唯々言葉が出なくなった。静かに盗聴器とリンクを切る事しか彼女には出来なかった、立ち尽くしながらも不意に足に力が入らなくなって座り込む、聞いてはいけないものを聞いてしまった。明らかに興味本位などの理由で許される類のものではなかった。
「―――レイ君もよくもまあ話してくれたもんだね……」
束はそれを聞き終えると辛そうな表情を作りながらもコーラで喉を潤す。彼が話していた内容は上手く暈かされていて真実の部分は秘匿されている、UNSCやコブナント、植民地惑星などの事は確りと隠されている。彼なりに上手く伝えようとしたのだろう。
「束、つまりお前が会った時奴は……」
「そう、たった一人だけ残されていたんだよ。他のメンバーは全員戦死で地獄を歩き続けていた彼、単純な興味で彼を救ったんだよ―――事実を知っていたらそのまま死なせてあげただろうけどね」
自罰的な表情を浮かべながらラウラのISへの作業をし続ける束は応える、仮に自分が彼の事情を知っていたとして出会ったとしたら確実に彼を生かすなんて事はしないだろう。寧ろ彼を生かす事こそが彼にとって罰になってしまう、スパルタンとして生き抜き、最期には仲間と共に死を前にしても恐怖する事なく前へ前へと進み続けた。その果てに迎えた終局ならば彼は喜んで受け入れた筈だ、彼もそう言っていた。
だが運命は残酷にも彼を生かしてしまった、惑星リーチにて果てる筈の命が何故か全く別の世界へと転移した上で命を助けた。
「人類の為に戦い続けて彼はその大義の旗の下で死ぬはずだった、だけど彼だけは生き残ってしまった。彼にとってこの世界は地獄に等しい、家族の下には戻れず家族と仲間は全員死に絶えた」
「……奴にとってこの世界はまるで牢獄だな」
「良い表現だね、だからこそ話しちゃったんだろうね。絶対に話してはいけないとされた軍事機密を、レイ君は仲間を欲しがってるんだろうね―――無理だと分かっていても」
同胞を望む、単純な仲間などではない。同じスパルタンを求めている、千冬もその気持ちは痛い程に良く分かった。ドイツ軍に教官として出向した時も時たま同じ日本人と晩酌をしたいと猛烈に思った事がある、それとは比較にならない思いだろうが似たような方向性の想いがある。だがそれを求めてはいけない事を彼も分かっている。
「でも少しはスッキリしたろうね、自分の事情を知ってくれる人が増えたわけだから。だからち~ちゃんの事も全く怒ってないと思うよ、お話があるなら直接どうぞっていうのも次はちゃんと顔を合わせて話をしましょうって事で次会う時に変に持ち越すなって事でもあると思うよ」
「随分、と理解しているな……」
「まあ束さんが現状理解しているからね」
そんな彼の為に第五世代の開発と並行してある物の開発を進めている、それはある意味彼の要望を叶えるに近い物。正確には違うだろうが慰め程度にはなるだろうと思っている、その程度になればいいとさえ思っている。それは奇しくも―――レイが戦死した後の世界にてスパルタンⅣと呼ばれる次世代のスパルタンが纏うアーマーに酷く酷似している物が束の目の前の画面に映し出されていた。
「―――済まない、このような話をしてしまって」
「い、いえ元を正せば私が話を聞きたいなどと宣ったからです!!」
「私も、卑しくもその場に残り続けたせいですわ……レイさんが謝る事など……!!」
話を終えたレイ、いや073は二人を部屋へと送り届けた後に巡回を再開した。二人には突然重い話を聞かせてしまった事は悪いとは思っている、だがそれを二人は確りと受け止めた上で絶対に公言はしないし味方であるという事まで言ってくれた事には嬉しさすら湧き上がっている。彼自身も自らの素性を明かし理解者を得た事は幾分かの救いにもなっていたのか胸の中にあった重さが少しばかり軽くなっていた。
二人に自らの素性を明かしたのはラウラへのケジメという意味もあったが自分の中にあった思いを少しでも発散したいという打算が無いわけではなかった。結果的に僅かながらに解消されているのは事実、軽くなっている胸を躍らせる訳ではないか少なからず聞いてくれた二人には感謝を、そして新たに知ったもう一人には後日確りと話をしておかなければと誓うが、同時に胸の痞えが僅かにしか取れていない事にため息が漏れてしまった。
「儘ならん、というのだったかな……」
010、047。スパルタンⅡ計画に参加していた仲間の中には日系人も存在していた、彼らがそのような言い回しをしていた事を思い出しながらも矢張り同胞を望んでいる事に嫌気を覚える。ラウラは自分達に似ていると思っているがセシリアにも同じような思いを抱いている。彼女の射撃技術は成熟しきれば人類随一になるだろう、と思う反面でチーフのブルーチームに所属し最高のスナイパーだった058を連想してしまった。我ながら危険な兆候だと思わずにはいられなかった。
「……博士に精神安定剤でも依頼してみるか」
その様に考えてしまう程に、輪をかけて同胞の事を連想するようになってしまっている。今まで考えもしなかった筈の事、唯同じというだけで此処まで考えるようになっている……スパルタンが聞いて呆れてしまう、そんな思いを携えながら巡回を続けていると此方へと誰かが走ってくるのをモーショントラッカーが捉える。振りむくとそこには一夏の姿があった。
「廊下は走るな、と言われなかったか」
「す、すいません先生……そ、その先生どうしても聞いてほしい事があるんです、今すぐ俺の部屋に来て貰えませんか!?」
「恋愛相談なら専門外だぞ」
「んなもんじゃないです!!」
と強引に自分の手を引っ張っていこうとする一夏にただならぬ事なのだろうと察して付いていく事にした。そして連れていかれた先で073が見た物は……
「シャルルは女だったんですよ!!?」
「え、えっと……はいそうなんです……」
「おい織斑女史と山田女史を過労死させる気か」
流石の073もそんな言葉を発するのが精々になる程の衝撃を放つ光景が待っていた。
スパルタン-087 ケリー
スパルタン最速の女戦士。徴兵時には実に6時間もの間、ONIエージェントとの「鬼ごっこ」から逃げ切ってみせた。
その俊足は訓練と強化手術を経てさらに強化され、チーフからは「本気になれば誰も触れる事すら出来ない程速い」と評される程の超俊足を誇る。チームではその俊足を活かした囮役の「ウサギ」として、数々の困難な任務の突破口を開いてきた。