命令は絶対、使命は絶対、すべき事は確実。それがスパルタン。それこそがスパルタンの使命。
当初の予定から相手が切り替わっているが成すべき事は何一つ変わっていない。スパルタンとして戦うだけ、人類の為に戦い続けるのみでしかない。「反乱軍を鎮圧し全UNSC市民に奉仕する」事を教育されているスパルタンⅡである073にとって平和を実感しやすいIS学園での仕事は悪い物ではなかった、軍は暴力装置でしかない。最終的な解決手段として必要なものであって平時から求められる物ではない。そう考えた事があった、仮にスパルタンとしての役目が終わりを告げて真の平和を勝ち取れた時―――何をする事が出来るのか。その答えが此処なのか、戦死したからもう役目から解放されたのか。
「止めよう」
そこで思考を打ち切った、溜息混じり073は思考をやめた。矢張り何もしていない時には考えてしまう事に絶望する。地獄に居続ける彼にとっては任務こそが絶対で余計な事を考えない為の手段になっている。兎に角今は一夏の指導の為にアリーナへと急ぐ事にした。思考を教官に切り替えて一夏のメニューを再確認している時にアリーナから大きな衝撃音が感知された。
「……いや違うな」
今日のアリーナは貸し切りではなく多くの生徒達が練習の為に使用解放されている、このような一対一での戦いのような衝撃音は可笑しい。その手にライフルを構え発射体勢を整えながらアリーナへと突撃していく。入った先では漆黒に染まったISを纏ったラウラが武装の一つであるレールカノンを構えながらその先にいる一夏やシャルル、そしてその他の生徒らを威圧するかのように立っていた。
「信じられねぇ、あいつ他の子に向けてぶっ放そうとしやがった……!?」
「ドイツ軍人って怖いね……頭の中までレーベンブロイで出来てるのかな」
その先では一夏とシャルルが訓練を行っていたのだろう、今回はシャルルも混ざって一夏のライフルの指導を行う予定だった。その二人はライフルを持ちながら警戒をして他の生徒らに大急ぎで退避するように促している、手間取る様なら退避できるまでの時間を確保するまでと戦う意志まで見せる二人だが―――ラウラはをそれを鼻で笑うかのようにレールカノンを向け直そうとしていた。
「フンッやっとやる気になったか」
「それも無駄になったな」
「ッ!?」
ラウラはそこで漸く気付いた、背後にスナイパーライフルの照準を後頭部へと向け続けながら迫って来た073の存在に。彼は束からステルスモジュールが渡されており短時間だがISのセンサーだろうと引っ掛からずに活動できる。ラウラは舌打ちをしてカノンを取り下げようとするが、
「動くな」
低い唸り声が、地の底から響き渡るかのような地響きが向けられると身体が硬直した。
「(なぜ、何故身体が動かない……!?私が、このラウラ・ボーデヴィッヒが、教官から様々な事を教えて頂いて此処にいる私が怯えているとでもいうのか……!?)」
動けなかった、身動ぎすら出来ない程に硬直してしまった。生物の本能に直接訴えかけるかのような恐怖が襲い掛かってくる、絶対に逆らってはいけない上位者による威圧は身体を縛り上げる、それは過去にも似たような経験をした事があった。千冬の指導を受け、故か千冬以外には恐怖を感じなくなっていた彼女が感じた久しいそれ以外の恐怖に憤りすら覚えそうになった。
「(こいつが、教官と同じだと……)ふざけるなぁ……!!」
激怒した、彼女からすれば耐えがたい苦痛であり許されない事。自らが落ちに落ちた時に前に進むだけの力を教えてくれた教官たる千冬の顔に泥を塗るに等しい。全身に力を込める、スラスターすら併用して強引に身体を動かした。同時に兵装を起動させてプラズマの刃で背後のそれを切り裂かんとする―――が
「警告は一度だけだ―――堕ちたな軍人」
073は軽く、スラスターを吹かした。同時に体勢を低くした、プラズマは虚しく空を切る。そして地が蹴られた、推進力以上に得られた速度でアーマーがラウラへと突っ込んでいく。
「ぐぅっ!!?」
瞬間的にPICを解除する事で学園内では軽減されていた重量がダイレクトにラウラを襲い掛かる。500キロオーバーの人間が普通ではありえない速度でタックルをしてくる。それをまともに受けて咄嗟に背後に全力で後退する、結果彼女はアリーナの地面に叩きつけられるがそうでなければ襲い掛かってくる073に押し潰されていた事だろう。それを見て073は紛いなりにも軍人か、と呟いた。そしてその後を追うようにアリーナへと降りるとその傍に一夏とシャルルが寄った。
「スパル先生!!あのボーデヴィッヒ滅茶苦茶だぜ、千冬姉の世界二連覇を俺が邪魔したから俺に消えろとか戦えとかもう意味分かんねぇよ!!」
「何とか他の子たちへの砲撃は僕が砲身をズラして回避させましたけど……」
「良くやったデュノア。私怨に狂って理性すら無くしたか、テロリストと変わらんな」
過去に一夏が千冬の二連覇を阻止する為に誘拐され、彼女が助けに行った事は聞いている。その際に情報を齎したがドイツ軍。その縁で千冬がIS部隊の教官として赴任したという事があったらしい、そしてその時に千冬は落ちこぼれ同然だったラウラを指導してその烙印を返上させるほど優秀な物にした……と千冬から聞いたが随分と可笑しな話だ。
極論だが一夏が拉致されなければ千冬はドイツ軍に出向くこともなくラウラは落ちこぼれのままだったろうに。それに一夏とて被害者、彼だって自分が誘拐されたせいで姉の栄光を邪魔したと酷く悔やんだ事だろう。だがその事は彼と姉で話が付いている筈、それをいまさら他人がとやかく言う権利はない。
「テロリスト、か―――」
「せ、先生?」
「―――スパルタン-S-073.これより作戦行動を開始する」
雰囲気が変わった、傍に居た一夏とシャルルはそれを鋭敏に感じ取り理解した。そこにいるのはもう教官としての073ではない。皆が知っているスパル先生などではない、兵士だ、軍人だ、一つの兵器だ。一歩、前に進むと同時に二人は顔を見合わせて後退しピットの入り口近くに待機する。何時でも逃げられるようにしつつも必要であれば援護をする為―――まぁ、彼に援護など必要ないだろうが。
「貴様ぁっ……良いだろう、私をそこまで愚弄するなら見せ付けるだけだ、織斑教官が私に教えてくれた全てをな!!!」
声高に叫ぶラウラの言葉を彼は気にも留めない、必要もない。これからするのはスパルタンにとっての日常、戦闘行動。奇しくも彼女の武器はプラズマの刃、まるでエリートのようだ。ならばそのように対応しよう―――だが殺さないように注意は払っておこう。
「行くぞ」
鬨の声とは思えぬほどに小さく静かな宣言をもって、073は本来のスパルタンⅡとしての活動を開始した。
スパルタンとミョルニルアーマー
スパルタンの象徴であるミョルニルアーマーだが所謂エナジーシールドが搭載されたのはMk.Vから。それ以前は動力源がバッテリーでシールドも存在していなかった。
このスーツが完成しスパルタン達に受け渡されたのはHalo:Reachの開始時くらい……なのだが逆に考えて欲しい。スパルタン達はこのスーツを受領するまでの間エナジーシールド無しでコブナントから「悪魔」と恐れられる程無双を続けていたことになる。