次期拳願会会長の座を争う「拳偐絶命トーナメント」は、熱気の真っ只中にあった。伝説の北斗神拳の担い手である「北斗3兄弟」の登場により、これまでにない激闘が繰り広げられるであろう期待を抱いていた観客たちの前で、次なる戦いの火蓋が切られようとしていた。
「ハロ~、エブリワン。アナタのナオヤ・オオクボが来ましたえ~」
現れたのは、ムジテレビ所属の総合格闘技にて26戦無敗の実力を持つ「格闘王」大久保直也。日本人でありながら並居る外人選手を蹴散らして表武術会の頂点に君臨したその男の登場に、観客のみならず闘技者たちの注目も集まる。
『続いては…あ~、え~っと……』
「…あれ?どうしたんでしょ司会の人?」
「なにやら気まずそうですが…」
今までハイテンションかつ、観客と選手の双方を鼓舞する実況と司会をこなしていた「片原鞘香」が言葉を濁したことに、観客たちは困惑する。
「どしたんや司会のねーちゃん。まさか俺の対戦相手、ビビってケツまくってトンズラこいたんとちゃうやろな?」
『いえいえ!そうじゃないんですが…その、実は私この人とちょっと知り合いでして…正直、まったく行動が予測できないのでどうやったらまともに出てきてくれるかな~って…』
「なんや、そんなけったいな奴なんか?なんでもええからさっさと呼んだれや!」
『は、はい!では…』
『…この男、もはや想定不能ッ!!北斗神拳と対をなす南斗聖拳、実に1000を超える流派の頂点に君臨するこの男が、満を持してトーナメントに舞い降りるッ!!我が拳に後退の二文字は無しッ、立ちふさがる者、全て下郎ッ!!181㎝、98㎏!拳願試合成績、33勝1敗!南斗星団連所属…否、現会頭ッ!!聖帝…サウザーッッ!!』
シーン…
『…あれ?』
会場の期待と裏腹に、スポットライトで照らされた入場口にサウザーの姿は無かった。
「なんや、ホンマに逃げよったんか?期待しとったんに拍子抜けやわ…」
『フハハハハハハハーッ!!』
「!?」
姿の無い対戦相手に大久保が失望の言葉をぼやこうとした時、突然会場に響き渡った高笑いがそれを掻き消す。
「な、なんや!?一体どこから…」
『…あっ!皆さん、あそこに!』
鞘香が指さした先、会場に設置された大型モニターの前に、いつの間にか一人の男が豪奢な椅子に座っていた。会場のカメラがすぐさまその姿を捉え、モニターに自身が映し出されたのを確認し、男は持っていたマイクを手に口を開く。
『下郎の皆さん、お待たせしました。…サウザーです!フハハハハーハッ!!』
「……」
あまりの事態にポカンとする皆を尻目に、サウザーはお構いなしにべらべらと喋り続ける。
『まあね、俺もちょっと思ってた訳なんだよ。今回のトーナメント、下郎共の試合にちょっと尺裂き過ぎじゃない?って。当然だが優勝するのはこの俺なんだけど、それはともかくとしてこうも前座が多いとダレるっていうか飽きるっていうか、そもそもこの会場俺の好きなタピオカミルクティー置いてない時点で残念極まるっていうかさ…』
「…なぜアイツの試合は毎度毎度奴の漫談から始まるのだ?」
「知らん」
そんなサウザーの様子をげんなりとした表情で見ているのは、今回サウザーが勝手に自分を代表選手に決めたせいでお預けを食らうことになった南斗六聖拳の面々である。
「…ぐ、ググ~ッ!あの野郎~ッ…!」
『あああ、大久保選手落ち着いて!ちょっとサウザー!アンタ勝手に会場の備品持ち出してんじゃ…』
「あのボケナス…俺より面白い登場するとか、やるやないかぁッ!」
『あらぁ!?』
この男、大久保直也。好きな番組が吉本新喜劇なだけあって、ノリと勢いが大好きであった。
「フハハハハハッ!この聖帝ジョークの良さが分かるとは、話の分かる下郎ではないか!いいだろう、貴様の名を聞かせろ!」
「なんやもう忘れたんかい?だったら耳の穴かっぽじってよく聞けや!俺は大久保直也、お前をぶちのめして闘いと笑いの頂点に立つ男や!」
「フン、いいだろう大久保直也!貴様をこのサウザーが歩む栄光のロードの、最初の踏み台としてくれるッ!!」
こうして、拳願試合史に残る「史上最笑の闘い」の幕が上がるのであった。
おまけの補足
サウザー…南斗聖拳最強と言われる「南斗鳳凰拳」の伝承者。元々孤児であったが、赤ん坊のころに先代の伝承者であるオウガイに拾われ、そのずば抜けた才能と特殊な体質を見出され、次代の伝承者としての修業を受ける。オウガイは少々古臭い価値観を持っていたが人格者であった為、厳しい修行の中であってもサウザーは純粋な心と師への親愛を保ち続けた。
そして運命の日、原作通りオウガイとの戦いでその命を奪ってしまう…直前、駆け付けたモーターヘッドモータースの鷹風と黒木玄斎が割って入り、寸でのところでオウガイの命を救った。二人はオウガイと旧知の仲で、オウガイの時代にそぐわない考えが不幸を招くと予想し、止めに来たのだった。
結果として、師の命を奪うことなく伝承者となったサウザーは意気揚々と山を下りたが、時は既に21世紀。生まれてから20年近くを人里離れた山奥で過ごしてきたサウザーにとって、世界のすべてが異次元の領域であった。
その結果…奴は、ハジけた。ストロベリってしまったのである。今のサウザーは鍛錬の合間に電子書籍でマンガを読み、休憩にタピオカミルクティーを飲み、休みの日にはカラオケで米〇玄師を歌う、ガチムチな見た目に反したパリピになってしまったのである。それでいて実力は折り紙つきであったため、誰もそれを止められずにいた。そして六聖拳のトップがそんなんであるため、残りの六聖拳もそのノリに巻き込まれ…結果として全員が多少の差異はあれどイチゴってしまった。
今回は拳願会のトップになることで、自身がユリアを押しのけて南斗の名実とものトップになるという野望のためにトーナメントに参加した。…なお、実際にトップになった際に財団の運営をどうするか等については一切考えていない。
南斗星団連…サウザーが組織した南斗聖拳の南斗聖拳による南斗聖拳の為の団体(意味不明)。南斗聖拳の殆どの流派が所属しており、その実態は拳願会の資格を持つ企業に闘技者を売り込み、「レンタル」という形で派遣した闘技者のファイトマネーの一部で運営を行う、後の山下商事の先駆けのようなことをやっている。なんだかんだで南斗聖拳の使い手は強い為、重要な試合では割と需要がある。
元々はユリアが南斗のトップであることに異を唱えたサウザー、シン、ユダが中心であったが、下手に放っておくほうが危険と考えたリハクにより半ば公然のスパイとしてレイとシュウが加わり、新たな南斗聖拳の頂点である「南斗DE5MEN」(サウザー命名)を結成し、各々に専属企業を持つほどに拳願会における影響力を強めた。
…ちなみにこの仕組みを考えたのは当然サウザーではなく、行動を監視しやすくするためにシュウを通じてリハクが考えたものである。…結果として、想定以上に力をつけて南斗財団の地位を脅かすことになってしまったが
オウガイが悪いよー、オウガイが