この戦闘狂に闘争を 作:カロンロカロン
――――――――――喧嘩が好きだ。肉を打つ拳に、閃くナイフ。ルール無用で血を流す事に生きてる実感を覚えるから。
*
「ヒャハハハハッ!楽しいなぁ、オイ!楽しいじゃねぇかよ、オイ!」
赤毛まじりの長髪を翻して、
彼の両手の拳は血まみれだった。そして、暴れまわる彼の周りでは不良やチンピラなどガラの悪い男たちが何人も倒れており、皆が一様に気絶もしくは苦悶の表情で蹲っている。
【血塗れ久崎】それが彼の通り名であり、一帯の喧嘩自慢その他諸々、腕っぷし自慢達が日夜襲い掛かるようなそんな少年だった。
生粋の戦闘狂。喧嘩狂い。
何よりおかしいのが、
「ぶっ!?…………ハッハーッ!良いじゃねぇか!もっと来やがれ!」
一方的に粉砕するのではなく程よく反撃を貰えば貰うほどにギアが上がっていく点。
殴打でも、何ならナイフなどで斬られたり、刺されたり、最悪車に撥ねられたとしても彼は狂った笑みを浮かべて反撃に次ぐ、反撃。血塗れの異名は何も返り血だけが原因ではなかった。
「ソラァッ!…………あん?終わっちまったか?」
最後の一人が、彼の拳の餌食となった。
合計で三百七十四人。それが今回彼の襲撃で襲い掛かってきたチンピラの数であり、今のところ過去最高を記録していた。
そんな集団に一人で戦っていればどうなるか。
「あー…………イテェ」
角材で殴られた頭からは血が流れ、殴られた頬は腫れている。口内に溜まった血を吐けば、折れた歯が地面に転がった。
何より左わき腹。不意打ちで刺され、抑えた左手の隙間からは未だに血が溢れている。
傷だらけだ。寧ろ、現在進行形で死んでいないのが不思議なほどの傷を負いながら、彼はいまだに息をしていた。
だがしかし、今日この日。彼の悪運は尽きる事になる。
何かが破裂したような乾いた音が響く。
「あっ―――――?」
何が起きたのか。それを理解する間もなく、アタルの視界は暗転し、その体は後ろ向きに仰向けで倒れていた。
角材で殴られたのとは違う、額に空いた一つの風穴。血が流れ、空洞を晒すこれこそがその答えである。
久崎アタル、享年十五歳。油断したところを脳天を撃ち抜かれ、死亡。
*
「―――――以上が、貴方の最期よ。十五歳で随分と殺伐とした人生送りすぎじゃないかしら?」
「はぁ…………何てこった」
今まさに、自分が死んだ原因を聞くことになったアタルは、ため息をついて目元を手で覆い天井を仰いだ。
赤みがかった茶髪に、黒いツナギ灰色のTシャツという格好の彼は、死んだときと同じ格好。違うとすれば、その体には一切の傷が無い点だろう。
脳天を撃ち抜かれ、暗転した彼の意識が復活して、最初に見たのは水色の髪をした女性と、執務室のような部屋だった。
アクアと名乗った彼女曰く、ここは死んだ人間が来る場所であり、まずは死因を伝えるところから始まるのだとか。
ただ、アタルが頭を抱えているのは何も死んだからではない。
「喧嘩、してぇなぁ…………」
死んでしまったことにより、喧嘩ができなくなったこと。それだけが、彼の心残りなのだ。
好きだから喧嘩を買う。好きだから喧嘩を売る。
その結果の果てに後悔しないだろう、と勝手に彼は思っていたのだが、死んでみて初めて気が付く欲求不満の数々。
何より強いのが戦闘欲求だった。
自然、腰かけて天井を仰ぐ彼の右足はガタガタと貧乏ゆすりを始めていた。
目の前で行儀の悪いことをするアタルに対して、アクアは目を細めるとある選択肢を切り出してくる。
「ねえ、貴方。異世界転生、してみる気は無い?」
「あぁ?んだ、ソレ」
「本当なら、輪廻転生させて同じ世界に生まれなおさせるか、もしくは天国に行くんだけど…………貴方の魂って歪すぎるのよ。少なくとも、記憶処理しても同じ事になりかねないわ」
「人を欠陥品みたいに言いやがるな、オイ。何なら、お前が相手してくれるか?カミサマ、よぉ?」
「するわけないでしょ。私は、水の女神だもの。戦うなんて野蛮なことしないわ!話戻すわね。貴方を異世界に送り込むの。その世界は、今まさに魔王の侵略を受けて日夜戦いの毎日なのよね」
「で、そこで戦えってのか?」
「勿論、タダじゃないわよ?ただの人間が魔王倒せるわけないもの。送り込む転生者には、特典をあげてるの」
「特典だぁ……?」
「何よ。普通そこは喜ぶところじゃないの?」
「こちとら、その手の知識はねぇんだよ。興味もねぇし。勝手にそっちで選んでくれや」
喧嘩が大好きなアタルだが、だからこそその他方面に関しては残念極まりないものばかりだった。
天才的な戦闘センスを持ちながらも、その頭脳はお粗末な脳筋極振り。ついでに、ろくに学校にも行かず喧嘩三昧な毎日を送っており、食費などは全て賞金()で賄っていた。
生まれた時代が時代ならば、重用されたであろう人種が彼なのだ。
その知識の無さは、二次元などに関するモノも含まれている。神話や伝承などもってのほか。
では、身体能力のバフなどを求めればいいのかもしれないが、ソレに関しても知識がない。
彼にとっての喧嘩は、感覚的なものだが驚異的なバランスの上に成り立っている。それこそ、単に力が強いだとか、技が鋭いだとかではなく、自身の技量を逸脱しない範囲で高水準を保つのが良いのだと、そう考える。
思ったよりも無欲だったアタルに、アクアは頭を悩ませた。
てっきり、力寄越せコノヤロー!位は言われると思っていたのだ。それほどまでに、アタルの人生経歴は頭が悪い。
かといって、このまま送り込めば間違いなく身の丈に合わない戦闘に首を突っ込んで死ぬことになるだろう。それでは、面白くない。
「うーん…………あ」
「あ?」
「これなんてどうかしら?」
言って、アクアが差し出すのは一振りの日本刀だった。
長さは太刀。柄、鞘には隙間なく晒しが巻かれており、鍔は鍔としての機能を果たしそうにない武骨な塊。
受け取ったアタルは、首を傾げる。
「何だこれ」
「それが、貴方の特典よ。魂と結びつかせてるから、無くすことも無いはずよ」
「いや、刀なんぞ振った事無いって話なんだが?折れるだけだろ」
「心配しなくても、それは折れないわよ。何やっても絶対に折れないもの。折れても直るし」
「はあ?刀が勝手に戻るもんかよ」
「それは戻んのよ。ほら、それじゃあ、送り出すわ」
「あ、おい―――――」
言う前に、アタルの足元より光が溢れる。
そして、彼の姿は部屋より掻き消えるのだった。