「レイ様、そちらのISは此方にて」
「確かに渡したぞ」
「はい、それでは」
医務室近く、壁の中に隠されているエレベーターから現れた束の助手であるクロエへとラウラのISを渡した073は医務室へと足を踏み入れた。如何やら常駐している筈の学医は席を外してしまっているらしいので勝手にベットの一つを使う。本気こそ出していなかったがそれでもアーマーの出力でISを屠る事など容易い。故に加減は必要になる、地面への叩きつけは絶対防御のシステムで搭乗者を守れる範囲でのダメージという計算があったので行った。
「……手当はするか」
彼女自身の行いがあったとはいえ今ある負傷は自らの手によるもの、年頃の娘の身体に傷があるというのは嫌だろう。幾ら軍人であるとはいえ気にする者は気にする、スパルタンでもそのような者はいた。逆に敢えて傷を多く負ってそれらを自らの勲章、歴史として受け入れて今ある命に感謝しながら戦っていたスパルタンを知っている。
「久しぶりだな……」
サバイバル訓練と同様に応急処置などの訓練も十分に受けている、加えて此処はIS学園の医務室。質の高い医療器具や設備が備え付けられている、そこならば応急処置程度の知識しか持ち合わせていない073でも本職に迫れる診断や治療を施す事が出来る。文句が出るかもしれないがそれはラウラの自業自得として受け入れてもらうつもりでいる。
「打撲が主だな……後は軽いの火傷……ショットガンの熱か」
診断を終えると割れ物を扱うような手付きで慎重に治療を施していく。流石にミョルニルアーマーを着用したままでの処置は殆ど経験がない、やるなら他の者に任せて警戒などを行う方が実に効率的。しかも相手は幼い少女だ。猶更緊張する、僅かな力加減のミスで彼女の足や腕が使い物にならなくなりましたでは笑い話にもならない。
黙々と作業を続けていくが気遣いもあってか時間が掛かってしまった、それでも学医が見たら完璧すぎてやる事ないという事必須な出来前。そんな治療が済み073は退出しようかと思ったのだが……その時にラウラの意識が覚醒した。
「……ここは」
「医務室だ、起きたようだな」
「―――ッ!!」
視線を彷徨わせてその先にあった悪魔に思わず身体を抱きしめるようにしながら怯えた瞳を向けてしまう、そんな光景に当然かと溜息を吐きながら近くにあった椅子に腰かける。室内なのでPICは確り作動させているので彼本人の体重分しか掛かっていないので壊れたりはしない。
「お前は……私は、いや負けたのだな……」
「ああ」
「……」
「頭が冷えたか」
「……」
その問いかけに静かに頭を縦に振る、良くも悪くもあの時は頭に血が上っていたのは確かだろう。
「ハッキリ言うが今のお前は軍人などではない。民間人への向けての砲撃、数々の暴言に反抗……テロリストと揶揄されても致し方ないのは理解出来るな」
「……ああ」
「今回の事を踏まえて織斑女史への報告はする」
それを聞いて彼女は酷く怯えるように身体を震わせた、この世の終わりのような表情を作りながらシーツを握りしめるようにしながら恐怖と戦っているように見える。それだけ彼女にとって千冬という存在は余りにも巨大であるという事の表れだろう。
「だがその前に話をしよう、何故お前は織斑にあそこまで固執する」
「……私は、教官を尊敬している……」
諭されたわけでもなく単純な興味本位の質問だった、なのにも拘らずラウラは自ら理由を話し始めた。彼女は完膚なきまで叩きのめされた敗北者、敗北を喫した故に勝者の問いに応えなければならない、それも千冬から教わった事の一つだったらしい。
そしてそこで話し始めていく理由、彼女自身は人工的に作られた人間でありラウラというのも識別を行う為の物でしかなかった。故か自己表現として強さを求めた、IS適合移植手術の失敗によって"出来損ない"の烙印を押され、その境遇から自分に歩む力をくれた人、自分をラウラという個人として扱った教官である織斑 千冬を心酔した。同時に千冬の圧倒的にして完璧な強さに憧れ、その名誉に汚点を残す元凶となった千冬の弟・織斑 一夏を憎み、また嫉妬していた。
「成程、だがお前とて理解しているのだろ」
「……ああ、織斑 一夏が拉致されなければ教官がドイツに来ることもなかった……いやそれ以前に奴とて大きな被害者である筈なのに……それから眼を反らして理解しようともしなかった……」
本当は理解していたのにしなかった。目を背けていた事も確りと理解していた、軍人などではないという真実を突かれて荒れたのも同じ。
「私には家族がいない……誰が母で父なのかも分からない……そんな中教官だけは私を見捨てずに自主練にも付き合ってくださった……私が家族と呼びたいと思ったたった一人の方だったんだ……」
そんな人の栄光を邪魔したのが本当の家族、家族ならばそうしない筈だと思ってしまったのだろう。一歩引いて考えればわかる筈の答えを見なかった、愚かすぎる自分が心底嫌になっていた。今回の一件で千冬からもきっと見放されたに決まっている、もう自分は完全に孤独なのだ。失望と絶望のそこにいるような表情をしている彼女に073は言った。
「家族の定義とはなんだ」
「それは……血縁などではないのか」
「私にも家族がいる、いや居たと言うべきか……」
それはいくつかの意味を持つ、それはスパルタンである彼にとっては非常に重い言葉だった。何故ならば―――彼の本当の家族からすればレイという人間は既に死んでいるという認識なのだから、肉体的欠陥を持つ即席クローンを使った拉致の隠蔽、073に実の家族は既に存在しない。
「私にとっての家族は共に訓練を重ねた者達、そして共に地獄を踏みしめて前に進んだ者達」
「お前の家族……」
「ああ、家族の為ならば命を投げ出す事も厭わない。そんな絆で結ばれた素晴らしい家族だ」
「……羨ましいな、そんな人達がいて」
紛れもない本音のだったのだろう、だがラウラは何も知らないからこそ言えてしまうのだ。その言葉の意味と孕んでいる重さが。彼女からすればそうなのかもしれない、だが自分はその家族と二度と会う事は出来ない。声も聞けない、家族と呼びたい者がいるだけ恵まれているとさえ思える程だ。
「……不躾かもしれんが、話を聞いてもいいか。篠ノ之 束が送った人間に興味が、ある」
「―――自分にだけ過去を話させたことが不満、とでも」
「い、いやそういう訳では……」
慌てるラウラは年相応だった、軍人と言われても理解されないだろう。故だろうか、その時073は彼女をラウラとして見ていた。だが073は彼女の頭を軽く撫でながら立ち上がった。
「織斑女史の説教の後にでも話してやる、それと女史に口添えはしておく」
そう言い残して医務室から出て行くと直後に千冬が向かってきた。肩で息をしながら慌てている彼女はまくし立てるように迫る。
「ス、スパルお前……!!」
「落ち着いてください織斑女史、もう片付きました。ボーデヴィッヒですが加減してやってください、既に反省と罰は与えてあります」
「お、お前な私はお前についての事を言っているんだぞ!!?」
「お気遣い感謝します、ですが私は仮にも博士の護衛を任されています」
その言葉を受けて千冬は漸く冷静さを取り戻したのか深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。確かにラウラの事を深く知っているが故に慌てていたがあの束が自らの護衛を全て委託した上で戦闘を前提にして調整したアーマーまで預けているのだから強くて当然、なのだろう。仕事の疲労もあって思考力が鈍っていたのかもしれない。
「では後はお任せします、それと……彼女の感情と話も受け止めてあげてください」
「……お前がそこまで言うとは珍しいな、分かったじっくり話を聞いてやるとする」
ラウラの事を千冬に任せながら彼はその場を離れていくのだが……その途中で思わず自分を戒めた。自分は何を言いかけたのだ、何を言おうとした……少し前から現れているそれに危機感を覚える。
「―――愚かな考えは捨てろ……何を考えている……」
スパルタン-S-073、彼は欲してしまっている……自らと同じ仲間を。
《ブルート》
正式な種族名 ジラルハネイ
ゴリラとクマをミックスしたような種族で、コヴナントでは最も新参。粗野粗暴粗雑の種族で、コヴナントに加盟するまでは3回ほど核戦争が起こり滅亡寸前まで衰退していたらしい。無限ループって怖くね?
が、暴力という一点のみでは他の種族を圧倒する程。ミョルニルアーマーを着たスパルタンを腕力で圧倒するほど身体能力は優れている……のだが、お世辞にも頭は良くなく先述した核戦争がそれを現している。
脳筋馬鹿ゴリラとファンからは呼ばれ、脳筋突撃を行うと発想がブルートと言われる程に脳筋な種族。