「あのさち~ちゃん、スパ君は一応束さんの護衛なんだけど……なんか最近スパ君の仕事増やしすぎじゃね。受け持つ授業がなんか加速度的に増えてる気がするんだけど」
『……本当に済まない』
IS学園の地下に存在する施設、束へと譲渡に近い形で使われている施設では引き続き束は研究と再現を行っている最中に親友への電話を行いながらも軽い文句を垂れていた。千冬の頼みは基本的に断るつもりもない、加えて当人の了承も取っているのでそれほど文句を言うつもりなど無かったのだが……彼に本来の仕事をさせる気がないのかという事ぐらいは許されるだろう。
『最近なまた男性IS操縦者が増えて此方がやらなければいけない仕事が増えて行ってな……だからこそスパルが授業を受け持ってくれるのは本当に助かるんだ……』
「またぁ!?何、またいっ君みたいなの見つかったっていうのぉ!?」
肝心のそれの理由に束は彼女らしくもなく驚いた。最近073が受け持つ授業が増している、稼働訓練の教官というだけではなく座学まで受け持っている。そんな理由が又もやISを動かせる男が見つかってしまったから、千冬や真耶が処理しなければならない事が尋常ではない量になっており通常の授業にも支障をきたすほど。自習などで済ませられる物ならば済ませたいのだがこの時期には直接教えなければならない者も多く存在しており自習にさせられない。故に073に頭を下げて教鞭をとって貰った、という訳なのである。
「いやまあそういう事ならしょうがないけどさ……でもおかしいなぁ……」
『な、何がだ……』
「いやさ、束さんもいっ君みたいなイレギュラーがまた発生しないとも限らないからこっちもコア・ネットワークに監視システムを付け加えて男性IS操縦者が見つかったらこっちでも把握出来るようにしてるんだけどそんな反応なかったよ?」
『……その精度は』
「いっ君の稼働データをベースに作ったけど毎回毎回いっ君が使う時は確り通知来てるよ、ログもあるから100%だよ。まあ他の子が動かしたなら通知されなかったかもしれない、ていうのも否定はしきれないけど」
流石の束とて可能性としては考えていたので察知する為のシステムは構築してあった、だがそれに反応は無かった。全てのISのコアを結んでいるネットワークを活用したそれに引っかからないのは疑問がある。システムのクォリティが足らないと言われたらそこまでかもしれないが如何にも怪しい。
「ねぇち~ちゃん、それって何処の子なの。ち~ちゃんさえよければこっちで調査しても良いよ」
『済まないが頼めるか、此方は此方で馬鹿みたいに忙しくてな……』
「分かったよ。後でスパ君に特製の栄養ドリンクを持っていってあげるように言っておくからそれ飲んで元気出して、でも飲み過ぎ厳禁だからね。薬も飲み過ぎたら毒だから」
『ああ、分かっている』
そう言って切れた電話を置きながら束はゲーミングチェア並に大きな椅子に身体を預けた。二人目のIS操縦者の出現、これは本当に偶然なのか。いや自分のシステムに狂いがないと仮定するならば実は偽物で一夏のデータを狙っているか073のデータを欲していると考えるのが自然。これはやる事が増えてきたかもしれない、純粋に本物の男ならばそれで良し、そうでなければ自分の大切な人に弓を引こうとする愚か者に対する対処もしなければならない。
「―――ク~ちゃん悪いけど調査手伝って貰っても良いかな、その番組見終わってからで良いから」
「あっはい解りました束様」
「いやにしてもホントそれ好きだね」
「ハイ大好きです。レイ様のようでカッコいいです」
「いやレイ君の方が大分クールな気がするけど……スペック的にも」
「織斑女史、博士よりお預かりしたドリンクです」
「―――ああ、済まない……これは本当に良いドリンクだ……真耶お前も飲め、飲まんと身体が持たんぞ」
「あ、有難う御座いますぅ……」
そう言って二人は受け取ったドリンクを一気に飲み干す。束特製の栄養ドリンク、胃に優しい上に各種栄養が豊富に詰まっており飲むと気持ちが安らぐだけではなく脳が覚醒したような力が漲ってくる。そんな各社が出す栄養ドリンクに喧嘩を売るような物だが、副作用めいたものは存在していない。強いて言うならば飲み過ぎると身体に毒な位だろうが、それは普通の物も同じなので特に言う事は無いだろう。
「プッハァァッッ……奴にまた礼を言わなければならんな……」
「これ本当に凄いですよね、飲むと直ぐに効いて力が出ますもん」
「それでいて服作用は無しときた、全く奴は製薬の分野でも富を築けるな」
「これ一般販売してくれませんかね」
「それはそれで各社が悲鳴を上げるからやめておいた方が良いんだろうな」
と飲んだ傍から効果が現れる辺り流石の束印。
「それで今日も私が教鞭を」
「……ああそうだな、HRは私達も同行する。だがその後は……その、頼んだりしてもいいか」
「はい、問題ありません」
「本当にすいません……ごめんなさい……情けない先生でごめんなさい」
「頭をお上げください山田女史、改善しようと努力なさっているだけでご立派です」
「ぅぅぅっっ……なんでシエラさんはそんなにも素敵な人なんですかぁ~……」
と思わず千冬と真耶はガチで感謝を述べた。彼女らはこの後もやらなければいけない仕事が溜まっているのである、073に教師の代行を頼んで書類の処理に集中しているのにも拘らずこの始末である。今回一組に男子を含んだ2名が編入される。加えて他国からの転入希望の対処などもどんどん来ておりそれらの対処と書類仕事なども大量にある。本気で073が教師代行を行って貰えなければその負担が一方に集中してしまい過労で倒れかねない状況がIS学園の教師陣に起きており千冬も真耶もそれで大忙し。
苦肉の策、というか最早ただの懇願だったのだが生徒からの評判も内容も良い073に教鞭を取って貰っている。教師としては本当に情けない事なのだが彼はそれを文句一つ言わずに引き受けて貰えて、授業も予定通りに進んでいる事は現状を考えると奇跡とも言える。
「でも本当に大丈夫なんですか、ご負担になってますよね」
「いえお気遣いなく」
「……すまん今度埋め合わせを絶対にするから頼む……」
人類の救世主として戦い続けたスパルタン、そんな彼は今……
「さて行くか……HRの時間だ……」
「その後は受け入れる代表候補生の選定、調査、協議、連絡……」
「今の内から先を考えるのはやめておこう真耶……鬱になるだけだ……」
スパルタン-S-073
UNSC海軍特殊機甲部隊"SPARTAN-Ⅱ"所属の兵士で、タグはSPARTAN-073。本名はレイ、名字は不明。
30年以上にわたって従軍し人類の為に戦い続けたスパルタンの一人。リーチ攻防戦にて自ら指揮官として率いるファイアチームと共に死亡したが、その意志がマスターチーフを活かし人類の未来を切り開いた偉大な軍人の一人。
スパルタンⅡ全体を見ると彼の技量などは中の上程度で彼を上回るスパルタンは数多い。だが彼のもっとも優れているのは他者の長所を見抜き適切な指示や指導を行える点。故かファイアチームのメンバーからも評価が高く酷く信頼されていた。
IS学園では主に教官として活躍する事が増えているが、彼自身に経験がなかっただけで教育者としての適性は非常に高くそれは生徒からの人気から見ても現れている、基本的に叱る事は余りせず説き伏せ、前に進む事を促し、褒めて成長させるタイプ。
スパルタンとしては多弁な印象を受けるがそれは仕事を任務として捉えている為、基本的に感情を表に出さない男で寡黙かつ地道に任務に身を投じる。