五条悟が最強であることは理解していたが、まさか封印されるとは思ってなかったんだ。 作:のれん(-_-)zzz
戦闘クライマックス
荒縫は叫んだあと、その手に持った拳銃をとおるのすぐ横に向けて、撃った。
シュッととおるの横で何かが避けた。そして、その何かは一瞬で大きくなり、とおるを包み込んだ。
「うわあああああああ」
とおるが悲鳴を上げる。
「と、とおる?おい、どうした!」
とおる以外の3人は今、友人の身に起こったことが分からず声を上げる。
とおるが何かに包まれる瞬間、荒縫が見えたのは泥、そして赤い核のようなもの。つまり先ほどの呪霊が生きていたことになる。
(やられた。やはり、最初から呪霊の狙いはあいつだったか。しかし、なぜ)
「先生。」
千代が荒縫に声をかける。その表情からは焦りが見られる。
千代は先ほどの荒縫の叫びに反応は出来たものの呪霊の攻撃までには至らなかった。ほぼ暗闇の状態で、呪霊が限りなく気配を遮断し、先ほどの巨体より極小の分体で近づいていたためだ。
荒縫がそれに気づけたのは、「丹の眼」で呪霊を視認しやすかったからだ。
「まだ、攻撃は…」
するなと荒縫が言いかけた時だった。先ほど相対していた呪霊とは思えないほどの、濃密な呪力が霧散し、二人を刺激した。呪力を当てられた若者たちはその場に、気を失って倒れた。
(この気配は…。)
荒縫の首筋に冷や汗が伝う。
2人の前に一体の呪霊が現れた。先ほど、闘っていた呪霊と同じであるが、全く違う。泥で構成されていた巨体はなく、その体は人型だ。体は筋肉質で、その手、足先は鋭い爪を持つ。そして頭の前から後ろにかけ、黒く細長い突起が複数本並び、その突起上には複数の眼がある。
その呪霊の足元にはとおるが倒れていた。彼が生きていると荒縫は「天の眼」で識別した。
呪霊は新しくなった体を確認しているのであろうか。足元にいる人間に目もくれず、屈伸したり、手の指を動かしたりしている。
目の前の呪霊から目を離さず、千代は震え声で荒縫に聞く。
「せ、先生。これは、もしかして。」
千代が以前夏油と戦った、1級相当の呪霊とは比べ物にならないほどの力が目の前の呪霊から見て取れる。千代は自分の推測が嘘であってほしいと願う。
「ああ、間違いなく特級呪霊。それもおそらく両面宿儺の指を取り込んでいる。」
両面宿儺とは1000年以上前に実在したと言われる人間である。その時代の術士が総力を挙げて両面宿儺に挑んだが、敵わず敗れたと言われている。腕が4本、顔が2つあったとされ、宿儺の死後、その計20本の指の屍蝋が特級呪物「両面宿儺」として残された。当時の術師達は、それすら消し去れず、封印することしか出来なかった。
しかしながら、その封印も1000年経った今では紙切れも同然。呪霊に取り込まれたことで、完全に封印は解けた。
荒縫と千代がここに来た時から感じていた呪霊の気配は、最初の泥の呪霊も含まれるが、「両面宿儺」によるものが強い。そのため、泥の呪霊の本体を倒しても気配が消えなかった。
そして「両面宿儺」の指を持っていたのが先ほどのとおるだ。本人としては、お守りとして持っていたものだが、そのせいである程度の強さを持った先ほどの呪霊に狙われた。
「まず、私が全力で攻撃を仕掛ける。千代はその間にあの男を救出、倒れている奴らの所に置いて、応戦しろ。」
「敵の意識があの人達に向いたら、どうします?」
「ある程度はカバーするが、……お前の能力で受けきれない、もしくは戦いに支障が出るようなら見捨てろ。あの男を救出する際も同じだ。こいつはここで止めなければならない。犠牲を以てしても。」
「…分かりました。」
非情な選択。しかし、特級をこのままにしておくわけにはいかない。野放しにすれば数百、数千人規模の被害を及ぼす可能性のある存在だ。
まだ、とおるという男を救出するという指示を加えただけ優しいものだ。
自分の体の構造を確認し終わった呪霊は、ちょうど目についた足元の人間を見てにやりとし、その爪で殺そうとした。
「っ行くぞ!」
荒縫の号令で千代は、一気に呪霊との距離を詰めようと前に踏み込んだ。千代の後方から銃弾が呪霊に放たれる。先ほどまでとは違い、呪力がさらに練りこまれ、濃密な銃弾だ。
危険性を察知したのか、呪霊は飛んできた弾を跳躍して避けた。空中で弾が飛んできた方向、荒縫に体を向けた。
((よし、食いついた!))
それを確認した千代は、男の元へと向かう。
荒縫は敵が空中で身動きが取りにくいのを見て発砲し、3発、その体に打ち込んだ。
呪霊は空中で被弾し仰け反るが、すぐに態勢を整え、「キヒヒ」と笑った。
「効いていないようでなによりだよ。」
不満を口に漏らしながらも攻撃を続ける。
荒縫が「天の眼」で見ても、呪霊は体表が厚く呪力で覆われているため、銃弾があたっても大してダメージがなかった。
敵は地に降り立つ前に、呪力の塊を荒縫に向けて飛ばした。高速、高密度な攻撃であるが、荒縫も「丹の眼」で見て避ける。この回避の際にリロードを行った。
敵が地に降り立ち更に、攻撃を仕掛けようとしている。
(もっと銃弾に呪力を込めないとだめだな。だが、一瞬でも隙を取られて、懐に入られるとこちらが圧倒的不利。……やるか。)
荒縫は新たに術式を発動した。
『
「
「千歳の眼」は、相手の思考・心を読み取ることが出来る。この能力は、呪霊に対して使うことがなく、どちらかと言えば対人間用だ。なぜなら、呪霊は低い等級ほど知能を持っても、基本的にその思考回路は破壊衝動、本能からくる部分が多いからだ。しかし、特級呪霊ともなればその思考回路は他とは異なり、ある程度読み取りやすい。
ただ、呪霊を倒すには思考を読み取るだけでは足りない。ある程度読み取りやすくても、呪霊は本能が大きい。だから、荒縫は眼鏡を捨て、能力を重ねる。
「丹の眼」、「天の眼」、「千歳の眼」、この3つの眼を同時に1つの眼として扱う。荒縫の眼は月白に染まる。
これが、荒縫の術式『
3つの眼を重ねることで、体内外の動き、心の動きすべてを認識することが出来る。
その結果、荒縫は、
―未来を知る。
呪霊は一瞬、荒縫の瞳の変化に反応したが、何も起きなかったためそのまま攻撃に移ろうとしてした。
(右手から先ほどよりも高密度の呪力放出、しかし本命は……接近による打撃。)
呪霊がまだ構えている状態で荒縫は相手の攻撃を視た。
そして、荒縫は、本来回避の準備をするところを、敵の両足を狙い、リロードから呪力を溜め込んでおいた銃弾を撃ち込んだ。
「ガギッ?」
足元への、それもさきほどよりダメージが大きい攻撃で、呪霊は構えが崩れた。しかし、荒縫に近づくという考えは消えたが、体勢を崩しながらも、そのまま右手に溜めかけていた呪力を荒縫に向けて投げだす。
しかし、視えている荒縫は、後ろ寄りに回避する。
(困惑の色、けれど問題ないと考え、なりふり構わず接近。ここは……許すか。)
体勢が崩れた呪霊は、そのまま地面に手をついた。そして、四つん這いになった状態で、地面を蹴り、一気に荒縫の元へ飛びついた。呪霊の爪が荒縫の顔面へ迫る。しかし、
「残念ですね。」
呪霊の手に鎖が巻き付き、横へ引っ張られる。呪霊は鎖に対応できないまま、地面に落ちた。
呪霊が、鎖が伸びている方向へ眼を向けると、そこには千代がいた。先ほどの荒縫が呪霊の足に打ち込んだときに、男の救出が終わった。荒縫も回避の方向を調節し、だいぶ若者たちが倒れている場所から距離が取ることが出来た。
地面に這いつくばる呪霊に向け、荒縫は銃口を向ける。近距離で、それも脳天に向けて数発撃った。
が、呪霊はまだ気力があるようだ。
(油断したところを、鎖を引っ張り、千代を引き寄せて壁にする気か、そのまま私も含めて一刺し。なら…)
「千代ッ、武器を離せ!!」
荒縫の言葉に反応し、千代は手からパッと武器を手離す。
呪霊は鎖を引きにかかったが、すでに千代から手放された鎖のみが呪霊の元へ来るのみだった。あるはずの重さがなくなったことで、また一瞬呪霊の動きが止まる。
(これで最後だ。)
呪霊の一瞬の隙を荒縫と千代が見逃すはずもなく、2人は距離を詰める。そして、荒縫は千代より早く呪霊に辿り着き、ゼロ距離から銃弾を打とうとした。
しかし、荒縫は視た。
避けられない死を。
呪霊の全力の反抗。自爆に近い呪力の無差別放出。
濃密で攻撃的な呪力が目の前で放たれた。
千代は目の前で、呪霊が攻撃を放つのを見て死を覚悟した。しかし、次の瞬間、黒い影が千代を覆い被さった。そして衝撃が広がり、千代は目を瞑り、地面に倒れこんだ。
千代が目を開けると、そこにいたのは右わき腹が抉れ、右脚がなくなった荒縫妃沙の姿だった。
呪霊が攻撃する寸前、荒縫がそのまま呪霊との近い距離を保って留まれば、確実に死ぬ。距離を取れば、致命傷は避けられるかもしれない状況であった。それは千代も同じ。だが、荒縫と違って千代は視えていなかった。
荒縫が取った選択は千代を守ることだったのだ。
千代は体を起こし、腕の中にある荒縫の体を見渡す。荒縫の体には欠損部位が多い。それを、千代の術式で賄い切れるかは一か八かの賭けになる。
(これを私に移したとしたら…)
千代は心の中で葛藤する。
すると、瀕死の荒縫が言葉を発した。
「千代、お前…の心を視た。」
千代の息が止まる。
「だから……全て分かっている。その…うえで言…う。治さなく…てい…い。」
「……………………先生はそれでいいんですか。」
「…生徒…を守って…死ねる。それだけで…い…い。」
それが荒縫の最期の言葉だった。
千代の腕が重くなった。
遠くでザッと土を踏む音がする。呪霊が起き上がった音だ。
(呪霊がまだ生きている、そのうえで荒縫先生は私に任せた。…本当に生徒の扱いが上手い。)
千代の表情は無、しかしほんの少し後悔の念が現れていた。
(ごめんなさい。先生、私は最低な生徒です。)
見透かされた心の中で、千代は謝る。
そして、呪霊の方へ体を向けた。呪霊が嬉しそうにケタケタと笑うその顔を睨んで、力を振り絞る。千代の中にあるありったけの呪力を振り絞る。
「領域展開———」
千代の領域展開発動後、両者の闘いは1分以内に片が付いた。
生き残ったのは、千代。その手には「両面宿儺」の指が握られていた。
この日、荒縫妃沙の死が呪術界に知れ渡った。
そして、その日もう一つの事件が発生した。
夏油傑が任務先で非術師100人余りを殺害し、呪詛師に堕ちたという事件が。
ここまで読んでくれてありがとうです。
因みに若者たちは呪霊から離されていたのでギリ生きていました。
荒縫の術式についての補足
基本的に荒縫は「丹の眼」、「天の眼」、「千歳の眼」は基本個別で使ってます。重ねると負担が増えるからです。戦闘中は「丹の眼」を常に使用して、「天の眼」を時折並行して使います。3つ重ねると、とても呪力を使うし、脳の回転率を上げないといけないのでとても疲れます。未来が見えると言っても数秒ですが、戦闘時にはとても役に立ちます。今回は…しょうがない。