地獄にいる、地獄を歩いている、地獄に墜ちている、地獄で壊れて行く、地獄を―――生きている。
自らの心情を現すとするならば正しくそれとしか言いようがないだろう。彼にとって世界とはそうでしかない、少なくとも今生きる世界とは地獄と大差なくとめどなく自らを責め続けるものでしかない。それだけ深い
―――少しは我儘を言いなよ。好い加減にさ。
「……望めというのですか、この世界で」
小さく呟いたそれは誰にも受け取られる事も無く消えていく、消えて行った事への安心感を覚えつつもイグは聞いてしまっているのだろうなという一種の諦めがあった。だが聞いてもらって結構、それで束に伝わって自分の内面を理解して頂けるのならばいいのだ。まあ―――どうせ意味なんてないのだろうに決まっている。
「そのまま速度を維持」
『はい!!』
海上にてアーマーの情報収集の教官として腕を振るいながら思考をリセットしておく、本当に一度何処かでどうにかして吐き出さなければと思いつつも、その方法がスパルタンとしての仲間を作り過ごすという事に気付いてしまいもう溜息が品切れになりそうな勢いで出て行く、正しく満員御礼である。
「織斑遅れているぞ、機動戦重視のIS操縦者の名が泣くぞ」
「いやこのアーマーってある種白式によりもピーキーですよ!?操縦性が良すぎて遊びがねぇぇええ!!!?」
これで何度目になるのだろうか、一夏が真夏の空へと打ち上げる水飛沫の花火。好い加減慣れておかないとこれから先のステップを踏む事も難しいだろう。といいたい所だが……今まで扱い慣れていた機体から全く操縦性が異なる物を十全に扱えというのが無茶な要求なのでそこまでは無理強いはしないでおく。
「くっ生身で空を飛ぶ感覚がこれほどに難しいなんて……!!」
「上下左右への移動全てが感覚的に行わなきゃいけない……うわわわっ危ない!?また落ちるとこだったぁ!」
代表候補生コンビのセシリアとシャルロットですらアーマーでの飛行制御は難しく苦戦していた。通常のISとは感覚が全く異なっている、ISを操縦する際には特定のイメージなどを行って制御を行う。自分の前方に角錐を展開させるイメージなどがある、だが第五世代型の場合はそれらを全て感覚によって管理する。自らの身体をそのままISにすると言った風にした第五世代型は今までのISの常識が通用しない。全てが未知の世界の出来事のよう、だからこそ海上で訓練を行うのであるが。
「というかなんで先生はそんなに簡単に制御出来てんすかぁ!?」
「訓練しただけだ」
「結局それに尽きるんですねってうわああああ!!?」
「シャルロットさんっ!?ってキャアアア!!?」
「って俺もだぁぁぁ!?」
訓練生の三連コンボが海上へと炸裂した。宇宙活動前提型なので気密性なども完璧、水が入る事は勿論ないし溺れるなんて事もあり得ない。
「ブッハァァァッ!!溺れないと分かっててもどんどん沈んていくの怖え!!」
「上昇の感覚だけでも掴んででよかった……」
「この辺りは旅館から随分離れておりますから深いですものね……」
第五世代型、束曰くインフィニット・ストラトス・ミョルニル。それの重量は本家と言うべきミョルニルアーマー程ではないが十二分に重量があるので泳ぐなんてもってのほか、なので上昇出来ないと最悪の場合海の中を移動して海岸まで戻る羽目になる。
「いやでも海の中を呼吸とか気にしないで見れるっていうのは普通に良かったな、すげぇ綺麗だった」
「余裕だね一夏……僕普通に怖くて必死に上がってたから見る余裕なかったよ」
「織斑さんは意外と肝が据わってらっしゃいますわね……」
そんな彼らの姿を見ると心が安らぎを覚えている事に不快感を覚えてしまった、自分は平和を享受すべき子供を自らと同じ存在に引きずり込もうとしているのか。ハルゼイ博士が自分達、スパルタンⅡへと抱いていた苦悩と同じ事をしようとしている事が果てしなく苦痛で不快だった。自分達へと向けていた博士の想いは良く理解しているのに……。
「さあ訓練を続けろ、ゆっくりで構わない。今回の経験は無駄にはならん、それらの感覚は元のISでも十二分と通用すると博士も言っていたからな」
「簡単に言ってくれるよな先生……マジでこれ遊びがなくてキッツいぜ」
「自分と身体と同じと考える……って言われて僕、生身で空で飛ぶ感覚てわかんないからなぁ……」
「兎に角トライ&エラーですわ、何事もチャレンジあるのみですわ」
セシリアの言葉に納得と同意を浮かべながら再びデータ収集を兼ねた訓練が再開されていくのを見続ける、そんな彼にイグへと言葉が届いた。
『レイさん、不審な通信をキャッチしました』
「〈通信……何が不審なんだ〉」
唐突にイグが言葉を述べながら警戒するように促した、謎の通信を捉えたという。それは酷く弱くイグも僅かな違和感から受信感度を強めた結果、捉える事が出来た程に弱い物だった。
『恐らく海中からだと思われます、海水によって遮られていると思いますが……』
「〈内容は〉」
『歌、でしょうか……いえ口笛のような物だと思われます、それが続いております』
「〈口笛―――それを聞かせろ〉」
思わず語彙を強めた、イグは即座にそれを聞かせてくれた。それを聞いた途端、ある一つの物が脳裏をよぎったのだ。それが確かならばと思いそれを聞いた途端に073は思わず言葉を失ってしまった。
「〈イグそれは何処から発信されている、何処からだ!!〉」
『周波数帯を変更……特定しました。約500m先から発信されています』
「〈HUDにその地点をマーク!!〉」
イグは驚きつつもその地点をマークした、そして直後に彼は指導という任務が完全に頭から抜けた。そこへと全速力で向かって飛翔した。そこは海中だったがお構いなく突っ込んでいった、青い海の中を掻き分けるように突き進んでいくと、発信源となっている地点が見えてきた。そしてそれを見ると―――073はその通信へ全力で答えを返した、
「やっぱり、お前だったんだな……一か八かで試してみて正解だったぜ。また会えるなんてな……」
「こっちの台詞だ馬鹿……一番戦いたかった筈のお前がいの一番で逝くなよ……」
そこにあったのは強い絆の鎖、その鎖は互いを引き寄せ合いながら手を伸ばした。伸ばした手は強く強く組み合って横たわっていたそれを引き起こしながら存在を実感させ合った。
「お互い、死に損なったってとこか―――
「ああ、そうかもな―――
スコーピオン
UNSCの
90mm高速砲、チタン・セラミック装甲、4つの独立したクローラーによる走破力を揃え、攻撃頻度と速力以外ではほぼ地上最強である。また戦車としては規格外に軽い事が特徴、輸送機一機で空輸できるという常識外れの戦略機動力を持つ。