北斗の拳願   作:マイン

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…忘れてたんじゃあないかって?違うね、このネタの為にとっておいたのさ!


宿命なき男

「ぐぶぇッ!?」

 カエルが潰れたような悲鳴を上げて、男が地面に叩きつけられる。絶命トーナメント2回戦第一試合、初戦を勝ち抜いた「アンダーマウント社」と抽選によるシード枠を得ていた「田村製作所」との試合は、一方的な試合展開へと変わっていた。

 

「おいおいおい…もう終わりかよぉ、ヘルメット野郎ッッ!!」

 全身から血を流してはいるがさしたる痛痒もなく相手を追い詰めているのは、アンダーマウント社の代表選手「呉雷庵」。呉一族の中でも群を抜いた潜在能力とイカレ具合を持った男で、初戦でバリツ武術家の「茂吉・ロビンソン」を軽々と死ぬ寸前までに追い込んだほどの実力者で、優勝候補の一角にも数えられている。

 …そんな彼と相対し、追い詰められている田村製作所の代表選手は…

 

「北斗神拳の伝承者候補だったって聞いて期待してみりゃ…とんだ雑魚じゃねえかッ!笑わせるぜコラァ!!」

「ググッ…!テメエ~…ッ!」

 この男の名は、「霞ジャギ」。ラオウ、トキ、ケンシロウと共にリュウケンの元で北斗神拳を学んでいたが、リュウケンによって「破門」された男であった。

 

 この両者の試合、前半はそれなりに拮抗した試合展開であった。雷庵が北斗神拳を間近で観察するために様子見していたこともあったが、破門されたとはいえ北斗神拳の使い手としてジャギはそこそこの実力があり、また破門されてから独自に身に着けた南斗聖拳を始めとしたさまざまな武術を織り交ぜたトリッキーな戦法で撹乱し、致命打こそ無いものの確実に雷庵にダメージを与えていた。

 しかし、中盤に入って様子見を終えた雷庵が「外し」を開放。呉一族の固有技術であるそれは人間が無意識に封じている潜在能力を開放するもので、その源流は北斗神拳の元となった「北斗宗家」にあるとされており、ジャギも当然使うことができる。

 …しかし、雷庵がケンシロウたちと同じ「100%」の能力を開放できるのに対し、ジャギは中途半端なところで破門されたが故に精々「50%」程しか使いこなせない。いくら技量で優っていようと、元々の才覚と地力は雷庵のほうが上であった為、徐々に技を見切られこうして追い詰められていたのであった。

 

「カカカッ!どうやらテメーは正真正銘の「落ちこぼれ」だったみてーだなぁ、おいッ!そんな様でよくもノコノコこんな所に出てこれたもんだぜ!!先代のジジイも可哀そうによぉ、テメーみたいなのが北斗を名乗ってだからよぉ!!」

「…るせぇ」

「あ?」

「うるせぇって…言ってんだよボケェェッ!!」

 自分を足蹴にする雷庵を、怒りの雄たけびで力任せに振り払ったジャギ。予想外の力に僅かに驚きの表情をする雷庵を睨みながら、ジャギは瀕死の体を押して立ち上がる。

 

「どいつもこいつもッ…!俺のことを「期待外れ」だの「落ちこぼれ」だの…好き放題言いやがるッ…!ああ、そうさ…実際その通りだよ!俺は所詮半端もの、兄者たちはおろかケンシロウの足元にすら及ばねえ、北斗の面汚しよッ!そんなこと、自分が一番分かってんだよッ!!」

「……」

「…だが、でもよぉ…!それでも、俺にだって譲れねえものがある…!誰にだって否定させられねえもんがあるんだッ!!テメーはたった今、それをやりやがった!だから、俺はテメーには負けられねえんだよッ!!」

 ジャギは大きく拳を振りかぶると、雷庵目掛けて力一杯突き出した。一見空振りにように見えたが…

 

ドゴォッ!

「んぐッ!?」

 突如雷庵の顔面に衝撃が走り、微かなうめき声と共に雷庵の鼻から血が流れる。

 

「今のは…「北斗剛掌破」!?ジャギはあれを使えなかった筈だが…」

「おそらく、初戦の俺の試合を見て真似をしたのだろう。掌からでは威力不足と判断し、拳から、更に振りかぶることで射程距離と引き換えに威力を上げたのだろう。言うなれば「北斗剛拳砲」とでも称するべきか。…ふん、小賢しい奴だ」

 自分の知る限り力不足であった技を、工夫によって己が技として昇華したジャギに、トキとラオウも驚きを見せる。

 

(…ケンシロウが伝承者になることを知った時、俺は反対こそしたが実際のところはしょうがねえと思っていた。ケンシロウは先々代の伝承者…リュウケンの兄貴の孫だ。一子相伝の北斗神拳のにとって、先々代の弟のリュウケンが伝承者になることの方が本来異端で、正しい血統のケンシロウがその跡を継ぐのは当然のこと…技量は未だに兄者たちに劣るが、兄者たちが黙認してるってことは…つまりは「そういうこと」なんだろうよ)

「テメェッ…!」

 流石に顔面は腹が立ったのかいきり立って殴りかかってくる雷庵に対し、ジャギは今度は足元に目掛けて拳を突き下ろした。

 

ザンッ!

「おっ!」

 するとジャギの拳から衝撃波が放たれ、地面を伝って突っ込んでくる雷庵の足を切り裂いて動きを制する。

 

「アレは俺の「伝衝烈波」じゃねえかッ!あの野郎いつの間に…!?」

「…北斗神拳には、実際に受けたり見た技を模倣する「水影心」という奥義があるとケンシロウから聞いたことがある。だが、奴の技量を見る限りその奥義を使っているわけではない。おそらくは、俺たちの拳願試合をどこかで観察し、どうにか形だけを真似できる程度に仕上げたのだろう」

「チッ…ハイエナのような奴だ」

 南斗聖拳が北斗に比べて広く開かれているとはいえ、六聖拳程の技を模倣するのはそう簡単なことではない。それが分かっているからこそ、レイやシンもジャギがユダの拳を真似たことに相応の努力があったことを確信する。

 

(分かっちゃいるんだ。俺に北斗の技を使う資格なんか無え…ケンシロウや兄者たちにような『北斗の血統』も無けりゃ、かといってそれを補えるような『才能』も無え。破門されたって仕方ねえってことぐらい、分かっているんだッ…!)

 

「…けど、けどよぉッ!!それでも俺は、アンタの『息子』でありてえんだッ!!北斗神拳伝承者の、俺にとってこの世界で最強の男の…リュウケンの、霞羅門の息子なんだとッ、それだけが…それが俺の全てなんだよぉーッ!!!」

 雷庵が蹈鞴を踏んだ隙に、ジャギは中腰で両手を突き出した特有の構えから更なる変化を行う。右の腕は『北斗七星』をなぞる様な動きを、左の腕は『南斗六星』をなぞる様な動きを見せる。

 

「な、なんだ…あの構えは!?北斗でも、南斗でも…いや、その2つがまるで『合わさって』いるようなあの動きは一体…?」

「これは…無法の拳が、天に新たな星を描くか…!」

 観客たちが見つめる先で、ジャギは雷庵目掛けて跳び上がった。

 

「喰らえ、そして見ろッ!!これが俺の、霞ジャギ様の最大最強の奥義~ッ!!」

「…!」

 

「『双星羅漢撃ーッ!!!』」

 

ザザンッ…!!

 

 

 

 

ブシュゥゥッ!!

「ぐうぉッ…!!?」

 ジャギが飛びかかりながら振り下ろした無数の手刀の軌道は、南斗聖拳の鋭さで雷庵の全身を切り刻み、更に軌道上にあった雷庵の経絡秘孔に収束させた闘気が炸裂する。雷庵ほどの実力者の秘孔をまともに突くにはジャギの力だけでは難しいが、南斗聖拳の『外部から突き入れる技術』によって手刀に籠めた闘気だけで秘孔を突くことができる技。

 かつてリュウケンから『憎しみ、恨み、妬み、嫉みの全てを捨てる者にのみ使える』と言われて伝授された『北斗羅漢撃』を、その全てを残したまま『意地と執念』だけでジャギなりの形で完成させたものが、この双星羅漢撃であった。

 

 

 

だが…

 

 

「…ッ、効いたぜ…今のはヨォッ…!!」

「!?」

 魔人、それでも倒れずッ…!

 

「そ、そんな…嘘だろッ!?」

「惜しかったなぁ…!テメエがあと少し腕の立つ野郎だったら、もっと深く俺の秘孔を突くことが出来たかもな。だが…所詮これが、テメエの限界だッ!!」

 

ドゴッ!!

バキィィンッ…!

 

「かぺッ…!」

 お返しとばかりに放たれた雷庵のアッパーがジャギの顎を捉え、顎の骨と共に半壊しかかっていたヘルメットを粉々に打ち砕かれながら、ジャギの体が客席の方へと吹っ飛ばされた。

 

(…糞、が…やっぱり、俺はこの程度…かよ…)

 薄れゆく意識の中悪態を吐きながら、客席へと放り込まれゆくジャギ…

 

 

ボスッ

 その体を、叩きつけられる前に抱き留めた者が居た。

 

「あん?」

「…お、まえ…」

「……」

 自分を受け止めた男…ケンシロウに、ジャギは絞り出すような声を出して驚く。

 

「ケン、シロウ…なんで、お前…」

「…初めて」

「…?」

「初めて、お前の本音を聴くことが出来た。ずっと心残りだった、結局一度たりともお前と本気で言葉も、拳もぶつけ合うことが出来たかったことが。道を違えるのが決まっていたとしても、分かりあうことが出来たのではないかということが。…さっきの言葉を、そしてあの技を見て確信した。お前もまた北斗の…リュウケンの思いを継ぐ者の一人であるということがな」

「ケン…」

「…やっと、貴方のことを心から兄と呼ぶことが出来るよ。ジャギ義兄さん」

「…ッ!!…バカ、が…」

 あれだけ貶されてなお自分を受け入れたケンシロウの甘さと懐の深さに、ジャギはとうとうそれを認めながら気を失った。

 

「…ハッ!お涙頂戴の似非兄弟愛ってか?笑わせるぜマヌケ共が!」

「…呉雷庵、貴様は俺が倒す。北斗の、我が義兄の誇りにかけて…!」

「カカッ!やってみろ北斗神拳ッ!!」

 

 絶命トーナメント第3回戦、呉雷庵VS霞ケンシロウに続くッ…!




おまけの補足

霞ジャギ…リュウケンの元で北斗神拳を学んだ男児の一人で、「北斗の兄弟」の知られざる4人目。実際のところはケンシロウより年上なので、彼が3男に当たる。赤ん坊だった時に親に捨てられ、山奥で死ぬところだったところをリュウケンに拾われ、そのまま彼の養子となる。子供だった頃は拳法に興味を示さず、当時既に修業を始めていたラオウやトキのことも兄としてそれなりに慕ってはいたが深く関わることはなかった。
しかし、ケンシロウが本格的に伝承者としての修業を始めたことでリュウケンもジャギに構うことが殆どなくなり、行き場を無くしたジャギは自身も修業をつけてもらえるよう頼みこみ、強引に門弟となった。しかし、幼少期から修業を積んだ3人とは異なり既にある程度体が出来てしまってから修業を始めたジャギは呑み込みが悪く、ラオウとトキは元よりケンシロウにすら徐々に追いつけなくなっていった。
そんな最中、リュウケンはジャギを破門する。表向きは北斗神拳使いとして相応しくないというのが理由だったが、実際はラオウの野心をいち早く察知し、更に北斗の行く末に闘いの予感を感じたリュウケンが、半端な力でそれに巻き込まれないよう遠ざけるためであった。だがジャギにそんな意図が伝わる筈もなく、本当の親と思っていたリュウケンに散々恨み言をぶちまけて飛び出していった。
その後は完全にやさぐれ、シンにサウザーについてユリアを裏切るようそそのかし(彼の予想外の一面を知って若干引いたが)、南斗聖拳などの武術をある程度学んでは持ち逃げしたりと、自分を捨てたリュウケンとその発端となったケンシロウへの意趣返しのようにこそこそと暗躍する。だが完全に悪人にはなり切れず、同じように行き場のないチンピラを纏め上げて自分より弱い悪人を叩きのめして自尊心を慰めていた。
その根底にあったのは、北斗神拳に認められなかったことへの恨みではなく、リュウケンに認めてもらいたかったという一途な思いである。北斗の血統を持つケンシロウたちとは違い、一切北斗と関わりのない生まれであるジャギにはリュウケンという父親しか心の拠り所がなく、そのリュウケンに直々に破門されたことで歪んでしまい、どんな手段でももう一度リュウケンに自分を見てもらいたいという思いが彼を突き動かしていた。
拳法家としての実力は平凡で、一つの流派を極めるほどの才覚は無い。だが、小器用で努力自体も惜しむ性格では無いため、様々な流派の技を一部のみだが修め、それらを掛け合わすことで今回のようなミラクルを起こすことがある。言うなれば、超劣化版の霞拳心とでも言うべきスタイル。
ちなみに、リュウケンとの別れ方に内心後悔しており、気心知れた人の前では自己嫌悪と不安の愚痴を漏らしまくっている。出会いを求めて手下と共に皇桜女学院近くのシルバーマンジムに入り浸っている。最初はむさい男ばかりで失敗したと思っていたが、後に強面慣れしている上原彩也香に内心をズバリと見ぬかれてしまい、弄られキャラが定着してしまった。


ちなみにユリアは皇桜女学院OGで、現在は皇桜女子大学に在学中なので、ジャギともどもケンガンとダンベルをつなぐキャラの一人である。
…ジャギだけ説明多いって?だってジャギ様だぜ、掘り下げてあげないと!
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