この戦闘狂に闘争を   作:カロンロカロン

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 この世界の冒険者という職業には、更に職業が存在する。

 それは一種の、方針ともいえるもので、剣士ならば剣を。魔法使いならば魔法を、それぞれ選択していくことになる。

 

「“狂戦士”ねぇ…………」

 

 右手の人差し指と中指で挟んだカードを眺め、アタルは目を細め道を行く。

 冒険者カードの手続きは滞りなく終わった。今は、仕事という形で受けた討伐依頼を熟すべく目的地へと向けて足を向けている所。

 防具の類は何も着けていない。それどころか、変わったとすれば血まみれになったTシャツをこの街で買ったシャツへと変えた程度。ツナギはそのままであるし、スニーカーも履き替えていない。

 長く伸びた赤みがかった茶髪もそのまま伸ばしっぱなしで、せめて結べとダストたちにも言われていたのだが面倒くさがってそのままになっていた。

 

 閑話休題

 

 彼の冒険者としての職業は、狂戦士。本来ならば、ソードマンなどが最初に来るはずの職業候補の中で真っ先にこれが上がってくるあたり、彼の性根を表しているというもの。

 因みに初期ステータスは、魔力以外の値は平均より少し高めで中でも筋力値が頭一つ抜けているというものだった。

 連れの居ないアタルの仕事。一応、テイラーにはパーティに仮にでも所属しないかと勧誘を受けていたのだが、それは断っていた。

 街を抜け、歩くこと数時間。彼の姿は、鬱蒼とした森の前にあった。

 今回の彼の討伐対象は、一撃熊。人間程度ならば、一振りで絶命させるほどに前足が発達した巨大なクマである。

 本来なら、初級冒険者が受ける仕事ではない。ないのだが、彼には単騎による初心者殺しの討伐という功績があった。

 何より、冒険者という職業は自己責任。死んでしまったとしてもそれは、当人の実力不足や運の無さによる結果であるという割とドライな面があるのだ。

 そもそも、アタルにしてみれば死のうが生きようが最終的に、戦えればそれでいい。

 初心者殺しとの一戦から、彼はある種の魅力に取りつかれた。いや、ある意味漸く実感したというべきか。

 自分よりも圧倒的に強いであろう存在に生身で挑み、尚且つ乗り越える。脳内麻薬が迸るというものだ。

 

「ヒャハハハハ…………楽しみだ。ああ、ああ、凄く、凄く、愉しみだ」

 

 鯉口を切り、彼は森の中へとその一歩を踏み出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ最近、アクセルではとある冒険者が話題に上がる事が多くなっていた。

 武装は一振りの剣のみで、防具は一切つけることなく徒党も組まない。ソロばかりで、尚且つ討伐の仕事ばかりを受け続ける変わり者。

 実力はピカ一で、噂を流している者たちの中には、結果的に彼に助けられた者も少なくは無かった。

 

「よっ、アタル。最近羽振りがいいらしいじゃねぇか」

「あー?んだよ、ダストか。酒なら、奢らねぇぞ」

「はあ!?良いだろ、クリムゾンビアの大ジョッキ一杯ぐらいよー!」

「うるせぇ、絡むな…………チッ、だいたいテメーの連れはどうしたよ」

「テイラーとキースは、買い出し。リーンは装備の新調に行っちまって暇なんだよ。なー、良いだろ?聞いたぜ?この頃一撃熊を倒して金が入ったって」

「チッ…………」

 

 酔っ払いが面倒なのは、どの世界でも同じであるらしい。

 アタルは目を逸らして舌打ちを零し、絡んでくるダストを完全に無視の体勢に入っていた。

 別に、彼に稼いだ金品の特別な使い道があるわけではない。防具は買わないし、武器に関しても特典としてもらった刀が一振りあれば事足りているのだから。

 だが、この手のタイプは一度奢ってしまうと味を占めるタイプなのだ。ソースは、アタル自身の経験から。

 揺すられながら水を口に含み、山盛りの唐揚げへと手を伸ばす。

 一応このギルド併設の酒場で一年以上飲み食いしてもまだまだ余裕がある程度には稼いでいるアタルなのだが、彼は存外チープで尚且つジャンクな料理を好む。

 この、ジャイアント・トードの唐揚げも彼の好みにベストマッチしておりここで食べる時には毎度の様に大皿にこれでもかと盛らせていた。

 そんな唐揚げの山を箸やフォークではなく手でつまむのがアタルの好み。一つ摘まんでは口の中へと放り込んでいく。

 

「…………んぐ?」

 

 山を半分ほど消費したところで、アタルはある視線に気が付いた。因みにダストは酔いつぶれて机に突っ伏している。

 顔を上げて少し見渡せば、立ち尽くしている少女にを見つけた。

 黒髪に紅い瞳。片眼の眼帯に、黒いとんがり帽子を被った杖を携えた少女だ。

 彼女が見つめるのはアタル―――――ではなく、彼の食べる唐揚げの盛られた大皿。心なしかその口の端には涎が見えるような気がする。

 

「…………」

「ああ…………」

「…………」

「あぁ…………!」

「…………」

「うぅ…………」

 

 食べ難い。一口唐揚げを頬張る度に少女は、この世の終わりの様な表情を浮かべるのだから。

 アタルは戦闘狂だ。喧嘩大好きであるし、その結果不良呼ばわりもされてきた。

 だが、決して不条理な暴力を振るう人間ではないし、何ならスイッチが入っていなければ存外のんびりボンヤリしているのが彼だった。

 

「…………おい」

「!は、はひっ!?」

「そこで突っ立てんなよ。こっち来い」

「い、良いんですか?」

「みられて食べる趣味はねぇんだよ」

 

 ついでに、腹の減った人間の目の前で物を食べるような悪趣味も無い。

 声をかけられるとは思っていなかったのか、少女の肩が跳ねる。どこか、挙動不審な雰囲気を出しながら彼女は空いていたアタルの対面の席へと腰を下ろす。

 そこに投げ与えられたのはメニュー表。

 

「好きなの選べ。支払いは気にすんな」

「あ、ありがとうございます!」

「えぇ~~~~!何だよぉ!俺には奢ってくれねぇくせによぉ!」

「うっせぇ。腹空かせたガキは苦手なんだよ」

 

 急に起きたダストを流し、アタルはテーブルに肘をつくとそっぽを向く。

 割と失礼なことを言っているのだが、件の少女は瞳を輝かせてメニューに釘付け。気づいた様子は無かった。

 そうして、幾つかの料理を注文し運んでくるまでの小休止。少女の方から、救いの神へと口火を切る。

 

「あの、頼んでおいてあれですが本当に良かったんですか?」

「あー?ガキが心配してんなよ。黙って奢られとけ」

「むっ……さっきからガキガキと呼びますけど、私にもちゃんと名前があるんですが!」

「そうかよ」

 

 そっけない態度だ。

 奢られる立場とはいえ、そこまでくればカチンとくる。

 少女は椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、少し広い場所まで離れると大きくマントを翻した。

 

「我が名はめぐみ―――――」

「こちら、ご注文のブリッツバイソンのステーキと、付け合わせのサラダ、パンになります」

 

 絶妙なタイミングで割り込んでくる店員と料理。

 店員のメンタルに脱帽するべきか、それとも少女のタイミングの悪さを憐れめばいいのか。

 

「…………とりあえず、食えよ。冷めるぞ」

「はい…………」

 

 失敗をつつく程、アタルは鬼では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事の一幕を終えて、食後の一休み。

 

「で?食うにも困ってるお前は、アークウィザードだと?」

「その通りです。我々、紅魔族は潤沢な魔力によってアークウィザードになる事を約束された種族ですからね」

「魔法ねぇ…………」

 

 アタルは、死んだ目で目の前の少女を見た。

 彼女、めぐみん(本名)は魔法使いであると名乗った。とある理由でひもじい思いをしていたが強力な魔法も使えると自己申告済み。

 問題は、彼が魔法などに関して興味が一欠けらも無い点か。

 別段魔法を見下しているとか、近接武器至上主義の様な思想を持っているわけでもない。

 単に、馴染みがないせいだ。便利なのは、何度か見たこともあって理解しているが、かといって自分が使いたいとは思えないそんな代物。

 対するめぐみんはというと、目の前にいる少年がまさか今街で噂の狂戦士とは思ってもみなかった為に、内心では焦っていたりする。

 かっこいいものが好きな彼女だが、それと同じくリスクリターンの計算に関しての頭の回転も速かった。

 正直なところ、強力な冒険者とパーティを組むのはメリット、デメリットが存在する。

 メリットはレベル上げが容易になり、挑める相手が強力になれば報酬もまた巨額となる点。

 デメリットは、身の丈以上の相手に挑まねばならなくなる場合。ジャイアントキリングなど早々出来るものでもないし、仲間におんぶにだっこならば自分の身も危ない。

 めぐみんは、己の非力さを理解していた。魔法に関しても、気にはしているが改める気は無い。

 年の割に聡明な彼女の頭脳は、計算し、やがて出した答えは、

 

「それはそうと、アタル。貴方は、パーティは組まないんですか?」

「あ?」

 

 直球だった

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