退屈を感じ始めたのはいつの頃だったろうか。私は魔術師の家柄であるソフィアリ家の娘として生を受け、物心ついた時には自分の人生は決まったレールの上を走る列車だと知った。それ自体は別に嫌では無かった。淑女としての所作も魔術師としての基礎的な知識あるいは実践も、そつなく熟し、私は付き人や両親、周りにいる人間から誉めそやされて育てられた。誉められると私は大いに喜んだ。自身が認められていると思ったからだ。そして、私は己の才覚を活かし多くの事にチャレンジをした。何をしても上手くいった。その度にまた誉められた。嬉しさが私を包み、これからずっと周りに必要とされて生きていくのだと思っていた。
しかし、それは違った。
私には誰も注意したり怒ったり諭したりしてくれる人はいなかった。それ故、自身を変える何の転機も訪れず、外的な刺激を受けないまま成長していった。大人になるにつれて私は誉められるのが段々と鬱陶しく思うようになり、一人でいる時間が自然と増えていった。
そんなある日、毎年開催される上級魔術師によるパーティに出席するように両親から言われた。別に私は出席しようが構わなかったが、何気なく「お断りします」と言った。そう呟くと、ひどく驚かれ、次の瞬間には母が膝をつき涙を流していた。父は母の肩に手を乗せ、私の方は一切見ようとしなかった。
その時、私は気付いた。
私は私以上を期待されていない。
すぐに「申し訳ありません。お父様。お母様。つい遊び心が出てしまい、心ない言葉を申してしまいました。本当はパーティに行きたいのです」と言った。父がようやく私の方に視線を向けた。さすがに怒られるだろうと思ったが、父は「正直驚いたが、誰にでもいたずらしたい時はあるから、仕方ないさ。それより、ソラウが本当に行きたくないと思っていなくて良かったよ」と軽く窘められるだけだった。
結局両親さえも私と本気でぶつかり合う気は無かったのだ。
私は人間ではなく人形だと悟った。
そんな思いが日々感情と思考をすり減らし、いつしか私の心は空虚で満たされていた。空虚は私から喜怒哀楽を奪い、代わりに退屈を与えた。
*
ケイネスは魔術回路、筋肉、神経が細かく引き裂かれ、まるでひき肉の様だった。私は治癒魔術をかけている最中にも関わらず、ついクスッと笑ってしまった。
私の婚約者であるプライドの塊のような男がこうもみじめでボロボロな姿になるとは、何と滑稽な事でしょう。
私は自分の中にある想定外な出来事による〝刺激〟を楽しんでいた。
「ソラウ殿……申し訳ありません」
そして私を空虚な人生から救い上げてくれたディルムッド。私自身、彼の魅了の能力に掛かっている事は分かっている。だけど、ここまで心を昂らせてくれるのならば魔法でも呪いでも全て私は受容する。
「貴方が謝ることなんてないわ。ランサー。ケイネスは自ら望んだ決闘で敗れただけだもの。むしろ、これから目が覚めて貴方が助けたと知った後の方が悲惨だわ。もしかすると、あの時、死んでおけば良かったと思うくらい後悔しそうだしね」
聖杯戦争とはこんなにも私の欠落していた部分を埋めてくれるものだったのか。
「そんな事は! ……く」
自分の不甲斐なさを嘆いているのか、ランサーは唇を噛みしめる。
ああ……そうよ。その顔よ。ディルムッド! 貴方は騎士としての真っ直ぐな顔も素晴らしいわ。でもそれ以上に悔恨と葛藤が混じり合うその苦しみの顔こそ私にはとても愛おしい。まさに〝人間として生きている顔〟なのだから!
「それはそうと、ランサー。分かっているとは思うけど、治療が終わってもケイネスはもはや戦うどころか、生きていくのにさえ精一杯な身体になるわ。そうなれば、敵陣営はこぞって弱り切った私達に襲いかかって来るでしょう。いくら貴方が強くても私達魔術師のサポートがなければ、その力は半減してしまう。だから……」
「ソラウ殿」
ランサーが私の言葉を遮る。
「おっしゃりたい事は分かります。しかし、我が主はケイネス殿ただ一人。たとえ我が身がどうなろうと、それは変わりません」
何という忠誠心の高さであろう。先にケイネスが契約してしまったのが悔やまれてならない。
「分かったわ。……さあ。もうすぐでその主様がお目覚めよ。ちょっと二人で話したい事があるから、周囲の警戒をお願いしてもよろしいかしら」
治癒魔術は終了した。あと五分も経たない内にケイネスは目を覚ますだろう。
「了解しました。くれぐれもこの場所から動かないように」
「ええ。もちろんよ」
ランサーは霊体化して、この場から去った。
さあ……お楽しみの時間はこれからね。
私はランサーと繋がっていたい。たとえどんな手をつかってでも。
続
Fate/zeroはアニメしか見ていないので、ソラウの性格は私の勝手な解釈です。スミマセン……。