一夏が鈴への宣戦布告を向けてから数日、あれから一夏は何時も以上に訓練に精を出すようになっていた。普段から真面目だったがこの学園で初めてライバルと言えるような存在と出会えた事が余程彼にとって素晴らしい刺激となったに違いない。セシリアは単純に練習相手、箒は幼馴染という認識が強かった。だが明確な対戦相手としての存在が非常に大きかった。
「動きの想定が甘い」
「はいっしゃあ次だぁっ!!!」
完成したスパルタン専用超硬質実体剣を握りしめながら一夏の近接訓練を行っている073。ミョルニルアーマーの出力を考えれば高出力機体である"白式"であろうと逆に力で捻じ伏せる事なども容易い上に細かい動きも出来る。ある意味近接戦を想定するとこれ以上ない強敵とも言える、そんな相手と果し合いをし続けている一夏の剣戟の冴えはどんどん研ぎ澄まされていく。
「此処だぁっ!!!」
「ッ―――素晴らしいな」
スパルタンとして力を発揮しながらも小技などを細かく挟み込み素早い動きで翻弄してくる073を相手にし続ける一夏の技量も凄まじい速度で成長していく。渾身の力で弾き飛ばした剣、だが073ならば即座に切り返してくる事なんて容易。だがそれを突く為に一夏は自ら雪片を手放し、足で押し込むようにしながら073に蹴りをぶつけた直後に雪片を握り直すとそのまま袈裟斬りにした。
そのコンボは見事に073の意識を瞬間に鈍らせる事に成功した、そして剣を握っていた腕の肩を狙う事で反撃が行われるまでの時間を稼ぎながら一太刀を浴びせた。しかも彼は斬る瞬間に無意識的に単一仕様能力である"零落白夜"を発動させたのかアーマーのエナジーシールドを大きく削ったのである。この世界で初めてのエナジーシールドの回復、久しく聞かなかった回復機能の作動音。それを起こさせた一夏に対して驚きではなく歓心が沸く。
「今のは咄嗟だな」
「えっ何で分かったんですか!?」
「矢張りか、お前の一連の動作としては違和感を覚えた。だが悪くない手だ、相手が近接主体ならば効果的に使えれば自分のペースに巻き込む一手になりえる」
「うっすっ!!」
零落白夜はエネルギー特性を持つ物を容赦なく無力化し消滅させる、ミョルニルアーマーのシールドは動力源である小型核融合炉。流石にそれから生まれるシールドを消し去るだけの力は無いが削る程度は出来る。仮に零落白夜をミョルニルアーマーの出力で使用した場合、どうなるのだろうか。コブナントのシールドを破る事も容易だったのではないのだろうか、それを応用させて艦に搭載出来れば……と意味の無い事を考えてしまい一夏の訓練に集中し直した。
「スパル一つ聞いていいか、一夏に何を教えたんだ?」
「訓練を付けただけです」
「いやそういう事ではなくてな……」
一夏の相手をしながら時間はあっという間に過ぎ去っていた、セシリアから激しく迫られたりしたがそれらを上手く受け流したりして遂にクラス代表戦の日となった。その初戦となる組み合わせは運命の悪戯とも言える、一夏と鈴となっていたのである。千冬としては簡単に負けない程度に強くなってくれていればこの先も希望が持てると思っていた。そして負けたとしてもその敗北を糧に前に進んでいってくれればいいとさえ思っていたのだが……。
『一夏ぁアンタやるじゃないそろそろ本気で行くわよぉ!!!』
『来やがれ、スパル師匠直伝の戦術を見せてやらぁ!!』
鈴は数年の間の代表候補生の中でも有数の存在だとされる程の麒麟児、僅かな時間で代表候補生に昇りつめた事からもその才能と実力は計り知れる。そんな彼女とまだまだ初心者という評価が相応しい自信の弟、織斑 一夏―――彼がほぼ互角に渡り合っているのである。
「ええっ今のタイミングで回避出来ちゃうんですか!?って織斑君もしかして各種マニュアル操作してるんですかええっ!?まだ初心者ですよね!?」
「今の切り返しの速度と角度もなんだ、敵からの反撃も考慮した上で不意打ちすら想定に入っている……あれでは下がるしかないしそれを読んだノールックショットだと……?」
一夏は左手に雪片、右手にハンドガンを持った状態を維持したまま高速戦闘をし続けていた。相手の挙動全てに意識を向けながらも各種の操作を無意識的に制御しながら戦略プランを立てて鍔迫り合いを演じながら即座に剣戟と射撃を切り替えている。その速度も酷く速い。
「えっ今のって
旋回で生じる反動を0にしつつそれらを活用して次の動作へと移る無反動旋回、後方へと飛びながら生まれたそれで三次元的な軌道をもって体勢を変更する攻守一体の技術の三次元躍動旋回。一つ一つを行うのはそれほど難しくは無いがそれらを一連の動作として取り入れるのは難しく熟練した操縦者が愛用する技術、だがそれをまだまだ初心者である一夏がやるという現実に二人は信じられなかった。
『ぜっせぇええい!!』
『ちょブレード投げるのってしまったぁ!?』
直後に斬る筈のそれを投げつけて彼女のIS"甲龍"の非固定浮遊部位へと突き刺さり火が噴き出す。そこへ追い打ちをかけるかの如く、一夏は加速技術の一つである
『ちぃぃぃっっ!!!やってくれるじゃないの一夏ぁ、いいわいいわよいいじゃないの!!アタシはこういう展開に燃えるタイプの女なのよ!!こっからはガッチガチの斬り合いよ!!』
『来いよ鈴、存分にやってやらぁ!!』
「おいスパルお前本当に何を教え込んだんだ、いやどんな訓練を付けたんだ!?」
「お、織斑君がもう別人みたいになってますよ!!?」
「特に何も、強いて言うならば―――彼の意気込みを買ったまでです」
そう正しくそれだけである、一夏は鈴に負けたくないその一心でもっともっと厳しい訓練を望んだ。その結果として073が課したのは……過去に自分がスパルタンとして受けた軍事訓練をアレンジした物。そこには諦めさせて少しずつ成長させる方向に導く為もあったのだが……一夏はそれらの苦しさと辛さを全て飲み干してしまい、今の強さを手に入れたのである。流石に073もあの訓練に耐えきるのは完全に予想外だったが、そうならばそれに相応しい訓練を付けてやるのが道理だと思い続けた、その結果が今の一夏という訳である。
「この場合、彼の成長速度もあります。流石は世界最強の弟君です」
そう言われると千冬はぐっ……と口を一文字にして閉ざした。暗に貴方の弟なら出来て当然だと言われてしまって少しだけ誇らしく思いつつも恥ずかしくなった。
073の訓練を潜り抜けた一夏はその後鈴と激しい戦闘を繰り広げたが、機体性能の差が現れた。燃費を重視されている甲龍と高出力機である白式の差が大きく出てしまい、一夏は敗北してしまうのだが最後にはアリーナの中心で熱い握手を交わしている二人の姿があり、観客から大きな拍手が送られた。
今の一夏はある意味で―――この世界で初めて生まれたスパルタン……と言えるのかもしれない。
スパルタンブルーチーム
ジョン-117を指揮官としフレッド-104, ケリー-087, リンダ-058で構成されるファイアチーム。一時的にスパルタンⅢを編成に組み込んだこともあるが、基本的には生え抜きのスパルタンⅡのみで構成されている。
ブルーチームはファイアチーム規模の兵力としては他に類を見ない数の任務を達成しており、正にUNSCの最高戦力と評するに相応しく参加した戦闘において常に戦果を上げ続ける。
その練度と蓄積された経験は他の追随を許さない。正に人類の最終兵器である。
最も、上層部は「スパルタンⅡの任務はスパルタンIVで代替可能である」と考え負の遺産とも言えるⅡを過酷な任務ですり潰そうとしているとの説もあるが……