この戦闘狂に闘争を   作:カロンロカロン

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「里に居た時以来ですよ。ここまでガンガンレベルが上がってるの」

「あ?別に悪いことじゃねぇだろ?」

「そうですけど……」

 

 ここ最近の贅沢な悩みに、めぐみんは一つため息をついた。

 明らかに適正以上の強敵を相手にする事が増えたことがその理由。それもこれも、止まる事を知らないアタルの戦闘欲求によるものだった。

 彼はあくまでも戦う事を求めるだけであり、対象を殲滅、殺傷することに悦を見出しているわけではない。あくまでも強敵との戦闘、その為に彼は冒険者になったし、クエストも受注している。

 お陰様で同行し、ラストアタックを得る事の多いめぐみんのレベルもガンガン上がる。問題なのは、レベルに沿った戦闘経験が皆無である点。

 彼女の魔法は爆裂魔法のみの一発屋。駆け引きもクソも無いし、何なら他の後衛職と比べても接近戦はクソ雑魚ナメクジである。

 杖術の一つも出来れば、少しはマシなのかもしれないがそれでもやはり焼け石に水であることは言うまでもない。

 釈然としないのは、彼女が爆裂魔法に求めたあの破壊力がいかんなく発揮されていると思えない相手にばかりぶっ放していたからだろうか。

 アタルには、彼女の悩みが分らない。彼はここ最近、満ち足りていたからだ。

 人間同士では到底到達できない自然との闘い。紙一重で死ぬかもしれないスリルに彼は憑りつかれていた。

 

「…………まあ、良いです。アタル、今日は何をするんです?」

「何、ねぇ…………アレは、面白かったな。ワイバーンだったか、強くて硬い奴。斬り応えがあった」

「私は生きた心地がしませんでしたよ。本来ならドラゴン系のモンスターは、軍が一個師団率いたり、勇者候補の中でも上澄みのような人たちが相手するんですから」

「ハッ、知った事じゃねぇな。俺は戦いたいから、戦う。勝つとか、負けるとか興味ねぇんだよ」

「そのせいで、ギルドの人に少し睨まれてましたよね?あんまり勝手し過ぎると仕事回してもらえなくなりますよ?」

「その時は、その時だ。仕事関係なく、ぶった切れば良い」

「脳筋の思考停止なんて救いがありませんよ…………」

 

 ため息を吐く、めぐみん。やはり、組織に属している手前、一定の自由を保障されるためには最低限度のルールを順守せねばならない。

 先のワイバーンの一件も、本来アタルの役割は情報収集だった。だが、戦闘欲求が抑えきれずに結果、討伐。

 討伐対象ならば倒して良いだろう、と思われそうだがそうは問屋が卸さないのだ。

 まず、討伐の為に討伐隊が組織される。この際に、装備の費用やポーションなどの道具類の費用が嵩む。そして、隊に集められる冒険者などの人件費なども嵩む。

 それら全てを、討伐報酬などから加味して組み上げていくのだが、アタルが先に討伐してしまって徒労に終わってしまったのだ。

 無論、ギルドの側としても力量などを考えての配置だった。単に彼の爆発力を見誤った、それだけの事。

 リスクリターンの計算が早いめぐみんとしては余計に目をつけられるのは困る。ただでさえ、街の近くで爆裂魔法をぶっ放して衛兵のオジサンに怒られた回数が結構な数に上っているのだから。

 とはいえ、それでも離れないのはアタルの在り方が、紅魔族的にもジャストミートしているからだろう。

 刀一本で、自分の負傷も顧みることなくその上で勝利する。戦い方も血生臭いがかなり派手だ。

 ついでに一発屋であっても見捨てない彼のスタンスが、ちょうど良いというのもある。今まで一度だって彼女は、アタルに捨て置かれたことが無いのだから。

 

「……ん?アタル」

「あん?」

「これ見てください」

「んだよ…………パーティの募集じゃねぇか。珍しくねぇだろ、そこら辺に貼ってあらぁ」

「いえ、そこではなく。募集要項の所です。コレ、上級職限定の募集なんですよ」

「はあ?この街、そこまでの奴ら居ねぇだろ。とっくに、別のパーティを組んでるか先に進んでるんじゃねぇのか」

「基本はそうですね。ですが、態々こんな制限を設けるという事はそれだけの実力者なのかもしれません」

「いや、馬鹿なだけだろ」

「分からないじゃないですか!とにかく、行ってみましょう!」

「おう、行ってこいよ」

「はい、いってきま……じゃなくて!どうしてアタルは、クエストの方に行ってるんですか!ねえ、ほら、行きましょう?300エリス上げますから!」

「要らねぇ、んなはした金。第一、俺は上級職じゃねぇぞ」

「大丈夫です。アタルは、私のパーティですし、実力も保証すれば問題ありません」

「いや問題しか―――――」

「さっ、行きましょう!」

 

 乗り気ではないアタルの手を引いて、めぐみんはパーティ募集の紙に書かれていた席へと向かう。

 

 二人はまだ知らない。この後の出会いが後々にまで尾を引く程に長いものになるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ねぇな」

「来ないわねぇ」

 

 緑のジャージを着た少年と、水色の髪をした女性の二人は並んでテーブルに着くと、何度目かの溜め息をついていた。

 

「なあ、やっぱり募集の基準下げた方が良いんじゃないか?」

「うぅ……!だ、だって、速く進まないと私がいつまで経っても帰れないじゃない!それに私はアークプリーストなのよ?だったら、媚び諂って仲間になってくださいって言う冒険者だってきっと居るわ!」

「いや、だからって上級職オンリーは無理だろ。だいたい、ここって始まりの街なんだろ?んなとこに、ポンポン上級職なんか居るのか?」

「居るわ!だって、居ないと私が困るもの!」

 

 胸を張る彼女に対して、少年、佐藤和真は遠い目をする。

 隣のアホ丸出しの女性の名は、アクア。カズマをこの世界に送り出した女神であり、彼が持ち込んだ特典でもあった。

 その原因は色々あったのだが、今のカズマの心境とすれば後悔一択。あの時の俺の馬鹿野郎と殴り飛ばしたいと思う程度には後悔していた。タイムマシンがあれば、間違いなく戻っている。

 だが、特典は隣の女神で消費してしまった。冒険者となったが、運以外は平均値過ぎて最下級の冒険者にしかなれず、特別な力があったわけでもない。

 少し前に、ジャイアント・トードの討伐にも向かったが、割に合わない事と、戦力が大きく不足している事を目の当たりにして、今に至る。

 因みに今回の失敗は、彼がアクアへとパーティの募集を任せてしまった点。彼は頭がよく、悪知恵も働くというのに詰めが甘い。

 とにかく、この場をどうにかしようとカズマは席を立って、

 

「すみません、冒険者の募集を見てきたのですが」

 

 横合いからの幼さの残る声でその動きは止められた。

 声の方を見れば、そこに居たのは赤い装束に黒いとんがり帽子を被った眼帯をつけ杖を携えた少女と、彼女の連れなのか、黒いツナギに灰色のTシャツを着た少年がそこに居た。

 カズマは少年を見て、目を見開く。何せ、明らかな()()であろう恰好であったから。もっとも、相手は特に驚く様子も無く欠伸を噛み殺していたが。

 

「ここで合っていますか?」

「え?あ、ああ、確かにパーティの募集はしてたけど…………」

「そうですか。でしたら―――――」

「ああーーーッ!あなたは!」

 

 話を進めようとした少女の言葉を遮ったのは、アクア。

 彼女は勢いよく、それこそ椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると少女には目もくれず完全に外野となっていたツナギ姿の少年へと詰め寄っていた。

 

「見つけたわ!ついに見つけたの!天の助けね、私への助けよ!当然だわ、だって私女神さまだもの!」

「あ?」

 

 喜色満面とは正にこの事。相手が面喰おうとも我関せず。面食らう彼のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、両手を持ってぶんぶんと上下に振り回している。

 怪訝な表情で眉間に皴を寄せた少年は、しかし振り払う事もせず頭の中では別の事を考えていた。

 

(こいつ、誰だ?)

 

 この世界にやって来て濃密な時間を過ごしていた彼にとって、最早元の世界に出来事など遠い夢のようなもの。況してや、転生時の事なんて真面に覚えてもいなかった。

 割と、戦闘が絡まなければ真面な彼に対して助け舟を出したのは、連れの少女。

 

「アタル、その人と知り合いなんですか?」

「あ?あー……分からねぇ」

「へ?」

「いや、なぁーんかどっかで会ったような、会わなかったような?うーん…………」

 

 パーティを組んでから見たことがないレベルで悩む彼の姿に、少女も首を傾げる。

 彼女から見ても、アクアの反応は知人を見つけた時のソレだった。となると、彼の方が忘れているのだろうと彼女の歳の割に聡明な頭はそう結論を出した。

 そして、思った反応ではなかったことに、アクアが吠える。

 

「何で忘れてるのよ!?その斬魄刀あげたのも、私だし、何ならこっちに送り出したのも私なのよ?!いわば、恩人よ!お・ん・じ・ん!それを忘れるだなんてどんな頭してんの!?」

「揺らすんじゃねぇ…………んー……………………忘れた、分からん」

「何でよぉ~~~~~~~ッ!!!」

 

 がっくがっくと揺すられる少年は、遠い目をして揺らしてくるアクアを見もしない。

 

 結局、この場が収まったのはアクアを鬱陶しがった彼が、適当に注文したパンを口にねじ込んで黙らせるまで続くのだった。


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