思い出したのは鬼になってから   作:アステカのキャスター

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第伍話

 

 

 最近、此処らの村では人が消える神隠しがあると聞く。

 

 夜に誰かが()()()()()、姿を消す。神隠しの噂が存在する。それは定期的に村を転々として起きるらしく、姿も形も見えない亡霊に三途の川を歩かされたと噂されていた。

 

 

「……神…隠し」

 

 

 十中八九鬼だろう。

 問題はそんな噂があるにも関わらず、夜に街を出歩く事だ。まるで何かを求めているように、まるで家族に内緒で恋人に会うかのように、夜に歩く人が存在する。

 

 噂からしてもう30人は消えているらしい。

 改めて、鬼の身体能力って凄いと思った。盗み聞きする時にまさか心臓の音まで聞こえるなんて誰が予想できたか。五感が人より数倍高くなっている。聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚は……むしろ下がってるか。本来の人の食べ物が美味いと感じない。腹は膨れるが、残念ながら満たされる事はない。そこは不便である。

 

 

 鬼になって分かった事もある。

 愛菜は予想通り、()()()()()()()()()()()事がわかった。照り付ける陽光に身体が崩れる心配はない。

 

 だが……

 

 

「(暑い……体感温度は真夏より多分5度高い……)」

 

 

 鬼の身体は陽光で消滅しなくとも、()()()()()()()()()()()()。身体が焼かれるようなものではないが、直接当たれば通常より暑さを感じるし、太陽の下では湿気の強い真夏を連想するのが早い。ムワッとした暑さに体力は削られる。

 

 

「(日傘でも買わないとだいぶキツい……私、別に前世はインドア派じゃなかったけど……この暑さに関しては熱中症で死亡者出るレベル。()()()()()()()()()夏は厳しいなぁ)」

 

 

 日向にいる時は人間と同じスペックだと思った方がいいだろう。霹靂一閃は使えるけど、連発するだけで限界が来るし、まだ人間だった頃の方が日向では強かった。太陽の下では体力の回復も人並み以下、要するに回復が遅い。

 

 

「すみません……これ…ください」

「はいよ。ちょっと高いけど、嬢ちゃん払えるのかい?」

「これで……足りるでしょ?」

「ひぃ、ふぅ、みぃ、丁度だね。毎度」

 

 

 新調した着物と日傘で所持金は半分になったが、必要経費なので仕方ない。少し高かったが、動きやすく黒く袖元には赤い彼岸花が描かれた綺麗な着物を着て、赤い日傘を差しながら日向を歩いていく。

 

 

「(日傘があるだけ大分変わる……暫くお世話になりそう)」

 

 

 何とも情けない。

 鬼になってから人生がガラリと変わり、人は食べず、空腹を紛らわす事は可能でも決して満たされない。夜は強くても朝と昼は人より弱い。かなり面倒な身体になったものだ。

 

 

 ★★★

 

 

 血の臭いがする。

 愛菜は竈門炭治郎のような鼻の良さは無いし、我妻善逸のような耳の良さと無い。だが、鍛治士として培った天性の勘はある。

 

 刀の状態から生じる臭い。血で鈍くなっていく鉄の錆、斬った鬼の血の臭い。私は人の感情まで五感で判断する事は出来ない。けど……

 

 

「霹靂…一閃!」

「ガァ……!?」

 

 

 高速の抜刀が鬼の頸を飛ばす。

 五感で感情までは分からない。ただ、鬼と判断出来るだけの血の臭いを嗅ぎとれる。あの時、鬼舞辻無残が残した臭いは血が凝縮したような臭いだった。

 

 

「……戦える」

 

 

『望月愛菜』の雷の呼吸を使える。

 鬼ごっこの経験が活かされて、相手の背後に周り頸を斬る事が出来る。今斬った神隠しの鬼とは違うが雑魚鬼程度なら頸を簡単に切り落とせる。それは鬼の筋力もあるからだろう。

 

 

「霹靂一閃……しか使えないけど」

 

 

 それでも神速で脚が駄目にならない。

 人間としては不便な身体だが、戦闘の時は便利な身体だ。

 

 

「善逸くん………」

 

 

 それを使う度に少しだけ寂しいと感じる自分がいた。

 

 

 ★★★

 

 

 日輪刀には色変わりと言うものがある。

 それは呼吸に適した色を示すもので、初めに抜いた刀の色から変わる事はない。愛菜が抜いた時、刀身は何の変化も起きなかったのだが、霹靂一閃を使った後、刀身は雷に相応しい稲妻模様を生み出していた。

 

 

「………?」

 

 

 だが、それも全集中の呼吸が終わると()()()()()()()()()。制作者である刀鍛冶は、剣士ではないので、彼らが触れても色が変わらない。愛菜は刀鍛冶の娘だが、鬼になった後は鬼殺隊のように鬼を殺して周っている。

 

 意味が分からない。

 日輪刀は色変わりをすれば()()()()()()()()()。一定の実力を持たなければ色は変わる事は無いが、色変わりが起きればそのままだ。にも関わらず、愛菜の日輪刀は()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……未熟だから……って事?」

 

 

 愛菜は剣士ではない。

 だが、鬼を斬るとき呼吸を使う際に必ず色変わりが発生する。しかし元に戻る。こんな設定は『原作』でさえなかった。

 

 考えられるのは二つ。

 一つ、鬼である自分が日輪刀を持つとこうなる。

 二つ、鍛冶の娘だが剣士をしている。剣士としてはまだ未熟だから呼吸のみしか色変わりが発生しない。

 

 それくらいしか思いつかないし、愛菜は剣士じゃない。そうなるのは剣士であろうとしても鍛冶士の記憶と経験は染み付いているからなのかもしれない。

 

 

「まあ…いいか」

 

 

 答えが分かっても戦闘で役に立つ訳じゃない。

 日輪刀に関しては考えるのを止めた。次に呼吸だ。使える呼吸は雷の呼吸で壱ノ型しか使えないが、愛菜は呼吸を使える鬼だ。それは希少だろう。

 

 鬼の身体になって肺は強くなったとは言え、全集中・常中は未だに出来ない。出来かけてはいるが、まだ出来ない。睡眠中は全集中・常中が解けてしまう。単純な話、前世は現代っ子だったのだ。この世界で呼吸を習得したのは『望月愛菜』であって■■■■ではない。前世の常識が邪魔してる感がある。無理もないが。

 

 まあこれは時間が経てば何とかなるだろう。

 要するにまだ経験値が足りないだけだ。「鬼の状態で筋力とか鍛えたら上がるのかなぁ?」と呟きながら考えるのを止めた。

 

 

「……最後、血鬼術」

 

 

 血鬼術とは鬼特有の異能。

 禰豆子は鬼の細胞を燃やす爆血と言う血鬼術を使えた。愛菜も血に関しては雑魚鬼より多い。異能が使えそうだなと言う感覚もある。

 

 愛菜の血鬼術は……

 

 

「………壁?」

 

 

 見えない壁を空間に生み出す血鬼術だった。

 試しに何回か軽く叩いてみるが、簡単に壊れない。力を入れて殴るとパリンッ!と言う音と共に消えていった。

 

 

「車の……フロントガラスくらいの……強度」

 

 

 使ってみたが、一度に最大に8枚程度。

 連続して使うと強度も落ちるが、霹靂一閃で蹴り進む程度は出来る。ある程度の血鬼術から盾のように守れそう。強度はそれ程ではないし、地味だが使い勝手は良さそうだ。地味だが。

 

 

「……行こう」

 

 

 神隠しの鬼は複数体居る。

 自分の強さを把握した所で愛菜は神隠しが起こりそうな夜の村を歩き出した。

 

 

 ★★★

 

 

 

 夜に人が必ず出歩く。

 神隠しの噂は流れているのに用心していない馬鹿は居るのかもしれないが、50人くらい減って警戒しないのはおかしい。

 

 五感を研ぎ澄まし、屋根から屋根へ飛び回りながら探す。鬼の感覚は通常の数倍、皮膚が、鼻が、耳が研ぎ澄まされていく。

 

 

「……!」

 

 

 愛菜は飛び回るのを止めて、立ち止まる。

 感じたのは甘ったるい匂いだ。食べ物のような匂いではなく、香水に近いようなそんな匂い。

 

 

「これは……花の…匂い?」

 

 

 香水や花畑の匂いに近い。

 だが、それより強烈で脳に響くようなこの甘さに吐き気さえ覚える。

 

 

「!」

 

 

 気が付けば南方の方に黒い薔薇が咲いていた。

 昼間はあんな薔薇は咲いてなかった。咲いていなかったと言う事はつまり、()()()()()()()()()()()()()()()薔薇。

 

 つまり……

 

 

「(血鬼術……!この匂いで人を無意識におびき寄せてる!)」

 

 

 薔薇に関する血鬼術が使える鬼。

 確かに考えれば不可能な話じゃない。例えるならアロマの匂いは人に癒しや安らぎを与えたりする効果があるし、藤の花には毒がある。要するに花の成分で薬にも毒にもなる。

 

 要するに鬼は匂いで誘い込んでいるのだ。

 

 

「だとしたら……鬼は餌を食う為…に必ず現れる……」

 

 

 この状況で出歩いている人間を探す。

 なるべく音を消し、匂いが強い場所を探す。神隠しが大きくなれば村の人や鬼殺隊にバレる可能性がある。だから最大で二人くらいをおびき寄せる筈だ。

 

 遠目から辺りを見渡すと、愛菜は素早く隠れた。

 

 

「……見つ…けた」

 

 

 黒髪の女の人がフラフラと夜の村を歩いている。

 バレないように気配を消しながら、家と家の間に隠れながらその女の人を追う。向かう方向を確認すると黒い薔薇畑の先には何かが居た。

 

 

「あははは、綺麗な月よね」

 

 

 この距離からじゃ夜目が効いてる愛菜でも姿しか分からない。だが、目で捉えられなくとも、鼻では理解していた。薔薇の匂いに紛れた濃密な血の臭いに顔を顰める。

 

 

「三日月に咲く薔薇畑で女はまた一人、姿を消す。嗚呼いいわぁ!今日も等しくいい日じゃない!そう思わない?」

「………」

「ああ、ごめんなさい。聞こえてないんだったわ。女は黒薔薇の畑にて鮮血を撒き散らし、黒薔薇はまた一つ。これも中々いいわねぇ。まっ、目が覚める前に食べるとしましょう」

 

 

 何やら詩を呟きながら、黒髪の女の前に立ち、両手を合わせる。間違いなく食べる気だ。それにいち早く気付いた愛菜はシィィイイイイと深く呼吸をし、体制を低くする。

 

 

「それじゃあ、いただき–––––」

 

 

 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

 愛菜の超速抜刀が鬼の頸を斬り落とす。斬り落とした瞬間、意識が無かった女は覚醒し、現状を分析しながら警戒していた。右手に隠し持っていたクナイを握り、此方を警戒している。

 

 

「(……アレ?この人どっかで……)」

「あれれ?何、アンタ鬼なのに何でソレ(日輪刀)持ってんの?」

「「っっ!?」」

 

 

 頸を斬り落とした筈の鬼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここまで近くに来たから漸く鬼の姿を正確に把握する事が出来た。

 

 その鬼の姿を見た瞬間、呼吸するだけで緊張が走る。一瞬たりとも油断が出来ない。頸が斬られたにも関わらず()()し、元に戻っていく。

 鬼は日輪刀で頸を斬り落とせば終わりな筈なのに、いきなり想定外に出会った。長い白い髪に紫色の着物、背後に咲く薔薇の花畑。それ以上に目を見開いたのはその鬼の眼だ。

 

 

「逃れ者は噂の臆病者だけって聞いてたけどなぁ」

 

 

 その鬼の左眼には『下壱』と言う文字が浮かんでいた。

 

 

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