五条悟が最強であることは理解していたが、まさか封印されるとは思ってなかったんだ。   作:のれん(-_-)zzz

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少し短め


拾壱話

 

2007年 8月中旬 東京都立呪術高等専門学校

 

 

 

 

呪術高専の広い敷地の中には医務室が存在する。その中の解剖台の上に一人の男が横たわっていた。

 

 

 

 

 

灰原雄。

 

ここ呪術高専の2年生であった者だ。

 

 

 

 

 

 

そしてこの空間にあと2人の学生がいた。

 

一人は3年生の夏油傑。台の近くに立ち、灰原の遺体を見ている。彼に尊敬のまなざしを向けていた後輩が、激しい裂傷を負って、目の前に静かに横たわっているこの現状に、眉間に皺を寄せている。

 

一人は灰原と同級生であった2年生の七海健斗。彼は椅子にもたれ、顔を上向きにして目にタオルをかけている。そのタオルには幾分か血がにじんでいた。そして、彼は憤りを露わにしていた。

 

「なんてことない2級呪霊討伐任務のはずだったのに…!クソッ、産土神信仰…あれは土地神でした。明らかな1級案件だ…!!」

 

七海が歯噛みしながら言う。

 

そんな七海の慟哭を聞き、夏油が静かに言う。

 

「…今はとにかく休め、七海。任務は悟が引き継いだ。」

 

 

「…もうあの人だけで良くないですか?」

 

「……」

 

夏油は七海の言葉に反論はしない。事実、夏油と同じ特級術師であるが、現在の五条悟の強さは他と比べ突出していた。

 

沈黙がこの空間に落ちる。

 

するとすぐに、医務室の外で人が駆ける音が聞こえてきた。足音が段々と近づき、医務室の扉の前で止まった。ガラッと扉が開いた。

 

そこに立っていたのは、五条千代だった。おそらく連絡を受けて、急いできたのだろう。千代の息は幾分か上がっていた。

 

夏油は正直に先ほどの会話を聞かれていなくて良かったと考えた。悪気はなくとも兄への一種の僻みの言葉を聞いたら、不快を感じるであろう。それも、同級生から言われたならば。

 

千代は医務室の中に足を進めた。そして、台の前で足を止め、台の上に横たわる灰原を捉えた。

 

そっと千代の手が伸びる。

 

彼女の手は灰原の左頬に付いた大きな傷をなぞった。しかし、そうするだけで何も言葉を発することなく、動かなくなった彼を見つめていた。

 

夏油は彼女が今何を思っているかを図ることが出来なかった。しかし、夏油からみて、その瞳には、悲しさも悔しさも映ってなかったと感じた。

 

千代のその行動は一分にも満たなかった。千代は手を灰原から離し、椅子にもたれる七海へと体の向きを変えた。

 

「…七海君。」

 

普段から接しているときと変わらない声色で、千代は七海を呼んだ。

 

「七海君の目、治しますよ。」

 

灰原の最期を聞くこともせず、任務の不当さを口にすることもなく、千代はただ淡々と治療を申し出た。

 

それを七海は受け入れることが出来なかった。千代の治療をというわけではない。彼女の呪術師としての姿をみるとどうも苦しい。まるで灰原の死が当たり前のように過去のものとしてすでに処理されたと認識しているような彼女の姿を受けいれることが出来なかった。

 

(呪術師としては合っている。が人として、仲間の死をそう簡単に受け入れることが出来るものだろうか。まだ、高校生である自分たちが。)

 

七海は、少しの間逡巡し、そして答えた。

 

「……いいです。」

 

七海の言葉を聞いた千代の瞳が揺れた。

 

「この傷は残します。彼のことを忘れないために…。」

 

「………そうですか。では、硝子先輩に伝えておきます。細かい治療は先輩の方が適任ですからね。」

 

千代は七海の提案を承諾した。

 

ただ、流石に傷をそのまま放置というのはまずいと考えたのだろう。千代に傷をそのまま移すよりも、部分的にでも治療が可能な家入に治療を継いでもらうことになった。

 

「…ありがとうございます。」

 

七海は自分の意見を汲んでくれた千代に礼を言う。

 

「いえ…、では私はここで失礼します。七海君はお大事に。」

 

特にこれ以上この場に留まる必要もないと考えた千代は、七海に一声かけた後、夏油に会釈し医務室を出た。

 

千代にとっても、他者から見ても、あまりに短い仲間とのお別れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千代視点

 

高専内の休憩所で、私は缶ジュース片手にベンチに腰かけていた。

 

「灰原君……。」

 

亡くなった者の名を呼ぶ。こんなことしても、約1年共に過ごした者は帰ってくるはずもない。ただ、あの無邪気でちょっと間の読めない男の明るい返事が聞こえてこないことに、少ししこりが残る。

 

そして、先ほどの同級生を思い浮かべる。

「……七海君の気を悪くさせちゃいましたね。」

 

灰原君を目の前にしたとき、一瞬だけ自分の意識が揺らいだ。しかし、それが表情に出ることなどなく、自分の役目を果たそうと考えた。その結果、七海君に心がないと思われてしまったようだ。

 

当たっているけれど…。

 

七海君は今回のことで、呪術師を辞めてしまうかもしれない。彼に適性はある。だけども、こうも世の理不尽しかないような場所では、確固たる意志、もしくは功利的考えがなければ押しつぶされてしまう。

 

兄様のような最強への冀望、傑先輩のような非術師への慈悲、あの冥冥さんのような圧倒的なまでの金銭欲。術師それぞれの意志が術師であるための生命線であると私は思う。

 

私も………。

 

思考を巡らしていると後ろから声がかかった。

 

「おい。」

 

「へっ?」

 

即座に振り向くと、そこに立っていたのは自分の担任の荒縫だった。その表情は分厚い眼鏡と逆光で見えづらい。

 

「荒縫先生…。」

 

「平気か。」

 

簡潔な言葉。けれどその意味はよく分かっている。

 

「大丈夫ですよ。」

 

「……嘘はついていないようだな。」

 

「はい。こうなること呪術師になった時点で覚悟していましたから。七海君には会いましたか?」

 

「まだだ、医務室に行こうとしたらお前を見かけたんでな。」

 

「そうですか。」

 

「…灰原が抜けた分、これから忙しくなることもある。五条がいるとはいえ、呪術師の手は足りないからな。お前も今のうちにゆっくり休んでおけ。」

 

「はい……。あの荒縫先生。」

 

「なんだ?」

 

先ほどの七海君の表情が思い浮かぶ。

 

「七海君にはもう少し優しく話しかけて下さい。彼は今辛いでしょうから。」

 

「……お前、教師を舐めているのか?」

 

先生の分厚い眼鏡の下の瞳が一瞬鋭くなったのを感じる。

 

「え?」

 

先生は少し顔を緩くして答える。

 

「仲間がなくなったんだ。フォローはもちろんするさ。優しくな。」

 

私は先生の言葉に慌てて抗議する。

 

「いや、先ほどの私への「平気か?」って全然優しくなかったじゃないですか?」

 

「それは相手がお前だからだよ。」

 

その言葉を聞き、私は目を見開く。ああ、失言だった。

 

「生徒にはそれぞれ生徒に合った対応を平等にする。生徒を想ってな。教師の基本だよ。」

 

「そう…ですね…。」

 

「……そろそろ行く。また今度話そう。」

 

「今度があるんですか。」

 

「ああ、生徒の相談に乗るのも先生の役割だ。」

 

そう言って先生は医務室へ向かってしまった。

 

「はあ、敵わないですね。」

 

私は大きく溜息を吐いた。確実に荒縫先生には見透かされていたな。どうしてこうも同性の相手は、察しがいいのだろうか。

 

じっと、自分の手元を見つめ、そして手に持った缶の残ったジュースを一気に飲み干した。

 

 





ここまで読んでくれてありがとです。

各話にちょくちょく修正入れてる。主に誤字脱字だけど、口調なども少しだけ修正した。内容には影響はない。
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