星、無数の星が浮かんでいる。地球から見る星、そこから見ている星々は自分が居た惑星の輝く姿なのかもしれないと思うと何処か不思議な気持ちにならざるを得ない。彼が最後に見たリーチの空とは違う、プラズマで焼き尽くされ何色とも表現できないような地獄のような光景ではない。
「―――何故、俺は今此処にいる」
何度繰り返してしまったのだろうか、答えも出ない問いかけをし続ける。その答えを探す事こそが今此処にいる意味なのかもしれないと答えめいたもので自分を騙そうとしても騙せずに叫ぶのだ、心が……。何故
「―――何故俺だけが……」
これはリーチを守り抜けなかった事への罰なのか、それこそが己の罪なのか、
『―――リーダー、先、行くぜ……!!』
『愛してるわよそれじゃあまた後で!!』
『あばよアンタの下は最高だっ―――』
『失礼します、ご武運を……!!』
皆、死んでいった。自分一人を残して死んでいった、そして自分も死んだ―――筈だったのに今此処にいる。誰も助けられなかった自分が何故生きる、希望は繋がったのかも分からない、その終局が今だった。束に拾われ彼女の護衛、今は学園にて警備と教官をしながら生きている……それで本当に良いのだろうか。
「分からない……分からない」
哀れにも生き残った自分が辿り着いた世界で生きろ、自らが罪悪感で焼き尽くされるまで生きる。それが罰なのか。同胞がコブナントに殺戮されている中で自分だけそんな風に生きろと、目の前で散った仲間はそれをどう思うだろうか。
「チーフ……貴方は、貴方は生きててくれていますか……ただそれだけを願っています……」
スパルタン-S-073、レイ。彼はまだ―――地獄に佇んでいる。
胸の内を誰にも明かさぬまま、073は今日も教官としての任を果たす為に歩き出す。
「今日も頼むぞスパル、いやお前が優秀で私も楽が出来て感謝している」
「お役に立てて何より」
短く言葉を紡ぐが彼も彼で千冬には感謝を心からしていた。何もしなければきっと同じことを考え続けていた、最初こそ気が進まなかった教鞭を取る事も任務と捉えれば思考を変えてそれにのみ集中できる。護衛もそうとも言えるだろうが兎に角073は感謝しながら本日配布するプリントの束を抱えながら千冬と共に廊下を進んでいく。道行く途中で生徒らが挨拶をする、彼の姿も最初こそ異端の極致のような物だったが今ではすっかり慣れられたのか平然と接して貰えている。
「例の転入生だが二組に入る事になった、あのお転婆が私のクラスでなくて良かった」
「凰 鈴音ですか、お知り合いで?」
「ああ。一夏の同級生だった、偶に家に遊びにも来ていた」
千冬から先日の夜に遭遇した少女の話題が出た。中国の代表候補生として来日し二組に配属される事になった少女、来歴を見ても正しく天才肌の努力家というものが滲み出ていた。だがそんな秀才も彼女からすればお転婆な小娘にしか過ぎないらしい。
「そうだスパル、束に話を聞いてくれたか。"白式"は束が調整したものだと聞かされた」
「はい」
一夏のISである"白式"は元々は日本のIS企業が設計開発していた代物だが、開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたものを束が貰い受けて完成させた機体である。そんな束ならば何故あんな機体セッティングになっているのかを知っているのではないか、いや束が犯人なのではないかと思い代わりに聞いて貰ったのである。
「博士曰く、雪片弐型は搭載する気はなかったそうです。博士としても初心者が使うISに乗せるのは愚の骨頂だと」
「だろうな」
「技術提供の一環として共に送ったそうです、性能こそいいそうですが問題は明白です」
雪片には今現在束がメインに据えている技術を組み込んだ試験型、結果的に容量が膨れ上がったので搭載するのではなく自慢的な意味で一緒に送った。本人としてもISの初心者である一夏が使う事は聞いていたが、猶更初心者にこんなものを使わせる訳ないだろうと思ってたとの事。結果として何を血迷ったのか送り先の研究所がぶち込んでくれた訳だが。
「博士も頭を抱えておりました。何でこれ載ってんだ……と仰っておりました」
「……束にそこまで言わせるとは倉持技研も血迷った事をした物だ……」
「ですので博士は即座に改修を請け負ったのです」
「奴なりの贖罪か」
千冬も納得したように後で自分も束に謝罪しようと思いながら教室を向かい直す。
「それはお前の口から一夏に説明してやってくれんか、あいつは如何にもお前に懐いているようだからな」
「懐くではなく尊敬では」
そう答える最中にどうだろうなと答えながら千冬は一夏の顔を思い浮かべてみる。セシリアとの戦後、一夏が073の指導を受けた後に話す事があった、その時に一夏は嬉しそうに073が優しくて強くてカッコいいのかを語るのだ。
『俺絶対スパル先生みたいな渋くて優しくてカッコいい大人になるぜ、男が惚れる男ってあんな感じだ!!』
『フフフッそうか、お前が奴のようになるのは一体何十年後だ?』
『ちょっ酷くねっ千冬姉!?』
『ハッハッハすまんすまん』
久しく語り合う姉弟水入らずだったのに語られる内容に嫉妬までしてしまったがその嫉妬が幼稚である事に気付くのも直ぐだった。彼女から見て彼が素晴らしい人間である事なんてすぐにわかる、それに嫉妬するとは自分もまだまだ幼いなと思ってしまう。
「では彼に伝えておきます―――私に憧れるのはやめておけと」
「そうしてくれ、奴ではお前などにはなれんという現実をな」
笑いながら進む千冬の隣で彼は何も言わなかった。やめておけ、その言葉の意味はこの世界からすれば恐ろしい程に重く辛い物でしかない。それを知るのは束と彼のみ、いや束ですら解り得ないものを抱え続けたまま―――地獄を生き続ける彼は―――どうするべきなのかを探し続けている。
スパルタン-S-073 ノーブル6、SPARTAN-B312の最期
リーチの戦いにおいて二人はエリートのエナジーソードによって死を遂げている。エナジーソードは高温のプラズマにより刃を形成しているため、傷口が焼き塞がれ出血を伴わない。流血を不浄と考えるエリートにとって、彼らの象徴であるソードで出血させずに殺傷することは最大級の敬意と称賛の表れでもある。
エリート族はコヴナント戦争を通じて、最後まで決して諦めない人類を高く評価しており大多数のエリート族は、人類がコヴナントに加盟することを許されるべきであると考えていたほどであった。