「怪我などは無くて何よりだ」
「いや俺達からしたら先生が突入してから事態が収束した方が驚きなんすけど……」
談話室にて話をしている一夏たちは彼の言葉に思わず頷き、全く無傷の073へと視線を向けるのであった。最低でもアリーナのシールドを破壊する程の出力を秘めている相手を短時間で撃破してしまった強さに改めて強さを実感した。
「今回は博士からの武器もあった、そのお陰で楽が出来ただけだ」
「姉さんが……あの、先生は姉さんと連絡が取れるのですよね」
「ああ」
正確には毎日顔を合わせているので取れる以前の問題なのだが……。
「今姉さんはどんな事をしているのでしょうか……私もメールなどは送ったりはしてるんですか偶にしか返信がなくて……」
「博士は今宇宙活動前提型のISの開発に注力している、純粋に忙しいのだろう」
「そうなんですか……姉さんは今夢に向かっているんですね……」
と何処か嬉しそうな表情を作っている箒、彼女は束の影響を受けて様々な弊害を受けてきた。だが唯々闇雲に否定するのではなく、あの姉の穴などを付いてやったりしてやろうという心でISに興味を向け勉強するうちに寧ろ、それの在り方を歪めているのは世界の方だと気づき、今度は姉を理解する為に努力している。
そんな妹の事を束も大切に思っていたり人生を歪めてしまったと強い罪悪感を抱く一方でISには関わった欲しくはないという思いがある。そして箒の想いも分かる為にどんな風に接すればいいのか分からずに距離を取ってしまっている。本人も何とか努力しようとしているのだが中々に難しい問題なのである。
「それで先生、この場合俺のお願いってどうなるんですかね……」
「私の素顔云々か」
そう、一夏たちがトーナメントを頑張ったのはそもそも073の素顔を見せて欲しいという話が何処かで聞かれて伝言ゲーム方式で肥大化してしまったのを阻止する為。そして結果的にそれはいい成績を出しさえすれば考えてくれるという事に十分適応されるような事を成し遂げている。それに期待に満ちた瞳を向けてくる一夏たち、純粋無垢な瞳の中に幾つか熱情に溢れかえった物もあるが……当人は気付かずどうするべきかと少しだけ思考する。
「(いや、思考する意味なんてないな……もう、この世界で自分の存在そのものも……)余り、驚くなよ」
ゆっくりと彼の両手がメットへと向けられて行く。メットの両側へと触れられた時に思わず一夏は声を上げてしまう程に興奮した。セシリアはメット内の減圧ロックが解除される音に胸をときめかせ、箒は空気が抜ける音に喉を鳴らす。そして持ち上げられ始める光景に鈴が目を限界まで見開き、顎が見え始めるとシャルは思わず鼻血を出しそうになるのを我慢する、そして明らかになっていく表情にラウラが緊張した。
「おいスパルが顔を見せるというのなら私にも見せろぉ!!」
「ち、千冬姉ぇ!?」
と使用中という看板を出していたのにも拘らず扉を大きな音を立てながら開けて入って来た千冬にほぼ全員が驚いたのかそちらを凝視した。酷く息が荒いのは束の地下から此処まで走って来たからだろう、教師がそれでいいのかと思う者も当然いる事だろう。
「お、織斑先生驚かせないでください!?」
「束からお前達が何やら面白そうなことをしていると聞いて地下から走って来たんだ、少しはもてなせ。茶をくれ」
「図々しいな千冬姉!?ってあっ!?」
と思わず一夏の声が上がった、その声に皆の視線が注がれるがその視線に釣られるように瞳が向けられている方へと向くと思わず息を呑んでしまった。そこにあったのはずっと被り続けていたメットを外して膝の上へと置いていた。隠されていたその素顔に皆が見入った。
「すっげぇ……」
最初に言葉を放つ一夏の言葉は誰もが抱くものだっただろう、常にアーマーを纏い続けてきた彼の印象は何方かと言えば機械へと傾いていたものもあった。だが実際は純粋たる人間、それをよく知っている筈のセシリアやラウラですらその素顔には驚きを隠せなかったのである。
「へぇっ先生ってイケメンなのね、こりゃ生徒人気が白熱するわ」
「フム、以前母さんがこういう方の事をナイスシルバーと言うと言っていたが……いや違うか」
と鈴と箒は年頃の娘らしく素顔に多少なりの興奮を覚えている、彼女らの恋心は一夏にある筈だがカッコいいと思うものには素直な称賛は向けられる。内心では一夏も負けてないとは思っているだろうが。
「シルバーは違うだろう、赤み掛った金髪だ」
「ストロベリーブロンド……というのだったかな」
と美しい髪の色に思わずラウラは箒の意見の訂正をしつつもその髪色と質に少しだけ羨ましさを覚えていた。以前部下が休憩中に雑誌を読みながら自分にはこんな髪もあるじゃないかと言われた事があった、実際に目にして見ると確かに何処か気品がある。歴戦の戦士に相応しい髪に僅かな嫉妬が起きる。
「ほうほうっ……なんだ中々に私好みではないか」
と品定めをするかのように悪い笑みを浮かべながら見つめる千冬、明らかにからかいなどをする気が満々と言いたげな彼女だが素直にその表情が見られてよかったと嬉しさが胸にあった。
「しかし肌が青白いな、それで驚くなと言ったのか」
「はい。アーマーの影響です、病気ではないです」
スパルタンは基本的にミョルニルアーマーを着用し続ける、外す時などはアーマーが大きな破損をしてしまった時や改修などを行う時位だろう。その為にスパルタンである073の肌は青白いが、そんな姿を見た二人の少女は完全に目をハートにしていた。
青白い肌に赤い金髪は相反しつつも何処か神秘的で魅力に溢れかえっていた。顔もいくつか傷があり、深い物もあるがそれらを見てもとてもとても歴戦を戦い抜いた軍人には思えないというのが素直な感想だがそれ以上にその素顔はイケメンの部類に入る、青い瞳に纏っている落ち着きと威厳そして優しさが混ざった空気とそれらの相乗効果はセシリアとシャルロットをメロメロにするにはあまりに十分過ぎるものだった。
「シエラ先生、なんて素敵なお顔何でしょうか……ハリウッドの俳優なんて目じゃないですわぁ……」
「カッコいいっ……もうそれ以外の言葉なんていらないよぉ……」
その様に皆が彼の素顔を称賛した、少々褒め過ぎな所もあるだろうと思いながらも彼は礼を述べた。顔を褒められるというのは滅多にない事だからだろう。そして彼は余り見せすぎるものじゃない、と再びメットを装着し直す。
「ああっもうちょい見せてくれてもいいじゃないですか!?」
「あと少しお願いいたします!!」
「人の顔を見過ぎだ、特にオルコットとデュノア」
「それ千冬姉が言えねぇよ」
そんな風にじゃれ合う彼らを見つめながらも073は何処か気分が優れなかった、顔を見せる。その事の意味を改めて痛感しながらも何故それに至ったかを考えると―――言葉が出なくなる。彼は考え始めている、今此処にいる自分そのものが意味を失い始めている、その事への恐怖を。
エンジニア族 コヴナント側名称:ハラゴック
フォアランナーによって作り出された人工生命体、壊れた機械などの修理を"本能"としている。非常におとなしい生物で、いかなる種族に対しても基本的に敵対の意思を持っておらず機械を弄れればそれでいいと思っている模様。
実際、マスターチーフがコヴナント艦をジャックした際に彼のミョルニルアーマーや壊れた武器を修理してくれている。