「頼る時は見極めて、だけど頼る時は素直且つ速攻で頼れと確かに言った。だが限度を知れ」
「いやだってこういう問題って速攻でぶっちゃけて助けを求めるのが一番じゃないですか!?それに今千冬姉とかに求めたら更にやばい事になりそうだし……」
「私でも同じだ……」
同室となっている一夏とシャルルの部屋へと連れていかれた073、そんな彼を連れてきた一夏はシャルルと共にある事実をぶっちゃけた。シャルルは男ではなく女だったという事である、本当の名前はシャルロット。
フランスが誇る世界第3位のIS産業会社 デュノア社の社長と愛人との間に生まれた少女。そんな彼女は未だに第三世代の開発の目途が立たずに焦りを浮き彫りにした社長の命令で男性IS操縦者として学園に潜入して情報収集と可能ならば一夏の専用機のデータと073のアーマーデータの確保を命令されているとの事。
「……確かにどちらかと言ったら男装した少女だと言われたら納得はいくな、なんだそのお粗末な男装。それで男装の麗人を名乗るつもりか、それ以下だ。ボーイッシュガールにも届かん」
「ううっ……」
此処の教師も皆思っている事、余りにも女性的過ぎる。世の中には男の娘という極めて女性に近い外形をしている男性も存在する、何も知らなければ本当に女性に見える人さえいる。それを名乗るにも声や所作、見た目も余りにも女性的、お粗末にもほどがある。しかし女尊男卑の一方でトランスジェンダーに関する問題も大きくなっているので表立って指摘などはしづらくなっていたのでされなかったが……やはり女性だったか。
「織斑、何故女だと見破った」
「いやそれは……」
「じ、実はシャワーを浴びてたら……中にゴ、ゴゴゴ、ゴ、ゴキブリが居て……」
「―――はっ?」
流石のスパルタンさえも呆気に取られた。ラウラの一件で軽い事情を聞かれた二人はそのまま部屋に戻されたのだがその後に軽く話し込んだ後にシャワーを浴びる事になった、先にシャルルが浴びる事になってその間に一夏は冷たい緑茶を準備していると浴室から絹を裂いたような悲鳴が木霊した。
『な、なんだぁ!?』
『い、いいいい、いちきゃああああ助けてぇぇぇぇゴキブリがぁぁぁ!!!』
『シャルル大丈夫かってブゥゥゥッッ!!?』
思わず噴き出してしまった、シャワーから飛び出してきたのは身体に軽く纏わりつく程度にバスタオルを纏ったシャルル……だと思ったら明らかに胸に膨らみがあり男ならばある筈の物がないシャルルだった。思わず凍り付いたのだが泣き叫ばれたのでゴキブリを駆除した後に話を聞いたらそんな事が明らかになった、との事。
「……ゴキブリって……仮にも
「だ、だってゴキブリですよ!?それが突然顔目掛けて飛んできたんですよ!?そりゃ悲鳴上げて逃げ出しちゃいますよぉ!!女なら正常の反応ですってばぁ!!」
「そのせいでお前一世一代のおおポカしてんだぜ」
「うぐっ……」
『あらメットに虫付いてるわよ』
『全く邪魔ねぇ……』
『何だ普通の虫じゃないの、ドローンかと思って損したわ』
『まあここの虫はでかいもの、無理ないわ』
過去の記憶の中の女スパルタン達、彼女らは全く虫など恐れる事無く目の前に飛んできても無視するか叩き潰すのが当たり前だった。アーマーこそ付けているがアーマー受領前にも同じような事をしていた、なので073的には彼女の主張はいまいち理解出来ない。そもそも彼らが戦っていたのはエイリアンであり、その中にはミミズのようなワームが有機的に結合してスパルタンですら恐れる程の重装歩兵となって襲い掛かってくる事もあった。故に怖くなどない。
「はぁっ……それで織斑、私に何を相談したいんだ」
「いえその……これから如何するべきかなぁと思って……」
唯々漠然とした感じで相談を持ち掛けてきたのか、と流れ呆れそうになるのだがきっと一夏としては事情を聴いて放ってなど置けないのだろう。だが自分では如何したら良いのか分からないので師匠的なポジションにいる073に相談したのだろう。千冬にいきなり相談するよりはマシだろう、彼女の胃的な問題で。今の多忙な状態の彼女にこの話をもって行ったら確実に倒れる。過労とストレスで絶対に倒れる。
「織斑、お前とて理解はしているんだろう。普通に考えれば彼女が如何のような処遇になるのか」
「……はい。強制送還、その後に裁判とか投獄……ですよね多分」
「凡そな、デュノア社も追及を受けるだろうが確実に切り捨てられる」
普通に考えれば彼女の罪は酷く大きい、強制的な本国への送還は当然としてその後の処罰すら容易に想像できる。余談だが073の部下のスパルタンⅢ達は命令無視を行う事が多数だった、加えて任務は完璧にこなすので質が悪い物だった。流石に彼が指揮官になってからは激減したが……。
「っつっても先生、デュノア社が男装させて送り込むメリットってあるのか?」
「ないな。データが欲しいだけならばさせる必要もない、バレたら会社の解体どころか国家そのものの地位が低下する。その過程で生じる損失は莫大だろう」
「ですよね、俺でも分かりますもん。なあシャルロット、男装って誰に命令されたんだ?」
「社長からだよ、言われたのは側近の人からだけど」
シャルロットは最早力がなく、屍同然のような死んだ瞳でそれに答えてしまっている。もうどうせ自分に明るい未来なんてないんだ、だったらその前に洗いざらい喋っても良いだろうと自暴自棄になっている。
「……ねえ先生、これって完全に可笑しくねえですか。デュノア社って何がしたいんでしょ」
「……社長に責任を押し付け失脚をさせる為に反社長派が仕組んだ、としてもダメージがでかすぎるな。会社どころか国そのものが揺れる」
「って事は……デュノア社を敵対視する海外メーカーの策略とか……すかね」
「妥当な線だが証拠は何一つも無い」
だとしても自分達が何をする必要なんて欠片も無い、彼女は任務を与えられた。その遂行中に凡ミスで自らの任務を台無しにしただけの話。それに073の任務は束の護衛と教官職のみ、彼女の将来なんて気にする意味がなく何かをしてやる義理なども全くないのである。寧ろ束の親友の千冬の弟である一夏の身を狙っているというだけで自己判断で彼女をこの場で殺す事すら許される存在。
「……」
思考を巡らせる振りをしながら彼女を殺すべきか否かを思考する、何方が有益かと言えば殺す方に傾くのだろう。彼の立場を考えればそれが正解になる、下手に公にして国家の危機を齎すよりも事故に見せかけて始末した方が問題も起きづらく起きたとしても小さい物で済む。ならばそうすべきでは……と思う傍らで一夏とシャルロットが会話をしている。
「なあシャルロット、親父さんとお母さんって仲良かったのか?」
「うん凄いラブラブだったって聞いたよ、でもお母さんが身を引いたんだ。僕もお母さんが死んじゃってデュノア社の人が来るまでお父さんが社長なんて知らなかったもん。お父さんとしても僕の事がバレるとまずいって思ってたみたいだから」
「そんな人がこんな危ないことするかぁ……スーパーハイリスクローリターンだぜ」
「でももういいよ、お母さんも死んじゃってからもうずっといい事なんてなかったし……もうここらで諦めるのが良いのかもね」
そんな彼女の姿が如何にも胸に突き刺さって来た。それは彼自身が元々両親から愛を受けていたがそれを受ける事が出来なくなったからか、それとも戦災孤児故に愛する家族を奪われたスパルタンⅢを率いていた為なのか……涙目になりながら力なく笑っている彼女の姿が妙に痛々しく突き刺さって来た。
「先生……?」
「―――」
気付けば彼女の頭に手を伸ばして優しく撫でていた、唯単に彼女の境遇が自分に似ているというだけではなくスパルタンⅡの基本教育として市民への奉仕がある事も影響しているだろう。可能であれば人々を救う英雄でもあるのがスパルタン、戦場にてその姿を見る事が出来れば生きて帰る事が出来ると言われる程の影響力を持ち合わせる存在。そんなスパルタンは英雄として確立されており、彼もその一つとして使命は全うしてきた。
「織斑、私が初めてだな話したのは」
「当然です、というか最初は千冬姉……と思ったけど男の先生の方が話しやすかったというのが本音っすね」
「良し。この件は私が預かる、博士に協力を仰いでみよう」
「あっそっかスパル先生って束さんと連絡取れるんですもんね!!?」
一夏は束がこの学園に居る事を知らないので純粋に連絡が取れるだけだと思っているが、それでも十二分なワイルドカードになりえる。思わず咄嗟に相談した相手が最大級のジョーカーだとは思っていなかった模様。
「え、えっ……!?」
「これなら多分大丈夫だ!!シャルロットお前安心していいぜ!!」
「私が言うのもなんだが織斑、お前諮られたかもしれなかった相手をよくもそこまで」
「いや実際俺何もされてませんし、寧ろ俺裸見ちまった負い目ありますし……」
「あ、あれは事故だから僕は何も……」
その程度で此処まで喜べるのだから一夏自身の善性の強さと優しさが垣間見える。少々甘すぎる気もするが……。
「打算込みで、という事だ。これを使えばフランスとデュノア社の弱みを握った事になり博士も切れるカードが増える事を意味する」
「あっそっか、束さんって国際指名手配されてるから身を守る手段が増えるって事か……」
「護衛を任命されていたものとしては見逃がす訳には行かない。だが―――安心しておけ、君は必ず救おう。スパルタンの名に懸けてな」
「あっ―――」
もう一度、強く頭を撫でてやった後に離れていく酷くゴツゴツしていたアーマー越しの手。だが彼女はその感触が狂おしくなる程にその温かさが恋しくなった。思わず伸ばした手は空を切らずに073の腕に触れる。装甲の冷たく硬い感触だがもっと触れたいそれに彼はもう一度軽く触れてから部屋を出た。
「〈博士、聞いておられたんでしょう〉」
『うんバッチリね、彼女の事は前から調べててね。漸く全部の裏が取れた所、いやぁ創設以来の全データに目を通すのって面倒だねぇ』
「〈申し訳ありません、私の独断で無用な行動をする事になるかもしれません〉」
『フフフッいいんじゃないの、困ってる女の子を見捨てない先生っぽくて素敵だったよ。それじゃあ話したい事もあるからこっちに顔出してね』
「〈分かりました〉」
ドローン族
コヴナント側名称:ヤンミー
キチン質の外骨格と羽を持った昆虫型エイリアン種族、見た目は空飛ぶコガネムシ、あるいはG。
コヴナントへの加盟には当初反発的で、双方が億単位の犠牲を払う大戦争に発展したのちに和解した経緯を持つ。戦争が長引いたのはコヴナントがドローン語の翻訳装置の開発に手間取ったため。
見た目に反して手先が非常に器用な種族であり、コヴナント加盟当初は武器・兵器の整備を担当する作業員として役立っていたが、新たにそちら方面で優れた種族が加盟したので整備担当を取って代わられ戦場に兵士として放り込まれる若干可哀想な種族。