五条悟が最強であることは理解していたが、まさか封印されるとは思ってなかったんだ。 作:のれん(-_-)zzz
夏油視点
昨年、星奨体の護衛任務から私の親友、五条悟は文字通り最強となった。
彼が最強となったことで彼の妹、五条千代は自身の役目をほぼ失ったと言っていい。
あれから、悟は単独任務が増え、彼女の外の任務もこれまでに比べて多くなった。今までが少なすぎたと言わんばかりに。
十中八九、五条家が絡んでいるのだろうけど、何も言うことなど出来ないだろう。悟からすれば、妹が自分のために犠牲になることがなくなり、任務量が増加したと言えど、呪術師では一般的な量であるからそう不満はない。
では、彼女はどうなのだろう。
私は、五条家から与えられた悟を守るという使命が彼女の生命線だと考えた。
故に、一年前のあの星奨体の事件で、私を治して悟の後を追えと言ってくれた彼女の顔に浮かんでいた表情は自己の喪失なのではないかと思い始めた。生命線が消え、もうただ死を待つかのような。
1か月前の灰原の死を直面した彼女は灰原の傷をふれるようなことをしながらも、その表情は何も移していなかった。呪術師は消費されていく。非術師のために。そのことを十分に理解しているかのように。
荒縫先生が亡くなったときの彼女の様子は聞いていないが、一般人を庇いながらの事件だと分かった。そして彼らが持ち込んだものが発端の事件と聞いた。
だから、私は彼女をこちら側へ誘おう。五条悟へ手を出さないことを条件に。それは彼女を縛る使命に触れてしまうだろうから。術師だけの世界であれば、悟も死ぬことはないと言えば、その心は揺れてくれるだろう。そう思った。
数日後、私は五条千代の元を訪れた。
彼女がたまたま都内での低級呪霊討伐を一人で行っていた時だった。
「やあ、千代ちゃん久しぶり。」
「…傑先輩?」
私の顔をみた千代ちゃんは面食らったような顔をしていた。初めて会った時を思い出す。
「まだ、そう呼んでくれるんだね。」
「…はい。」
千代ちゃんはきちんと受け答えをしてくれるが、警戒を怠ってはいない。
「別に何かをしようってわけじゃない。身構えなくてもいいよ。今日はそう、勧誘かな?」
「勧誘…ですか。」
「そう、勧誘。一緒に来ない?術師のみの世界に。」
「………」
「別に術師を殺していくわけじゃない。術師だけの世界を作るんだ。そうすれば、私たちはこんなにも苦しい思いをしなくてもいい。誰も傷つかない。」
「なぜ、私にその話を?」
「千代ちゃんは、今五条家でどんな存在?」
ピクリと千代ちゃんが反応する。しかし、沈黙したままだ。
「自分の役割なんてないんでしょ。与えられ続けたものがもうない。私なら与えられる。」
私は彼女の答えを待った。
「………お断りします。」
千代ちゃんが出した答えは私の予想に反したものだった。
「どうしてだい?千代ちゃんには今何が残っている?」
私は気になる。今、彼女を突き動かすものが何なのか。役目を終えた彼女をまだ存在させるものは何なのか。
彼女はふっと口元を緩め答えてくれた。
「…残っていますよ。
兄様への想いが。」
その言葉と表情で今まで捉え切れなかった彼女の考えが分かった気がした。
「なるほど。」
そう返すだけだった。でも、千代ちゃんは説明してくれた。
「傑先輩が私に対してどう考えているのかわかりました。つまり、私が五条家の言いなりと思っていらしたと。それは、半分あっていて、半分違います。」
「……」
「私は確かに五条家のために行動してきました。それが使命だと思っていたのも事実。私も気づいてなかったんですから。でも、心の奥底でずっと思っていました。兄様が望むものが、私が望むもの、兄の生が私の生だということを。今、私の中では兄様以外はどうでもいいんです。」
千代ちゃんはいつもより饒舌だった。もう隠す必要なんてないと言っているかのように。彼女は一息して、そのまま言葉を続けた。
「兄様は傑先輩の起こしたことに衝撃を抱いていました。兄様があなたを拒絶した。つまり、私はあなたの敵です。」
千代ちゃんは敵意のこもった眼で私を睨む。
「……………ふふふふ、ははっははははは。」
ああ、自分が考えていたものがバカらしい。今思えば彼女の行動一つ一つが悟のためだったのか。彼女を贄にしてきた五条家もまあ狂っていたが、彼女自身も十分に狂っていたらしい。たった1人の兄のためだけを想い、存在する。非常に危うい存在。だが、その兄が悟だからこそ成り立つ。最強である悟だからこそ。私は彼女の琴線に触れた。その時点で私は彼女の敵になっていた。
「?」
突然笑い出した私に千代ちゃんは、訝しんでいるようだ。なるほど、こう見ると分かりやすい。
「そうか。なら、お暇するとしよう。」
「案外、簡単に引き下がるんですね。」
「別に無理やり誘うつもりはなかった。断られるとは思ってなかったけどね。それに、千代ちゃんは術師だ。私の理想の世界には存在すべきだ。」
「…そうですか。」
先ほどの千代ちゃんの宣言は本当らしい。私の理想に興味を示さない。並みの術師ならばすぐに反論しそうなものを。
ここでの用はもう終わってしまったので、彼女と話す意味もない。
去ろうとする私に千代ちゃんは話しかける。
「兄様に会いましたか?」
躊躇しなくなったな。どこまでも兄想いだ。
「いや、まだだ。硝子に会いに行くからそこから悟にも連絡がいくだろう。」
「なら、私から連絡する必要性は無さそうですね。」
「簡単に信用しているけどいいのかい?」
「嘘をついてはいない。そう思いました。」
「…そうか」
そこは信用してくれるんだ。千代ちゃんとは1年半の付き合いだったけれど、全く意味がないわけではなかったらしい。
「…傑先輩、」
また、千代ちゃんが私に話しかける。
「なんだい。」
「あなたは兄様を裏切った。だから、私はあなたを赦しはしない。絶対に。」
力強い瞳で千代ちゃんは私を睨みつける。
「……………」
しかし、ふっと目元が緩んだ。
「ただ、兄様が、親友が出来たと言って、楽しそうにしていたのを覚えています。それがあなたで良かったと今でも思います。だから……、兄様の親友でいてくださって、ありがとうございました。」
そういって千代ちゃんは頭を下げた。おそらく私にここまで気持ちを露わにしてくれるのも、これが最初で最後だろう。
「うん……、さようなら、五条千代。」
これは決別の意。敵としての。
顔をあげて、五条千代も答えた。
「はい、夏油さん。」
彼女は決意を込めた表情をしていた。
私は五条千代の元から去りながら考える。
今現在、最強になった悟に役立つことは、彼女は出来ないだろう。ならば、おそらく彼女がこれからしようとすることは……。はあ、敵としては厄介な存在になってしまうな。でも、このことは悟には言わない。それが私へ敬意を払ってくれた彼女へのお返しになるだろうから。
五条千代に会った後、私は硝子に会い、そして悟にも会った。硝子はまあいつも通りだったが、悟はやはり怒りをにじませていた。
私の理想と悟の現実がぶつかる。
私は術師だけの世界を作るというが、悟は無理だという。悟の力なら出来るというのにそれを無理と私に押し付けるのも大概だろう。
もう決めたこと。悟に何を言われようが私の意志は変わらない。
その旨を悟に伝え、去ろうとする。悟は私に攻撃をしようとした。私は悟の攻撃を受け入れる覚悟でいたが、結局のところ彼は攻撃してこなかった。
これが私と親友との決別の時だった。
ここまで読んでくれてありがと。
このシーンはこの小説を書き始める時から決めてた。ようやく出せたー。
兄はシスコンで、妹もブラコン。