「ほらほらく~ちゃんこっちだよ」
「ああっお母様お待ちください……お、お父様もお早く」
楽しそうなステップを踏みながらも娘とも言える存在であるクロエの手を引きながら笑顔を浮かべている束、普段のエプロンドレスではなくグレーニットに白パンツ、伊達眼鏡と髪形をポニーテールにしている姿は実に新鮮味が強く不思議な印象を受ける。そんな彼女に手を引かれる少女であるクロエも普段の白と青のゴスロリ系ドレスではなくロングスカートにTシャツ、そしてスパッツを組み合わせたような同じく普段とは思えないようなラフな格好。コーディネートした束、そしてされたクロエ曰くスパッツが肝との事。
「ほらほらレ~君こっちだよ」
「……ええ今行きます」
そんな二人に呼ばれながら漸く追いついたように並び立った男、傾国の美女とも例えられる束の隣を歩くのは酷く大柄な男性で身長は2メートル近いのに加えて酷くガタイも良い上に非常に鍛えこまれているのが分かる程にシャツの上からでも筋肉が自己主張している。紺色のジャケットにパンツに白いシャツ、バイザーのようなサングラスをかけた男、レイは束とクロエに手を引かれながらも街中を行く。
「如何よレ~君、生身で街を歩く気分は」
そう、クロエと共に手を繋いでいる男こそスパルタンであるS-073のレイその人なのである。トレードマークと言っても過言ではない程の物であるミョルニルアーマーではなく生身のまま外へと出た彼は少しばかり緊張しながらも日本の湿気塗れの暑さにも負けずに平然としながら歩く。
「新鮮な気分です。アーマーを外すのは滅多にありません」
スパルタンのミョルニルアーマーは専用の設備と技術が両立しなければ外す事が出来ない、その設備も技術者もいない為常に纏っていたそれを遂に脱いだ073。それは束がミョルニルアーマーを自身の全てを注ぎ込んで大解析をした結果、アーマー自体をISモジュールの中に収納しISとほぼ同じように待機状態にするという快挙を成し遂げた。実質的にISとほぼ全く同じ状態になったアーマーは現在ドッグタグの状態となって彼が所持している。それもあって三人で出かけようと持ち掛けたのである。
「私は少し、暑いです……」
「ありゃりゃもうちょっと麦わら帽子ちゃんと被らないとダメだね、レ~君は大丈夫なの」
「はい、戦場ではそれ以上の物を体験しています」
と言っても本当は日本の湿気の多い暑さは割かし辛い物がある、だが戦場ではそれ以上の物を体験したので耐えられないなんて事は無い。ミョルニルアーマーはには密度を変化させる事が出来るジェル層が存在しており、それらは着用者の体温を感知し外気温との温度差を逆算して密度を変化してスーツ内の温度を変化させる。故にスーツは快適なのである。スパルタンの中にはスーツを着たまま休暇を楽しみたいというものもそれなりに居た程である。
「それでお母様、本日は何方に行くのですか?」
「いやぁ今度海行くからさ、水着見たいなぁと思って」
海、それはIS学園の行事の一つである臨海学校。単純な臨海学校ではなくそこではISの各種装備試験運用とデータ収集などが行われ、そこでは専用機持ち達の専用装備などの運用試験なども行われる。そこに束も同行する事になっている、単純な気分と海で泳ぎたいという思いが重なった結果なのだが護衛として073も行かない訳にも行かない。そしてついでにクロエも一緒に連れて行き泳ぐ事にしたのでその時の水着を選んでおきたい模様。
「よ~しという訳で早速買いに行くぞぉ~!」
「おっ~……でいいんでしょうかお父様」
「恐らく」
外出の際に決めた設定として束とレイは夫婦でありクロエは娘という事になっている、そんな設定に二人はまんざらでもないのか力強い手へと絡めている指から感じられる体温と感触に頬を赤らめている。と言っても彼自身は殆ど二人に流れを任せるような状態に近い、スパルタンになる前の人生は普通の人生だったがそれらは完全にスパルタンに塗り潰されていてもう思い出す事も困難。そんな記憶は頼りにならないので基本受け身で行く事と思われる。
そんな調子でやって来た水着を買う為にやってきたショッピングモールのレゾナンス。束曰く、此処になかったら市内にはどこにもないという触れ込みらしいので此処を選んだとの事。
「え~っと水着売り場……どこだっけな」
「クロエ、後でおもちゃ売り場でも覗くか。例のドライバーが再入荷されたとあるが」
「欲しいです」
と一般家庭のそれを演じている一行は周囲を見ながらも紆余曲折ありながら水着売り場へと到着した。が、そこでは何やら騒ぎのような物が起きていた。そこには何やらそこそこの年齢のおばさんが一夏に対していちゃもんを付けているように見える。それに対して一夏は呆れた顔をしつつも酷く理性的に対応し、ラウラはラウラで何時でも荒事に対応出来るように準備しつつ女尊男卑思想に染まっている女の弱みを握る為のレコーダーを起動させているなど中々に強かな事をしている。
「あらら、いっ君も不運だなぁ。助けてあげるかな」
そんな風に微笑む束に続いていくと束は良い笑顔を作りながらおばさんの肩を叩いた。
「ちょっとおばさん煩いよ、公共の場のマナーも守れないなんて社会人として失格だね。もう一回人生やり直したらどうよ」
「何よアンタ、こんな男の肩を持つ気なの!?」
「持つも何もアンタ自分の始末は自分でするのが常識でしょ。それとも何、自分で散らかした下着同然の水着を片付けさせる性癖でもあるのかな、うっわドン引きですわ」
話しかけるまでの一瞬で束は声を変えていた、声を変える道具などを一切使わずに
「それにさぁそこの子がボイレコでアンタの発言全部録音してんの気が付かないの、このまま警察にこの子が私に暴力振るいました、とか言ってもそれ出されたら一発アウトだよ。どうせ売れ残ってその憂さ晴らしにそんなことしてるんだろうけど逆にそれが自分の価値を落として独身街道を突き進むんだよ」
とワザと見せ付けるかのように胸を押し付けるようにレイに抱き付きながらクロエの頭を撫でながら勝ち誇った笑みを浮かべる。
「もっと自分の品性とか常識を磨いたらどうかな、世の中の状況を理解すればどんな風なのが一番賢いのかが理解出来るからさ」
「うううっっ……私だって好きでこんな事ぉぉぉお!!!」
ともう半泣きに泣きながら脱兎の如く駆け出していくおばさんに束は一声かけて追い打ちをかけておく。そして対処が終わると声色を戻して一夏たちに声を掛ける。
「やぁやぁいっ君、災難だったね」
「えっええっ!?もしかして、えっマジっすか!?じゃあそっちの人ってまさか……ええっ先生っすか!?」
「な、なんだと教官なのか!?じゃ、じゃなくて先生!?」
「おおっ中々に頭の回転が速いじゃない二人とも、私的にポイント高いよ」
と一夏とラウラの頭の回転を褒めながらも一旦売り場を離れてジュースでも飲みながら事情を説明する事にするのであった。
ミョルニルアーマーの機能 その1
装甲は特殊合金の多層構造で、表面はエネルギー兵器を拡散するコーティングが施されている。装甲内部にはジェル層があり、衝撃を吸収するため、2000m以上の高さから落ちても無傷で済むこともある。チーフのせいで勘違いされがちだが流石に大気圏突入などは専用装備が必要になる。
全身を包むエネルギーシールドは、銃弾・プラズマ兵器・ビーム兵器・打撃のいずれに対しても完全な防御を行う。キャパシティには限界があるが、しばらく安定した状態が続けば、再び完全な状態まで回復できるオートリチャージ機能がある。