この戦闘狂に闘争を 作:カロンロカロン
ゲームなどもそうだが、基本的に前衛、中衛、後衛の三つをバランスよく組み上げる事が生存の秘訣ともいえる。
勿論、全員が全員そうではない。
前衛の攻撃力高めて接敵殲滅を主にしたり、後衛を強化して遠距離から安全に打倒したり、はたまた後衛を回復役にゾンビ戦法をとったり。
「―――――“エクスプロージョン”ッ!!!!」
「ほお」
爆ぜる目の前の光景を見ながら、アタルは感嘆の声を漏らしていた。
今回来ているのは、アクセルの外。ジャイアント・トードと呼ばれる巨大なカエルの討伐であった。
本来ならば、アタルの食指が反応するような相手ではないのだが、今回は戦う事が目的ではなく自分へと売り込んだ少女の力量把握の為なのだ。
破壊力はすさまじい、攻撃範囲も。少なくとも、アタルでは先ず真似できない爆発と広範囲攻撃を目の当たりにして関心の気持ちを持っていた。
彼は戦う事が好きだ。好きすぎて死んだのだから、当然だがだからと言って自分がこの世の何者よりも強いなど自惚れていない。そして、強い相手を強いと認め、受け入れ、その上で乗り越えようとするところがある。
魔法の強さをその目で見て、その上で敵対したならばどうするかを考える。
その表情は、好戦的な笑みを自然とかたどっていく。
ただ、補足をすると少なくとも
「あ、あの、アタル……できれば早く助けてくださいぃ!」
情けない声で助けを求める彼女は、うつぶせに倒れていた。
めぐみんの放った魔法、爆裂魔法は人類の放つ攻撃手段の中でも最強の一角。当然、何の代償も無く放てるはずも無く、発動すれば尋常ではない魔力を一瞬で搾り取られることになる。
今の彼女の場合、一発撃てばそれで終わり。後は、立つことどころか、身動ぎの一つも出来ずにぶっ倒れる事になるのだ。
これが、彼女が上級職であるアークウィザードでありながら、引く手が欠片も無い理由。一発限りの超威力であるが、その後は動けない彼女のフォローが必要になるため。
いわば、残骸の残る爆弾の様なもの。しかも、その残骸を死守せねばならないのだから使いどころに困る。
今も、爆裂魔法の音に反応したカエルの残党たちが地面から現れ、その内一体がめぐみんへと襲い掛かろうとしていた。
とはいえ、食われる心配は無用だ。
「おお…………」
その光景を見ためぐみんは、感嘆の声を思わず漏らす。
一太刀だ。たった一太刀で、アタルはカエルを切り伏せてしまったのだ。それも片手で。
今の彼にしてみれば、魔物の中でも弱小に入るカエル如き、障害にならない。それこそ、豆腐でも斬るのと何ら変わらずに一刀両断できる。
文字通り、瞬殺だ。五体のカエルなど物の数ではないと言わんばかりに斬り伏せて、刀身についた血の理を振り払って鞘へと納める。
「面白いじゃねぇか、おい。お前、あの魔法連発できんのか?」
「うっ…………い、今はできません…………でも!いつかは必ず連射してみせます!」
「…………そうか」
うつぶせに倒れながらの宣言には、大した凄みも無いのだがアタルは突っ込まなかった。
ともかく、と彼は徐に手を伸ばしめぐみんの背中、マントとその下の服を掴み、持ち上げる。
そして文句を言われる前にさっさと自分の肩へと俵でも乗せるようにして担ぎ上げてしまった。
「…………この運び方は、遺憾なのですが。せめて、おんぶに―――――」
「めんどくせぇ」
肩からの不満を無視して、アタルは街への帰路へと足を向ける。
今の彼は機嫌が良い。それこそ、今日は戦いに無駄な横槍を入れられようとも、パンチ一発で済ませてやる程度には。
鼻唄を歌いそうなほどに、軽い足取り。その後、アクセルでは噂の狂戦士が上機嫌であった特別な日と語り継がれる。ついでに、肩に年端も行かない少女を担いでいた事からあらぬ噂も経つのだが、全くの余談である。
*
めぐみんから見て、アタルという少年は戦闘狂と言う外ない。だが、決して狂っているわけではなく、戦いの場でなければ理知的で冗談も通じるような柔軟さを持っている事も、知っていた。
もっとも、
「ヒャハハハハッ!掛かってこいやァ!」
戦いの場では理性の欠片も感じられないのだが。
岩場に隠れる彼女が見る先、そこでは今まさに死闘と呼ぶほかない戦いが繰り広げられていた。
抜き身の刀を右手に、頭から血を流し狂った笑みを浮かべるアタルと、そんな彼の攻勢を受けてなお貫録を失わない緑の鱗に覆われたワイバーン。
今回の依頼は、岩山に現れたワイバーンの調査、斥候。
通常、ドラゴンに分類されるモンスターの類はソロで狩れるような存在ではない。それこそ、王都の騎士団や高レベルの冒険者パーティに委託されることが殆ど。
アタルも一応駆け出しなのだが、その戦闘能力は相当。故に今回、御鉢が回ってきたのだが案の定と言うべきか彼は見るだけにとどまらず、ワイバーンへと襲い掛かってしまった。
依頼についてきためぐみんならば、爆裂魔法により消し飛ばせるかもしれない。問題は、それが当たるかどうかという点。
魔法は発動した時点で魔力を食う。それこそ、
大事な一発だ。何より、
「ヒャハハハハッ!!!!」
アタルは手傷を負いながらもたった一人でワイバーン相手に善戦している。
尻尾を横宙返りで躱し、前足として振るわれる翼をダッキング。そのまま懐へと突っ込んで、跳び上がるようにして腹部の白い鱗を切り裂く。
恐るべき切れ味を誇る刀と、硬い肉質を苦にしない腕力の合わせ技だ。
勿論、ワイバーンも斬られるばかりではない。
咆哮を上げ、鞭の様な尾を振るい、岩盤を粉砕するパワーで前足を叩きつけ、業火のブレスを吐き散らす。
どれもが、一撃必殺だ。それも、ろくな防具も、防御魔法も使えないアタルならば、ミンチよりも酷い有様になる事は明らか。
だが、その当人は知った事かと前へと突っ込んでいく。紙一重で、時折体の一部に攻撃を掠らせながら、前へ、前へ、前へ。
恐ろしいのが相手の攻勢が激しくなればなるほど、彼の動きは洗練され荒々しくも、どこか舞い踊るような流麗さを持ち始めている点か。
今も、ワイバーンの噛みつきを前方宙返りで躱し、そのまま回転しながらその体を切り裂き首筋から尻尾へと背中の上を転がっていくではないか。
勢いのまま地面の上に立ち、そのまま滑った所で反転しアタルは再びワイバーンへと襲い掛かった。
彼は、この戦闘の中で体の内側から湧き上がってくるナニかを感じている。
それが何なのか分からないのだが、ナニかの勢いが増せば増すほどに体が軽く、そしてその手に持った刀はカタカタと歓喜に打ち震えるのだ。
もっと速く、もっと強く、もっと鋭く。もっともっと、と心が急かす。
「ヒャーッハハハハハッ!」
全ての攻撃を避け切って上をとったアタル。甲高い笑い声を上げて、掲げた右腕を落下に合わせて力任せに振り下ろした。
如何に切れ味のいい刀でも、ワイバーンの甲殻を完全には切り裂くに至らなかった今までとは二段階はレベルの違う一撃だった。
まるで水に通すようにして、その刃は一切の抵抗も無くワイバーンの首筋へと食い込み、そのまま筋肉、神経、骨を一太刀の元に切断。その頭部が胴体と泣き別れる。
更にその斬撃はワイバーンを斬るだけではとどまらず、着地した岩盤にも深い深い切り傷を刻み込むほどの破壊力。
ドラゴン系列のモンスターには、首を切断されても再生させるものが居るのだが、生憎とこのワイバーンは違ったらしい。一度体を痙攣させて、崩れ落ちる。
「ヒャハハハハ…………ッ、ハァ…………!ああ、面白かったぜ………」
ランナーズハイ、ならぬファイターズハイとでも言うべきか。出まくったアドレナリンで誤魔化していた疲労が一気に襲い掛かってきたのか、アタルの体が大きく揺らいだ。
咄嗟に刀を杖にして、倒れる事は防いだがあと少し気を抜いていれば彼は岩盤に顔面からダイブしていた事だろう。
荒く息を吐きながら、アタルは自身の元へと駆けてくる連れへと片手を上げる。
彼は気づかない。何を切っても欠ける事の無かった刃に、僅かな綻びが生まれ始めている事を。そしてそれは、
彼はまだ、知る由も無かった。