「……この辺りの筈だが」
束に頼まれたパーツを探す073、彼女が拠点している無人島は表向きは平凡な島にしか映らないが見えない分は完璧なまでに機械化されており複雑な造りとなっている。複数の場所が機材置き場となっておりそこには無造作に様々な物が置かれている。073からしても少しは整理した方が良いだろうと思うほどに散乱しているが、彼女一人では難しいかと思いながらパーツを探す。
「―――それか」
目的のパーツを発見、確保する為にライフルを背中へと回す。磁気によって武器をマウントし手を開けると巨大なパーツのそれを担ぎ上げる。生身の人間からすれば到底持ち上がるような物ではないがスーツのパワーアシストがある彼にとっては米俵同然と言いたげに平然と肩へと担ぎ上げるとバイザー越しにユニットの番号を確認して元来た道を戻り始める。
「(……俺は如何するべきなんだ……)」
異なる世界、異なる時代、そこへたった一人放り出されてしまった。人類の為に戦い続けてきた彼にとってそれは余りにも残酷な仕打ちだった。スパルタンとして人類の為に戦う、そんな使命に燃えるように戦い続けて家族と言えるチームと共に戦場を駆けまわって来た、そんな最後に待っていたのはこんな最後。スパルタンとしての存在意義も無く、己を知る者もなく、唯々漠然とした恐怖が沸々と胸の中に沸き上がってくるのである。感じた事もないような得体の知らない恐怖が……。
「(スパルタンが聞いて呆れるな……エリートやグラント、ジャッカルにブルート以上に怖がっているとは)」
スパルタンとほぼ同等の能力を秘めた戦士、追い込まれると神風を嬉々として行う突撃兵、輝く盾を構えながら迫る斥候、スパルタンを腕力のみで圧倒出来る屈強な巨漢。それらよりも遥かに今の胸の内にあるそれらの方が恐怖があった。戦いに恐怖はあった、だがそれらを屈する事などは無かった。恐怖をコントロールする訓練を受けている、それでも沸き上がるそれを操る事が出来なかった、気付けば元の部屋の前まで戻っていた。それを一度忘れながら入室するとそこには待っていたと言わんばかりに此方を見つめている滝のような涙を流している束の姿があった。
「……スパちゃん、こんな……束さんはそんなつもりじゃ……私は唯、興味本位で……」
何を言いたいのかは彼女の背後にあるモニターを見ると理解は出来た、そこにあったのは己が被験者となって参加したスパルタンⅡ計画。それを見て察する事が出来た、自身は何とも思っていないとしても彼女からしたら計画は余りにも非人道すぎる計画、それらによって未来は刈り取られたと言ってもいいのに……。ユニットを適当な場所に降ろしながら073は応えた。
「……謝らないでください博士、私にとって計画に参加出来た事は栄誉なんです」
「でも、でもでも今君は……此処まで尽くしたのに何の悪戯でこんな所に……!!!」
世間一般で言えば篠ノ之 束は
だが実際は大きく異なっている、彼女はその主犯を押し付けられたに近い。本当の彼女は心優しい乙女、そんな彼女は後悔に咽び泣いていた。興味本位でスパルタンについての情報を求めてしまった事を。そんな彼女に手を置きながら073は語る。
「私はスパルタンになれた事を誇りに思い戦い抜いた、それだけの事です。私の戦死は無駄などではなかった、きっと……あの人が人類の希望になり続けると思っております。だから過去の私のために泣かないでください」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
唯々謝り続けている束。それは此処まで非道な計画に無理矢理参加させられてしまった彼が哀れだと思ってしまった事への謝罪、軽い気持ちで彼の根本へ立ち入ってしまった事への謝罪、様々な謝罪がそこに秘められている。唯そんな事しか出来ない自分への憤りもあった事だろう。だが073は決して彼女を責める事など無い。責める資格も意味も無い。
「今の私にとっての任務は貴方の護衛です、確かに私の人類の為に戦うという使命は既に意味を成さないかもしませんが貴方は私に別の使命を与えてくれている。博士には感謝しています、ですから―――私のために泣かないでください」
自分の為に泣いてくれている、そんな彼女に073は素直に感謝を浮かべたくなった。自分はもう元の世界に戻る事なんて恐らく出来ないのだろう……ならば自分のすべきことは一つでしかない。スパルタンとして彼女を守るという任務を果たすのみ。自分に出来る事を精いっぱいにやるだけだと誓う。
「本来は機密事項なのですが……私の名前はレイです、これからはそうお呼びください博士」
「ぅぅっうん、有難うね……レイ君」
スパルタンⅡ計画
反乱軍との戦争を未然に防ぎ、人類の未来を救うべく養成されたスーパーソルジャー。だがそれは遺伝子適正で選別された幼い子供を「徴兵」し、訓練と肉体改造を施すというものであった。肉体的欠陥を持つ即席クローンを使った拉致の隠蔽、子供への軍事訓練、致命的リスクのある肉体改造を行う非道な計画。
候補生は全植民地惑星から選びぬかれた150名のみから構成されておりその基準は身体的能力や遺伝特性のみならず、心理的傾向にすら及んでいる。ごく一部の例外を除いてスパルタンⅡらは拉致され訓練を強制されているにもかかわらず人類を救う使命に燃え、前向きに訓練に取り組むものがばかりだった。
全員がそうとは限らないが、スパルタンⅡらの多くは自身がスパルタンとして選ばれ徴兵されたことを誇りに思っており決して「被害者」などとは考えていない。
―――そして最終的にスパルタンⅡとして完成したのは……僅か33名のみ。