直に喜んでいるようにも見えなかった。消え入りそうな彼女の姿に、夏油は見入る。
(なにがあったんだ。)
自分が気を失っている間にいったい彼女に何が起こったのか気になる夏油。しかし、その考えを今は捨て置き、彼女の言葉通りに動く。
「ああ、分かった。…それと治してくれてありがとう。」
最後に感謝の言葉を述べ、その場から去る夏油。その後ろ姿を見た千代は今にも泣きだしそうな弱い笑みを浮かべた。
「感謝される身ではないですよ。」
夏油に聞こえないようにぼそりと呟いた。
その頃、盤星教本部にて、復活した五条と伏黒甚爾の再戦が始まった。五条は先ほどの戦いの死の間際で習得した反転術式により生まれた正のエネルギーを無下限術式流し込み、無下限呪術の反転『
しかし、彼は元禪院家であることからも五条家の無下限呪術についてはよく知っていた。『赫』によるダメージもそこまで大きくない。そこで、伏黒は勝てるという算段をつけた。自分の中に違和感を持ちながら。
五条は、今はただ新たに身に着けた力を使用し、最強への道を辿ることに熱中していた。心の中で天内に謝り、自身にとって心地よい世界を感じていた。
「天上天下、唯我独尊」
五条はぽつりと今の自分を言い表す言葉を漏らす。
伏黒はその五条に対し、リーチのある鎖に五条に通用する特級呪具『
五条悟もある術を使用した。他家も知らない術を。
五条家の中でも一部の人間しか知らない無下限術式の技。五条千代もこの術を知らない。術式順転『
虚式『
その技が発動した瞬間、伏黒の左半身は抉られていた。
死の淵で伏黒は、最強と言われていた五条悟と戦い、違和感の正体であるかつての自尊心を取り戻していたことに気づいた。それを持っていた時点で五条悟には負けていたと認識した。
伏黒は最後に自分の息子が禪院家に売られることを伝え、絶命した。
天内の遺体を回収した五条は夏油と合流した。
本部にいる盤星教信者を殺そうかと問う五条に夏油は意味がないと答える。その盤星教信者達は一般人であり、呪術について何も知らされていない、かつ、このような問題を起こした盤星教という組織自体がじきに解体されるためである。
五条はその意味の有無自体が必要かを問う。夏油は術師には必要だと答える。
2人の間に認識の齟齬が生じながらも、2人は共に帰路についた。
五条と夏油が合流した頃、千代は担任の荒縫に事の報告をしていた。荒縫は高専関係者から連絡を受け、そう遠くない場所で任務に当たっていたため、高専に急いで戻ってきていた。
「…以上が報告になります。」
「了解だ。五条も無事敵を仕留めたらしい。お疲れさまだな。」
「いえ、私は何もできなかったので。」
暗い表情で答える千代。そんな彼女に荒縫は言う。
「…お前らを任務に向かわせたのは私たち教師と上層部の判断によるものだ。生徒が任務に責任を持つのは良いことだが、向かわせた側にも責任がある。今回はイレギュラーが多い。そう深く考えるな。」
「……はい。」
「すぐに来てやれなくてすまなかったな。ゆっくり休め。」
「……はい、ありがとうございます。」
千代は一礼して、その場から離れた。
荒縫はその千代の後姿を見つめた。彼女の様子の変化が任務の達成、失敗によるものではないと感じていた。しかし、そうなってしまったのも彼らを任務にあてた教師側の責任だと思っていた。
(入学して2か月でこれか。もう少し学校らしく、教師らしくあいつらを導いてやりたいものだが。)
呪術師は圧倒的に数が足りない。かつ任務の最中に死ぬ者や、精神を壊して辞めてしまう者も多くいる。それ故に、彼らにも任務を任せなければならないことに呪術師としての荒縫は肯定するが、教師としての荒縫は心苦しく思っていた。
(五条、夏油は夜蛾に任せるとして、あの2人にも一応フォロー入れとくか。)
荒縫は間接的ではあるがこの任務に携わった自身の生徒2人を思い浮かべた。
これにて、星奨体の同化に際した護衛任務は、星奨体である天内の死、敵である伏黒の死、そして事を起こした盤星教の解体の末に終結した。
この事件は五条悟、夏油傑、五条千代、3人行く末を決める大きな分岐点となる。
ここまで読んでくれてありがとうっ。
原作でいう懐玉編を3話にまとめてしまったかつ戦闘シーンを大幅にカット。
これに関しては本当に申し訳ない。
けど原作とストーリーがほぼ同じで、主人公は戦わないので少しだけ心情面に重きを置きたかった。(言い訳)
過去編は多分ここで折り返しかな?と思ってる。
また、三日連続で投稿してストックがなくなり、今週忙しいため3日~6日空ける。