夜、073は海を見つめ続けていた。見つめている海は夜空の星空の光をスクリーンにするかのように我が身に受けている姿はまるで宇宙を作り出しているかのような光景。その光景は彼にとっては様々な意味を持っている、そんな中で思わず握りしめた拳。
「―――俺はどうしたい……何を如何したい」
最初こそ割り切ろうとした、自分は何れUNSCへと戻り戦いへと身を投じるのだと。だが時間が流れて行く度に現実を見せ付けられて行く。ISなどというものが存在しているならば自分の世界にも確実にそれは残っている、だが自分はそれを知らず確実に元の世界の過去などではない。例えコールドスリープが可能になったとしても目覚めた後は自分の知っている世界という事はあり得ない。
途中から口さえ紡いだ、言葉すら発さなくなった。何も言葉にも形にしなくなった彼は唯々握りしめた拳を何処にも振り下ろす事も無く呑み込んでいった。今自分に出来る事なんて限られている上にそれらは決して自分を癒す物ではない、生き延びてしまった自分を罰するものだとすら思っている。
「―――っ、ぐぁ……ぅぅ……」
思わずメットを外した、周囲に人の気配などはしない。それでも彼がメットを外したのはスパルタンとしては異常すぎる。顔を手で覆うようにしながら呻く、声を漏らさぬように押し潰した声が、虚空に飲み込まれていく。彼が惑星リーチで死に、そしてこの世界に来てから間もなく1年を迎えようとしている。だが何も進展せず、只管に責め苦を味わうような現実に鋼の精神を持つスパルタンが限界を上げようとする。
此処では自分の使命を果たせない、自分の全てを使う事が出来ない、ならば如何するのだ、分からない。何も分からない、これなら宇宙空間に投げ出されて永遠に彷徨いながら死を待った方が余程救済だと思わず内心で吐き捨てた。
「(チーフ……なんで俺は生きているんですか……貴方に未来を託して死ねなかった俺は―――如何して生きているんですか……お願いです、チーフ教えてください……)」
星空を見上げる、届かない筈の願いを流星に託す。だが託された流星は直ぐに地へと墜ちて行く。お前の願いはかなわないと揶揄するかのような光景が僅かに彼の心を冷静にさせた、愚かな願いと考えをしていると自罰的に思いながらメットを被り直して再び空を見る。自らの願いなんて意味がないのだろう、死んだ者が望む自らの願いなんて呪いと同じだろう。ならばこの願いは聞き入れられるだろう、あの人へと向けた言葉ならば。
「チーフ……私は、信じてます―――貴方がきっと未来を切り開いてくれるという事を……ジョン、幸運を」
そんな言葉を口にしたとき、思わず星が煌めいた。その願いを聞き入れたと、返事が聞こえたような気がした。その煌めきはレイにとって小さな救いになった、気のせいかもしれないが願いが天へと届いたと思いながら―――振り向くとそこにはセシリアが此方へと向かっていた。
「レイさん、そろそろお夕食のお時間ですわ。ご一緒に戴きませんか?」
「いや私は……」
「はい、旅館の方が個室をご用意して下さったそうです。織斑先生も気を回してくださったようで、私もご一緒させて頂けませんか?」
食事、スパルタンである彼はまともな食事というものは取った記憶がない。戦争時は基本的に必要な栄養素が補給出来るサプリメントを摂取する程度だった。した事もあったかもしれないが……あまり覚えていない、それらは出来るだけ部下のファイアチームに回したりすることが多かった気がするし、此方でもその癖が抜けきらず束が研究などで食事をする暇がない時に使う錠剤を使わせて貰っていた。
「私ならレイさんの素顔も知っておりますし配慮も出来ます、上手く休息を取って身体を休める事も良い戦士の条件ですわ」
「……確かに。ではそうさせて頂こうか……」
「ハイ、それではご一緒に♪」
「そうだね、一緒にだね」
「キャアッ!?シャ、シャルロットさん!?」
レイ自身は気付いていたがセシリアの背後にはシャルロットが潜んでこっそりと着いてきていたらしい。
「抜け駆けなんて許さないからね、結局サンオイルは僕塗って貰えなかったんだから!!」
「そ、それは織斑先生が来てレイさんが場所を離れなければいかなくなったからで……」
「それはそれ、これはこれだよ。僕も同席するけどいいよねレイさん♪」
結局、初日の自由時間にてサンオイルを塗って貰えたのはセシリアだけだった。ISの収納を上手く活用して手の部分だけを露出させて行った。その際にセシリアは妙に艶っぽい声を連発したのだが当の本人は全く動じなかった。そして次にシャルロットへと行おうとしたら……そこへ千冬が現れてしまい、他の先生からの救援要請に応えてあげて欲しいと言われ、其方を優先されてしまったのでシャルロットは塗って貰えなかった。
『そうか、ならば代わりに私がやってやろうじゃないか』
『え"っいやその……ぼ、僕はそれならご迷惑になりそうですから一人で……』
『何、此方とてお前達の予定を潰してしまって悪いと思っている。純粋に私の厚意だ、安心して受け取れ』
と完全に千冬の厚意を受け取らない訳にも行かずに千冬に塗られたのだが……如何せん千冬自身も経験がないのか……セシリアの身体を気遣って繊細に塗ったレイと比べたら……酷く力任せだった。
『ヒギィッ!?』
『むっすまん、間違って力を込めて……おいデュノア大丈夫か?』
『ぜ、全然……』
『そうか無事で何よりだ、続けるぞ』
『ごぎゃぁっ!?』
『(お、織斑先生今の全然は大丈夫ではないという意味ですきっと……)』
「ううっ……未だに身体が痛いよぉ……」
「そ、それについてその……ご愁傷様です、がそれはそれ、これはこれです」
「むぅぅっ!!」
「まあまあ落ち着け、私としてもデュノアとの約束を果たせなかった事もある。一緒に食べようじゃないか、それと身体が痛いならば簡単な整体をするが」
「えっ良いんですか!?というか出来るんですか!?」
「訓練の一環でな」
訓練では単純な軍事訓練だけではなく応急処置などの医療訓練も含まれていた。その中には脱臼者や骨折した者への処置なども含まれており、整体なども一応修めている。因みにスパルタンの中だと一番上手いのがレイでアーマーを受領する前などは仲間内でやって欲しいと言われた事もあったりした。
「わぁぁっお願いします!!」
「ず、ずるいですわシャルロットさん!!」
「勿論オルコットにもやってやる」
「有難う御座います!!私の事はセシリアとお呼びください!!」
「僕もシャルロットで良いですからね!!」
そんな二人が身体を密着させるようにしながら腕を組むのだが、お互いを牽制するかのような視線と唸り声を上げる光景に過去のファイアチームとの思い出があった事を思い出した。
『だから悪かったって言ってるだろ!?っつうかテメェが俺の射線にいきなり飛び込んできたんじゃねえか!!射線上に入るなよって俺言ったよな』
『爆風でぶっ飛ばされてたんだから無理に決まってるでしょうがぁ!!アンタ私が何とか立ち上がろうとしてた所に警告なし&躊躇なくぶっ放したじゃないのよ!!リーダー退いてそいつ殺せない!!』
『殺すな殺すな!!』
そんな光景に二人が何故被ったのか、少しばかりに疑問に思ったがレイはそのまま彼女らと共に旅館へと向かう事になった。そして心の何処かで何かが呟いた―――彼女らがスパルタンなら良かったのに……と。
ファイアチーム・オシリス
ジェイムソン・ロック、エドワード・バック、ホーリー・タナカ、オリンピア・ヴェイルで構成されるファイアチームでHALO5における主人公枠。全員がスパルタン4で必然結成から日が浅い。
メンバーが良くも悪くもやたら濃い過去を持っているのが特徴。機密度の高い仕事に関わる事が多く、必然後ろめたい仕事も増えているらしい。
だがその実力は本物であり劇中ではエリートの集団を銃よりもフィジカルにて圧倒し、撃破している。
オシリスの活躍はそれまで評判の悪かったスパルタンⅣへの印象を覆すような物でプレイヤーからも白い目で見られがちなⅣ世代の名誉を回復させていった。