合宿二日目。一日目とは打って変わって本日は丸一日、午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる事になる。特に専用機持ち達は大量の装備が送られてくるので酷く忙しい一日になる。そして―――それだけで終わる訳もないのが二日目でもある、何故ならばその場に073の姿がありその手にはライフルを持っている。戦闘態勢を整えている状態に周囲からは戸惑いの声が漏れた。
「あ、あの織斑先生どうしてスパル先生は如何してあんな感じなんですか……?」
「ああうん……実は今日はとあるVIPがやってくる事になっていてな、その護衛役だ」
「護衛……?」
彼が護衛に当たる程のVIPと言われて皆は思い辺る事が出来なかった、国のトップや大企業のトップなどだろうかと予想を巡らせてみるがそれを態々学園側である073が護衛する意味が分からない。そちら側から護衛する人員が出ていても可笑しくない筈、そんな中で一夏たちはその人物に心当たりがあった、が心の何処かでまさか……という思いもあった。
がそんな予想を裏切るかのように073の隣当たりの空間が歪むようにノイズが走っていく、それは次第にはっきりとした形となって表れて行く一つの人影を形成するかのようになっていく。そして遂にハッキリと輪郭が、次に姿が現れてきた。風景に同化するかのように潜んでいたそれは姿が現すと同時に頬を緩めながら声を上げてみせた。
「ニュッフッフッフ……やぁやぁやぁ皆の衆ご機嫌麗しゅう、ISのお母さんこと篠ノ之 束さんのご登場だよ~!はい拍手拍手~!!」
「無茶を言うな束……突然現れて拍手要求は無茶だろ……」
「えっでもスパ君やってくれてるよ」
『ええええっっ~!!!!??』
と空しく073の拍手が木霊する中で絶叫が木霊してしまった。それも無理はない、全世界にて指名手配を受けているあの篠ノ之 束が自分達の目の前に平然と立っているのだから驚くなと言う方が無理な話である。と言っても彼女の理不尽さやフリーダム加減を知っている一夏に最近顔を合わせているラウラはそこまで驚く事はしなかった。
「……今回博士がいらっしゃったのは博士自身が派遣したスパル先生が教えている学園の生徒達がどの程度なのか気になったから、だそうだ。その見返りとは言わんが専用機持ちのISのセッティングを請け負って貰う事になっている、皆頼むからスパル先生のご迷惑になられるような結果は遺すなよ。場合によっては彼を学園から撤退させる事をも考えるそうだ」
その言葉で浮足立っていた皆の空気が一気に引き締まっていく、確かに平静さを思わず欠いてしまう程の大きな衝撃を生み出す出来事だが、それに気を取られてしまう程に学園の生徒達は愚かではない。何せ肝心要の彼自身が教えているのだから頭の回転も決して悪いわけでもないのだ。気合を入れてやるべき事へと取り組み始めて行く。
「ち~ちゃん何言いだすのさ、束さんはそんな事言った覚えも考えた事もないんだけど」
「こうした方が余計な事をする生徒も減るし真面目に取り組む生徒も増える。それだけスパルは人気という訳だ」
「まあ人気なのは知ってるけどさ」
強制されているかのような立場になってしまったが、まあ千冬が強引なのは昔からなので特に言う事は無く終了したのであった。そして束も束で約束である専用機
「さてさてこんなもんかなぁ、それじゃあみんな頑張って動かしてねぇ~」
「……一応これってウチの国の最高機密なのよね、一応プロテクトとかあって候補生の入力とか必要なのに……」
「あっさりと、突破して起動完了させてしまうとは……これはこれで本国に報告しなければならないのだろうなぁ……」
鈴とラウラは思わずそんな事を口にしながらも、報告してプロテクトの強化を図った所でどうせそれもあっさりと突破されてしまうのだろうなぁという思いに駆られてしまった。人間というものは目の前で想像を絶するものを見せ付けられると一種の悟りの境地のような物に目覚めてしまうのか、明るくない方面にも勘が働くようになるらしい。
「でも博士ですし……」
「だよね……スパル先生が護衛する程の人だしね……」
「まあうん、束さんだし」
と一方で素早く束への適応を成功させた者もいる。そんな様子を見守りながらもどんどん進んでいく作業に束も満足気な笑みを零す、唯一の例外は装備が存在しない一夏程度で彼は束から直接データの解析をさせる事がすべき事となった。そしてそんな中でこちらを見つめている箒へと軽く手を振ってみる、如何やらそちらの作業が終わったらしく気を利かせた千冬が此方へと呼んでらしいが本人的には要らぬ節介だと溜息が漏れた。
「久しぶりだね箒ちゃん、元気してるみたいで安心したよ」
「お、お久しぶりです……その、姉さんもお元気そうで」
「まあね、束さんが元気じゃない日があったらガチ天災だからね」
「……姉さん、私が子供の時に台風の日は酷くテンション上がってませんでした……?」
「いやあれは自然エネルギー活用型の実験が出来たからテンション高かっただけだよ」
姉と妹の久しぶりの対話というにはどうにもぎこちないような雰囲気がある、箒の側は歩み寄りたいが束は逆であるような雰囲気。何処か上手くかみ合っていないようなそれに一夏はどことなく不安を感じているのだが、下手に突っついて怒りを買いたくないので静観し続ける。
「……よくもまあこっちに来る気になったね」
「ええ、姉さんを理解したかったので」
「理解ねぇ……だったら解ると思うけどね」
そう言って束は箒に背を向けて他の作業をし始めてしまった、箒としてはそれに戸惑ってしまった。彼女の記憶の中にいる姉は自分に酷く構ってくる上にちょっかいなどを頻繁にかけてくる人物だった。それとは大きく異なるそれに戸惑いを隠せなかった。千冬に肩を叩かれた時、ちょうど束が試験が終わったばかりのセシリアとシャルロットへと声を掛けた。
「えっとほら……そうそう、オルコットちゃんとデュノアちゃんだっけ。二人にちょっとやって貰いたい事があるんだよ、いい感じに二人が最初に終わったっぽいからね、ついでにいっ君もプリーズ」
「チョーイイネって何言わせるんすか」
「いやそっちが勝手に言ったんじゃない、それに束さんはchange NOW派だから。三人にはさ束さんが開発した最新型の運用テストをお願いしたいんだよね」
その時、その言葉を聞いて073が思わず其方を凝視した。是非テストして欲しいとお願いするその機体は……以前自分が見たミョルニルアーマーを模したかのような第五世代型のISだった。そしてそれを見た時に、今までにない程の感情の渦が巻き起こった。
ゼル・ヴァダム
コヴナント軍連合艦隊パーティキュラー・ジャスティスの最高司令官にして、後の歴史において重要な立場を担う事になり、後のアービターと呼ばれる事になる
彼を現す言葉として最も分かりやすいのがエリート版のマスターチーフ。それ程までに優秀且つ勇猛な戦士。本人のカリスマ性も相まって纏め上げ統率するという点に至ってはチーフ以上とも言えるかもしれない。
惑星リーチを陥落させた艦隊の最高司令官であるが、その存在が人類とコブナントの戦争を大きく変える事になった。