放課後、073としては日課に近くなってきた訓練への付き添い。今現在一夏は鈴と箒、そして軟化したラウラに近接戦を見て貰っている。
『その、織斑……申し訳なかった……私が愚かだった。良ければ私の謝罪を受け入れて貰えないだろうか……許してくれとは言わない、ただ私の想いがそのような方向にあるというだけを理解して欲しい』
『いやいいさ、スパル先生が俺の分までやったくれたしもう何も思ってないぜ。自分で悪いと思って謝罪して貰えれば満足だ。んじゃ詫び代わりに俺に色々教えてくれよ』
『―――っ……あ、ああ任せてくれ。但し私のはドイツ軍仕込みだ、キツいぞ』
『スパル先生のもきついから大丈夫だろ』
最初こそ戸惑いがあったようだが一夏はラウラと打ち解けあう事が出来たらしく、鈴や箒と交代交代で打ち合いをし続けている。本人も一夏の技量には驚きを隠せず、徐々に本気を出していった。そして073に止められずに戦っていたと仮定した場合、あの場にシャルルもいたので負けていたのは自分である可能性が高い事を知って自分の浅はかに遠い目をするのであった。
「オルコット、射撃の感覚をコンマ5遅らせてみろ」
「はい」
其方を二人に任せながらも催促を受けたので彼はセシリア、そしてシャルルの射撃訓練の方を担当する事になった。代表候補生である彼女の射撃技術は純粋な経験を積んでいく事が最大の訓練になるので下手な指導は必要ない筈だが、余りにも熱いアプローチをかけてくるので根負けする形で見る事になった。細かく素早く動き続ける標的への狙撃訓練、だが彼女は上手く捉えられない。そんな彼女が構えるライフルへそっと手をやる。
「せ、先生!?」
「偏差射撃は見事だ、相手の機動計算にも淀みは無いが機械的に考えすぎだ。考えるのではなく感じ取った物へ直接打ち込めばいい」
彼女のライフルを導くかのように即座に向ける、そして柔らかく細い指越しにトリガーを引いてやる。撃ちだされた弾丸は人型のターゲットの頭部の中心部を完璧に貫いた。唖然とする、あの動きは幾つかの想定機動パターンとして計算していたが一瞬でそれを導き出して放った事が驚きだった。
「計算は淀みがない、だがたった一つの計算の誤差が答えを変えてしまう。計算は参考、答えは感覚」
「私にはまだまだ届き得ない境地ですわ……」
狙撃の境地の一端、それを覗いてしまい気落ちする。セシリアは何方かと言えばマニュアル通りに学んで伸びていくタイプ、所謂感覚的に物事を教える事は苦手且つ体感して得るにしても、得た物を結局計算してしまうので感覚を得る事が中々出来ない。
「気にすることなどない、千里の道も一歩よりだったか……小さな物事の積み重ねこそが未来への近道だ。今は実感がなくても繰り返していく事、そして偶に振り返る。そうすれば積み重ねた一歩の大切さがわかる」
「―――はい。そ、そのでしたらこれからもご指導ご鞭撻をお願いします!!」
「私などいなくても君は一人で歩けると思うが」
「いえ、狙撃のお手本となるべき先生がいらっしゃるのです。是非ともこれからも見て頂きたいですわ!!」
『あらあら、好かれておりますね』
「〈やれやれだがな〉」
言いたい事も分かるので何とも否定し難い。しょうがないので次の課題を出しておくことにしておく。そんな二人の姿を見る鈴は改めて一夏を短期間であれだけの強さに仕上げた073の手腕に驚きを隠せなかった。単純に強いだけではなくその強さを裏付ける経験の説得力は凄まじい。柔らかだか力強い物言いは努力の実感を信じさせるには効果的。そんなこんなで彼が付ける訓練もアリーナの使用時間が迫ったので終わる事になった。
「さて、間もなく学年別トーナメントが行われる事になる。それに対する備えは各人忘れないように」
IS学園の上半期に行われる、文字通り学年別のIS対決トーナメント戦。1学年が120人前後なので期間は1週間かけて行い、生徒は全員強制参加が義務付けられている一大イベント。1年は潜在的な能力評価に遣われるのだが2年や3年は自らの将来に関わる事になるので必死に取り組む。此処でいい成績を出せればIS関連企業からのスカウトや各国の重鎮などに顔を売る事が出来るからである。
「おっと一つ忘れていたな……例年では個人で行われるが、戦闘経験を積ませる目的でツーマンセルのタッグ戦に形式変更になったそうだ」
「げぇっマジですか先生!?」
「大マジだ」
「マァジィ……俺タッグ戦の経験とか皆無だぜ……」
と今まで完全な個人プレイしか経験のない一夏が嘆きを上げた。基本的にワンツーマンでの戦闘が多かったしタッグの場合は人数の問題もあって出来ずにいた。
「そこを教えてやりたい……と言ってもこれは組む相手を決めてからでないと厳しいだろうな。集団戦闘の場合は単独戦闘とは大きく異なる、ボーデヴィッヒは分かるだろうが考える事が数倍に膨れ上がる」
「うへぇっ……」
それを聞いて思わず一夏が嫌そうな声を上げる。今だって漸く射撃と近接の切り替えに慣れ始めている頃、そこに新しく連携戦闘の思考を付け加えるのは今の一夏では確実にキャパシティオーバー。
「その辺りはお前ら自身で組むパートナーを見定めると良いだろう、候補者は幾らでもいるだろうからな」
「うへぇっ……如何したら良いんだよぉ……」
「一夏私と組まんか」「アタシが組んであげるわよ一夏」
「「……」」
と困惑の声を上げる一夏に全く同時に声が掛かった、その主は当然箒と鈴であった。それを見て始まったと言わんばかりにその他のメンバーは距離を取った。
「シエラ先生是非私と」
「ならば後衛は任せた……私は生徒ではないから無理だ」
「実に、実に残念です……」
「分かって言ったのではないかオルコット……?」
「組みたいのは事実ですわ……」
と心底残念そうな声を上げるセシリアにシャルルは思わずむっとした表情を作ってしまった、訓練の時から思っていたが妙に彼女は073に馴れ馴れしく積極的過ぎる。一体何様のつもりなんだと言わんばかりに不機嫌そうな顔になるが直ぐにそれを切り替えながらも無意識に悪い顔になって言う。
「あの先生、この後お時間ありますよね。ちょっと相談したい事が……そのえっと」
「ああ分かっている、あの件だな。時間は取ってある」
「デュノアさん、貴方シエラ先生と何をなさるおつもりで?」
「それはプライベートにも関わるから言えないね、まあそんな怖い顔しなくてもいいんじゃないの」
「むぅぅぅっ……!!」
明確な挑発行為に少しばかりの苛立ちを見せてしまう彼女を諫めながらも時間が迫っているから解散を強めに言葉にして強引に終了させる。結局一夏は誰と組むのか決まらずに箒と鈴の両サイドからどっちを選ぶの!?と迫れて助けを求めるが、シャルルは073に首ったけ、そして肝心の073はハンドサインで気持ちを伝えた。それは一夏が軍で使っているサインなどがあったら教えて欲しいと言われた時に教えた簡単なサインでその内容は
『健闘を祈る』
である。スパルタンは引き際を間違えない、見事な戦場分析の下で撤退していく彼に恨めし気な瞳で見つめるが兎に角箒と鈴の追及から逃れる為にシャワーを浴びたいからと言って強引に逃げ出した。
「そ、それじゃあお父さんやロゼンタさんは……」
「君を愛している、今もお二人は必死に君を守ろうと努力している。だがもう問題は無いだろう、既に手は打たれた」
応接室へと移動した二人はそこでデュノア社に関する問題をシャルロットへと伝える、今現在も敵対派閥との戦いを行っている社長夫妻だが既に束が行動を起こしている。独自の情報網によってフランス政府や派閥の汚職や横領データなどを大量に入手、言う事を聞かないとこれらを今すぐ全世界へ公開するという圧力を政府へ掛けた。
フランス政府はそれを恐れ、即座に対応を開始したらしい。今現在敵対派閥は適当な罪状で秘密裏にしょっ引かれている。あと数日もすればデュノア社内のゴタゴタは完全に鎮静化し、再びアルベール主導で問題なく会社は運営されていく事だろう。
「それじゃあ僕は……もう……」
「君は間もなく自由になる、それから君が如何したいかは君自身で決めるといい」
あの時のように優しく頭を撫でながら073は目線を合わせるように膝を突きながら優しく囁く。
「本国に戻って両親と暮らすという事も出来る、もう君は自由だ。何物にも縛られずに未来を決めていい。シャルロット・デュノア、その道は君の意志で決めると良い」
そして073は立ち上がって応接室を出た、出る最中に後ろから涙を流しながら声が聞こえたが何も聞こえない振りをしながら応接室の扉に使用中の文字を置いて置いた。
『お優しいのですね』
「〈彼女は我慢した、泣いていいんだ〉」
AIのパーソナリティ
物理的肉体を持たないAIは自分の姿形などはすべて自分自身で決定する。よって外見=性格であると考えてまず間違いない。北欧のプリンセスの姿をした「シフ」、マカロニ・ウェスタン風の伊達男「マック」、半裸のインディアン戦士「エンドレス・サマー」、古き良き時代の飛行機乗りの姿をした「ローランド」、チーフ達の教官の一人であったギリシャ女神風の「デジャ」などなど、多くの個性的なAIが登場している。
ハルゼイ博士曰く、ONIのAIは大抵強烈で芝居じみた容姿をしているとの事。