「だぁぁぁっ負けたぁそがぁぁぁ!!!」
敗北を喫した一夏は握手の後にピットに戻り腰掛けると四肢を床に放り出しながら悔しそうな声を上げた。流石に経験という最大のアドバンテージを覆すのは容易い事ではなかった、自分でも分かっていたが下手に対策を講じようとすると別の側面が疎かになり、そこを基点にして敗北へ一気に転げ落ちる事を警戒して相手が自分のペースに入るのを待っていたが……今思えばそれ自体が鈴の作戦だったのだと気づきさらに悔しそうにする。
「だが一夏凄かったぞ、なんだあの機動は!?」
「シエラ先生と特訓されていたのは知っておりましたがあれほどなんて……強化対象訓練を受けた代表候補生並みの動きでしたわ」
ピットでは自分の動きを褒め称える箒とセシリアがいた。彼女らも一夏の試合をずっと見つめて驚愕に目を見開き続けていた。一夏は上半身を起こしながら濁った声を出しながら頑張ったから~、と疲労した顔を作る。
「先生凄いスパルタだったからなぁ……流石スパルタンってか、ハッハッハ」
「どんな感じだったんだ……?」
「あ~……」
疲れで思考が少し鈍っているのかペラペラと自分が受けたそれを話す一夏、そしてそれらを聞く二人は唖然となりながら顔を青くしていた。何故ならば内容が途轍もない程にキッツいからである。代表候補のセシリアは軍人に近いメニューをこなした事もあった、数々の辛さを飲み込んだ末に今があるのだが一夏の経験したそれは自分が今に到達するまでの道を遥かに超える程に傾斜が激しい物だった。スパルタンの面目躍如だな、と一夏は笑いながら言うのだがそれをこなせたお前は何なんだ、と言いたげな視線を送られるのであった。
「最後なんてぶっ続けで先生と打ち合いしてたんだぜ、ブレードにライフル何でもありで。いやぁ~……ずっと俺圧倒され続けたわ」
「い、いやでもこれだけ成長しているんだから今なら先生にも少しは……」
「無理だよぜってぇ無理、先生本気出したら俺なんか一瞬でミンチだよ」
尚スパルタンが本気を出したら比喩表現抜きでISごと一夏はミンチになる、ガチで。そんな一夏に対して高速で何かが飛来する。それは剣道を経験し他者よりも気配に鋭敏や箒、空間把握能力が長けているセシリアが気付く前に立ち上がった一夏が二人の前に立って受け止めた。小気味好い音を響かせながら一夏の手に収まった。
「な、なんだ!?」
「良い反応だ」
声の先に顔を向けるとそこには073の姿があった、そして彼は箒とセシリアにも向けて優しく物を投げた。それは缶ジュースでそれを二人は慌てながら受け止めた。一夏が受け止めたそれも同じだった。
「師匠っちょっとミスったら俺の顔面直撃だったんじゃないですか今の……」
「師匠ではない、教官だ。その場合は扱きが足りないと判断してこの後訓練を施すだけだ」
「あっぶ……がぶふぅ!!?」
心底安心する一夏に向かって追撃のもう一本が飛来する。それを顔面で受け止める事になり一夏は悶絶しながら床の上でのた打ち回る、缶ジュースを加減しているとはいえスパルタンの力で投げられるのだから痛くて当然である。
「油断したが最後死ぬ、そう教えた筈だがな……」
「だ、だからってこれは酷くないっすか!?」
「戦場に酷いも何もない、その心持で挑めと言った」
「うぐぅ……」
何も言えなくなった一夏はジュースを開けて情けない自分と一緒に飲み干す事にしたのか、照れ隠しのように力任せに開けた。そんな様子を見つめる彼に箒は話を切り出した。
「あの先生、何故一夏にあれほどの訓練を付けたのですか?」
「理由などない。望まれたからしただけだ」
「一夏がそれを望んだから……?」
「ああマジだぜ箒、鈴に負けたくなくてさ。いやまあ結局負けてんだけど」
セシリアの目から見て一夏の訓練は過剰のそれを超えている、それを望んで可能ならば切り替える事も可能だと言われた上で一夏はそれへ向かって走って踏破してしまった。今の一夏は彼女と戦った時とは完全な別人となっている。次やったらどうなるだろうかと思わず考えずにはいられない中である決心をする。
「あ、あのシエラ先生私にも織斑さんと同じ訓練を付けてくださりませんか?」
「オルコットお前……ならば私もお願いします!!」
箒はセシリアの意図を完全に誤解している、負けてはいられないという勢いのまま言葉を放つが一夏からは呆れたような目で見られてしまい073からも溜息を吐かれてしまった。セシリアは兎も角だが箒は絶対に脱落する事は確実、それに073としてもそれを教えるつもりはなかった。望まれたとしても流石にやり過ぎたと思っている。
「教鞭は私の専門ではない、これ以上無用な生徒を取るつもりはない」
「そ、そんなぁ~……シエラ先生に是非とも習いたいのです……」
「オルコットめっ……それほどまでに一夏と……!!!」
「そんなに受けたいのか箒……まさか」
酷く残念そうにするセシリアを慰める、箒はそんな彼女の気持ちを完全に誤解しているのか視線だけで人を殺せるような物を向けている。そんな様子に一夏はもしかして箒は先生に憧れているのかな、という勘違いを起こす。連鎖的に起こっていくそれらに誰も適切な対処などしない、ある種の暴走事態である。
「兎も角織斑、お前は今日の試合データを貰ってそれで反省会でもしておけ」
「はぁ~い……」
最期にそれだけを言い残すと彼はピットを去っていく、そんな後姿を名残惜しそうに見つめているセシリアに怒れる箒と何で怒っているのか理解できない一夏。その場を離れつつ073は自罰的になっていた。何故自分はあそこまでの訓練を付けたのか、束にさえ言われた。流石にやり過ぎではないのか、そこまで入れ込む理由があるのかと。
理由なんてなかった、単純に負けたくないからもっと厳しくお願いしますと言われたから……と言われたからその願いを叶えただけ―――なのだがもっと理由を探すとするならば……一つだけ思い当たる節があったのだが敢えてそれからは瞳を反らして考えないようにしてしまった。認めたくはなかったからだ、愚かな事を考えた自分を。
そんな彼へとまた新たな事象が迫っていた、それは―――彼に似た境遇を持った軍人の襲来であった。だが彼はそれを否定するだろう、認めないだろう。何故ならば―――彼はそれを望んで今になったのだから。
ONI 海軍情報局
ハルゼイ博士などもONIに所属している。分かり易く言えばCIA的な存在なのだがソフトに言って「畜生畜生&畜生」といった存在で恐らくUNSCからはコヴナント以上に恐れられていると思われる。
基本的にONIは人類の為になる事を行う、がそれらは結果的に新たな火種を生み人類を危険に晒しかねない事も多い。コブナント戦後にも彼らが余計な事をしたせいで、という事が多発。またONIか、とファンからは溜息と共に言葉が吐き出される。ファッキンONIとも揶揄される事も多い。
基本的にいらんことしいだが、たまにその非情さが人類を救うことにも繋がる。スパルタンプロジェクトもその一つ。