IS×SPARTAN   作:魔女っ子アルト姫

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073、千冬、戸惑い。

「あ、あの先生……えっと、その昨日の事なんですが……」

「ああ。対処は此方でしておく事に決まった、そして―――安心していい、お前は愛を受けている」

「えっあのそれって……」

「放課後に話してやる」

 

授業の移動中にシャルルから話をしたそうにされるが此処では話せない内容も多分に含んでいるので放課後にすることを決めておきながら外へと移動していく。

 

『あの方が博士の言っておられたシャルロットさんですね、あれでよく男性と偽っておりますね。バレる前提だとしても最低限度にも程があると思うのですが』

「〈聞いているんだろう、バレていいんだろう〉」

『だとしても凄いと思います、人間は不思議です』

 

メット内から直接脳内に響いてくるかのような声に返答する073の声、それはイグが制御しているのか外に漏れないようになっている。それも彼女なりの気遣い、喋りたいときには遠慮なく喋るようにと。幸い表情は隠れているのだから音さえ漏れなければ幾ら喋っても問題は起きない。それは主人と喋って話を聞きたい彼女としても利がある。

 

「〈それと073だ、マスターはやめろ〉」

『ではレイさんとお呼びしても宜しいでしょうか、外部には漏らしませんし聞かれるかもしれない時には変えますので』

「〈それならいい〉」

 

奇妙な関係になりつつあるが、外に出向く途中もイグズーべラントからの質問は続いていた。スパルタン計画の事も束から情報を提供されており自分のパートナーとして生み出された事を強調するように話してくる。束にも自分が同じ存在を求めている事が筒抜けになっている事に少し気落ちしながらも、話相手が出来たと思っておこうと気持ちを切り替えておくのであった。

 

「今日は以前も行ったIS稼働訓練を行う、今回は一組のみだが基本は同じだと思って貰って構わない。まあ違いがあると言えば……今回は織斑女史が居る程度だ。普段通りに頑張ってくれ」

『全然同じじゃない……!!』

 

生徒らからすれば千冬がいる事によって緊張感がとんでもないレベルになった。何かしらのミスで怒られるのではないか、手を抜く事は絶対に許さないという空気の中で授業が始まってしまうのであった。だが千冬が今回いるのは明確な理由が存在する。それは前回の二組での合同授業でラウラが責任放棄をやらかしたらのでその監視として参加している。のだが―――

 

「そ、その……前回の授業で私は余りにも失礼な事をしてしまった……許して貰えるのならばその、務めさせて貰えないだろうか……」

「え、えっとそれじゃあボーデヴィッヒさんその……私達前回の授業も一緒だったんだけど、最初から教えて貰っても良いかな。まだまだ基本が全然で……」

「分かった、精一杯務めさせて貰おう」

 

その心配も必要なかった。前回の稼働授業とは全く別人と言えるような態度と丁寧だが何処か大胆な教え方、自らが受けた軍での訓練を一部アレンジしたかのような教え方は僅かに厳しさを感じさせるが、一度乗り越えれば乗り越えたという実感が甘さとなってクセになる。それを味わう為に真面目に取り組ませる、その気になればあれだけやれるだけの力は持っていたラウラ。それを見て千冬は肩を竦めながら溜息を吐く。

 

「私が言えた事ではないかもしれんが最初からそのように教えてやれ」

「全くです、お話は良かったのですか」

「じっくりと話を積んだ。些か話過ぎたかもしれんがな」

「その位が良いのでしょう」

 

沈黙、互いの間に言葉が無くなった。

 

「(い、いかん話が続かん……)」

 

千冬としては先日のラウラとセシリアに話していた事を盗聴していた事への負い目があるのか、罪悪感が重さとなって唇を重くなり閉ざしてしまう。

 

『チーフさんにもそのような時代が』

「〈確かターキーとポテトにコーン、デザートにチョコケーキとアイスクリームだった。チーフも当時の事は未だに覚えていた、きっと今も覚えているだろう〉」*1

『私の想像以上にお茶目な方ですね』

 

対する073は生徒らを見つめながら問題もなく順調に進んでいる事に満足感を示しながらも話しかけてくるイグの相手をする事にしている。当然何時でも対応出来るような思考を作りながらの会話、ある種の並列処理(マルチタスク)。狙撃手として銃を握りながら狙いを定めながらも自身の周囲への警戒も全く解かなかった者としては楽な処理なのだろう。

 

『(矢張り過去のお仲間の事になると饒舌になっています、それだけの絆で結ばれているのですね)』

 

イグはイグで会話をしながら073の事への分析と考察を繰り返していた。彼の話は非常に興味深い上に聞いていて飽きる事は無い上に彼の事を知るの上で必要になる。その中で彼が仲間の事ではかなり饒舌になる事が分かった、声色も心なしか弾んでいる。

 

千冬からすると無言のまま、前方を見つめ続けているスパルタン。気まずい空気が流れている中、千冬は意を決しながら深呼吸をして他の生徒に聞こえない程度に小さく、だが相手が聞き取れるように話す。

 

「……済まなかった、愚かな事をしてしまった……私は単純にお前に多くの借りが出来ていた、それを返す為の材料を得たくてな……それと好奇心に負けてしまってあんな事を」

「私は気にしていません」

「―――っ何故だ、私は……」

 

スパルタンⅡ計画を知った千冬としてはそれは信じがたい言葉、あれほど壮絶で他人に聞かせるべきではない話。それを教え子に盗聴器を忍ばせて盗み聞きしたのにも拘らず気にも留めないのは理解出来なかった。

 

「私は自ら一切の素性を語りませんでした、それが原因です」

「あのような過去ならば隠して当然だろうに……」

「その行いが織斑女史の好奇心を不要に刺激しました、申し訳ありませんでした」

「……謝罪すべきは私だ、お前が謝る事など無いのだ……」

「ならばこれで終わりにしましょう」

 

そう言い切るともう生徒からアドバイスが欲しいと言われるまで口を開ける事は無かった。そちらへと向かって行く姿を見送りながら千冬は彼がそう言うならともうそれ以上言うのをやめたのだが、束に相談して彼の力になる事を決意する。

 

「(あの精神も計画によって模られた物なのだろうか……本当の彼は何処にあるのだろうな)」

 

073は未だにスパルタンである事に徹する。彼にはもうそれしかないのかもしれないと察する事は出来るがそれは同時に彼の内面の状況をよく表している事にもなっていた。その事から読み取れる彼の内面、言葉に出来ない程にぐちゃぐちゃになっているであろうそれを支えたいと思いながら自分に何が出来るのかを冷静に判断する所から始める事にした千冬であった。

*1
計画参加直後の117(ジョン)はチームワークが苦手で、仲間を無視して単独行動をとって夕食抜きにされた事があり、その時の事を後年まで覚えていた




HALOユニバースにおけるAI

HALO世界における人類が生み出すAIは、人間の神経回路を超伝導ナノ・アセンブリッジによってそのまま複写することによって製作される。これにより元になった神経組織は重篤なダメージを負うため基本的にAIは死者の脳からしか作れない。が、中にはクローンを使う事でAIを作り出した、という事例も存在している。

そうして生まれたAIはメモリ・マトリックスの制限によって「賢い(Smart)」AIと「馬鹿な(Dumb)」AIの二つに分けられる。「馬鹿な」AIも人間とは比べ物にならない圧倒的な処理能力を持つがメモリ・マトリックスに制限がかけられているため「想像力」に欠ける。
「賢い」AIはその制限が無いためその知性はどこまでも成長するが、やがては「考え過ぎる」ようになって機能に異常をきたし、発狂へと至る。
このAIの「寿命」はおおよそ7年とされその活動期間を過ぎたAIは処分されるが、中には異常をきたしながらも7年以上稼働を続けるAIも存在する。

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