五条悟が最強であることは理解していたが、まさか封印されるとは思ってなかったんだ。   作:のれん(-_-)zzz

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死後の荒縫先生の独白になります。



閑話 荒縫妃沙の独白

荒縫妃沙の独白

 

私はありふれた一般家庭の生まれだった。そのまま行けば普通の誰もが歩むような人生を辿っただろう。しかし、小学生の頃に呪霊に襲われ、自分の術式が判明した。その時から、呪術の世界で生きることになった。

 

呪術に目覚めて初めは、自分の術式のコントロールが難しくて、眼鏡をかけた。後々制御出来るようになったが、眼鏡があったほうが安心するのでそのままつけていた。

 

呪霊というものに対しては、その頃は特に何も思わなかった。小さい頃から見ていれば、そこにいるのが当たり前という状況だったからだ。なんとなく自分は他とは違うだろうとは思っていたが。

 

中学生になってから本格的に呪術師として活動した。中学生にやらせるのかと思うような内容だったが、人手が足りないらしい。やれと上から言われるのだから、やらなければならない。そんな理由をつけて、任務に当たっていた。

 

高校生になっても、戦い、戦い、戦いの毎日だった。知り合いが死ぬ。先輩が死ぬ。先生が死ぬ。友が死ぬ。こんな救いのない毎日を送っていると心がすり減ってくる。

 

私はなんのためにこの力を持っているのか。呪霊を倒すために?私はなんのために呪霊を倒しているのか。そんな存在を知らないただの一般人のために? 私はなんのために生きているのか。呪術師としての役割を全うするために?

 

今まで「指示されたから」という理由で、呪術師をやっていたツケが回ってきたのだろうか。この時ほど追い詰められていたことはない。なにに対しても、希望を見出すことが出来なかった。

 

この気持ちが晴れたのは、意外にも一般人である家族のおかげだった。私がしていることを何も知らない家族。時に憎んでしまいそうになった家族。私の調子が悪いと感じ取って、教師だった父は言ってくれた。

 

「お前は、何かと理由付けしたがる癖があるな。それはお前の美点でもあるが、弱点でもある。お前の気持ちに素直になれ。苦しいと思ったら休め。やりたくないと思ったらやるな。」

 

「…例えば、宿題とか、教師ならやらせないと。そんな時は父さん、どうするの。」

 

「む、お前は真面目だな。それはやってもらわないとその本人としても困ることだが、結局は自由で良いと思っている。人にはそれぞれその人なりの事情がある。それを理解してやればいいと。」

 

教師としてそれはどうかと思ったが、しかし生徒からは人気があったらしい。分かる気がした。父はいつも人を良く見ていた。

 

心が楽になった気がした。休みたいときは休むようになった。仲間が亡くなったときは悲しむし、この現状を嘆く。呪霊を憎むし、その任務を下した上層部も憎んだ。そうして自分の気持ちに素直になったとき、この現状を変えたいと思った。本心から。私が今まで受容できなかったものは、もう仕方ないと水に流す。しかし、これから術師になる人達はせめて悔いがないように生きてほしい。迷っても、苦しんでも、最期には笑っていられるようになってほしい。

 

 

だから私は父と同じ教師の道を歩んだ。

 

 

教師になってから数年。やはり呪術師界は色々と問題がある。教え子たちのなかには私より早く死んでいくものもいる。

 

その年も3人の新入生と出会った。

 

灰原雄、呪術師界には珍しいタイプの能天気で真っ直ぐな子だ。けれど逆に悩みを持ちにくそうだ。呪霊を祓い、人を助ける。呪術師としての根本が備わっている男だった。

 

七海健人、灰原とは幾分か性格が逆の子だ。几帳面で紀律を重んじる。でもおそらく仲間思いだ。昔の私に似て、後々悩みを持ちそうだった。

 

五条千代、御三家の一つ五条家の出。あの五条悟の妹。噂はよく聞いていた。御三家は良くも悪くも教育がしっかりしている。呪術師としてやっていくには問題は無さそうだが、その内には彼女自身の信念が伺えた。

 

3人が入学してきてから、星奨体の護衛任務という重い一件がやってきた。任務としては失敗。しかし、下手人は仕留める形で終わった。灰原と七海はおそらく大丈夫だろうと思ったが、星奨体と関わった千代はどうなるか心配した。彼女に話しかけてみると、責任を感じているのであろうが、なにか違うところで千代の精神が動いたと感じた。それを深くは聞かず、彼女の選択を待つことにした。教師が生徒の思考の自由を奪うことなどしてはならないのだから。

 

その後も、生徒の様子を気にかけた。驚いたことに、3人は時間があるとき、本当にたまにではあるが外出をしていた。主に灰原の提案であるらしいが。それが高校生らしくて、思わず笑ってしまった。良い傾向にあると思った。

 

 

 

しかし、三人の中心となっていた灰原雄が死んだ。その事実に、動揺はしなかった。いつか来るかもしれないと覚悟していたことだったからだ。ただ、悲しくはなったし、悔しかった。まだ、高校生の彼を死なせてしまったことに。

 

最期の灰原に会いに行く前に、千代に会った。灰原の死に対して彼女の精神は大丈夫だろうかと思ったが、彼女の様子を見てなんとなくどう考えているかが分かった。だから、心配ないと思った。彼女自身どんな気持ちであれ、確固とした意志を持っているのだと分かったのだから。

 

逆に七海はやはり悲愴に暮れていた。今の彼に過度な励ましの言葉はかけないでおいた。無闇な励ましは彼を逆に苦しませるから。しかし、もしかしたら辞めてしまうかもしれないなと感じた。それはそれでしょうがない。その時は、教師として相談に乗ろう。

 

七海の相手をした後、最後に灰原に会った。傷だらけの体、よく頑張ったと褒めた。同時に、お前がいないとあと2人の仲を誰が保つんだよと文句も言っておいた。

 

 

 

そして灰原の死の1か月後、私は、特級呪霊に殺された。

 

 

 

五条千代を守って。

 

 

 

死ぬ寸前、五条千代の心を見たとき少し笑ってしまった。なんだ、その私欲にまみれた願望はと。五条悟だけのために、どれだけ生にしがみついているんだと。

 

ただ、五条悟がお家関係なしに彼女の全てなのだろうと、この1年半で薄々感じていた。本人はあまり気づいていないようだったが。ああ、五条悟も気づいていなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

…私の可愛い生徒たち。

 

 

呪術師として、教師として十分にお前たちを守ることは出来なかっただろう。今回は私の命を以てして、1人の教え子を守った。彼女が本心から守ろうとしている兄、五条悟は呪術師界の要であるから。そして、大切な生徒だから。

 

 

千代、私は呪術師としても、教師としても、お前を守れて良かっただろうと言えるだろう。

 

 

 

さようなら。みんな、今から逝くよ。

 

 

 

 

 





ここまで読んでくれてありがとうございます。
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