side衣玖
私は最後の相手となる銖理さんの方へと向かう...
この人を屈することができれば大神家の皆さんはこの異変に協力してくださるはず...
失敗できません...
この任務の成功が私の未来に繋がるのですから...
「さぁ!大神銖理さん!最後は貴女です!」
私は銖理さんに指をさす...
まぁ...調べた限り、すでに屈した華楠さん・境奈さんの妹です...
軽そうで単純な方みたいですし、先ほど激しく動揺していました...前の二人より苦戦はしないでしょう...
「...」(じゃがじゃがじゃが♪)
「...銖理さん?」
銖理さんは我関せずと耳に着けたイヤホンで音楽を聴いている...
諦めがついたのでしょうか?
「...貴女の番ですよ!大神銖理さん!!」
「...そう」
冷たく低い声を発し銖理さんはイヤホンを取り、私を見据える...
その瞳は光がこもっておらず、虚ろな目をしている...
「...?」
何やら様子がおかしい?
先ほどの様子とは違い...動揺が全くと言っていいほど見られない...
それどころか...彼女は冷たく無機質な空気を流している...
これでは感情の変化が見れません!
「...一体彼女に何が?」
「ふふ!銖理...キャラを元に戻したみたいね?」
暦さんは私を見て笑う...
「キャラを戻した?」
「そう!銖理は一応人里では人気者だからね!普段から明るい性格を演じているの!!しかし...一度キャラを戻した銖理は機械のように無機質になるからね...脅しには屈しないと思うよ?」
「!?」
確かに彼女から動揺は一切見られない!!
これでは屈させることができません!!
「...ここまで来て」
「...時間が惜しい...早く始めよう?...この私を倒せるものならね...」
銖理さんは無表情で私を指さす...
...永江衣玖!!しっかりするのです!!
ここまで来て諦めてはいけません!!
今までの努力を無駄には決してしてはいけないのです!!
「...ええ!では!交渉の材料をお見せしましょう!!」
私は机に銖理さんの弱みを置く...
机に置かれたものは銖理さんが竹林に住んでいる狼女に襲われている写真...
場面はどうやら狼女の自宅のリビングで床で絡み合っている二人の背後の食卓には豪勢な料理が置かれている...
沢山のワインに切り分けられている七面鳥の丸焼きが2つ...
ちょっとしたクリスマスパーティを連想しますね...
銖理さんは写真を眺めているが全く表情に変化を見せない...
これは...前の二人より強敵かもしれませんね...
「影狼と私か...だから何?これを人里にばら撒こうというの?」
「一応そのつもりです...」
銖理さんは首を横に振る...
「何の意味もない...影狼は人里には住んでいないし、被害を被るのは私のみ...全く構わない...」
やはり一筋縄ではいきませんか...
別件の弱みを見つける必要がありますね...
私は新聞の人物欄を確認する...
誰か銖理さんと面識がある方がいるはず!!
大神家は同姓にもてるらしい!その方が好意をもっていれば!!簡単に崩すことができます!!
そしてとある人物を見つける...
「見つけました!貴女の弱み!!」
「...?」
私は新聞のとあるページを銖理さんに見せる...
そこにはとある人物が銖理さんについてのコメントが書かれている...
(新装オープン!竹林の夜雀亭!美人のおかみさんと美味しい料理!人里の人気アイドルの銖理ちゃんもお気に入り!)
文(あやや...では取材の方ご協力ありがとうございます!では自己紹介をどうぞ!)
ミスチー(ミスティア・ローレライです!夜雀亭のおかみをしています!)
文(お店の開店おめでとうございます!!)
ミスチー(色々苦労したけど...何とかやってこれました...)
文(私は屋台だった頃からここが好きなんですよ!!私としても気にすることなく、美味しく料理を味わうことができますね!)
ミスチー(それはありがとう!私としても工夫をしてみたんだ!!同類としては食べづらいものね...ここまでお店が大きくなれば、仕事と趣味を両立できます!)
文(趣味ですか?)
ミスチー(ええ!人に歌を聴かせることが私の趣味なんです!現在バンドメンバー募集中です!)
文(バンドメンバーですか...もしかして♪銖理さんに影響を受けましたか?)
ミスチー(///私にとっては銖理は大切な人ですからね...彼女がいなかったら...私はもうこの世にはいないと思いますし...)
文(あや?それは初耳ですね?)
ミスチー(大きな妖怪に襲われているところを彼女に助けてもらったんです...)
文(...そうですか...まぁここは人里から離れていますし危険が伴いますからね...ヒトの身としても大変でしょう?)
ミスチー(ヒト?...ああ!!そうですね!!...とりあえず生き延びたことですし!私は私に出来ることを一生懸命にやるだけです!!)
文(ええ...その通りです!では本日はありがとうございました!)
ミスチー(こちらこそ...)
fin
「...」
「貴女の弱みは!ミスティア・ローレライさんにこの写真がばれることです!!」
「私が?」
「ええ!ミスティアさんは貴女の事を大切な人と言っています...こんな健気な人を裏切ってしまったこと...それが貴女の弱みです!」
私は銖理さんに指をさす...
「...で?」
「...え?」
銖理さんは臆することなく無表情で返答しイヤホンを耳に着けて音楽を鳴らす...
「ミスチーはこのことを知っているよ?...そしてちゃんと彼女からのお仕置きも受けたし...このことに関してはもう済んだことなんだよね?」
「...すでに済んだことですか?」
お仕置きとは...一体何をされたのでしょう?
「一回は一回だよ...やってしまったことに対してお仕置きが一回...つまり影狼とのことはもう済んだこと...つまりその写真には私を屈させる力など無いということ...」
「何ですって!?」
...すでにお仕置きを受けているということですか!?
これでは彼女を浮気という名目では交渉することができません!!
「本当にお仕置きは受けたのですか?」
「...それはそうだね...今まで受けた回数は2回...どちらも...すごかった...」
銖理さんは何事もなく音楽に聞きに入っている...
動揺も見られない!
これでは...完全に...
私の負け!?
「げほぉ!!!」
私は書類をぶちまけて倒れる...
銖理さんの交渉材料はこれだけ...
彼女の弱みを出すことはもうできない!!
「ぐぐぐ!!」
何かあるはずです!!
どこか...穴があるはず!!
私は全ての書類を見るが...他にはそれらしいものはない!!
何か...何でもいい!!彼女の隠していることを見つけられたら!!
「...!そういえば!」
「...何?」
「お仕置きは2回受けたんですよね?もう一つの方は一体何を?」
「...まぁ...彼女の逆鱗に触れた...それだけだよ...」
銖理さんはそれだけを言う...
何でしょう?何か引っかかりますね...何というかはぐらかされている気がします...
ミスティア・ローレライについて...調べた方が良いみたいですね...
新聞を見ると夜雀亭のことが書かれたチラシが挟んであり私はそれを見つめる...
美味しい八目うなぎ実施中!!
絶品!雀が作ったとされる幻のお酒!販売中!!
おかみのミスティア!歌声もサービスです!
人里では食べることができない料理をどうぞ!ご賞味あれ!!
※鶏肉を使った料理はご提供いたしませんのであしからず...
「...雀のお酒ですか...少し気になりますね...」
「何見てるのさ?もう行っていい?ライブの時間が近いんだけど?」
「!?すみません!!ちゃんとやります!!」
...雀のお酒はまた今度にしときましょう!
「...しかし」
彼女の弱みが見えませんが...何か引っかかる気がします...
この新聞とチラシの夜雀亭のこと...
どこか...引っかかります...
見えていないことが私にはあります...
私はミスティアさんのことを知りません...
それが思考を妨げている原因かもしれませんね...
私は新聞を見る...
「!?」
...そういえばおかしい文面がありますね?
そういえば先ほども同じことがあったような...
「あ!」
そうです!!今考えていることが本当なら!銖理さんの弱みが浮上します!!
銖理さんは退屈そうに外を眺めている...
今から退屈はさせませんよ!
「見つけました!貴女の弱み!!」
「...?」
「そういえば私はミスティアさんの事を知りませんでした...」
「それはそうでしょ...面識がないし...」
「ええ!!知りません...彼女の正体についてはね!」
「...」
「新聞にはこう書いてあります...」
ミスチー(大きな妖怪に襲われているところを彼女に助けてもらったんです...)
文(...そうですか...まぁここは人里から離れていますし危険が伴いますからね...ヒトの身としても大変でしょう?)
ミスチー(ヒト?...ああ!!そうですね!!...とりあえず生き延びたことですし!私は私に出来ることを一生懸命にやるだけです!!)
「ミスティアさんのセリフ...ヒト?と疑問形ですね?...それは理由があるからです」
「...」
「その理由...それはミスティアさんの正体は妖怪だからです!」
「...」
「文さんも自身の身分を隠して人として記事を書いていました...そしてこの新聞は人里に出回る品物...だからこそミスティアさんの正体も隠す必要があったのです!」
「...」
「新聞のネタとなる夜雀亭の開店は文さんにとっては美味しいネタ!それゆえにミスティアさんの正体が妖怪だと悟られないように...新聞のインタビューでわざとヒトという言葉を使ったのですよ!」
「...」
「ミスティアさんの正体が世間に知れ渡ること!それが貴女の弱みです!!」
私は銖理さんに指をさす...
「...」
銖理さんは反論もせずに黙っているだけ...
決まりました...
これで大神家の皆さんに協力が...
「...で?」
「...え!?」
銖理さんは相も変わらず無表情で音楽を聴いている...
全く...動揺すらしていない!!
「...確かにミスチーの正体は妖怪...夜雀...文にとってはばれたら困ることだけど...彼女にとっては困ることではない」
「...困らない?」
「仮に...人里の人間が来なくとも妖怪がいる...そしてミスチーは美味しい料亭にはお客さんは種族問わずやってくると考えている...」
「...!?」
「だから...ミスチーの正体がバレようとも彼女の夢が潰れることはありえないということ」
「...ぐはー!!」
せっかく考えたことも...無駄になるとは!!
もうだめです...
私はここまで頑張りました...
総領娘様...頑張って生き残ってください!!
「...?そういえば!!」
銖理さんがキャラを変える前...
初めに写真を見せた時の銖理さんは他の誰よりも動揺はしていました...
確かに今の彼女は隙が全くありませんが...
心の奥底では何かにおびえているはず...
もしかして...隠された弱みが写真の中に眠っている?
私は写真を取り出し観察する...
何でもいい!
彼女の弱みを見つける証拠があれば!!
「...!」
私は写真と新聞・チラシを見つめる...
もしかしたら...これは!
「そろそろ...時間...私は仕事行くから...」
銖理さんはその場から出ていこうとする...
「見つけました!貴女の弱み!!」
「懲りないね...私には何もやましいことはないのに...」
「いえ...貴女はとあることを隠しています!」
「...そう?ならここで終わりにしよう!!これがラストチャンス!私の恐れている内容!状況証拠!物的証拠!全てを掲示しろ!!」
「...分かりました!すべてをお出しします!!」
私は机に新聞とチラシを出し彼女に指をさす...
「貴女が恐れている理由!...それはミスティアさんの逆鱗に触れてしまったことです!」
「...!?」
銖理さんは初めて表情を崩して驚きの表情を浮かべる...
「私が...ミスチーの逆鱗に触れた?そんなのはったりだ!!」
「はったりではないです...貴女が逆鱗に触れていてしまった理由...それは...」
私は新聞とチラシを指さす...
「...鶏肉...それを食べてしまったのですね...」
「!?何故それを!!!」
彼女はおびえる目で私を見つめる
「チラシには...※でこう書かれています...鶏肉を使った料理は致しませんのであしからずと...」
「!!?」
「そして新聞にはそれを裏付ける文さん・ミスティアさんのコメントがあります」
文(私は屋台だった頃からここが好きなんですよ!!私としても気にすることなく、美味しく料理を味わうことができますね!)
ミスチー(それはありがとう!私としても工夫をしてみたんだ!!同類としては食べづらいものね...ここまでお店が大きくなれば、仕事と趣味を両立できます!)
「私としても気にすることなく、美味しく料理を味わうことができる...そして同類としては食べづらい...と確か文さんは烏天狗・ミスティアさんは夜雀...どちらも鳥の妖怪ですよね?」
「!!!!?」
「つまり!この料亭での暗黙のルール!鶏肉を食してはいけない!!それを貴女は破った!前回のお仕置きの逆鱗に触れた原因もそれにあるはずです!!」
「ち...違う!!...お...お前は肝心なことを見逃している!!わ...私が...鶏肉を食した?その物的証拠がないじゃない!!」
「それもちゃんとありますよ?この写真の中にね...」
私は机に最後の切り札を出す...
「...この写真には貴女と狼女の行為の他にとんでもない物が映りこんでいます」
「!?!?!?!?!?」
「...それは切り分けられた七面鳥の丸焼き...それも2人分ありますね...これが意味していることは...貴女があの夜!あの家で七面鳥を食した!!物的証拠です!!」
「...ぎ...ぎいい...ぎゃああああああ!!!!」
銖理さんは頭を振り回して自身のつららのような髪を崩していく...
「違う!!!あれは事故なの!!影狼が盛った薬の所為で...意識が!!」
彼女はおびえるように辺りを見回している...
side銖理
違う!!あれは事故!!
誰も悪くない!!影狼も...私も...
ミスチーなら!!分かってくれる!!
「...!?」
目を開けるとそこは大神家の居間ではなく...真っ暗な暗闇...
私は大神家にいたはず...
「しゅり~」
「!?」
聞き覚えがある声を聴き私はその声の方向を向く...
そこにはミスチーがいた!
手には包丁を持って黒い笑みを浮かべて!!!
「ミスチー!違うの!あれは事故!!事故なの!!」
「お仕置きが足りなかったみたいね...また同じ過ちを繰り返すなんて...」
ミスチーはユラリと私に近づく...
「待って!あれは仕方がないことなの!誰も悪くない!!」
「ソンナコトシラナイヨ?コンドノオシオキハキツクシナイトネ...」
「ひっ!」
私は暗闇の中ミスチーから逃げようとするが逃げる方向にも彼女がいる?
「ニガサナイ...」
「フフフ...」
「前にも...後ろにも!?」
辺りを見回すと他にもミスチーが!!
彼女たちは私を取り囲み包丁をなめる...
「キョウノリョウリハ...キツネニクネ!!」
「ぎ...ぎゃあああああああああ!!!!」
side衣玖
「あがが...」
銖理さんはそのまま白目をむいて、その場にへたり込んでしまう...
何でしょう?幻覚でも見ていたのでしょうか?
ですが...これで!全員を屈することができました!!
私の完全勝利です!!
「どうです!暦さん!!」
「...ふん!貴女の勝ち!おめでとう!!」
暦さんは顔こそは明るいが不機嫌そうな声で拍手をする...
そして彼女は巨大なサイコロに座りなおしてトランプをシャッフルする...
「...でも!調子に乗らないことね...確かに勝負は貴女の勝ち...言うことはちゃんと聞くよ...でもね?大神を敵に回した以上...只で済むとは思わないことね...」
暦さんは濃厚な殺気を私に出す...
そして風切り音を感じて横を見ると壁にいつの間にかトランプが突き刺さっていた...
確かにそう...
大事な娘さんたちをここまで追い詰めましたからね...悪いとは思っています...
そして無事には済まないくらいこともね...
ですが...
逃げ道くらいはちゃんと用意してありますよ...
「暦さん...そういえば!貴女の交渉材料も用意しているのですよ?」
「な...何!?」
私は暦さんに向けて最終兵器の写真を叩き付ける...
それは...竹林の永遠亭...
月の民であり患者でもあった綿月依姫様から窓から逃亡を図る暦さんの姿...
彼女は写真を青い顔で見つめる
「患者を置いて敵前逃亡している写真です...」
「わ...私の...写真...違う...これは逃げたわけでは...」
「情報によるとこの方は貴女の恩人である八意永琳様のお弟子さんです...そして依姫様と貴女は仲が相当悪いとか...」
「...だからって!あ...あれはうどんちゃんが無理やり!医学の知識もない!私に...だ...だから...」
どんどん暦さんの顔色が悪くなってきています...
心なしか...瞳の色が赤く変色し髪色も白くなってきているような...
「それに関してはもう分からないことです...ですが八意様がこの写真を見たら...どう思うでしょうか?」
「...」
「まぁ...貴女にとっては地獄が待っているはずですね...提出してもよろしいですか?」
「...だ...だめ...それだけは!!永琳のお仕置きは...絶対にやだー!!」
暦さんはトランプをばらまいて空中に打ち上げる...
「えへ...えへへへ~」
そしてばら撒いたトランプが落ち、スペードのJ・Q・K・Aの順で彼女の頭に突き刺さり...
「へぶ!!」
最後にJOKERが暦さんの顔に張り付いて彼女は巨大サイコロから転がり落ちる...
ついでに大神家当主も屈服させてしまうとは...
私も罪が深い...
私は倒れている暦さんの方へ向かいしゃがむ...
「協力してくれますね?」
「...あい」
暦さんは目を回しながら頷く...
これで任務完了...
「終わったわ...アタシはどうすれば...」
「早苗...済まない...約束はキャンセルだ...」
「あががが...」
死屍累々としている大神家の居間を後にして私は天界へ連絡を入れる...
「あ...総領様ですか?永江です...交渉の方は完了しましたので...はい...では失礼いたします...」
...ですが問題はまだ山積み
まだ始まったばかりですからね...
次から異変に乗り込みます
ではこれにて