海の向こうの君へ   作:ヌオー来訪者

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 お ま た せ


 砂糖水しかなかったけど、いいかな?


名前で呼んでみよう そのに

 IS学園は東京湾に浮かぶ人工島に存在する。なので本州へのアクセスなどはおいそれとは出来ないようになっている。

 当然だ。というか不法侵入し放題の半軍事施設とか怖すぎる。

 

 

 話を戻そう。アクセス手段は主に三つ。

 1つはモノレールに乗ること。陸から海を渡るように繋がれたそれは唯一の正規の移動手段だ。

 もう2つは船or飛行機に乗って行くこと。これは正直思いつきの手段で正規かどうかは知らない。

 

 IS学園にはCIWSが内蔵されており空からの侵略者は撃墜することが出来るとかいうトンデモな噂があるが真偽のほどは不明だし知りたくもない。

 

 

 

 そんな彼女の通う学園事情はさておいて。

 あれから彼女に会うのは1ヶ月ぶりだと記憶している。

 多分そこまでかわっちゃいないだろうが、ずっと顔を見ていないとなんだか不安になるというものだ。写真は機密上どうやら送ってはいけないらしく、飛んでくるのは基本文章だけ。

 顔を見ないと安心出来ないというかなんというか。

 

 

 集合はショッピングモールのレゾナンス前に11時。

 清香らしき姿がないことを確認して湊は広場のベンチに座ってスマホを開く。時間は10:00。

 早過ぎた。丼勘定に等しい時間配分で来たことを些か後悔しながら1時間待つべくテキトーにスマホを弄る。

 

「ほーん、ドイツにも代表候補生が」

 

 テキトーにネットサーフィンしていると、ドイツが新型機を発表すると同時に一人IS学園に入学させると発表したという旨の記事がスマホに表示される。それに対抗してかは知らないがフランスも代表候補生を送り込むつもりのようだ。

 

 清香がIS学園に行ってから興味がなかったISについても調べるようになった。

 多分少しでもあいつに追いつきたいと思っているからだろうか。

 

 多少知識で追いついたってISに乗れないし金輪際埋められない距離はあると言うのに。

 ふと嫌な感覚が過り無理やり振り払う。

 

 そんなことより、だ。

 IS学園で一般公開されている情報を把握することで、誤って情報流出からのアレコレで国に拘束されたりされるのを未然に防ぐという点でも理には適っている。

 

 結局、IS学園生の縁者と言うものはそういったものに気をつけなければならないという点ではハードルは間違いなく高かった。

 深呼吸する。それを承知の上で付き合うと決めた。これ如きで音を上げるのはあり得ない。

 

 目を休めようと顔を上げた矢先視界をを後ろから誰かの手が覆った。ひんやりとした手だった。

 まさか不審者か。少年を世界中の人気者にしてやると言う名目で痛めつける様子をを配信しようとした変態的な不良が出てきた映画を思い出す。

 

 男でも安心出来ないこのご時世。

 パニクりかけた湊の頭を落ち着かせたのは聴き覚えしかない声だった。

 

「さて、今こうしているのは誰でしょーかっ?」

 

 一瞬焦ったものの、正体がバレバレな声に湊は苦笑いする。

 この悪戯っ娘が。

 

「知りません! そんな悪いことする娘に育てた覚えなんてありません!」

 

「お母さん!?」

 

 明らかにキレたオカンみたいな発言に下手人の素っ頓狂なツッコミが木霊する。

 あぁ、変わってないなぁとか安心しながらも目を覆う小さな手を外して振り向いた。

 

「相川ァ……心臓に悪いだろ、寿命が2秒縮まったぞお前」

 

「てへっ」

 

 悪びれず、自分の頭に拳を当ててぶりっ子ぶるその様子に余計に安心した。いつも通りだ。

 

「てへっ、じゃねぇよてへっ、じゃあ」

 

 清香の頭に軽くチョップを入れ、「ぐわぁやられたぁ」とわざとらしくリアクションをしてみせる彼女に、これ以上何かを言う気にはなれなかった。

 

 というか──

 

 ベージュのフレアスカートに、白いトップスの上に淡い緑のカーディガンを羽織っている。

 普段は制服姿以外ではスカートは履かないし、ショートパンツか、ジーンズとかそういった系統ばっかりで外見通りボーイッシュな服装だったのに。

 なんだか2割増しで大人に見えた。

 

「あの……なんか、ジロジロ見られちゃうと恥ずかしいんですけど……」

 

 観察しているのがバレて、もじもじし始めている彼女にふと思いついた言葉が一つ。

 

「高校生デビュー?」

 

「いや違うから」

 

 恥ずかしげにしている姿はどこにいったのやら。湊のボケに清香のツッコミが冴え渡った。

 服装が妙に熟れた感じなのは誰かの入れ知恵か。

 苦笑いしながら、「行こっか」と湊はベンチから腰を上げて言った。

 

「うん。もったいないもんね、時間」

 

 レゾナンス入口付近に配置された時計台はまだ10時15分も回っていなかったのに気付き、少しこそばゆくなったので見て見ぬ振りをした。

 

 この気持ちは墓まで持って行こう。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 レゾナンスは運営している企業が元々海外に本社を置いているからなのかは知らないが西洋風の街並みをイメージとしたテナントが立ち並ぶのが特徴的だ。

 

 その作り込まれ入り組んだ地形も災いして迷子になりやすい場所ランキングにおいて東京の東京駅や新宿駅。大阪の梅田ほどではないにしろ上位にある。

 特にここ、お台場のレゾナンスは代表格にある。

 

 今時携帯電話という連絡手段がある以上、迷子になろうがすぐにリカバリが出来るのだがそれまでの時間がひどくもったいなかった。

 今の自分たちには数時間しか与えられていないのだ。しかし

 

 なんと清香の方が先手を打ってきていた。

 最初探るように清香の手の甲と湊の手の甲がぶつかり合い、内側に回り込むように手を動かす。

 

 彼女の意図に気付いた所で湊は太腿から手を離し、彷徨う清香の手を握った。

 

「ほんと迷路みたいだよなぁ、ここ」

 

 なんて、誤魔化す。

 すると清香も何事もなかったかのように言葉を投げ返す。

 

「わかるー。迷ったらもうアウトだよねー……」

 

 ぎゅっ、と握られた手に力が篭る。

 ふと視線を隣の清香に移すと少し赤みがかった頬を、顔を逸らすことで誤魔化そうとしている姿が映った。

 

 何このかわいい生き物。

 どうすればいいか分からず、かわいいと言うには湊の肝は据わってもおらず。

 せめてもと取り敢えず握られた手を強く握り返した。

 

 

 

 

 こういう時、何か買う物の目的が無くたって楽しい物だ。適当に見ていた自分に縁のないブランド品の値札を見てびっくりしたり、次に見たものの値段を予想して当て合いっこをしたり。

 

 アクセサリーショップやらこれまで行くことはまずなかったような所に足を踏み入れてふらふらと歩き回る。

 そこにはなんの変哲もない普通のアクセサリーから、変なアクセサリーまで並んでいた。

 

「魚?」

 

 と、清香がまじまじと手に取ったアクセサリーを観察する。

 魚というか、いりこだ。清香は試しにそれを耳に近づけてみる。

 

 似合わない。

 というか地味にそのいりこがデカくてネタファッションにしか見えなかった。

 清香は近くに置かれた鏡を覗き込んで自分の耳の近くにぶら下がったいりこを見て頬が一瞬で膨れた。

 怒っているのではなく、明らかに爆笑しかけたところを無理やり押さえつけている様子だった。

 

「な、なぁにこれぇ」

 

「うん。買えば良いんじゃないか? インパクトは抜群だし、これでお前もIS学園の人気者だ」

 

「悪目立ち的な意味でしょーがー!」

 

 ぽかぽかと清香がふざけまくる湊の背中を叩く。

 そういう反応をされると余計に遊びたくなるけれども物事限度がある。

 他にも蛇口の形をしたイヤリングやら、なんか微妙にリアルな顔をした紅い卵状のナニカが付いたネックレスとか、おかしなものを一頻り見たあとふと一つ、少し気になったものがあった。

 

 コインの形をしたネックレスだ。どうもこれは二つに割れるようになっているらしい。

 いわゆるペアネックレスの類だろう。あまりその辺には明るくないので果たして真に良いものなのかは知らないが、素人目からすれば格好良く見えた。

 

 しかし値札を見ればまだバイト解禁し立ての高校一年如きでは少しばかり重かった。

 飯抜きでそれなりに帳尻が合うか。とはいえ流石に買う気にはなれず離れようとした矢先だった。

 

「家坂くん。今日持ち合わせいくら?」

 

 清香が声を上げた。手には手放したはずのネックレスが提げられている。

 

「二つに分かれるなら払う分も半分こした方が絶対いいよ……こーいうのって」

 

 その発想はなかった。湊が目を丸くしつつ感想を漏らす。

 

「……中々ロマンチストだなお前」

 

「まずかった?」

 

 恐る恐ると上目遣いで尋ねてくる。

 恐らくこれは無自覚でやらかしている。計算深いタイプではないのは3年の付き合いでなんとなくわかっている。だからこそタチが悪い。

 

「いや、半分なら充分圏内だ。相川も無理してないか?」

 

「してないしてない。満額払えって言われたら確定で死にそうだけど」

 

 互いに真意を確認するように顔を見合わせる。

 そして同じタイミングで悪戯っぽく笑い合ってから。

 

「買うか」

「買おっか」

 

 二人の声がハモった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

「んー、付き合うまではこういうの買うなんて思わなかったなぁ。興味あんまなかったし」

 

 一休みに、と立ち寄ったファミレスで清香は自分の首に下げられた片割れのネックレスをまじまじと観察しながら、感慨深げに言う。

 向かいで座って、メニューを読み漁っている湊も同じだ。

 一生そんなアクセサリー買うかヴォケェと思っていた。アクセサリーを買うとしても推しのグッズ関連くらいだ。

 

「今日買おうと思った理由は?」

 

「……ホントは多分自分自身のためなのかなって」

 

「自分自身のため?」

 

「そ。なんかさ……噂だとこっからが地獄だーって事情通の知り合いがみーんな言うし」

 

 そんな心配することなのか。

 清香の成績が元々悪くはないし、これでも文武両道を地で行っているのは知っている。きっと大丈夫だ。

 

「一人だと、折れちゃうかもしれないから」

 

 そんな馬鹿な、と一笑に付すのは簡単だった。

 けれども、その事情通とやらと自分とでIS学園に対する理解度は間違いなく前者の方が上なのだ。所詮湊は部外者で海の向こうで一部しか見ることを許されない一般市民でしかなく。

 そのアクセサリーが心の支えになるのならこうして一緒に買った意味があったと言うものだ。

 

「折れたら折れたで帰って来い。別にお前を責めたりはしない」

 

 けれども追い詰めるような真似だけは絶対にしたくなかった。だからこそ、自分の立ち位置をはっきりさせておく。

 彼女のやりたいことはどんどんやって欲しいし、そうして元気に生きてくれるだけでも充分だ。

 もし清香の言うように折れたとしても大丈夫なようにいつでも帰って来られる席に自分がなるだけだ。

 

「ん、そーする」

 

 彼女らしからぬ穏やかな笑顔だった。

 けれども、不思議と不安はなかった。

 気負っている様子には見られなかったからか。重い雰囲気にもなりきらずにこれ以上互いにこのことについて何も言わなかった。湊だってそうだ。

 淡々とメニューを選んで店員呼んで注文をする。そこにごちゃごちゃとした睦言めいたものは一つもなかった。けれども清香が定期的に隙あらばネックレスの片割れを大切そうに握り締めていたのは余談だ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 当然ながら注文したものが来るまでそこそこ時間がかかる。

 待っていれば当然話に飢える訳で、まず切り出したのは清香だった。

 

 

「そういえば家坂くん」

 

「どした相川」

 

「わたしたちってさ、ずーっと呼び方苗字、だよね」

 

 言われてみれば。

 別に冷めてたとか距離があった訳ではない。苗字呼びに慣れすぎてひたすらただ流れで呼び続けることもあるだろう。というか付き合ってすぐ離散した状態になったのも間違いなくある。

 

「……あぁそういや」

 

「そこでその……コホン!」

 

 妙にかしこまって咳払い。何をする気だと湊が何故かファイティングポーズで身構えた所で清香は言った。

 

「──名前で呼んでみませんか」

 




 相川さんはかわいい。原作が始まって10年近く経ちましたがまだまだそう言い続けると思います


 そのさんに続くッ!
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