Never again   作:でぴょん

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 今回はケイネス視点です。


第4話 呪縛

 ソラウに令呪を渡した。という事は、もはや私はランサーのマスターでもなくなり、聖杯戦争から脱落した、ただの落ちぶれた魔術師となったのだ。私の心に動揺が無かった訳では無いが、それでも『残された時間』がないため行動しなければならない。

 頭の中で自己の行動をシミュレートしていると、私が仰向けに拘束されているストレッチャーの横で光の粒子が集まる。私は聖杯戦争中にこの魔力の収斂を何度も見た事があった。魔術回路がボロボロになっていてもこの光景が未だ目に見えるという事は回路の根本部分はまだ無事だったというわけか。

「ケイネス殿……お待たせ致しました」

 膝をつき、頭をたれながら、ランサー――ディルムッド・オディナが現界した。

「ランサー……」

 私は小さく呟く。

「ケイネス殿。貴殿がそのような御身体になってしまったのは全てこの不肖ディルムッドが招いた責。どのような処罰でも甘んじて受けましょう」

 マスターとサーヴァントという主従関係は無くなったというのに、ランサーの口調に変化はない。

「よせ、ランサー。もう私はお前のマスターではないのだ」

「それでも我が主に変わりはありません。例えその手に刻印されし令呪が無かろうが、最初に忠誠を誓った方を裏切るなどという行為は、私はもうしたくないのです」

 ランサーの言葉は力強く、それでいて一定の敬意がこもっている。

「何故だ」

 私がふいに疑問の声を発すると、ランサーの身体がピクリと揺れる。私は気にせず言葉を紡いだ。

「まがいなりにも貴様は聖杯に招かれた英霊だ。以前にも同じ問いをしたと思うが、貴様が聖杯に望む願いは何だ?」

「我が主よ。私の答えは契約を交わした時から何ら変わりませぬ」

「聖杯はいらないと言うのか」

 私は笑う。聖杯に託す願いもなしに、聖杯戦争に身を落とすなど馬鹿も良い所だ。私は令呪を失った右手を掲げる。

「ディルムッド。これを見よ」

「は……?」

「私は貴様が心の内に秘めた野望を聖杯に託そうが、私にはもはや止める手立てはない」

「野心などはありませぬ! 私はただ……」

 ディルムッドの言葉を私は右手で制す。

「ところでフィオナ騎士団のディルムッドよ。生前、お前はグラニアとかいう女性と恋人関係にあったと聞いているが、本気で愛していたのか?」

「ケイネス殿!」

 ランサーは勢いよく立ち上がる。私は横目でランサーを睨みながら口を閉ざす。

 ランサーは唇を噛みしめながら、いつもの涼しげな顔が鬼のような表情へと変わり、奇しくも私を見下ろすような体勢となる。

「ケイネス殿。……私の過去への詮索はお止めいただきたい」

 声を震わせながら、ランサーは話す。私はその憤慨したランサーを見てため息を吐く。

「今の私を殺すなど容易だぞ。ランサー」

 私はストレッチャーに仰向け状態のまま両手を広げる。

「そんな事は致しませぬ。我が主よ。どうして分かって下さらぬのです! 私の忠義を!」

 ランサーは眉をひそめて大層悔しそうな顔で、私の顔を見る。

「自惚れるな!」

「主よ!」

「貴様が求める主君とは何だ。その騎士道精神とやらを重んじてくれる都合の良い主君か! 甘ったれるな! 仮にも戦争という名の付いた戦いにおいて、正々堂々などという雑念は敵方に隙を与える弱点にしかならないのだ! 過去には過去の戦い方があったのであろう。しかし、残念ながら今は現代なのだ。貴様が真に主君に勝利を齎したいのであれば、時代に伴った戦いをするのが戦士としての役割ではないのか!」

「現代の戦い……卑怯者と罵られてまで私は勝利を得たくありません! ですが私は騎士道に準じてでも主を勝利に導く事が……」

「何度も言わせるな! ……ああ、すまない。もう、私は君のマスターではなかったな」

 カッとなった頭を冷やすため、一つ大きく息を吐く。

「我が主よ……」

「ランサー。私は……いや、『我々』はもうすぐ死ぬのだ」

「な、何をおっしゃいます!」

 ランサーは目を丸くする。

「お前の宝具ゲイボウとか言ったか。セイバーの左手に癒えない傷を与えたな」

「はい。セイバー陣営にはかなりの痛手かと。……それよりも、先の言葉の意味は一体何なのです!」

 ランサーの問いには答えず、私は勝手に話を続ける。

「あと数日も経たない内にキャスターが生み出す巨大な海魔が海に現れる。そうなればお前は自身のゲイボウを壊し、セイバーの左手を自由にしてやれ。セイバーの対城宝具で無ければ再生を繰り返す巨大な海魔は倒せんからな。それと……」

 ランサーがごちゃごちゃと喋っているが、もう私の耳には入って来ない。

「ソラウを頼む。過去に捕らわれず、今に目を向け、あの不幸な娘に少しの間だけでも夢を見させてやってくれ」

 それだけ言って、私は再び目を瞑った。

 

 続

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